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3、ヒロインちゃん


「最初は私達の仕事を見て、こまごましたことをおまかせしたいの。書類を項目ごとにまとめたり、ちょっとした計算をしてもらったりかしら。その都度指示しますわね」

「わかりました」


 にこやかに返事をすると、グロリア様は笑顔を見せた。

 わあ可愛い。画面ではついぞ見ることが出来なかったグロリア様の笑顔、最高。これで効率が70パーセントじゃなかったらよかったのに。

 アレックス殿下の采配で、女性同士の方がやり易いだろうとグロリア様の下についたけれども、どんなうっかりが飛び出すかドキドキです。

 チラリとライ君を見れば、ライ君は書記のシーマ様の下についている。皆に渡す書類の複製を任されていた。


「じゃあ、まずは新入生歓迎会で使われる費用を、この請求書を見てこちらの紙に書き写してもらいましょうか。ローズクオーツ様も一年生なのに、こんな裏側を見せて申し訳ないのだけれど。私は予備装備の修繕予算をまとめないといけなくて」

「わかりました」


 頷いたところで、ふと机の上に目が行く。

 グロリア様は少しかがんで机の引き出しを開けている。

 グロリア様が屈んでいるすぐ傍に、蓋の開いたインク壺が置かれている。

 そこでピンときた。これは、あかんやつだ。

 慌てて手を伸ばして、インク壺と蓋を手にしたところで、グロリア様が頭を上げた。


「きゃ」


 机の角に頭がぶつかり、グロリア様の可愛い悲鳴があがる。

 いたた、と額を押さえるグロリア様に、皆の視線が集まる。その視線は心配そうなものだったけれど、グロリア様を心配しているのか、巻き込まれる書類を心配しているのかは、私には全く分からなかった。

 

「グロリア嬢、大丈夫かい?」

「ええ。大丈夫ですわ。ありがとうございます」


 アレックス殿下の言葉にグロリア様がにこやかに返す。そして、私の手にインク壺があることに気付いて首を傾げた直後、ハッとしたように目を見開いた。


「も、もしかしてローズクオーツ様、そのインク壺を守って下さったのかしら……っ」

「ちょっと危ないなと思ったので」


 手を伸ばさなかったら、机の上に広がっている数字の入った書類全般がダメになるからね。

 キュッと蓋を締めて、どうぞとグロリア様に渡すと、グロリア様は壺をそっと机の上に置いてから、私の手を両手で包み込んだ。


「ありがとうございます。私、とてもドジで、いつも何かミスをしてしまっては落ち込んでおりましたの……でも、ローズクオーツ様がいてくださるなら、安心できますわ」


 その後パッと私の手を離して、アレックス殿下に満面の笑みを向けた。


「殿下、とても有能な方をありがとうございます」

「グロリア嬢のお眼鏡にかなう者でホッとするよ」


 アレックス殿下は苦笑して、じゃあ仕事を始めようか、と場の空気を変えた。

 私もグロリア様の隣の席に座り、出して貰った請求書の内訳を紙にまとめていく。

 仕事効率70パーセント。30パーセントはミスで滞るということだ。

 ちょっと気合いを入れないとヤバいな、と紙を睨みつけながら手を動かした。



 次の日、教室へ行くと、ヒロインちゃんが挨拶してきた。

 毎日挨拶だけはするという単なるクラスメイト距離。私も普通に挨拶を返すと、ヒロインちゃんが視線を巡らせたあと、口を開いた。


「ローズクオーツ様、生徒会に入られたのですね」


 ヒロインちゃんからの思わぬ言葉に、ドキリとする。

 そうですねと平坦な返事をすると、ヒロインちゃんは目を細めて、小さな口を少しだけ尖らせた。

 はい。ヒロインちゃんさすがヒロインちゃん。尖った口が可愛いね。この造形はもう羨ましさもわかない可愛らしさだね。皆がメロメロになるのがわかるよ。

 真顔でそんなことを思っていたら、ヒロインちゃんの鈴を転がすような声で我に返った。


「ローズクオーツ様、とても優秀なんですね。もしよかったら今度私に勉強を教えてくれませんか?」


 ね、と首をこてんと傾げられ、私は溜め息を呑み込んだ。入学式の日に仲良くなっていたなら、この流れは別におかしなことじゃないと思うんだ。けど、私達は挨拶しかしない仲だよ。それにヒロインちゃんの立ち位置を奪っちゃった感が凄すぎて、普通に友達になんてなれる気がしないよ。

 というか本来だったらヒロインちゃんが生徒会に入るくらいだから、優秀なはずなんだけれど。私から勉強習うまでもなくない?

 もしかして私と仲良くなろうとしてる、とか?


「他の子たちとも試験前には勉強会をしようってお話してたんですよ。皆で勉強したらきっと楽しいですよ」

「ヒロ……コホン、アリア様、私をそのような集まりに誘ってくださってありがとうございます。けれど、生徒会補佐とはいえ、仕事は多岐に渡ります。きっと誘われても時間が取れないと思うんです。もし時間が空いたときにそのお勉強会をしていた時はお邪魔するという形でもよろしいでしょうか」

「あ、そっか……そうですよね。忙しいですよね。ごめんなさい。でもその時はぜひ一緒に勉強してくださいね」


 私が断ると、ヒロインちゃんは残念そうに眉尻を下げた。

 ヒロインちゃんは既にクラスの下級貴族の子たちと大分仲良くなっている。

 グループまで出来ている。私には、まだ友達はいない。生徒会に入ったということは先程のヒロインちゃんが言ったように皆に知られていて、羨望の眼差しを貰うくらいで話をしてくれる人はほとんどいない。チラリとライ君を見れば、クラスの男子と談笑している。立場は一緒なのにどうしてこうも違うのか。男子は別に殿下たちと仕事をしたいとはあんまり思っていないからだろう。

 溜息を呑み込んで、授業の用意をすると、横に座っているヒロインちゃんを覗き見た。


『アリア

 職業:学生(コランド男爵庶子)

 レベル:6

スタミナ:84%

 体力:35

 魔力:67

 知力:75

 防御:16

 俊敏:19

 器用:33

 運:44

スキル:光魔法 魅力値アップ(小)

 知能の高さを買われて平民特待生となった

 コランド男爵の婚外子 認知しない父親を見返そうとしている

 ♡♡♡♡♡』

 

 視線をヒロインちゃんから外して、教卓に向ける。

 そして今見えたステータスを頭で反芻した。

 ヒロインちゃん平民枠だよね。

 何で男爵家の庶子。認知しない父親って、一応コランド男爵という人物はヒロインちゃんが娘だって知ってるってことかな。

 その父親を見返そうとしているとかどういうこと。あの乙女ゲーム、恋愛を楽しむゲームじゃなくて、ヒロインちゃんにとってはもっと根深いものがあったってこと?

 それが上級貴族とラブラブになって父親を見返したり? こわ。え、怖い。もしかして私と仲良くなろうとしてきたのも、私が生徒会補佐になって殿下に近い場所に立ったから、とかじゃないよね。

 しかもハートの好感度つき。それいらないよね。

 教科書を読むふりをして顔を下に向けると同時に、教室に教師が入って来た。

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