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序章

稚拙な文、構成ですみません。楽しんでいただけると幸いです。感想やご指導ご鞭撻、お待ちしております。

22XX年、混沌都市-TOKYO-は、EUと中華圏で同時に発生したテクノロジー革命-シンギュラリティ-に乗り遅れて百年、経済規模は世界11位まで転落していた。2100年代に建造された高層ビル群、そしてその間の空中を毛細血管のように駆け巡る、自動車-FEV-が走行するチューブ・ハイウェイといったインフラまでもが老朽化の一途をたどり、薄暗いネオンの都市は荒廃の様相を見せつつあった。


「交差点-シブヤ・スクランブル-で、仮想空間-メタバース-の使用は危険です。使用した場合は、罰金が……」


こんな放送が一日中流れていても、違反者は続出する。TOKYOの中でも最も巨大な都市のひとつ、喧騒都市-SHIBUYA-に、規範はもはや存在しない。都市の治安を維持するはずのシティポリスも、交差点を巡回しながら、脱法電子薬物を耳の裏の生体ポートに差し込んで楽しんでいる。




「歩きメタバースってのはどうも苦手でね。あれは前後不覚になるから。電子麦酒のほうがましかもしれないなぁ」

午前3時。部屋の薄い壁越しに聞こえる放送を耳にして、ツァラはつぶやいた。彼は、シブヤにある築四十年の古いブロック・ルーム・ビルの一室に住んでいる。

「歩きメタバースは、違法行為です、よ」

少し違和感のあるアクセントで、昨日買ったばかりの多機能型AIが喋った。ツァラは、安物のAIを買ったことを少し後悔した。職場の同僚が安くて良いものがあると強く薦めるから、つい買ってしまったのだ。

「ラクダ、明日の現場はどこだっけ?」

ラクダは、AIの名だ。その手のひらに収まる、金属のような液晶のような不思議な素材でできている立方体の。

「明日は、シブヤのB12エリアのチューブ・ハイウェイの点検です、よ。BM-ブレイン・メモリー-に現場の情報をインプットしておくのを忘れないよう、に」

余計な一言を付け足すのが、上司のワタヨシに似ている気がして、やはりこのAIを買ったことを後悔した。



いやな現実を忘れるようにして、ツァラは携帯端末を生体ポートに繋ぎ、メタバースの華やかな海に彼の意識を沈めた……




「少し揺れるな。横軸方向に相殺されるはずの電磁力ベクトルも安定しない。B11のチューブも、来年には点検しよう。ツァラ君も、来年には点検責任者になれるといいがね」

翌朝、現場に向かう車内で、生体ポートに電脳タバコを接続したワタヨシが言う。21世紀のそれと形はさほど変わらない自動車-FEV-は、直径3mほどの透明な固いチューブの中を、電磁気の原理を基にした反重力-アンチ・グラヴィティ・フォース-で制御されて進む。2100年代前半、まだ世界経済のトップを走っていたTOKYOは新時代の交通としてチューブ・ハイウェイをこれでもかと都市に張り巡らせた。しかし、それから遥かに長い時間が経った今、違法スペクトルの電波や、pHが極めて低い酸性雨によってそのチューブの性能が落ちている。つまり、自動車の安定した走行性が失われているチューブが多い。そういったチューブを点検するがツァラの仕事なのだ。

一般車両が通行できるように、チューブの端に乗ってきた車を止めると、ワタヨシと二人でB12エリアの点検が始まった。

「電磁力ベクトルの偏りのせいで、チューブに僅かな亀裂が入り始めている。危険度Yだ」

その言葉をうけて、ツァラは目の間に展開された仮想タブレットにメモをする。表示されているチューブの図面の該当箇所に危険度Yと書き込んだ。

「これで危険度Yですか。Zでもいいような気がしますが」

チューブの亀裂が広がり、大きくなると力場が不安定になり自動車が事故を起こす可能性がある。

この仕事を始めて2年目のツァラでも、その危険性を考えずにはいられなかった。

「危険度Z。つまり緊急工事の必要あり、か。そんな予算がどこにある?この程度のヒビで予算は出ない。この都市の財政が厳しいのはわかるだろう」

経済競争、技術競争共に破れ、今となっては闇電脳技術の巣窟となり電脳マフィアが支配する混沌都市-TOKYO-には、張り巡らされたインフラを更新していく体力は残されていない。補修工事は最低限に止め、だましだまし運用するしかないのだ。


B12エリア、つまり繁華街から少し離れたエリアのチューブの下に広がるダウンタウンでは、今日も違法電子薬物の取引が行われている。トリップした一人が、手に持っていた電子麦酒の容器を放り投げた。それはツァラがいるチューブの外壁に当たって鈍い音をたてた。破裂した樹脂製の容器から粘っこい中身が少し出て、透明なチューブを汚した。



「オレの生きてる意味ってなんだろうか?」

その夜、狭いボックス・ルームのベッドに腰掛け、電子麦酒を喉に流し込みながらツァラは独り言ちた。電子麦酒には、舌と喉を刺激し、中枢神経を心地良く麻痺させるナノマシンがたっぷり9%も入っている。

「ワタシには理解できませ、ん。なぜ人間がそんなことを考えるの、か」

ラクダ応えた。

ベッドの側の窓から外を眺めると、雨が降っていた。人々は、骨がネオンのように光っている傘で雨を防ぎながら帰路を急いでいた。


毎日同じ事をして過ごす、その繰り返し。生産性の無い仕事。虚無感。孤独感。仮想空間-メタバース-で、仮初めの姿で名も知らぬ電子の住人と交流し寂しさを紛らわす日々。伝統都市-KYOTO-の実家から逃げるように後にしてはや4年。今更帰る場所も残されていなかった。

「ナマズ蕎麦でも食べるか」

心を覆う虚無感を振り払うように、ツァラは部屋を出た。地上に到着した反重力エレベータを降りて、ナマズ蕎麦を出す屋台に向かう。ぼんやりとした街灯の上を、側壁が雨に濡れてテラテラと光るハイウェイ・チューブが走っている。青白く骨が光る傘を頼りに、ツァラは歩いた。道端には、十年ほど前のRCJ戦争で身体のどこかしらを欠損した傷痍軍人たちが横たわってうめき声を上げている。

「国のために身体を捧げた私達に、どうか金を恵んでくれ。私達のような弱者は、健康なあなた方が優しさを思い出すために存在している!」

ツァラにとってそれは日常の風景であるから、そこに何も存在しないかのように無視を決めて歩いた。



続く


少しでも面白いと感じてくだされば、続きを投稿したいと考えています。

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