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欠けていたモノ

初の護衛クエストを終えたスズネたち“宿り木”。

クエストの途中で新人冒険者を狙った野盗団に襲われるという事態にも見舞われたが、クロノの手助けもありなんとか無事にモアに辿り着くことが出来た。


モアへ到着すると今回のクエストの依頼主であるゴルザと別れ、その足でギルドに報告へ。

そして、クエスト報酬を受け取りホームヘと帰還したのであった。


今回、クエストの達成にプラスして野盗団を捕縛したことによる追加報酬を手にした“宿り木”であったが、メンバーの顔に笑みは無く、ホームに着いてからも誰一人として口を開こうとはしなかった。


その後、誰からともなく話し合いが行われ、今日の出来事と今の自分たちの状態を考慮した結果、三日間の休暇を取ることにしたのだった。


スズネとクロノはロザリーの家へ。

ミリアも実家へ。

マクスウェルは一度報告の為に王城へ。

ラーニャとシャムロムはホームに残り、それぞれ魔法書を読んだり、武器や防具の手入れをすることに。


各々今回のクエストで思うところがあったようで、一度頭の中を整理する為にも時間が必要との判断であった。



─────────────────────────



「わざわざついて来てもらわなくてもよかったのに。ごめんね、クロノ」


「勘違いするな。俺はただ久しぶりにババアの料理が食いたかっただけだ」


「フフフッ。そっか、ありがとう」


「だから礼を言われる筋合いは無い」



モアの街までの道中、スズネとクロノは久しぶりの二人だけの時間を過ごしながら、いつもと変わらぬやり取りをしたのだった。

そうこうしている内に、二人は目的地であるスズネの祖母であるロザリーの家に到着した。



「ただいま〜」


「おや、スズネにクロノじゃないか。おかえり」



突然帰ってきたスズネとクロノを笑顔で迎えてくれるロザリー。

ロザリーの顔を見てホッとしたのか安堵の表情を見せるスズネ。

その晩、スズネたちは久しぶりにロザリーの手料理に舌鼓を打ち、心休まる時間を過ごした。

そんな中いつも通り明るく振る舞ってはいるがどこか無理をしているように見えるスズネの姿を心配しつつ、ロザリーはあえて触れずにいてくれたのだった。




─────────────────────────



サァ〜〜〜〜〜


サァ〜〜〜〜〜



「はぁ〜良い風。気持ちい〜い」



翌日。

騒がしい日々から離れ、実家である祖母ロザリーの家でゆっくりと穏やかな時間を過ごしながら寛ぐスズネ。

前日急に帰って来たスズネに対して、ロザリーは何かあったのか心配しつつも何も言わずにいつも通り優しくそばにいてくれるのだった。


その夜、クロノによる独壇場の爆食会に大笑いしたスズネたち。

あまりの可笑しさに涙を流しながら笑うスズネの姿に優しい笑みを向けるロザリーなのであった。



───────  コン、コン、コン。



「は〜い」


「スズネ、ちょっと入っていいかい?」


「おばあちゃん?うん、大丈夫だよ。どうぞ」



夕食後、ロザリーがスズネの部屋を訪れた。

久しぶりに帰って来た孫とゆっくり二人で話をするためである。

スズネもまた久しぶりにあった祖母に話したいことがたくさんあったようで、身振り手振りを交えながら楽しそうに話すのだった。


ホームに移ってからの生活のこと。

仲間が増えたこと。

クエストのこと。

初めて指名依頼を受けたこと。

野盗と魔物に襲われ、危うく依頼主に怪我を負わせてしまいそうになり、パーティも全滅してしまいそうなところだったこと。

クロノに頼り過ぎてしまっていること。

リーダーとして上手くやっていけるか不安に思っていること・・・。



最初は笑顔で話していたスズネであったが、徐々に心の奥底に隠していた不安や悩みが顔を出し、溢れる感情を抑えきれなくなり大粒の涙を流す。

そして、そんなスズネをロザリーは何も言わずに優しく抱き締めるのだった。


ひと通り涙を出しきったスズネは、改めて今の自分が抱えている悩みをロザリーに相談する。



「私たち“宿り木”は一人一人を見れば決して弱くはないのに、パーティとして上手く立ち回れていないのはリーダーである私に原因があると思うんだ」


「どうしてそう思うんだい?」


「いつも私の判断が遅くて前衛のミリアやマクスウェル君がその場の判断や指示出しをしているし、援護役のラーニャちゃんの指示はクロノがやっているし、私は“リーダー”として何ひとつできていないんじゃないかって思っちゃうんだよね」



スズネの抱えている悩みを聞いたロザリーは、いつもと変わらぬ優しい笑みを向ける。



「そうかい、そうかい。それで、スズネはみんなの為にどうしたいんだい?」



ロザリーからの質問に即答することが出来ず、スズネは考え込んでしまう。

部屋の中に沈黙が広がっていく。

スズネが真剣な表情で考えている姿をただただ温かく見守るロザリー。

ゆっくりゆっくり頭の中を整理していきながら、自分の中にある“本当の望み”に向き合おうとするスズネ。



「私は ───── もっとみんなに信頼してもらえるリーダーになりたい!!みんなが戦闘に集中出来るように補助魔法も覚えたい!!パーティの連携がスムーズにいくように広い視野で指示を出したい!!そして・・・“宿り木”をクロノが安心して見てられる強いパーティにしたい!!」



幼少期の頃からどこか周りに遠慮がちで本音を表に出そうとしなかったスズネが、自分の意思で進む方向を示したことに孫の成長を感じ嬉しく思うロザリーなのであった。

そして、スズネの意思を受け取ったロザリーは、可愛い孫のためにエールを送る。



「少しずつ進んでいけば良いさね。何か事が起こった時ってのは、自分自身と向き合うチャンスなんだ。今の自分に何が出来て、何が出来なかったのか。それを“振り返る”ことが大事なのさ」



ロザリーから送られる言葉を一語一句聞き逃さないように真剣な面持ちで聞き入るスズネ。



「そして、その“振り返り”を経て、今この瞬間から自分に出来ることは何なのかを考え、まずそれをやってみる。そしたらまた新しい景色が見えてくるんだよ。大きなことをやんなくていい、小さなことの積み重ねなのさ」


「うん。ありがとう、おばあちゃん。まだ全部が出来るわけじゃないけど、まずは今出来ることを一つ一つやってみるよ」



いつの間にかスズネの顔から焦燥感が消えてなくなり笑顔が溢れていた。

そして、最後にロザリーから最も大事なことが伝えられる。



「はっはっはっ、いつもの笑顔に戻ったね。スズネ、人の成長にとって最も大事なことは、何よりもまず“気づくこと”なんだ。その“気づき”をどうするかは、自分自身で決めていけるんだからね」


「うん。まだおばあちゃんの言っていることの全部を理解したわけじゃないけど、“気づくこと”が大事ってことは分かった気がするよ」



暗い闇の中を手探りで進んでいるような感覚に陥り不安しかなかった中で、その闇を晴らすための一筋の光を手に入れたような気がしたスズネは笑顔でロザリーに感謝を伝えた。



「はっはっはっ、まぁ〜今話したことは師匠からの受け売りなんだわさ」


「へぇ〜おばあちゃんにもお師匠様がいたんだね」


「おや?言ってなかったかい?あんたも会ったことがあるだろう?」


「え??」


「以前に“魔女の森”へ行った時に会ったって言ってたじゃないか」


「えっ!?えっ!?まさか、おばあちゃんのお師匠様って ───── マーリン様!?」


「はっはっはっ、そうさね。だから、ラーニャちゃんは私の妹弟子ってことになるね」



最後の最後にサラッと衝撃的な事実を告げられ驚きを隠せずにいるスズネ。

そんな驚きの余韻を残しつつ、夜は更けていくのであった。



─────────────────────────



出発の日。



「おばあちゃん、本当にありがとう」


「いいってことさ。ここはあんたの家なんだ、何かあったらいつでも帰っておいで。それからスズネ、何でも一人でやろうなんて思うんじゃないよ。時にはパーティの仲間を頼ったっていいんだ。あんたは決して一人なんかじゃないんだからね」


「うん。ホームに帰ったらみんなに今の正直な気持ちをそのまま話すよ」



帰ってきた時とは違い活き活きとした表情をしているスズネの姿に、ロザリーは安堵を含めた笑みを向ける。

そして、その後にスッとクロノへ視線を送った。



「フンッ。またババアの飯が食いたくなったらスズネと一緒に帰ってきてやるよ。そん時にはご馳走を用意しておけよ」



視線を向けられたクロノは、ロザリーの意図を汲み取り照れ臭そうにしながら悪態をつく。

その様子を見て、ロザリーはクスリと笑うのであった。




───── モアからホームへの道中 ─────



「ねぇクロノ」


「なんだよ」


「私、頑張るね!!まだまだクロノに迷惑かけちゃうかもしれないけど、私自身も“宿り木”も強くなるからね」


「フンッ、何を言ってんだ。お前に召喚された時から迷惑かけられっぱなしだっつーの。今さらそれが一つや二つ増えたところでどうってことねぇ〜よ」


「フフフッ、確かにそうだね。ありがとう」



改めてクロノに今後の自分を見ていてもらおうと決意表明をするスズネ。

そんなスズネの意思を聞き嫌味を含めた返答をしつつも、その強い想いを受け取ったクロノであった。




───── ホームにて ─────



「みんな久しぶり」


「たった三日ぶりだけどね」


「ずっとクエスト続きでしたからね。改めて適度な休息も必要だなと思いましたよ」


「ウチは武器と防具の手入れをして、“”青龍の息吹アズール”に慣れるためにも鍛錬してたっす」


「三日ぶりの旦那様じゃ〜。どうじゃ、わっちに会えなくて寂しかったじゃろ〜う?」


「おい、いちいちくっつくな。鬱陶しい」



たった三日間とはいえそれぞれリフレッシュも出来たようで、三日前の沈みきった雰囲気はなく、全員が晴れ晴れとした表情をしている。

そして、それぞれが三日間で得たものや辿り着いた答えを共有し合ったのだった。



「私は、もっとみんなに信頼してもらえるリーダーになりたい。そのためにも補助魔法のバリエーションを増やしてみんなの戦闘をより楽にしつつ、全体を通しての指示を出していこうと思ってる。まだまだ迷惑もかけると思うけど、みんな協力してください」



何か吹っ切れた表情で堂々と宣言し頭を下げたスズネ。

以前は言葉にすることを憚っていた《助けてほしい》という思いをやっと口にすることが出来たのだ。

そんなスズネの思いを他のメンバーたちは温かく迎え入れたのだった。



「アタシは“覚悟”を持ってさらに剣の腕を磨くわ。それからスズネやラーニャの魔法との連動も意識していこうと思う」


「僕はさらなる精進と全体の連携・連動を深めていきたいと思っています」


「ウチはまず一人でしっかり戦えるようになりたいっす。そのためにもミリアとマクスウェルに一対一の訓練で鍛えてもらいたいっす」


「わっちは魔法の精度の向上じゃ。特に発動速度を上げた時に精度を落とさないようにするのじゃ。あとは・・・もう少しみんなの動きも考えるようにするのじゃ」



三日間バラバラに時間を過ごしたにも関わらず、メンバーたちの思いや方向性は見事に一致していた。


・自分自身のレベルアップ

・独りよがりに動くのではなく、パーティとしての連携や連動を意識して周囲に合わせて行動する


そして何より【チームである】ということ。



それは、これまでの“宿り木”に欠けていたモノ。

良くも悪くもこれまで順調に進んできてしまっていた為、自分よがりな行動、周囲のことを顧みない行動があったとしても誰一人として突き詰めて注意することをしてこなかったのだ。

そして、そのツケが回ってきたのが前回のクエストである。


その事を強く痛感したスズネたちは、改めて自分たちはパーティであり、“宿り木”はチームであるということを確認することが出来たのであった。



最後までお読み頂きありがとうございます。

ピンチの後にチャンスあり!!

これまで問題なくやってこれたからこそ見落とされていたモノ。

それに気づくことが出来た上に全員で共有することが出来たことを考えれば、前回のクエストでの失敗も意味があったのだと思います。


次回『湖畔』

お楽しみに♪♪



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