テスト
クロノの一言により急遽決まったシャムロムの実力を測るためのテスト。
その内容は、身体の頑丈さに自信があるというシャムロムがクロノの放つ魔法攻撃を防ぐというものに決まった。
“善は急げ”ということで、さっそく外へと場所を移した一同。
「それじゃ、さっさと始めるかちっこいの」
「あっ、はい。お手柔らかにお願いするっす」
「はぁ?手加減なんてするわけねぇ〜だろ。死んだら死んだでそこまでだったってだけのことだ」
冗談を言っているようには見えない。
クロノは本気でやる気(殺る気)だ。
シャムロムはそんなクロノの言動に気押されしてしまう。
「ちょっとクロノ、アンタ仮にも歴代最強とか言われてるんだし、少しくらい手加減してやんなさいよ」
「そうだよクロノ、実力を見るためなんだから全力でなんかやらなくても」
「おいおい、お前らがやっているのは仲良し小好しのごっこ遊びか、それとも共に命を預け合う冒険者パーティーか、どっちなんだ?」
クロノの問いに答えることが出来ず、スズネとミリアは押し黙ってしまう。
それに追い討ちをかけるように、それまで黙って状況を見守っていたマクスウェルが口を開く。
「今回ばかりは僕もクロノの意見に賛成です。さすがに“殺す”まではやり過ぎですが、本気でパーティに入る気なのであれば、多少の事くらいは自分の力で切り抜けてもらうべきだと思います」
そして、そこにラーニャが続く。
「わっちも同意見じゃ。雑用係を雇うのならいいが、パーティメンバーになるつもりなんじゃったら、足手纏いなんぞこちらの方から願い下げじゃ」
クロノだけに留まらず、普段パーティの方向性などについて特にどうこう言うことのないマクスウェルとラーニャにまで反論される形となり、スズネとミリアはさらに意気消沈してしまう。
「皆さん、ちょっと待ってください。ウチなんかのことで揉めないでほしいっす。そもそも“お手柔らかに”っていうのも、言葉の綾というか…元より全力で挑むつもりっす!!」
自身のために集中砲火を受けるスズネとミリアの姿に居ても立っても居られなくなり、シャムロムは鼻息荒く声を上げるのであった。
「フン、少しはマシな面構えになったな。位置につけ」
先程までの怯えた様子が解け、戦う顔つきになったシャムロムを見て、クロノは少し嬉しそうな表情を見せると距離をとるために移動を始めた。
「はい!!宜しくお願いするっす」
───────────────────────────────────
三十メートル程の距離をとった二人が向き合う。
少し強張った表情のシャムロムに対し、余裕を漂わせつつ飄々とした表情のクロノ。
挑む者と受けて立つ者。
両者の纏う空気感はまさに対照的である。
そんな二人を静寂が包み込む。
ゴクリッ ───── 。
緊張の中、生唾を飲み込んだシャムロムが大楯を構える。
そして、クロノの言葉を合図にテストが開始される。
「それじゃ始めようか。まずは小手調べだ」
そう言うと、クロノは右手を広げ前方に立つシャムロムへと向ける。
「火球」
───── ドン!! ─────
「水球」
───── バシャッ!! ─────
「風刃」
───── キーン!! ─────
「岩砲」
───── ゴンッ!! ─────
「氷槍」
───── パリン!! ─────
「雷撃」
───── バチンッ!! ─────
様々な属性の魔法を続けざまに放っていくクロノ。
シャムロムは大楯を使いそれらを全て防ぎ切っていく。
「ほ〜う…なかなかやるな。それじゃペースを上げていこうか」
クロノは嬉しそうに笑みを浮かべながら次の攻撃のために魔法を展開する。
そして、先程までは無かった四つの火球がクロノの周りに現れる。
「さぁ、どんどんいくぞ!!炎弾」
ドドドドドドドドド ─────── 。
次々と放たれる炎の弾丸がシャムロムに襲いかかる。
───── ドン!! ドン!! ドン!! ドン!! ───── 。
自身に向けられる攻撃の雨を必死になって耐えるシャムロム。
力いっぱい大楯を握り締め、懸命に両足で地面を掴み、吹き飛ばされないように踏ん張っている。
少しでも気を抜けば意識も身体も飛ばされてしまいそうな衝撃は一向に止む気配を見せない。
「す…凄いね。あれだけの攻撃を全部防ぎ切ってるよ」
「ホント…。しかも魔法を放っているのは、そんじょそこらの魔法師じゃなくてあの魔王クロノだからね」
「確かに、ほぼ完璧に防ぎ切っていますね。これは凄い」
「いや〜いつ見ても旦那様の魔法は惚れ惚れする美しさじゃの〜」
若干一名は置いておいて、スズネたちはシャムロムの鉄壁っぷりに驚きを隠せないでいた。
数分が経っても未だに終わる気配もなく放たれ続ける攻撃に対し、シャムロムは精一杯の様子ながらも確実に防ぎ続けていた。
すると、急に嵐のように襲ってきていた炎弾の雨が止む。
シャムロムは恐る恐る大楯から顔を出しクロノへと視線を向ける。
一方のクロノはというと、腕を組みながら先程よりもさらに嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「よし!!予定変更だ。お前、攻撃を防ぎつつ俺に一撃入れてみろ。出来たら即合格だ」
「えーーーっ!?ムリムリムリムリ…ムリっすよ。ウチは防ぐ専門で、一撃入れるなんて不可能っす」
困惑しながら首を左右に大きく振るシャムロム。
「つべこべ言うな、お前に拒否権など無い。いくぞ、炎弾」
「ヒィィィィ ───────── 。」
再び始まった怒涛の攻撃。
心なしか先程よりも勢いを増しているような気がする。
それでもシャムロムは懸命にそれらを防ぎ続ける。
=========================
こんなの無茶苦茶っす。
なんとか防げてはいるっすけど、一瞬でも気を抜いたら吹き飛ばされるっす。
これを防ぎつつ、近づいていって攻撃するなんて・・・。
ムリムリムリムリ。
・・・。
・・・。
・・・。
でも…ここで諦めたら、これまでと同じっす。
=========================
シャムロムはチラリとスズネたちの方へと視線を向けた。
一様に心配そうな顔をしながら戦況を見守っている。
その中でも、スズネは祈るように胸の前で両手を強く握り締めている。
う〜〜〜〜〜。
シャムロムは両目をギュッと閉じ、自問自答を繰り返す。
そして数秒の後、何かを決意したようにパッと目を開いた。
「もう考えるのは止めるっす。最初から失うものなんて無いっす。当たって砕けろっすーーーーー!!」
そう叫ぶと、シャムロムは一歩前へと踏み出した。
「ほ〜う。肚を括ったか」
クロノはシャムロムが踏み出した一歩に彼女の強い決意を感じ取る。
ズズッ・・・。
ズズズズズッ・・・。
一歩、また一歩と、少しずつではあるが確実に歩を進めていくシャムロム。
「ク〜ッ…。分かってはいたっすけど、距離が近づけば近づくほどに衝撃も圧力も桁違いっす」
歯を食いしばりながらじわりじわりとクロノとの距離を詰めてきたが、残り三メートルを切ったところでシャムロムの足が止まる。
「シャムロムさん凄い。もう少し、もう少しだよ」
「でも足が止まったわ。それにしても、あんな至近距離でよく耐えられるわね」
目の前で繰り広げられる光景とシャムロムの実力に驚きと期待の表情を見せるスズネとミリアであったが、二人とは違いマクスウェルは冷静に戦況を見守っていた。
「確かに奮闘はしていますが、本番はここからでしょう。実際足は止まっていますし、何か工夫や策が必要だと思います」
マクスウェルの言う通り。
ここまでは力押しでなんとか進んで来れたが、残り三メートルを切りさらに圧力が掛かる中、無策でどうこうなる問題ではない。
そして、シャムロムもまた無策で挑んだ訳ではなかった。
彼女には“ある秘策”があった。
しかし、それを実行するためにはまだ少し距離が遠いのだった。
クソ〜、せめてあと数十センチでも近づければ・・・。
ここまで懸命に歩を進めてきたシャムロムであったが、当然気力も体力も疲弊していた。
なんとかもうひと押ししたいところだが、これ以上足に力が入らない。
シャムロム自身もう無理かと思いかけた、その時 ───── 。
「女神の祝福」
シャムロムの身体が黄色い光に包まれる。
「ん?なんすかコレ??身体に力が漲るっす」
そして、この状況を好機と捉えたシャムロムは再度前へと歩み始める。
「ちょっとスズネ、これってありなの?絶対あとでアイツにあれこれ文句言われるわよ」
「大丈夫だよ。サポートしちゃいけないなんて言われてないし、それに“女神の祝福”は身体強化なだけで回復するわけじゃないからね。結局のところ、最後はシャムロムさん次第だよ」
スズネのサポートにより身体強化されたシャムロムは最後の力を振り絞る。
そんな状況であってもクロノは一切気に掛ける様子を見せない。
あと少し・・・
あと少し・・・
自分に言い聞かせるようにシャムロムが呟く。
そして、じわりじわりと距離を詰めていき、とうとうクロノとの距離が二メートルとなる。
⦅よし、そろそろっす⦆
シャムロムは時間を掛けて進めてきた歩みをピタリと止める。
「何を企んでいるのか知らんが、止まった的にも容赦しねぇぞ」
そう言うと、クロノはこれまでよりもひと回り大きな火球を放った。
ドゴーーーン ───── 。
大きな爆発と共にシャムロムが持っていた大楯が宙を舞う。
肝心のシャムロムの姿は立ち込めた土煙によって全く見えない。
「シャムロムさーーーん」
大爆発を目の当たりにし動揺を隠せないスズネの声が響き渡る。
誰もが戦いの決着を悟った。
相対したクロノも展開した魔法を解除している。
テストは終了 ───── その場にいた全員がそう思った。
「縮地」
立ち上った土煙の中から一つの影が飛び出す。
クロノを含むその場にいた全員が完全に虚を衝かれる。
そして、一瞬の内にシャムロムがクロノの懐へと潜り込んだのだった。
「もらったっすーーー!!」
一気に距離を詰めることに成功したシャムロムは、腰に携えた短剣を手にしてクロノへと斬りかかる。
相手の虚を衝きここまで接近することが出来た。
この距離であれば外すことはない。
絶対に一撃入れたと確信したシャムロムであったが、その思いはすぐさま崩れ去る。
キーーーンッ ───────── 。
斬りかかった刃はクロノに届くことはなく直前で儚くも圧し折れ、その剣先は後方へと飛んでいき地面に突き刺さった。
「残念だったな。防御に関してはまぁまぁだったが、攻撃は話にならんレベルだ」
渾身の一撃を繰り出すも届かなかったシャムロムに対し、クロノは見下すように冷たい視線を向けながら無慈悲な言葉を告げるのであった。
「クッ…ソ…。最後の最後で…届かな…かった…っす」
そう言い残すと、気力と体力共に限界を迎えたシャムロムは気を失いその場に倒れ込んだのだった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
急遽行われたクロノによるシャムロムの入団テスト。
最初は弱気な部分を見せていたシャムロムでしたが、肚を括った後からはその実力を遺憾無く発揮していましたね。
大健闘のシャムロムでしたが、クロノの出す答えは ───── 。
次回『四人目』
お楽しみに♪♪
少しでも“面白い”や“続きが読みたい”と思って頂けたら、
『ブックマーク』
『☆☆☆☆☆』評価
『感想』
を頂けたら幸いです。
読者の皆様の評価・ご意見・ご感想がモチベーションにも繋がりますので、何卒応援よろしくお願い致します!!