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マッドサイエンティスト

国王とノイマンによる話し合いの場が持たれてから三日後の夜。

再び王都に魔人が現れる。



「ギャーーーーーッ」



響き渡る悲痛な叫びを聞きつけ、五人の聖騎士が現場に駆け付ける。



「抜剣!!全員魔人の襲撃に備えよ」


「「「「 ハッ!! 」」」」



隊長らしき男の掛け声とほぼ同時に五人の聖騎士が一斉に剣を抜き魔人に向けて構えをとる。



「ゴロズ…邪魔ズルヤヅハ…全員ゴロズ」



そう言うと魔人の両足が変化し始める。

太腿がどんどん太く大きくなっていき、気のせいなのか足のひらの長さが伸びているようにも感じる。

そして、身を屈めて前傾姿勢をとった魔人が両足にグッと力を込める。



「く…来るぞ」



─────── ドンッ!!



まるで兎が飛ぶように前方へと飛び出した魔人。

両足の形状やその跳躍は確かに兎のようではあるが、その跳躍距離やスピードはそれとは比べ物にならないものであった。

両足に込められた力に押し出されることによって地面は深く抉られており、それによって飛び出した巨体はまるで砲弾のように一瞬のうちに聖騎士たちとの距離を無くしてしまった。



「うわぁぁぁ ───── 」



魔人による強烈なタックルをまともにくらった聖騎士たちは無惨にも蹴散らされてしまったのだった。



「うっ・・・」


「クッ・・・」



五人のうち三名は気を失い、残った二名も負傷により身動きがとれなくなっていた。

そして、まだ息があることを察した魔人が容赦なく息の根を止めようと聖騎士たちの元へと近づいていく。


ズシン ズシン ズシン。



「そこまでだ!」



自身を呼び止める声に気づいた魔人がそちらへと視線を向けると、そこには大きなバトルアックスを担いだガウェインが立っていた。

そして、数秒程遅れて部下である聖騎士たちが続々と集まってきた。



「ゴロズ…ゴロズ…」


「お前らは早く負傷者の救護を。残りは奴が逃げね〜ように包囲したのち待機だ」


「ガウェイン様、まさか ───── 」


「ああ、奴の相手は俺一人でやる。巻き込まれないように注意しろ」


「「「「「 ハッ!! 」」」」」



ガウェインからの指示を受け、即座に負傷した聖騎士たちの救護へ向かう部下たち。

その間ガウェインと魔人は対峙した状態のまま睨み合い、微動だにすることはなかった。



─────────────────────────



ここから王国聖騎士団第四席ガウェインと魔人による戦いの火蓋が切って落とされる。

先に仕掛けたのはガウェイン。

先程と同様に両足を形状変化させようとした魔人の隙をついて一気に駆け寄り振り上げたバトルアックスを打ち下ろした。



グググググッ ───── 。



「そうはさせるか。いちいちお前の都合に合わせてやるほどお人好しじゃね〜んだよ」



───── ザンッ!!


ブシューーーーーッ。



打ち下ろされたバトルアックスによって魔人の左腕が切り落とされ大量の血飛沫が宙を舞う。



ドサッ。



左腕が斬り落とされたというのに魔人は一切慌てる素振りを見せない。

それどころか左腕のことなど気にも止めることなく右腕を振り上げガウェインに殴り掛かる。



───── ガンッ。



自身に迫りくる巨大な拳をバトルアックスで受け止めるガウェインであったが、そのあまりの威力に押されて十メートル近く弾き飛ばされたのだった。

そして、たった一撃受けただけで両手に痺れを覚えたガウェインは興奮した様子を見せつつニヤリと笑ったのだった。

しかし、次の瞬間ガウェインは目を疑いたくなる光景を目の当たりにする。



ズリュッ、ズリュッ ───── 。



魔人の斬り落とされた左腕の付け根から二本の触手が飛び出し地面に転がる左腕の元へ伸びていったかと思うと、斬られた断面に突き刺さり吸い寄せられるように魔人の元へ戻っていき何事もなかったかのように綺麗に身体にくっついたのであった。



「クソッ、ふざけやがって。そっちがその気なら、こっちはテメェーが再生するよりも前に細切れにしてやるよ」



ここからガウェインによる怒涛の攻めが始まる。

鍛え抜かれた肉体を駆使し、巨大なバトルアックスをまるで手足のように軽々と振り回す。

その連撃によって魔人は次々と傷を負い後退していく。

しかし、数多くいる王国聖騎士団の中において選び抜かれた騎士である“十二の剣ナンバーズ”のガウェインをもってしても魔人を仕留め切ることが出来ない。

まるで自身の猛攻に合わせるかのように再生速度を上げ、みるみる内に傷を修復していく魔人を前に苦悶の表情を見せるガウェインなのであった。



「ハァ…ハァ…ハァ…」


「ガウェイン様」


「問題ない。そのまま包囲だ。絶対に手を出すなよ」



ガウェインが乱れた息を整えつつ部下たちへの指示を出していると、魔人がいよいよ本領発揮とでもいうかのように形状を変化させていく。

そのあまりの変化に包囲する聖騎士たちも背筋が凍る。


一見するだけではその詳細は分かり得ないが、ここでその変化の一端を紹介しておく。

一角兎アルミラージの跳躍力、漆黒の狼ブラックウルフの俊敏性、大爪熊ベアクローの鉤爪、音波蝙蝠ソニックバットの聴覚、闇梟ダークオウルの夜目…。


魔人はこれらの魔獣の特性を使いガウェインへの反撃に出る。



「ヴゥォォォォォ ───── ゴロズ、ゴロズ」



雄叫びを上げた後、凄まじい殺気を撒き散らしながら地面や建物の壁を使い物凄い速度で移動を開始する。


ドンッ ─── ドンッ ─── ドンッ ─── ドンッ ─── 。


まさに目にも止まらぬ速さ。


ブシュッ。


───── !?


背中に激痛が走り、ジンジンと熱を帯びていく。

鋭い鉤爪によって抉られた背中から血が滲み出る。

まさか身に纏った白金の鎧が貫通されるほどに強固かつ鋭利な爪だと予想していなかったガウェインは、驚きを抱きながら片膝をついたのだった。

ここからさらに暗がりを利用して高速移動する魔人を相手にガウェインは苦戦を強いられる。

それでも何とか反撃を試みるガウェインであったが、移動する際の反動を使いますますスピードを上げていく魔人を捉えることは簡単ではなかった。



「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」



ガンッ。


三十分程の戦闘の後、傷だらけのガウェインがとうとう息を切らし動きを止めてしまう。

誰もがここまでかと思った、次の瞬間 ───── 何処からともなく声が聞こえてきた。



「“十二の剣ナンバーズ”を相手に上々の成果だ。今日はここまでにして、戻れ」



その声を聞いた魔人は戦闘を止め、ガウェインたちには目もくれずに引き上げていったのだった。


ガン、ガン、ガン。



「クソッ、クソッ、クソーーーーーッ」



相手の気まぐれによって救われた形となったガウェインは、人目も憚らず悔しさと怒りを露わにしたのであった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



翌日国王への報告を終えたガウェインは、その足でノイマンの研究所を訪れていた。


コポッ…コポッ…コポッ…。


研究所には数多くの魔獣が培養液の中で保管されており、それらの前を通りノイマンの元へと案内されたガウェイン。

そこではノイマンと第一助手のメイニエルが一体の魔獣が保管されている培養液の前で話し込んでいた。



「お〜闇魔狼ガルムか。珍しいな」



その声に反応するようにノイマンとメイニエルがガウェインへと視線を向けた。



「お〜ガウェインか。こんな所へ来るなんて珍しいな」



闇魔狼ガルムは、それ自体がそれほど強力な魔獣というわけではないが、なかなか人前に現れることがないため研究素材が手に入りにくいのだ。

そして、ノイマン曰く今回の闇魔狼ガルムはモアの街にいる新人冒険者パーティが討ち取ったとの報告を受けており、その幸運と実力に驚いたとのことであった。

しかし、それを聞いたガウェインは何か思い当たる節があるのか苦笑いを浮かべたのだった。



「ところで、今日は何の用だ?我々の研究に興味が湧いたわけでもあるまい」


「ああ、実は ───── 」



こうしてガウェインは昨夜の魔人との一件をノイマンに報告した。

そこでこれまでの報告にはなかった形状変化についての報告を受けたノイマンが渋い表情を見せる。



「う〜ん・・・」


「どうかしましたか?先生」


「いや、魔人が形状変化をしたということは・・・。これまで私が考えていた仮説が根底から覆されることになる」



これまでの考えというのは、魔人がヒト族と魔物の混血ではないかというものである。

しかし、ヒト族はもちろんのこと魔物の中にも形状を変化させるものなど存在しない。

すると、ノイマンが少しの間考え込む。



「ふむ。 ────── 」



そして一分程考えた後にある結論へと至る。

それは、ガウェインの報告による形状変化後の特徴や性質がいろいろな魔獣のそれと酷似していることから、魔人がヒト族をベースにして多種多様な魔獣を組み合わせた混合生物キメラではないかというものであった。



「しかし…本当にそんなことが可能なのか?」



頭を抱えながら険しい表情を見せるノイマン。



「博士、それは難しいことなのか?」


「難しいということではないんだが・・・」



ガウェインからの質問に対して答えようとしたノイマンであったが、途中で言葉に詰まってしまう。



「仮にそんな無茶苦茶な人体実験をするような者がいるならば ───── その者は“異常者”だ。そして、そんな実験を何度も受けさせられている被験者の精神は、すでに壊れてしまっている可能性が高い」



表には出さないが、学者としてノイマンが怒りに震えているように見えた。

そして、さらにノイマンが話を続ける。



「もし、その実験及び魔人の研究がすでに成功しているようであれば、今後王国中に何体もの魔人が放たれることになるかもしれん」



その話を聞いたガウェインはゾッとした。

あんな化け物が王国中に放たれるようなことになれば、それによる被害は甚大なものになる。


そして、ガウェインはノイマンとメイニエルに別れを告げると、急いでこの事を国王に報告するため王城へと向かったのだった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



王都メルサ ───── とある研究所にて。


コポッ…コポッ…コポッ…。


培養液の中に浮かぶひとつの影 ───── 。



「喜べ、また新たな力を与えてやるからな。今日のは特別だぞ」


「ヤ・・・メ・・・テ・・・」


「クックックッ、無価値なお前に価値を与えてやっているんだぞ。もっと感謝してほしいものだがな」


「モ…ウ…イ…ヤ…ダ…。イ…タ…イ…ノ…イ…ヤ…ダ…」


「安心しろ、痛みは一瞬だけだ。それだけで強大な力を得られるんだからな。安いもんだろ」



ピューッ ───── 。


男が持つ注射器の先端から紫色の液体が飛び出す。


───── プスッ 。



「グウォォォォォォ」


「もっともっと強くなれ、我が魔人よ!!そして、私の願いを叶えるのだ。クハッハッハッハッ ───── 」




最後までお読み頂きありがとうございます。

十二の剣ナンバーズ”であるガウェインをも凌駕する強さを見せた魔人。

一体どれほどの生物の特性を取り込んでいるのでしょうか。

そして、王国はこの脅威を止めることが出来るのか。


次回『警告』

お楽しみに♪♪



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