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惨劇の爪痕

ザワザワザワ ──────── 。


ザワザワザワ ──────── 。



その日の冒険者ギルドは朝から騒然としていた。

王都メルサ、商業都市ロコン、冒険者の街リザリオ、そして中間都市のモア・ギャシャドゥル、ジルコンサス。

本部と支部を合わせて六つ全てにおいて、ある一つの話題で持ち切りとなっていたのだ。

その話題とは ──────── 。

昨夜王都メルサにて起きたAランク冒険者パーティ“アンダークラスヒーロー”の惨殺事件。


Aランクの冒険者パーティであり、さらにその中でも上位に位置するとされていた彼らの全滅を驚きと共に受け入れ難く思っている冒険者も少なくなかった。

そして、その衝撃は“アンダークラスヒーロー”の人気も手伝って一気に王国中へと広がりを見せた。

それは同じ冒険者だけではなく、聖騎士や一般の者たちにも衝撃をもって伝えられた。



─────────────────────────



王国中に衝撃を与えたメルサでの出来事はまさに凄惨を極めた。

リーダーのパトリックを始め、パーティメンバーであるメル・モンロン・ケリク・サラサは無惨にも惨殺され、全員が頭部・胴体・右腕・左腕・右足・左足の六つに綺麗に切り分けられるという悲惨な光景が現場に残されていたのだった。

現場は大量の血によって染め上げられ、切り落とされた各自の部位は無造作に山積みされていたらしく、早朝に犬の散歩中だった第一発見者も最初それが何か分からず、その正体に気付いた時には言葉を失い絶句した。


そして、知らせを受けて現場に急行した兵士たちもまた同様に言葉を失い、中にはその悲惨さを前に吐き気を催す者まで現れるほどであった。



─────────────────────────



いつものようにギルドを訪れていたスズネたち。

もちろんその耳にも“アンダークラスヒーロー”が全滅させられ悲惨な死を迎えたという悲報が届いていた。


これまでにいろいろな話をし、冒険者としての心構えや各自のジョブにおける戦闘方法などをとても親身になってアドバイスしてくれていた先輩冒険者たちの悲惨な最後。

前日には次の合同クエストを一緒に受けようと約束した彼らが死んでしまったという事実をなかなか受け入れられないスズネたち。

しかも、クエスト中での出来事ではなく、街中で襲われたということに憤りを隠せないでいた。


その想いはスズネたちだけはなく、もちろん他の冒険者たちやギルド職員も同じく抱えているものであった。

そして、中堅以上の冒険者たちにとっては“アンダークラスヒーロー”を殺った犯人がいったい誰なのか大方の予想はついていたのである。

しかし、それでも彼らが皆揃って口を閉ざすのには理由が ──────── 。



『報復』



それが皆が一様に沈黙を続ける理由である。

そして、皆の頭の中にある言葉 ─────── “デス・パレード”。


冒険者たちの間ではよく知られているSランククランの名である。

現在冒険者ギルドに登録されている中で最も残虐なクランとして知られている。

総数十名という最小人数のクランでありながらSランクを獲得している彼らは一人ひとりがかなりの実力者であり、Aランクの魔獣すらも単独で討伐してしまうほどの猛者たちであった。

そんな猛者揃いの“デス・パレード”を率いるクラウンという男も相当な力を有しており、その風貌と残虐性から“殺戮ピエロキラークラウン”と呼ばれ冒険者たちからも恐れられているのだ。



─────────────────────────



「クソッ。絶対アイツらが ──────── 」


「おい、止めろ」


「で…でもよ・・・」


「誰が聞いてるかも分からねぇ〜んだぞ」


「そうだぞ。俺たちまで巻き添えを食うなんて絶対に嫌だからな」



そう話す男たちの声も自ずと小さくなる。

壁に耳あり障子に目あり。

何処の誰が何を聞いているかも分からない。

そして、もしそのことが“デス・パレード”の耳にでも入ろうものなら間違いなく報復を受けることになるだろう。

こうしたこともあり“デス・パレード”のメンバーたちは周囲のことなどお構い無しに好き勝手やっているのだ。


今回の事件だけではなくこれまでにも似たような事件が数多く起こされており、そのほとんどが“デス・パレード”の仕業で間違いない。

しかし、どの現場にも全くと言っていいほど証拠が無い。

凶器はもちろんのこと魔力残滓すら現場に残されていないのである。

そうした事実もあり王国も冒険者ギルドも彼らを罰せられないのであった。



「なんで…パトリックさんたちが・・・」


「いったい犯人は誰なのよ!見つけ次第ギッタンギッタンにしてやるわ」



スズネたちの間にも悲しみはもちろんのこと静かな怒りが沸々と湧き上がっていた。

そんな時、ぶつけようのない思いを抱え落ち込むスズネたちの元へマリがやってきた。



「“宿り木”のみんな」


「マリさん、どうしたんですか?」


「いえ、その…昨日“アンダークラスヒーロー”のパトリックさんから合同クエストへの“宿り木”の参加を推薦されて、支部長に確認を取ったところ無事に許可が下りたの。それで…どうする?」


「「「「「「 やります(やるのじゃ/やるっす)!! 」」」」」」



マリの話を聞き即答で合同クエストへの参加を受諾したスズネたち。

パトリックたち“アンダークラスヒーロー”の弔い合戦ではないが、一緒にやろうと言われていたクエストであり、スズネたちに断る理由など何ひとつとしてなかったのだった。



「即答ね」


「もちろんですよ!パトリックさんたちとの約束でしたから。必ず私たちの手でクエストを完了させてみせます」


「アハハハハ。意気込みは素晴らしいと思うけど、今回は合同クエストだからね。他のパーティともちゃんと協力するのよ」


「アハハ…すみません」


「ところでマリさん、その他のパーティってどんな人たちなんですか?」



スズネの空回りしそうな意気込みに釘を刺したマリ。

そんなマリに対してミリアが今回の合同クエストに参加する他のパーティについて質問をした。



「ああ、今回のクエストに参加するパーティは ───── Aランクパーティの“モノリス”、Bランクパーティの“フェアリー”と“土ノ民”、そして単独ではあるんだけどSランク冒険者の“ジョーカー”さんが参加します」


「う〜ん。どれも聞いたことのないパーティばかりね。大丈夫かしら」


「どのパーティもウチらよりもランクが上っすよ」


「そうです。僕らが一番下っ端なんですから、足を引っ張らないように気を引き締めていかないと」


「わっちは誰でもいいのじゃ」


「ど…どなたも先輩にあたるんですから失礼の無いようにしないと」


「みんな、今回は合同でのクエストだからね。自分たちだけの時みたいに好き勝手は出来ないんだから、他のパーティの方たちともちゃんと協力してね」



初めての合同クエストということもあり分からない部分が多くありながらも、緊張した様子もなくいつも通りの姿を見せるスズネたちに安心しホッと笑みを浮かべるマリなのであった。



「詳しい話は当日全員が集まってから話すわね。それまでにしっかり身体を休めて準備をしておいてね」


「「「「「「 はい!! 」」」」」」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



今回のクエストは、とある島の調査とその島に住まう魔獣の討伐である。



ドゴーーーーーン ──────── 。


ドゴーーーーーン ──────── 。



「ホッホッホッ。今日も元気に爆発しよるのぅ」



その島の名は『グリーンアイランド』。

一年を通して頻繁に火山が噴火を起こし、それによって灰に覆われ埋もれた島。



グオォォォォォォン ──────── 。


グオォォォォォォン ──────── 。



そんな島でスズネたち“宿り木”初の合同クエストが始まる ───────── 。




最後までお読み頂きありがとうございます。

冒険者たちの間にある暗黙の了解。

屈強な冒険者たちすらも恐れる“デス・パレード”。

同じSランククランでも“トライデント”とは大違いのようですね。

そして、次回より“宿り木”初の合同クエストがスタートします。


次回『合同クエスト』

お楽しみに♪♪



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