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故郷(ふるさと)

当初の予定であった討伐ではなく、急遽“白い魔獣”を生きたまま捕獲することにしたスズネたち。

クロノからのアドバイスもありながら、作戦通りに“白い魔獣”をラーニャが設置された魔法トラップへと誘導することに成功する。

そして、設置された雷魔法によって“白い魔獣”の動きが止まったところを待ち構えていたマクスウェルが取り押さえようとしていた。



「“白い魔獣”、確保ーーーーーお?」



勢い良く飛び掛かったマクスウェルであったが、”白い魔獣”の姿を見て動揺を隠せなかった。

マクスウェルは心の中で《マズい!!》と思ったが空中において方向転換など出来ようもない。

そして、悲しくもそのまま“白い魔獣”の元へと飛び込むしかなかったのだった。



「キャーーーーーッ」



マクスウェルが飛び掛かった瞬間、女性の悲鳴が森に響き渡った。

スズネたちも何事かと思いながら急いで現場へと向かう。

そこでスズネたちが見たものは ───── 。



「うっ…イテテテテ」



飛び込んだ勢いでそのまま倒れ込んでいたマクスウェルが目を開くと、そこには涙目になっている女性の姿があった。



「くうっ…うぅっ…」



スズネたちが目にしたのはまさにその場面であった。

横たわった白銀の髪をした女性の上に覆い被さる形で乗りかかったマクスウェルの姿があり、その右手はしっかりと女性の胸を掴んでいた。

そして、その光景を見たスズネたちは一様に言葉を失う。

どこからどう見ても若い女性が強姦にあっているようにしか見えない。

一瞬何が何やら分からなかったマクスウェルであったが、目の前で泣きそうになっている女性、スズネたちが自分に向ける冷たい視線、そして右手の中にある感触によって全てを理解したのだった。



「いや…違いますよ!僕だってまさか“白い魔獣”の正体が女性だったなんて ───── 」



マクスウェルによる必死に弁明は悲しくも誰の耳にも届くことはなかった。

そして、そんなマクスウェルの元へ無言のミリアが歩み寄る。


─────── ツカッ ツカッ ツカッ 。



「アンタね…性懲りもなく良い根性してんじゃないの」


「ミリア!?ですから、これは違うんですよ」


「女性の胸に触れておいて、違うんですが罷り通るわけないでしょ」


「でも・・・」



コキッ ポキッ コキッ。



「問答無用。それからベラベラと言い訳を並べてないで、さっさとその手を離せーーーーー」



ドゴッ ────── 。



「ぐぅわぁぁぁぁぁ」



これは…デジャヴ??

以前にも何処かで見たような光景を前にしながらも、スズネたちは無表情のまま殴り飛ばされるマクスウェルの姿を眺めていた。

そして、地面に転がるマクスウェルのことは放置し被害者である女性の元へと駆け寄ったのだった。



「あの〜大丈夫ですか?」


「は・・・はい。大丈夫です」


「私の名前はスズネ。私たちは冒険者をしていてここにいるのは同じパーティの仲間たちです。今はこの森に住んでいるエルフ族からの依頼で“白い魔獣”と呼ばれる魔獣の討伐に来ているんです」



大人数を前にして怯えた様子を見せる女性に、スズネは敵意がないことを伝えるために出来る限り柔らかな笑顔と優しい声色で自分たちのことを話した。

すると女性が恐る恐る口を開き、今にも消えてしまいそうな程のか細い声で何かを発した。



「・・・す」


「えっ?」


「・・・し・・・す」


「しす?」


「私です」


「あ〜私ですかぁ ───── それは、何が私なんですか?」


「私が・・・その“白い魔獣”です・・・たぶん」



スズネの話を聞いた女性は、自身こそがスズネたちが探している“白い魔獣”であると言う。

そうであろうと察しがついていたスズネたちだが、どう見ても事前に聞いていた凶暴な魔獣には見えない。

それどころか、女性の美しい白銀の髪をかき分けて飛び出る特徴的な長く尖った耳は誰がどう見ても ───── 。

予想外のことばかりの現状に少し困惑するスズネたちであったが、一先ず目の前にいる女性が何者であるのかを聞くことにした。



「あの〜すみません。あなたは一体・・・それに、なんでこんなところに一人でいるんですか?」


「あっ…はい。私は ───── 」



スズネから質問を受け、大勢を前に緊張した様子を見せながらも女性は自身について話し始めた。

そして、彼女の話を聞いたスズネたちは驚愕することとなる。



─────────────────────────



彼女の名前はセスリー。

このエルフの森で生まれ育った正真正銘のエルフ族である。

しかし、金色の髪にみどり色の瞳をしているエルフ族とは見た目が大きく異なり、セスリーは白銀の髪にあおい瞳をしていた。

そして、その事が原因で生まれた時より“忌み子”とされ里を追われることとなったのだという。

今は行く宛もないため、里に近づかないようにしつつ森の隅で細々と暮らしているとのことであった。



「ハァ?何よそれ!あの族長たちふざけてんの」



セスリーの話を聞いたミリアが激怒する。

どうやらモーフィスを始めエルフ族がひた隠しにしてきたのはこの事のようである。



「セスリーさんは子供の頃からずっと一人で暮らしてきたんすか?」


「いえ、十歳までは両親と一緒に里で暮らしていました。しかし ───── 」



セスリーの話によると、幼少期まではエルフの里にて両親と三人で仲良く暮らしていたとのこと。

生まれた当初から“忌み子”であると言われていたものの、族長であった父親によって守られていた。

しかし十歳を迎えた時、森に現れた魔獣を討伐しに行った父親が重傷を負いそのまま息を引き取ったことによって状況が一変する。

そこから里の者たちによる迫害が始まり、現族長であるモーフィスとセスリーの母親の間で話し合いが行われ、今後一切エルフ族は手を出さないことを条件に二人は里を抜け、森の隅で密かに生活するようになったのだった。



「ホントにムカつくわね!あいつら全員滅多斬りにしてやりたいわ」



先程にも増して怒り狂うミリア。

スズネを始め他のメンバーたちもセスリーの話を聞きエルフ族への不信感を覚えたのだった。



「でもセスリーさん、モーフィスさんとセスリーさんのお母さんの間で手を出さないって約束をしたはずなのに、どうして狙われているんですか?」


「それは ───── 二年前に母が亡くなったからです」


「えっ!?」


「ちょうど二年前に病で母が亡くなったんです。そのことを知った里の者たちが話し合った末、母との約束を反故にし“忌み子”を殺すべきだと結論付けられたようです」



ここまでくると宿り木のメンバー全員の怒りが沸点を超える。



「何よそれ!!」



怒りに震えるスズネ。

珍しく感情を爆発させるスズネの姿に驚くメンバーたち。

そして、怒りに満ちたスズネたちはその足でエルフの里へと向かったのだった。



─────────────────────────



スズネたちがエルフの里に到着すると、里の中央にある広場に族長モーフィスを始め全てのエルフ族が勢揃いしてスズネたちを待っていた。

そして、スズネが話を切り出そうとしたが、それよりも前にモーフィスが口を開いた。



「これは一体どういうことでしょうか?必ず殺して頂くという約束だったはずですが…何故生け取りに?」



どうやらスズネたちの動向は常に監視されており、全て筒抜けになっていたようである。



「約束という点に関してなら、そもそもの依頼内容に事実と異なる点があったようなんですが ───── 」



モーフィスの問い掛けに対し、込み上げてくる怒りを必死に抑えつつ質問で返すスズネ。



「何を仰っているんですか。我々の言葉に嘘偽りなどありませんよ」


「ハァ?アンタ何言ってんの。証拠なら挙がってんのよ」


「ふざけないでください。話はここにいるセスリーさんから伺いました。あなたたち同じエルフ族に対してこの仕打ち、決して許されることではありませんよ」


「同じではない!!!!!」



ブチ切れるミリアとマクスウェルに対して、これまでに見せたことのない表情をしながら語気を強めるモーフィスであった。



「何が同じだ。どこからどう見ても我々エルフ族とその娘では違うではないか。白銀の髪に碧い瞳・・・誰がどう見ても“忌み子”ではないか」



怒りに満ちた表情をしながらセスリーに対して蔑んだ視線を向けるモーフィス。

それに対してついに怒れるスズネがその想いをぶちまける。



「なんでそんなことが言えるんですか。幼い子供と母親を広い森の隅へと追いやって、あなたたちは何も思わないんですか」


「そんなわけないだろ!!何も思わないわけ・・・」



突然モーフィスが声を張り上げ森中にその怒声が響き渡る。

声を上げたモーフィスの目には涙が・・・。

その異様な光景に驚きを隠せないスズネたち。

そして、モーフィスの想いを知るエルフ族の民たちは一様に視線を下げたのだった。



「その娘の母親は ─── セリーナは私の娘なんだぞ。その娘のせいでセリーナは里を追われることになり、そして私の知らぬ間に死んだのだ・・・」



その言葉を聞いたセスリーは悲しみのあまり下を向く。

そして、モーフィスはこのままの状態を続けたとしてもセスリーにとって良いことはないと言う。



「その娘・・・我々にとってはただの“忌み子”だが、他の種族にとってはそうではない」


「それってどういう意味っすか?」


「言葉の通りだ。特にヒト族にとっては、ただでさえ珍しいエルフ族の中にあってさらに希少種 ─── かなりの高値で取り引きされることだろう」


「そんな・・・」


「外に出ても危険。このまま森にいたとしてもいずれはバレてしまい、そういう類の者たちがこの森へとやって来る。そうなったら、そいつらによって森も里も荒らされ被害を受けることになる。だからこそ、そうなる前に殺しておくべきなのだ」



あくまでも森や里を守るためだと主張するモーフィス。

そして、他のエルフたちも同意だと言わんばかりにモーフィスの後ろに並び立つ。

エルフ族による強烈な圧を前にして黙ることしか出来ずスズネたちが手をこまねいていると、急に辺りが暗くなり空が赤紫色へと変わる。

この光景は以前にも見たことがある。

そして、突如スズネたちの上空に燃え盛る超巨大な球体が現れたのだった。


スズネたちが後方にいたクロノへと視線を向ける。

そこに立つ魔王様は、どうやらかなりご立腹のようだ。

そんな今にも何かしでかしそうなクロノに向かってミリアが声を掛ける。



「ちょっとクロノ、アンタそんなもん出してどうする気よ」


「あ?森と里が心配だからそいつを殺すって言うんだろ?だったら、そもそもの原因である森も里も全部無くせばいいじゃね〜か」



誰もが予想だにしていなかったとんでもないことを言い出すクロノ。

エルフ族はクロノの言っている意味が分からず唖然としており、その言動に慣れたスズネたちは呆れて頭を抱えるのだった。



「何をふざけたことを。貴様は何者だ!!」


「なんだ下郎・・・俺は魔王クロノだが ─── 何か文句でもあんのか?」


!? !? !? !? !?



突然現れた魔王を前にし怯え震えだすエルフ族。

そして、それまでの態度から一転して平身低頭する。

モーフィスを始め全てのエルフ族が土下座をして必死に止めるように懇願する。

しかし、クロノは一向に止める素振りを見せない。



「ちょっとスズネ、止めなくていいの?」


「そうですよ。さすがにやり過ぎです」


「あわわわわ…マズいっすよ。クロノさんを止められるのはスズネさんだけっすよ〜」


「わ〜っはっはっはっ。いいぞご主人様!!そのまま焼き払ってしまうのじゃ」



セスリーを生かすためだけに森ごと吹き飛ばそうとするクロノ。

その暴挙を阻止するためにミリアたちはスズネにクロノを止めるように促す。

しかし、スズネは真っ直ぐにクロノを見つめ笑顔を見せる。



「大丈夫。クロノはそんなことしないよ」


「いやいや、あんなものまで出してんのよ。大丈夫なわけ ───── 」



ミリアによる必死の訴えにもただ笑みを向けるだけのスズネ。

その様子にミリアたちは呆れながらも、この結末をクロノに託したのだった。



─────────────────────────



「そもそもちょっと見た目が自分たちと違うからって“忌み子”だなんだと自分勝手なこと言ってんじゃね〜よ。未知に対しての己が無知を棚上げし、それどころか恐れ嫌い遠ざけるということは自分自身への諦めであり恥ずべきことだ」


「クッ…言っていることは分かるが、“忌み子”は森や里に災いを招く。それは歴史が証明しているではないか」



クロノによる圧倒的な圧力を前にしても一向に引き下がる様子を見せないエルフ族に対し、いよいよクロノが審判を下す。



「そんな昔の無能どものことなんて知るかよ。これは今を生きるお前ら自身の問題だ ───── 己が愚かさを呪い、滅べエルフ族」



クロノが静かに右手を上げ、その手を振り下ろそうとしたその時 ────── 。


ザザザーーーーーッ。



それまでクロノとモーフィスのやり取りを聞いていたセスリーが両者の間に割って入る。

そして、クロノに対し膝を付いて攻撃を止めるように嘆願する。

その姿を前にし振り下ろそうとしていた手を止めたクロノは、セスリーにその行動の真意を問う。



「どういうことだ?お前を殺そうとしているやつらだぞ」


「私は…生まれた時から“忌み子”だと言われてきました。初め自分が何故みんなに嫌われているのかわからなかったけど、父も母もそんなこと関係なく私を愛してくれました。そして、父が亡くなり里を追われ、母が亡くなってからは何度も殺されそうになりました」



クロノの問いに対し、これまでを思い出しながらその想いを吐露するセスリー。



「辛かった ─── 悲しかった ───。それでも・・・それでも、この森もこの里も父と母が愛した故郷ふるさとなんです」



そう言うと、セスリーは大粒の涙を流しながら改めてクロノに頭を下げたのだった。




最後までお読み頂きありがとうございます。

白い魔獣の正体が美しいエルフだったとは・・・。

自分で書いておきながらセスリーの生い立ちを考えると胸が苦しくなってしまいました。

こういったモノが無くなる世界であってほしいと願います。


そして、セスリーの想いにを聞いたクロノの答えは ─── 。



次回『五人目』

お楽しみに♪♪



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