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ランクアップ

「たっだいま〜」



家の中にスズネの元気いっぱいな声が広がる。



「おう、お帰りなのじゃ」



ちょうどクロノを起こしに行ったところであったラーニャが出迎える。

その後ろを目を擦りながらまだ眠たそうなクロノが付いて歩く。

そして、眠気眼のクロノがマクスウェルへチラリと視線を向ける。



「色ガキ」



そう一言ぼやいたクロノに対し、「だから、僕は ─── 」とマクスウェルが言いかけたのだが、ミリアによって制止される。



「はい、はい、ケンカなら後にして。アタシお腹空いちゃった〜」



ミリアによって反論を止められたマクスウェルは、込み上げてくる思いをグッと抑え込み、大人しくスズネとミリアの後をついて歩くのであった。



─────────────────────────



朝食が並ぶテーブルを囲むようにして五人は席に着く。

そして、全員が席に着いたことを確認したスズネによる『いただきます』の号令と共に朝食が始まる。

朝食が始まるとすぐにミリアが目をキラキラさせながら嬉しそうに口を開いた。



「いよいよね!!今日のクエストは気合入るわ〜」


「あはははは。そうだね。今日で決めちゃおう」


「ん?今日は何かあるのか??」



気合い十分なスズネとミリア。

そんな二人の様子を見たクロノが不思議そうに質問する。



「ランクアップだよ、ランクアップ。今日のクエストをクリアしたら、ちょうど二百クエスト達成なんだよ」


「長かったわ〜。っていうかクロノ、アンタも一緒にクエスト受けてんだから覚えておきなさいよ」



ランク。

冒険者にとって自身を表すバロメーターにもなる為、最も重要視されるもののひとつである。

自身のランクによって受けられるクエストが異なり、ランクが上がるほどクエストの難易度も上がり、当然受け取る報酬も高額となるのだ。



「なんだそんな事か・・・」



全く興味がないのが一目で伝わってくる。

魔族にとって人族が定めた格付けなど取るに足らないものなのであろう。



「大事なことなんだよ、クロノ。ランクが上がれば受けられるクエストも増えるし、報酬だって増えるんだよ」


「ふ〜ん。報酬ね〜」



スズネが必死になって説明しても、クロノには一切刺さらないようである。

報酬が増えたところで、普段から買い物などもしないクロノにとっては、何かを変える要素にも成り得ないものに興味など湧こうはずもない。

しかし、そんなクロノの様子を見ていたミリアがニヤリと笑みを浮かべながら口を開く。



「クロノ、これはアンタにとっても重要な事なのよ」


「はぁ?何が重要なんだよ」


「さっきスズネが言った通り、ランクを上げればより高難易度のクエストを受けられるようになる。そして、その難易度が高ければ高いほど貰える報酬つまりお金が増える。お金が増えれば〜・・・アンタの大好きなビーフシチューもフィナンシェも好きなだけ食べられるようになるのよ!!」



─────   《え〜〜〜〜〜!?》   ─────



自信満々に言い切るミリア。

他の面々は《そんな事!?》という面持ちをしている。

ただ一人を除いては ───── 。



「そ…そ…そんなことが…可能なのか・・・」



スズネによって召喚されてから半年以上が経ったが、これまでに見たことがないほど驚愕した表情を見せるクロノ。

暫く俯き固まったように動かなかったクロノであったが、バッと顔を上げるとミリアへと視線を向ける。



「おかわりの制限は?」


「ない!!」


「一日一個の制限は?」


「ない!!」


「これは現実なのか・・・。よし、お前たちどんどんランクを上げろ。必要とあらば、この魔王クロノが全面的に協力してやろう」



─────   《チョロすぎる》   ─────



全員が同じセリフを心の中で叫び、《それでいいのか魔王・・・》と心配するのであった。

そんな周囲の思いなど一切気にすることもなく、クロノは一人満足そうに朝食を食べている。

まぁ〜何はともあれクロノの協力を得られたのは、今後の活動を考えるとパーティにとってとてつもなく大きなことである。



「はい、言質取りました」



そう言うと、ミリアは満面の笑みを見せたのだった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「そっち行ったよ」


「任せて。マクスウェル、そっちに二匹行ったわよ」


「分かってる。この程度のスピードなら逃しはしない」



今回のクエストは、一角兎アルミラージの角の採取。

その数は三十本。

一角兎アルミラージは、それほど強い魔獣ではないが、見た目の可愛らしさに騙されてはいけない。

その性質は攻撃的であり、大型の熊を相手にその俊敏性と鋭い前歯や角を駆使して集団で襲いかかることも珍しくない。



「キャッ!?」



声を上げ尻餅をついたスズネの横を急いで逃げるように五匹の一角兎アルミラージが駆け抜けていく。

全員が《逃げられた》と思ったその時、


─────  ゴンッ  ─────


何かが壁にぶつかった時のような鈍い音が一帯に鳴り響く。

一同が音のする方へ目をやると、先程逃げられたかと思われた一角兎アルミラージたちがビクビクと足を震わせながら懸命に起きあがろうとしていた。

周辺を目を凝らして見てみると、半径百メートル四方にわたりドーム状の結界が張られている。



「兎ごときが、この俺から逃げられると思うなよ」



予期せぬ事態に弱々しく起き上がる一角兎アルミラージ

どうやら逃げることは諦めたようで、一転して攻撃体勢をとる。

しかし、クロノは興味がないのか見向きもしない。



「雑魚に興味などないぞ。あとはお前たちで勝手にやれ」



手負いとはいえ五匹の一角兎アルミラージ

今のスズネたちにとっては、油断出来る相手ではない。

ミリアとマクスウェルの二人で二方向から距離を縮めて包囲していき、スズネがバックアップに回る。

そして、二人が標的との距離を二メートルとしたその時 ───── 。



「あ〜もう、まどろっこしいのう。わっちがまとめて仕留めてやるのじゃ」



物理攻撃よりも魔法攻撃の方が一気に殲滅させられると思ったのか、はたまた単に魔法をぶっ放したいと思ったのか、それとも早く帰りたかっただけなのか、その本心はラーニャ本人にしか知り得ない。

そして、ラーニャの発言を耳にした瞬間にミリアとマクスウェルは慌てて制止しようと叫ぶ。



「「!?ちょっ・・・ ───── 」」



しかし、そんな二人の叫びはラーニャに届くことはなく、ラーニャは問答無用で詠唱を始める。



「天より轟き雷鳴よ、以下省略 ───── 雷撃ライトニング



なんとも大雑把な詠唱である。

通常、魔法というものは自身の持つ魔力を用い、定められた詠唱を唱えることによって発動するものだ。

しかし、ラーニャはその詠唱の省略を可能とする。

そして、若干十歳にして中級魔法師が使用する『魔法の短縮発動』を可能としていることこそが、彼女が天才と言われる由縁である。



バリバリバリッ ───── ドン!! 



ラーニャの詠唱と共に青く光る雷が五匹の一角兎アルミラージに襲いかかり、一瞬のうちにその命を刈り取る。

そして、一帯には焼け焦げた肉の臭いが広がり、何が起こったのか分からぬまま絶命した一角兎アルミラージたちはピクピクと死後痙攣を起こしている。



「な〜はっはっは。どうじゃ、わっちにかかればこんなものなのじゃ」



両手を腰に当て、胸を張り、自慢気に高笑いするラーニャ。

そんなラーニャに対し、パチパチと拍手をしながら「すごーい」と賛辞を送るスズネ。

しかし、この現状に対して全く納得も称賛も出来ない者たちが ───── 。



「「殺す気かーーーーー!!」」



間一髪のところで難を逃れた?ミリアとマクスウェルが物凄い形相でラーニャへと詰め寄る。



「アンタ正気??危うくアタシたちまで巻き込まれるとこだっだじゃない」


「そうですよ。ギリギリ回避出来たからよかったものの、間に合ってなかったら洒落にならないですからね」



唐突にぶっ放された魔法に対し、ラーニャへの口撃を続ける二人。



「なんじゃ?敵を一網打尽に出来たじゃろ。どこに問題があるんじゃ」



二人が怒りを滲ませているにも関わらず、ラーニャは全く意に介さない。

そんなラーニャの態度にミリアの怒りが沸点を突破する。



「アンタいい加減に ───── 」


────────── ゴンッ 。



我慢の限界を超えたミリアが語気を強めたその時、ラーニャの頭を衝撃が襲う。

突然の衝撃に驚きつつも、ラーニャは頭を摩りながら自身にゲンコツを落とした人物に目をやる。



「痛いではないか、旦那様。わっちは悪くないぞ」



ラーニャの言葉通り、今回ラーニャにゲンコツを浴びせたのはクロノである。

先の言葉にもあったように、クロノは基本的に自分が興味のない物事に関しては一切関与しない。

ましてや他人同士のいざこざなど言うまでもない。

そんなクロノが今回両者の間に入ろうとしていることに、スズネたちは驚きを隠せずにいた。



「いいや、今回はラーニャお前が悪い。なんださっきの魔法は。発動までの流れが悪いし遅い。それから、何よりも魔力操作が適当だから魔法自体も分散して無駄な範囲まで広がってんじゃねぇか。お前マジであの魔女ババアに一撃入れる気あんのか?」



クロノはだいぶお怒りのようだ。

しかし、それはラーニャの魔法が仲間を巻き込みそうになったからではなく、そのレベルがマーリンから出されている課題をクリアするには程遠いものであるということに対してであった。



「うっ…ごめんなさいなのじゃ」


「謝って済む問題じゃねぇ〜んだよ。明日から基礎の基礎から鍛え直しだからな。覚悟しとけよ」



いくら周囲から天才と持て囃されてはいても、魔王クロノからするとまだまだ赤子に毛が生えたようなものである。

さすがのラーニャもクロノからのキツイ一言に意気消沈してしまっている。



「ちょっとクロノ、そういう問題じゃないのよ。ラーニャの魔法のおかげでこっちは危うく死ぬところだったのよ」



自分たちが揉めていた問題と全く別のところで話を進めるクロノに対し、未だに怒りが収まらないミリアが不満を口にする。



「あ?そんな事俺の知ったことか。あの程度の魔法でどうこうなるような実力しかないお前ら自身を恨め」


「はぁ?アタシたちが悪いっての」


「まぁまぁ、ミリア落ち着いて」



納得がいかず、前のめりになってクロノに突っかかろうとするミリアをスズネが間に入って制止する。

その様子を見ていたクロノが、ラーニャの頭に右手をポンと乗せて話し始める。



「図星を突かれたからっていちいち喚くな。俺はお前らの今後の話をしてやっているんだ」



いつになく真剣な表情で話すクロノの言葉に全員が耳を傾ける。



「お前ら今回のクエストでランクが上がるんだろ。そんでもって、これからも徐々に上げていくと、その都度より強い魔獣とも戦っていかないといけないわけだ。それなのにコイツ程度の魔法も避けられなくてどうすんだよ」


「アタシが言ってんのは、仲間なんだから周りのことも考えろって言ってんのよ」



ミリアの言葉を聞いたクロノは、あからさまに呆れた様子を見せる。



「はぁ〜。それじゃ逆に聞くが、お前らはラーニャの思考や行動を考えながら動いていたのか?」


「そ、それは・・・」



クロノから突きつけられた問いにミリアは言葉を詰まらせる。



「お前たちは個人で戦うのか?それともチームで戦うのか?その辺りのこともよく考えて鍛錬することだな」



そう言うと、クロノは話すことを止め、再びラーニャへの説教を始めた。


ミリアとマクスウェルの間に沈黙が広がる。

実力不足

連携不足

仲間への配慮不足

どれもクロノの指摘通りであり、返す言葉も見つからない。




─────  ズシン、ズシン、ズシン  ─────



「グルルルル…」



五人は一斉に唸り声がする方へと視線を向ける。

その先には、体長十メートルはあろうかという大きさの大爪熊ベアクローが敵意を持って威嚇していた。



「なっ…!?なんでこんな所に大爪熊ベアクローがいんのよ」


「これって、めちゃくちゃピンチだよね」



スズネたちが身構えつつ一歩後退りした中、クロノが一歩前に出る。



「このレベルは、お前らにはまだ早いか」



威嚇しているにも関わらず一切退く様子を見せないクロノに対し、大爪熊ベアクローは立ち上がり両手を掲げてより一層の敵意を剥き出しにする。



「グオォォォォォ」


「おいおい、ちょっとデカいだけの熊ごときが粋がるなよ」



両者の間に一瞬の静寂が生まれると、クロノが右手をスッと上げ大爪熊ベアクローへと向ける。



「ラーニャ、よく見ておけ。 ───── 雷撃ライトニング



──────────  バチンッ。



その音が森に響くと同時に大爪熊ベアクローの巨体がゆっくりと地面へと倒れた。

そして、まるで眠っているかのように穏やかな顔で横たわる大爪熊ベアクローからは、先程の一角兎アルミラージの時とは違い、焼け焦げた臭いもしなければ痙攣を起こすこともない。

まさに一切ケチの付けようもない歴然の差を見せつけたクロノであった。



「なんて洗練された魔法なんだ…」


「本当に凄いのじゃ…わっちももっと上手くなるのじゃ」



マクスウェルは感嘆し、ラーニャは歓喜し、スズネとミリアはその光景を見て安堵すると共に笑顔を向け合うのであった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



─────  ドサッ!!  ─────



「あら、みんなお帰りなさい。成果はどうだった?」



クエストを終え、結果を報告するためにギルドを訪れたスズネたち。

そんなスズネたちを受付嬢のマリが笑顔で迎えてくれた。



「もうバッチリですよ。マリさん」


一角兎アルミラージの角に ─── 大爪熊ベアクローの爪まで!?しかも、こんな大物・・・大丈夫だったの?」


「あはははは、まぁ〜そっちはクロノがパパッとやっちゃいました」



スズネたちが持ってきた大爪熊ベアクローの爪を前にし、その大きさに驚きを隠せないマリ。

やはりあの大きさは通常の大爪熊ベアクローよりも大きかったようである。

そんなマリからの驚きの声に対し、苦笑いを浮かべるしかないスズネたちなのであった。



「まぁ〜クロノさんなら不思議でもないけど、通常あなたたちくらいのレベルなら即座に逃げる状況だからね。間違っても戦おうなんて思わないことよ」


「「はい」」



スズネたちを心配するからこそマリは事の重大さを説明し、スズネたちもまたそれを察して素直にその言葉を受け入れる。



「まぁ〜一先ず状況は理解したわ。とりあえず、今回のクエストである一角兎アルミラージの角を確認してくるわね」



─────  三十分後・・・  ─────



「はい。一角兎アルミラージの角三十本、確かに受領しました。クエスト報酬と大爪熊ベアクローの討伐報酬を合わせた銀貨五枚と銅貨三十枚ね。それから、これがDランクへのランクアップの証であるシルバープレートよ。スズネ、ミリア、ラーニャ、三人共ランクアップおめでとう」


「「銀貨五枚!?」」



Eランクのクエストでは報酬が銅貨のものばかりであり、Dランクであっても銀貨報酬というものはそうそうにお目にかかれない。

《 因みに、価値として銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚、金貨百枚で大金貨一枚とされている 》

そして、銀貨五枚というのは今の自分たちにとってクエスト二十回分くらいの報酬であった為、興奮を隠しきれないスズネとミリアなのであった。



「はぁ〜、それにしてもびっくりしたわ。ナイスよクロノ」



大興奮のミリアは力強く親指を立ててクロノを讃えるのであった。



「それにしても良かった〜。無事にDランクに上がれたね」


「長かったわね〜。これからもガンガンクエストこなしていっていっぱい稼がないとね」


「わっちは旦那様の役に立てるなら、なんでもいいんじゃがな」



特別報酬?に大興奮したあまり少々脱線したものの、こうしてスズネ・ミリア・ラーニャの三人は、無事Dランクへとランクアップすることが出来たのであった。




─────────────────────────


冒険者ランク D


氏名:スズネ Lv.11 魔法師


召喚獣:クロノ Lv.1



                 Dランククエスト達成回数 0/150


─────────────────────────



─────────────────────────


冒険者ランク D


氏名:ミリア Lv.17 剣士


武具:炎帝の剣 Lv.3



                 Dランククエスト達成回数 0/150


─────────────────────────



─────────────────────────


冒険者ランク D


氏名:ラーニャ Lv.23 魔法師


召喚獣:ルドラ(グリフォン) Lv.320



                 Dランククエスト達成回数 0/150


─────────────────────────



最後までお読み頂きありがとうございます。

念願のランクアップ!!

Dランクになったことで、さらに活躍の場が広がっていきそうですね。

しかし、今回のクエストで見えた課題も・・・。

スズネたちの今後の成長にもご期待ください。


次回『訪問者』

お楽しみに♪♪


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