獣王の真力
グヴゥゥゥゥゥ ──────── 。
「いったい何が起こるんだ?」
ドックン ──── ドックン ──── 。
「獣風情が勿体ぶらずにさっさとやれよ」
ゴゴゴッ ──── ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ ─────── 。
陽の光を遮り暗闇を生みだす厚い雷雲の中で不気味な重低音が鳴り始め、その音と重なるように唸り声が戦場に響き渡る。
バリッ…バリバリバリッ。
そして、溢れんばかりにその力を蓄えた雷雲からゼリック目掛けて雷の柱が撃ち落とされる。
──────── ドーーーーーン!!!
雷のエネルギーを全身に浴び、その姿にはみるみるうちに大きな変化が起き始める。
ググッ…グググッ ────── ブチッ…ブチブチブチブチッ。
その膨大なエネルギーは全身を駆け巡り、次第に力を解放するかのようにどんどん身体は膨れ上がっていき、衣服は破れ、全身の毛は逆立ち始める。
そしてついに獣化を終えたゼリックの身体は、尻尾まで入れると10メートル近くにまで巨大化していたのだった。
「なっ・・・」
その急激な変化を前にして開いた口が塞がらない様子のアーサーと新たな玩具を手に入れた子供のような笑みを浮かべるクロノ。
「少しは楽しめそうな見た目になったじゃねぇーか。獣は獣らしい姿をしてればいーんだよ」
「相変わらず生意気な野郎だな。この姿になった俺の力はもはや天災級。自然の猛威の前に朽ち果てるがいい」
バヂンッ…バヂヂ…バヂヂヂヂ ──────── 。
周囲の者たちの想像を絶するほどのエネルギーをその身に宿したゼリックの表情は自信に満ち溢れていた。
その身に纏っている雷もこれまでのものと比べて見るからに強力な印象を受ける。
それもそのはず、獣化して雷獣の姿となったゼリックは黒い雷を纏っていたのだ。
バヂヂ…バヂヂヂヂ ──────── 。
「ガッハッハッ。お遊びは終わりだ。ここからは戦いではなくただの蹂躙。逃げ惑え ───── 黒き雷嵐」
ドーーーン!ドゴーーーン!
ドーーーン!ドゴーーーン!
ゼリックによる魔法の発動によって闘技場内に嵐のような暴風が吹き荒れ、足取りもままならない状態の中で次から次へと黒い雷が所狭しと撃ち落とされる。
「なんだこれは・・・。聖なる守護者」
目の前で繰り広げられる猛威に堪らず上空に向けて黄金に輝く巨大な光の盾を発動されせるアーサー。
一方のクロノはというと、変わらず魔法障壁を展開したままの状態を保っていたのだが、結果的にこの判断は誤ったものとなる。
「ガハハハハ。お前らそんな脆弱な守りで大丈夫か?」
「クソッ!ふざけた真似を」
高笑いをしながら黒い雷を撃ち落としていくゼリック。
アーサーは光の盾で身を守りながら戦場を駆け回りながら必死に回避していたのだが、クロノは変わらず両腕を組んだ状態で仁王立ちをしたままであった。
そして、その時が来る ──────── 。
ガガッ ─── ガガガッ ─── ガガガガガッ。
降りしきる黒い雷を受け続けた結果、とうとう魔法障壁に限界の時が近づき始める。
ビキッ…ビキビキビキッ…。
これまでゼリックの光速の斬撃を除きありとあらゆる魔法を跳ね除けてきた障壁についにヒビが入る。
それでもクロノの表情に変化はない。
真っ直ぐにゼリックの姿を捉えたまま一向に動く気配もない。
しかし、相対する者の心情はそうではないようだ。
敵が絶対の自信をもっていた鉄壁の守りを打ち破ろうとしている現状に気分を良くしたゼリックはクロノ目掛けて集中砲火を開始する。
「オラオラオラオラ!!」
ドーン!ドーン!ドーン!ドーン!ドーン!
「クッ…」
迫り来る猛攻を前にしてさすがのクロノもついに回避を選択する。
そして、この戦いで初めてみせるクロノの姿を目にしたゼリックはさらに上機嫌となり、雷嵐の勢いも増していくのであった。
バヂバヂバヂバヂッ!バヂバヂバヂバヂッ!
「ガッハッハッハッハッ。いいぞ、いいぞ。逃げろ、逃げろ、逃げろ」
《獣王は完全に遊んでいるな。互いに集中している今こそが好機!》
荒れ狂う雷嵐の中で駆け回るクロノとその姿に愉悦を感じながら高笑いを続けるゼリック。
そんな二人の戦いを眺めながら静かに戦局を伺っていたアーサーがこの好機を逃すはずもなく行動に移る。
「神聖なる斬撃!!」
逃げるクロノに光の斬撃が襲いかかる。
いつものクロノであれば回避することなど造作もないはずなのだが、この時は黒雷の嵐に気を取られていたこともあり見事に直撃したのだった。
ドゴーーーーーン!!!
「ガッハッハッ。やるじゃねーか!アレをまともに喰らっちまったら、いくら魔王といえどもただではすまねーだろうな」
───────── スーーーッ。
「他人の心配をするなど随分と余裕だな。次は貴様の番だ、獣王!」
ギィーーーーーン!!
「おうおうおう。急に殺気立ちやがって、どうしたんだ?」
「ほざけ!最初からこれは我々の戦いだ。邪魔立てする魔王もろとも我が聖剣のサビにしてくれる」
キーーーン!ギィーーーン!
キーーーン!ギィーーーン!
斬撃でクロノを吹き飛ばした後、続けざまにゼリックへと襲いかかるアーサー。
その切れ味鋭い剣撃に防戦一方に追い込まれながらもゼリックはそれらを爪で上手くいなしていく。
それでも攻撃の手を緩めないアーサーの連撃は勢いに乗りさらに威力を増していき、さすがのゼリックも距離を取って退避する。
しかし、その動きすらもガルディア王国最強の剣士には想定通りの状況なのであった。
「逃げられると思うな ─────── 光の剣雨」
無数の光の剣が地上へと降り注ぐ。
ヒュンッ ─── ヒュンッ ─── ヒュンッ ─── ヒュンッ ─── 。
ザザッ ─── ザザザザッ ─── ザザザザザザザザザッ。
その圧倒的な数の前にゼリックも防御に徹さざるをえない。
黒雷で身体を覆い、身を丸くして剣雨が止むのを待つ ──── ことなど性格上できるはずもなく・・・。
《あ〜〜〜クッソッ。アーサーの野郎調子に乗りやがって。もう我慢の限界だ・・・》
「しゃらくせぇーーーーーーーーー!!!!!」
バヂッ…バヂヂヂヂヂヂヂヂ ────── バヂィィィィィン。
強大な黒雷エネルギーを全方位に放ち襲いかかる全ての光剣を弾き飛ばす。
「おいアーサー、テメェー簡単に死ねると思うなよ。スカした魔王と共に血祭りにあげてやるよ」
「その言葉そっくりそのまま返そう。ガルディアに仇なす貴様らには墓標がわりに我が光剣を突き立てやろう」
両者の間に再びバチバチと火花が飛び交う。
そうした中、怒りに満ちた表情を浮かべ鋭い眼光を飛ばしていたゼリックがゆっくりと姿を消す。
バヂンッ ──── バリバリバリバリッ ──── 。
ヒュンッ ─── ヒュンッ ─── ヒュンッ ─── ヒュンッ ─── 。
バヂンッ ──── バリバリバリバリッ ──── 。
ヒュンッ ─── ヒュンッ ─── ヒュンッ ─── ヒュンッ ─── 。
「こっ…これは・・・。皆さん無事なのでしょうか」
「大丈夫…。クロノなら…クロノなら必ずなんとかしれくれます」
「そ…そうですね。今は三人の無事を祈りましょう」
黒い雷と光の剣が降り注ぐという異様な光景。
それはもはや戦いというよりも災害のそれであった。
闘技場内の地はえぐれ、周囲を取り囲む観客席も元の姿を失い到底人が座ることなど不可能なほどに破壊されていた。
そんな光景を前にしながらも、ユニとスズネはただただ彼らの無事を祈ることしか出来ないのであった。
ガッ…ガガッ…ガガガガガッ ──────── 。
ビキッ…ビキビキビキビキッ ──────── 。
そんな中でいよいよクロノの魔法障壁が限界を迎える。
通常の雷魔法よりも強力な黒雷を受け続けた上、光剣の雨にも打たれ続けた障壁にこれ以上の攻撃を受け止めることは難しかった。
そして、もう砕け散るまで時間の問題かという最悪のタイミングで狂気に満ちた表情のゼリックが目の前に姿を現す。
「おいおい魔王さんよ〜。ご自慢の魔法障壁が今にも壊れちまいそうだが?」
「・・・・・」
「ガッハッハッハッハッ。どうした?言葉も出ないか?」
「・・・・・」
「ハァ〜〜〜・・・。最初っからそのスカした態度がムカつくんだよ!!」
ゴロゴロゴロゴロ ──────── 。
バヂッ ──── バヂバヂバヂバヂバヂッ!!!!!
ビキッ・・・ガシャーーーーーーン!!!
「「「 あっ!? 」」」
「ガハハハハ。調子に乗りすぎなんだよ、バーカ。喰らえ!」
ビュンッ。
バキッ…ミシミシミシッ。
「ゴフッ」
「フンッ!!」
ヒューーーン ──────── ドガーーーーーン!!!
これまでで最大威力の黒雷をクロノへと撃ち落としたゼリック。
それによって魔法障壁は完全に砕かれ、生身が剥き出しとなったクロノに対して事前に振り上げ用意していた尻尾で強烈な一撃を打ち込んだのだった。
そして、その攻撃をもろに受けたクロノの身体は岩壁目掛けて一直線に弾き飛ばされたのであった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
ついにその真の実力を発揮し始めた獣王ゼリック。
黒雷を操り、クロノの魔法障壁まで破壊してしまった。
そして、アーサーの斬撃に続きゼリックの攻撃までもまともに喰らってしまったクロノ。
ここから反撃することはできるのか。
次回『魔王、沈黙』
お楽しみに♪♪
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