討伐クエスト
現時点での目標を冒険者ランクをCランクへ昇格させることと設定したスズネたち。
各自のレベルアップを図りながらより一層チームワークを深めていき、次々とクエストをクリアしていった。
その凄まじい快進撃には、長らく冒険者たちを支え見守ってきた冒険者ギルドの職員たちも驚くほどであった。
そして、モアナ湖での決意から三ヶ月後、いよいよスズネたちはCランクへの昇格に向けて最後のクエストに挑む。
「もう、一体どんだけいるのよコイツら」
「その意見には同意しますが、スピードを落とさないでくださいよ。追いつかれたら確実に踏み殺されますよ」
「分かってるわよ〜」
そんな愚痴を溢し合いながら懸命に走るミリアとマクスウェル。
その背後には今回のクエスト対象素材である巨大猪が猛烈な勢いで追いかけて来ていた。
その数、なんと三十頭。
一頭当たりの体長が三〜四メートルあり、体重も五百キロ近くある。
そんな超重量級が大群で押し寄せて来ているのだ。
マクスウェルの言う通り、追いつかれ巻き込まれでもしたら確実に死を迎えるだろう。
そんな巨大猪の大群に追われる二人が息を切らしながら必死に走るその先で、それまで戦況を見守っていたスズネから指示が飛ぶ。
「ミリアとマクスウェル君はそのまま対象を引き付けて、打ち合わせ通りのポイントまで誘導をお願い」
「「 了解 」」
「ラーニャちゃん準備はいい?数が数だけに一撃で仕留めてね」
「うむ、任せておれ。パワーアップしたわっちの魔法を存分に味わわせてやるのじゃ」
もはや庭と言ってもいいくらいに慣れ親しんだザグレスの森を軽快に走るミリアとマクスウェルはある地点を目指していた。
その地点とは、広いザグレスの森の中にあって唯一木々が生えていない広場であった。
そこであればラーニャの魔法を放ったとしても森の木々を傷めることはないという判断である。
「それじゃ打ち合わせ通り広場に入ったらカウント出すから同時に離脱するわよ」
「了解です。ラーニャの“アレ”に巻き込まれるのは御免ですからね」
走りながら最後の確認をするミリアとマクスウェル。
そして、二人はいよいよ広場へと辿り着いた。
「よし、いくわよ。三・二・一」
ミリアのカウントダウンが終わると、二人は一斉に左右に分かれてその場から離脱する。
それに対して、ずっと追いかけていた獲物が急に視界から消えて困惑する巨大猪。
巨大であったとしても猪は猪。
巨大猪たちは急に曲がれないため、そのまま一直線に広場へと突っ込んでいく。
そして、そのことを確認したラーニャによる魔法が発動される。
「燃え盛る炎よ、その爆炎を以って敵を焼き払え ───── 摩炎楼」
ラーニャの詠唱と共に放たれた魔法が三十頭の巨大猪を襲う。
そして、広場に生まれた大きな炎の柱によって巨大猪たちが一気に焼き払われたのだった。
「ワーッハッハッハッ。どうじゃパワーアップしたわっちの魔法の威力は!!」
事前に打ち合わせした通り一撃で三十頭の巨大猪を葬ることができ上機嫌な様子のラーニャ。
確かに、控えめに言っても凄まじい威力であり、攻撃対象である巨大猪以外に被害も出ていないところを見るに、魔法の操作レベルも上がっているようだ。
「すごい、すごい。本当に凄いよラーニャちゃん」
「上手くいって良かったわね」
「バッチリ予定通りにいきましたね」
「いや〜本当に凄い魔法だったっすよ」
そのようにメンバーたちからの賞賛を浴びてさらに得意がおになるラーニャなのであった。
「おい、ラーニャ」
その声を聞いた途端にそれまで緩んでいたラーニャの表情が一気に引き締まる。
声の主はもちろん現在ラーニャに魔法を指導しているあの男である。
今回の魔法の出来としては、ラーニャ本人としても決して悪いものではないと思っていた。
しかし、細部にまでクオリティを求めるクロノがどのように評価するかは誰にも分からない。
今のラーニャにとって最も緊張する瞬間である。
「旦那様・・・」
「今の魔法は良かったぞ。しっかりと標的だけを狙えていたし、魔法の飛散も最小限に抑えられていた」
これまで一度たりとも無かったクロノからのお褒めの言葉に、ラーニャはスズネたちから受けた賞賛の時とは比べ物にならないほどの満面の笑みを見せたのだった。
「そ・・・そうじゃろう。・・・そうじゃろ〜〜〜」
あまりの嬉しさにその瞳をキラキラと輝かせながらクロノの元へと駆け寄るラーニャ。
「ああ、なかなかの出来だったぞ。ただ、まだまだ緻密な魔力操作には集中が必要だからな。無詠唱や詠唱の省略はするなよ。詠唱は最初から最後までしっかりやるんだぞ」
ラーニャの頭を撫でながら今後の注意点も忘れずに伝えるクロノであった。
「もちろんじゃ。無詠唱はマクスウェルを懲らしめる時にしか使わんから大丈夫じゃ」
「懲らしめるとは何ですか!!まるで僕が悪いことでもしているみたいじゃないですか」
モアナ湖での一件を引っ張り出してマクスウェルをイジるラーニャ。
そんなラーニャの言葉に対してすぐさま否定するマクスウェル。
そして、そんな二人のやり取りを見ていた他のメンバーたちはほっこりとした様子で笑顔を向けるのであった。
「さぁみんな、残り二十頭だよ。この調子で素材を集めちゃおう」
「「「「 了解 (じゃ・っす) 」」」」
そこからスズネたちはあっという間に今回のクエストノルマをクリアする。
スズネは全体指揮と両立して他のメンバーたちへの補助を行い、ミリアは愛剣である“炎帝の剣”との間に得た新たな武技“炎舞”を使い、残りの目標数の半分を一人で切り伏せた。
一方では、マクスウェルがさらに磨きをかけた剣技で敵を薙ぎ倒し、シャムロムはミリア・マクスウェルとの特訓の甲斐もあり一人で二体を打ち取り、ラーニャは精度を上げた魔法で難なく仕留めたのだった。
こうして今回のクエスト素材である五十頭分の巨大猪の牙を手に入れたスズネたちは、その足でギルドへと報告に向かった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ギルドへの報告を終えたスズネたち。
そして、今回のクエスト報酬とCランクへとランクアップしたステータスカードを受け取る。
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冒険者ランク C
氏名:スズネ Lv.20 魔法師
召喚獣:クロノ Lv.1
所属パーティ:宿り木 (リーダー) Dランク
Cランククエスト達成回数 0/100
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冒険者ランク C
氏名:ミリア Lv.26 剣士
武具:炎帝の剣 Lv.10
所属パーティ:宿り木 Dランク
Cランククエスト達成回数 0/100
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冒険者ランク C
氏名:ラーニャ Lv.28 魔法師
召喚獣:ルドラ(グリフォン) Lv.320
所属パーティ:宿り木 Dランク
Cランククエスト達成回数 0/100
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冒険者ランク C
氏名:シャムロム Lv.32 大盾使い
武具:白月の大盾 Lv.347
所属パーティ:宿り木 Dランク
Cランククエスト達成回数 0/100
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無事にCランクへの昇格を果たしたスズネたち。
合わせて“宿り木”のランクもDランクへとスピード昇格となった。
そして、いよいよスズネたちは討伐クエストへ。
討伐クエストは、これまで行ってきたクエストと比べて危険度が高く、場合によっては命を落とす可能性もあることから受けられる冒険者もCランク以上と設定されている。
また、その討伐対象のランク(危険度)によって、B以上・A以上・S以上と受けられる冒険者ランクが定められているのである。
スズネたちもCランクに昇格したとあって、さっそくマリに自分たちに合った討伐クエストがないか聞いてみることに。
「マリさん、今ステータスカードを確認したんですけど、Cランクに上がってますよね。さっそくなんですが、アタシたちでも受けて大丈夫そうなものってありますか?」
一日でも早く討伐クエストを受けたくてウズウズしているミリアが前のめりになってマリに質問する。
「もう、本当に気が早いわね。まぁ〜今の“宿り木”ならいけそうなのがあると思うわ。ちょっと見てくるから待ってて」
─────── 五分後 ───────
「これなんかどうかしら?」
マリが持ってきた依頼書の内容を確認するスズネたち。
それは、ガルディア王国の中にあって治外法権が認められている三つの種族の内の一つであるエルフ族からの依頼であった。
最近エルフの森に置いて暴れ回り危険視されているという“白い魔獣”を討伐してほしいということらしい。
「エルフ族からの依頼なんて珍しいんだけど ───── 」
「へぇ〜エルフ族からの依頼って少ないんですか?」
マリがポロッと溢した言葉に反応して素直に思ったことを聞くスズネ。
「まぁ〜ね。そもそもエルフ族の中にも屈強な戦士がいるからね。それにも関わらずヒト族に依頼してくるなんて…。ただ討伐対象は単体みたいだし、討伐ランクもEに設定されてるようだから特に難しいことはないと思うんだけど。やってみる?」
マリの話を聞き、スズネたちはすぐさま相談を始める。
「みんなどう思う?」
「Eランクの単体でしょ。初陣にはもってこいじゃないの」
「僕もその条件であれば大丈夫だと思います」
「ウチも受けていいと思います」
「単体か…今回わっちの出番は少なそうじゃのう」
こうして全員の一致によってこの依頼を受けることにしたスズネたち。
そして、翌日。
スズネたちはクエストの詳細を聞くためエルフの森に向けて出発したのだった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
本日は投稿が遅くなり申し訳ありませんでした。
そして、物語はいよいよ討伐クエストへ!!
今回はエルフ族からの依頼です。
ワクワクしながら読んで頂けたら幸いです。
次回『エルフの森』
お楽しみに♪♪
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