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虚言

病に苦しむ母を救う方法があるかもしれないと聞かされたリークスは、親方に連れられトットカ村唯一の酒場へとやってきていた。

現在トットカ村に滞在している行商人の男がその方法を知っているということで、その男に会うためにやってきたのだ。

そして、親方と共に酒場の奥へと進んでいくとそこには八人の男たちがおり酒を交わしながら盛り上がりをみせていた。


親方とリークスがそのテーブルに近づいていくと、その存在に気付いた一人の男が声を掛けてきた。



「あんたは確か・・・昼間に話した大工の ───── 」


「ああ、そうだ。覚えていてくれて助かるよ。それで、こいつが昼間に話したリークスだ」



親方に紹介してもらったリークスは男に軽く会釈をするとさっそく本題を口にする。



「母の病を治す方法があるというのは本当ですか?本当であれば教えてください。お願いします」



そう言って深々と頭を下げたリークスであったが、男はリークスの肩をポンポンと叩くと落ち着くようにと優しく語り掛けるのだった。



「リークス…だっけか?まぁ〜少し落ち着けよ。物事には順序ってもんがあるだろ。まずは自己紹介くらいさせてくれよ」


「あっ…はい。すみませんでした」



男の言葉によって落ち着きを取り戻したリークスは、大きく息を吐いた後、ゆっくりと椅子に腰を掛けた。



「改めて、俺の名はロッゾ。旅の行商人をしている。そんでもって、こいつらは俺が護衛のために雇っている冒険者だ。口は悪いがそこそこ腕の立つやつらだ」


「おい、ロッゾ!そこそこってことはね〜だろ。俺たち“アンダードッグ”は歴としたBランクのパーティだぞ」


「ハッハッハッ、そうだったな。という訳で、ただのゴロツキ集団ではないから安心してくれ」


「ふざけんなよ!!ロッゾ」


「「「「「 アハハハハハハハハ 」」」」」



行商人の男の名はロッゾ。

各地を回りながらその土地にある名産や珍しい物を主に取り引きしているらしい。

そして、その旅の護衛として彼に雇われているのが、Bランクの冒険者パーティ“アンダードッグ”。

その構成人数は総勢七名。モルドという大柄でスキンヘッドの男がリーダーをしており、剣士三名、魔法師一名、盾使い二名、射手者一名というバランスの取れたパーティ構成となっている。


そして、ひと通りの紹介を終えたロッゾは詳しい話をするには場所が悪いと言い、店を出るとそのまま彼らがトットカ村で拠点としている宿屋へと移動したのだった。



「さてと、それで何の話だったかな?」


「母の病を治す方法があるという話です。本当にそのようなものがあるんですか?」


「あ〜そうだった、そうだった。お母さんの病を治す方法ね ───── まぁ〜あると言えばある」



なんとも曖昧な返答である。

せっかくここまで来たにも関わらずロッゾの軽い感じに苛立ちを覚えるリークス。

そして、その空気を察したロッゾは慌てた様子を見せながらも笑顔でリークスの肩を叩いたのだった。



「おいおい、そんな怖い顔すんなよ。順を追って説明してやるから、そう焦るなって」


「す…すみません。何とか母を助けてあげたくて・・・」


「そうだよな。俺たちに出来ることなら何でも協力するからよ。お母さんの病気も治してやろうぜ」


「はい。ありがとうございます」



こうしてロッゾはリークスの母を救うための方法について話し始めた。

そして、そこで話された内容は人魚族にまつわる伝承についてであった。



「その方法を話す前に確認したいんだが、リークス…お前仲の良い人魚がいるっていうのは本当か?」


「ん?あっ…はい。よく近くの湖で話をしたりしますね。それがどうかしたんですか?」


「いや、まぁ〜な。とりあえずリークス、これから俺が話すことを落ち着いて聞いてくれ」


「はい」


「これは俺たち行商人の間で古くから伝わっている話なんだが・・・。それは“人魚の心臓に流れる生き血には、万病を癒す力が宿る”というものだ」



───────── !?



リークスは始めロッゾが言っている言葉の意味を理解することが出来なかった。

この男は何を言っているんだ?

人魚の心臓?

そこに流れる生き血?

リークスはその強烈な言葉を受けて完全にパニック状態となっていた。

そして、そんな状態のリークスに対して怪しい笑みを浮かべながらロッゾが話を続ける。



「どうだ?知り合いの人魚に頼んで ───── 」


「ふざけるな!!」



やっとのことで冷静さを取り戻したリークスはロッゾの囁きに対して激怒する。

しかし、そんなリークスに対しロッゾは不思議そうな顔を向ける。



「おいおい、何を怒ってるんだ?大事な母親を救いたいんだろ?何を迷う必要がある?」


「ダメだ!それだけは・・・それだけは絶対にダメだ ───── 」



ロッゾの提案を断固として拒否するリークス。

そして、怒り心頭のリークスはそのまま部屋を飛び出したのだが、その背中に向けて笑顔のロッゾが最後にもう一言投げ掛けるのだった。



「おい、リークス。必要とあれば俺たちはいつでも手を貸すぜ」



─────────────────────────



自宅へと戻ったリークスは、いつものようにベットで横になっている母の側に寄り添う。



「おや、リークスお帰り。何かあったのかい?」


「ただいま、母さん。大丈夫、何もないよ」



どこかいつもと違う息子の様子を心配する母の問いに対して、心配をかけさせまいと目一杯の笑顔を見せるリークスなのであった。


それから数日が経ったある日の夜。

突然リークスの母の容態が急変する。

すぐさま医者を呼び診てもらうが容態は良くならず、胸を押さえながら苦しそうに呼吸をする母の姿を前に居ても立っても居られなくなったリークスはパルーナ湖へと駆け出していた。

もちろんロッゾの話を鵜呑みにして人魚の心臓を手に入れようとしたわけではない。

それでも、そのような伝承が残っているのであれば、もしかしたら人魚族の中に何か母の病を治せる方法や知恵があるかもしれないという、まさに藁にも縋る思いで走っていたのである。

しかし、この行動がこの後に起こる悲劇の引き金になろうとは、この時のリークスには思いもよらなかった ────── 。



─────────────────────────



息も絶え絶えになりながらパルーナ湖へと到着したリークス。

そして、到着するなり大きな声でロクサーナの名を叫ぶ。



「ロクサーナ!!ロクサーナ!!」



その名を叫ぶこと数分。

湖の中央より二つの影が現れ、リークスの元へとゆっくり近づいてきた。

しかし、そこにロクサーナの姿は無く、代わりに二人の人魚が現れたのだった。



「こんな時間に何の用だ!ヒト族の男よ」


「あっ…夜分遅くに申し訳ありません。ですが、失礼を承知の上で今すぐロクサーナに会って話がしたいんです」



そんな必死な形相を見せるリークスであったのだが、その言葉を聞いた人魚たちは怒りを露わにする。



「貴様・・・無礼にも程があるぞ!」


「本当よ!ロクサーナ様は我ら人魚族の姫様であらせられるのよ。いきなり来て会わせろだなんて、いつからヒト族はそんなに偉くなったのかしら」


「いえ…決してそういうわけではないんです」


「うるさい!とにかく今日は時間も遅いからもう帰れ。この件については我々から姫様に話を通しておいてやるから、また明日出直して来い」


「明日・・・明日じゃ・・・間に合わないんだ・・・」



そう言いながら大粒の涙を流すリークス。

その様子に困った表情を見せる人魚たち。

両者の間に何とも言えない空気が漂い始めたその時、茂みの中からアンダードッグと数人の村人を引き連れたロッゾが姿を現したのだった。



「うほ〜っ、本物だ!本物の人魚がいるぞ」



初めて目の当たりにする人魚の姿に興奮した様子を見せるロッゾ。



「ロッゾ・・・何故ここに?」



突然現れたロッゾたちに驚いた表情を見せるリークス。

そして、何故いるのかというリークスの問いかけに答えることなく、アンダードッグの魔法師が人魚たちに向けて雷魔法を放った。



雷撃ライトニング



──────── バリバリバリッ 。



「「 キャーーーーーッ 」」



不意を突かれ攻撃を受けた人魚たちは、その雷撃によって身体が痺れ上手く動けなくなってしまう。



「何をするんですか!」


「何って・・・人魚を捕獲するに決まってんだろ」



ロッゾを含めた全員がニヤニヤと笑みを浮かべながら人魚たちへと視線を向ける。

そして、理解が追いついていないリークスにロッゾがさらに声を掛ける。



「案内ご苦労だったな〜リークス」


「どういうことですか?」


「どういうことですか?だってよ」


「「「「「 アッハッハッハッハッ 」」」」」



リークスの問い掛けに対してロッゾたちは馬鹿にしたような笑いをして見せる。

そして、この状況をもってしても理解出来ていない様子のリークスのためにロッゾが説明を始めた。



「リークス、宿でお前に話したことだけどよ〜・・・アレ全部嘘なんだわ。ああやってお前を煽ればいずれ人魚に会いに行くとふんで監視してたんだよ。そして、このタイミングをずっと待っていた」



実はロッゾたちは闇市ブラックマーケットにおいて超高額で取り引きされている人魚を捕獲するためにトットカ村にやってきていたのだ。

そして、酒場でリークスという男が一人の人魚と懇意にしているという話を聞き、これを利用しようとリークスに近づいたのだった。


まんまと騙されていたことに気付いたリークスは激怒しふざけるなと叫ぶのであったが、ロッゾに金で雇われた数人の村人とアンダードッグが身動きの取れなくなっている人魚たちに襲い掛かる。


なんとか人魚たちを守ろうと必死に抵抗してみせるリークス。

そんな中、痺れが弱まった一人の人魚が女王に報告してくると言い残し、急いで湖底にある人魚族の里へと向かった。

その報告へ行っている間も数的不利をもろともせず必死に人魚を守りながら抵抗を続けるリークスであったのだが、多勢に無勢、とうとう体力の限界を迎える。


そして、もう無理かと思われたその時、十人の武装した人魚を引き連れたロクサーナが姿を現したのだった。



最後までお読み頂きありがとうございます。

母を救いたいと願うリークスの想いに漬け込み人魚を狙うロッゾたち。

そして、そんなリークスの窮地に現れたのは他ならぬロクサーナであった。

今なお語り継がれる伝承の真実とは ────── 。


次回『凶刃』

お楽しみに♪♪



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