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魔人

新たにセスリーを仲間に加えた“宿り木”。

これまでパーティにいなかった射手アーチャーを得たことによりクエストに臨む際に作戦のバリエーションも増え、より厚みのある戦い方が出来るようになっていた。


今日はその連携を確認するための実践として討伐クエストに臨んでいるスズネたち。

今回の討伐対象は最もランクの低いEランクの魔獣電電魔猿エレモンキーである。

電電魔猿エレモンキーは、全身が常に帯電しており、攻撃を受けるとその電撃によって相手に痺れを生じさせる特性を持っている。

さらにスピードに特化しており、その俊敏性を活かした打撃と群れによる連携攻撃で獲物を狩るのだ。

そして、群れには当然それを率いるボスがいて、他の電電魔猿エレモンキーよりも体躯も大きく強力な個体となっている。

さらに電電魔猿エレモンキーのボスが他の群を組む魔獣のボスと異なる点は、後方に鎮座して指揮をとるのではなく、自らが先頭に立ち他の電電魔猿エレモンキーたちを鼓舞することにあり、他の者たちはそれに続く形で波状攻撃を繰り出してくるのである。



「クソッ、セスリー程ではないけどちょこまかと鬱陶しいわね」


「本当、想定していたよりも速いね。それじゃ、覚えたての新魔法を披露しちゃおうかな」


「お〜間に合ったんだ」


「エヘヘヘヘッ。それじゃ、いっくよ〜 ───── 加速ラピッド



この魔法はセスリーとの戦闘において自分たちの速度不足を痛感したスズネがさらなるパーティの向上のために習得したものである。

スズネが発動した新たな支援魔法加速ラピッドによってメンバーたちの俊敏性が上がったことにより、当初電電魔猿エレモンキーとの戦いに面を喰らっていたスズネたちもそのスピードについていけるようになった。



「皆さん、ボス猿ばかりに気を取られないで下さい。常に他がその隙を狙っていますので」


「了解です。ボス猿はこちらで対処しますので、セスリーは援護をお願いします」


「はい、分かりました。出来る限り数を減らします」



ヒュンッ ─────── ウギッ。


ヒュンッ ─────── ギャッ。


ヒュンッ ─────── ウギャッ。



セスリーにおいては他のメンバーたちとは違い、電電魔猿エレモンキーよりもまだまだ自身の方がスピードにおいて勝っているため、相手の動きや誘導に惑わされることもなくそのスピードを全く苦にしない。

“射手の魔眼”で相手との距離と遮蔽物の位置を測り、開眼した“神覚の魔眼”によって電電魔猿エレモンキーたちの動きと流れを読み、的確に狙いを定め、確実に数を減らしていく。


一方の他のメンバーたちは、加速ラピッドによって自身の俊敏性が上がったとはいえ、ギリギリ応戦しているという感じであった。

しかし、その中でマクスウェルだけは少しずつではあるが電電魔猿エレモンキーの動きを確実に捉え始めていた。

これも一重に日々の鍛錬の賜物であった。



=========================


日々の鍛錬の中でセスリーと一対一の模擬戦をすることがあり、始めた当初ミリアとマクスウェルは全くそのスピードについていくことが出来ずボコボコにされていた。

そんなある日、その様子を見ていたクロノが珍しくセスリーではなくマクスウェルにアドバイスを送ったのだった。

それはセスリーのスピードに惑わされ、その動きを捉えようと必死に目で追いかけていたマクスウェルに対して、視覚だけに頼るのではなく、その他の感覚を研ぎ澄まし、もっと広く戦局を見るようにというものであった。


=========================



「スゥーーーーー ・・・ フゥーーーーー」



剣を構えたまま瞳を閉じ、大きく深呼吸をするマクスウェル。

視覚による無駄な情報を排除し、少しずつ近づいてくる相手が発する音と肌で感じる気配を頼りに、その時を待つ ───── 。

そして、剣を構えたまま微動だにしないマクスウェルに三体の電電魔猿エレモンキーが襲い掛かる。



「!! ───── ハッ!!」



まさに一瞬の出来事であった。

飛び掛かった三体の電電魔猿エレモンキーは何も出来ないままあっさりとその首を斬り落とされたのだった。



「ハッハッハッ。ちったぁ〜マシになってきたじゃね〜か、色ガキ」


「茶化さないでください、戦闘中ですよ。それに・・・まだまだです」



周りからしてみれば上出来の結果だが、マックスウェル自身が見据えている剣はまだまだ先にあるようである。




ドーーーン。


ドーーーン。


ドーーーン。



「わぁ〜っはっはっはっ。掛かりよった、掛かりよった。わっちの設置したトラップはまだまだあるからのう。篤と味わえ、猿どもよ」



ラーニャの設置した魔法トラップによって陣形を崩され混乱した様子を見せる電電魔猿エレモンキーたち。

そして、その隙を見逃すことなくセスりーが狙い澄ました矢で次々と葬っていく。


そこからはまさに一方的な戦況となる。

次々と討ち取られていく仲間たちの様子をただ見ていることしか出来ないボス猿であったが、ここからこの戦局をひっくり返すことは不可能だと察したのか、意を決したようにスズネたちの元へと単身で突っ込んできた。



ヴゥォォォーーーーー。


───────── ガンッ 。



「そうはさせないっすよ」



ボス猿が最後に繰り出した渾身のタックルを平然と受け止めるシャムロム。

これまでに数多くの魔獣を相手にしてきたこともあるが、それ以上に日々の鍛錬の一環としてクロノと立ち合いをしていることが大きい。

今のシャムロムにとっては、クロノから浴びせられる猛攻に比べたらただの大きな猿によるタックルなど何の苦にもならないのだ。



「それじゃ終わらすわよ」


「了解です」



─────── ズバンッ!!



ミリアとマクスウェルによる斬撃を受けたボス猿は為す術なく力尽きたのであった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



「マリさ〜ん、電電魔猿エレモンキーの討伐完了しました」


「お疲れ様。今回も問題なく討伐出来たみたいね」


「あんな猿ぐらい今のアタシたちなら余裕よ」


「馬鹿なこと言わないでください。まだまだあのスピードについていくのがやっとなんですからね」



無事に電電魔猿エレモンキーの討伐を終えたスズネたちは、その報告のためにギルドを訪れていた。

そして、そこでマリから興味深い話を聞くことに。



「はい。それじゃ、こちらが今回の討伐報酬の銀貨七枚になります」


「ありがとうございます。それじゃ、今日はここまでにしてホームに帰ろっか」


「あっ、ちょっと待って」



今回の報酬を受け取りホームヘ帰ろうとしたスズネたちを引き止めるマリ。



「どうしたんですか?マリさん」


「まだ正式なクエストにはなっていないんだけど、最近王都で殺人事件が多発しているらしいのよ」


「「「「「「 殺人事件!? 」」」」」」


「王都での事件なんだけど、隣街であるここモアにも犯人が来るかもしれないから十分に注意してね」



突然の話に驚きを隠せないスズネたち。

その驚きも無理はない。

王都は他の都市とは違い、王城があるということもあって警備もしっかりしており、昼夜問わず巡回の兵士が見回りをしているのだ。

そんな王都において発生した事件ともなるとその衝撃は計り知れない。



「噂によると、これまで被害にあった人たちはみんな身元が分からなくなるくらいグチャグチャにされていたみたい。それから嘘か本当か分からないけど、現場では体長三メートルを超える“魔人”が目撃されたという話も出ているらしいのよ」


「“魔人”・・・ですか」



その衝撃的な内容にスズネたちが言葉を失っていると、冒険者ギルドに三名の王国聖騎士が入ってきた。


─────── バンッ 。



「ちょっと邪魔するぜ」



聖騎士たちが足を踏み入れることによりギルド内の空気が一変する。

ガヤガヤと賑わっていた空気から殺伐とした空気へと変わり、殺気を含んだ視線が三人の聖騎士たちに向けられる。



「王国聖騎士様がこんな場所に何しに来やがったんだ?」


「ここはお前らみたいな恵まれた奴が来るとこじゃね〜ぞ」



どこからともなく野次が飛ぶ。

しかし、聖騎士たちは気にも留めることなく受付に向かって歩を進める。

どうやら最初から歓迎されるとは思ってもいないようである。


突然の出来事に驚きながらもスズネたちが入り口の方へ視線を送ると、見たことのある人物がこちらへ歩いて来ていた。



「ガウェインさん!?」


「おう、お前たちか。元気にしてたか?」


「はい。新しい仲間も増えて、楽しくやってます」


「そうかそうか、順調なら何よりだ。マクスウェルもしっかりやってんのか?」


「はい。日々たくさんの刺激を受けながら鍛錬に励んでいます」


「それなら良し。精進しろよ」



スズネたちがガウェインと旧交を温めていると、先程よりも激しい野次がギルド内を飛び交う。



「聖騎士風情がヘラヘラしてんじゃな〜ぞ」


「冒険者ギルドにナンパでもしに来たのか」


「目障りなんだよ。さっさと失せろ」


「「「「「 帰れ!! 帰れ!! 帰れ!! 」」」」」



キラキラしたイメージの聖騎士に比べると冒険者というのは泥臭くアウトローなイメージ。

昔から水と油のような関係であり、まさに犬猿の仲。

しかし、今ではその割合の大半が冒険者からの僻みや妬みが占めており、レオンハルトが王位につき、アーサーが聖騎士長となって以降は聖騎士側からどうこうするということはなくなっていた。

ギルド中に響き渡る“帰れコール”を前に苦笑いを浮かべるガウェイン。

その異様な光景に困惑した様子を隠せないでいるスズネたちであったが、一人の人物の登場によって一瞬の内に場が収まる。



「黙れクズども!!俺の客人に汚ねぇ〜戯言ほざいてんじゃねぇ〜。全員殺すぞ!!」



その声を聞いた途端にギルド内が静まり返る。

先程まで野次を飛ばしていたギルド内の冒険者たちが全員黙りこくり、冷や汗をかいている者さえいる。

しかし、スズネたちはそんなことよりも現れた人物の風貌に目を奪われてしまう。

どう見ても幼い少女。

背丈はスズネたちよりも低く、見た目の感じではラーニャと変わらないくらいの年齢に見える。

分からないことが多過ぎて理解が追いつかないスズネたちがマリに質問する。



「マリさん、あの子は一体何者なんですか?」


「ああ、スズネたちは会ったことなかったんだっけ?あの方がここ冒険者ギルドモア支部の支部長をしているリタさんよ。見た目は幼い少女のようだけど、めちゃくちゃ恐いし、大袈裟にではなく今ここにいる冒険者が全員でかかっても勝てないくらい強いわよ」


「「「「「「 え〜〜〜!?あの人がモアのギルド支部長なんですか!! 」」」」」」



凍ったように固まった冒険者たちに睨みを効かせながらリタがガウェインの元へとやってきた。



「すまんな、聖騎士殿。うちの馬鹿どもが失礼をした」


「いやいや、急に聖騎士が乗り込んで来たらこうなるわな」



非礼を詫びるリタに対し、気にする必要はないと豪快に笑い飛ばすガウェインであった。



「ん?なんだこいつらは。聖騎士殿の知り合いか?」


「ああ、以前にちょっとな。それにうちの見習い騎士も世話になってんだ」


「お〜お前らが噂のルーキー“宿り木”か。そして、そっちにいるのが ───── 魔王クロノか」


「何だよガキ、テメェーごときが俺の相手になると思うなよ」


「フンッ、生意気なやつだ。とりあえず騒ぎを起こして俺の仕事を増やすんじゃねぇ〜ぞ ────── それから、俺はとうの昔に四十を過ぎてんだ。ガキ呼ばわりすんじゃねぇー」



衝撃的な事実を言い残し、リタはガウェインを連れてギルドの奥へと消えていった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



その日の夜。

王都のとある路地裏にて ────── 。



「はぁ〜今日も巡回とか面倒くせぇ〜な」


「最近は魔人だなんだので見回りの回数も増えたしな」


「三メートルを超える魔人って、どこのお伽話だよ ─── なぁ」



バキッ ボキッ ────── ドサッ。



「おい、早くしないと先に行っ ───── うわぁぁぁぁ・・・なっ・・・なんだお前」



ズシン・・・ズシン・・・ズシン・・・。



「来るな、来るな、来るな ───── ギャーーーーーッ・・・」




───────────── グシャッ 。



最後までお読み頂きありがとうございます。

スズネたちもセスリーの加入によりますます強くなっている感じですね。

まだまだ発展途上の彼女たちを応援してあげてください。

そして、今回のお話から『魔人編』のスタートです。

今後の展開にもご期待ください。



次回『王国最高の頭脳』

お楽しみに♪♪



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