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雷帝

ビジッ…ビジジジジッ ──────── 。


スッ ─── スッ ─── スッ ─── 。


電気の波に乗って闘技場内を縦横無尽に光速移動するゼリック。

姿を眩まし、気配を消し、まるで暗殺者のように静かに二つの獲物を狙う。


スーーーッ ───── フワァン


時折現れる微かな気配によって空気の流れが乱れる。

戦場に流れる不自然な空気の流れを頼りにしているだけに、その頻度がますほどに相対するものの神経は擦り減らされていく。



「フゥー…フゥー…フゥー…」



アーサーの額から冷や汗が流れ落ちる。

いつどこから敵の攻撃が飛んでくるかも分からない状況の中で緊迫感が漂う。



「さぁ〜て、次はどちらにするかな」



どこからともなく聞こえてくる声。

前後左右から響いてくるその声が相手の心を揺さぶる。



「さぁ〜さぁ〜地獄の始まりだ」



スーーーッ ───── フワァン。


スーーーッ ───── フワァン。


スーーーッ ───── ズヴァン!!



「ハァ…ハァ…。ギリギリか」


「クハハハハ」



スーーーッ ───── フワァン。


スーーーッ ───── ズヴァン!!



「フン、芸の無い奴だ」



ゼリックは初撃を防がれたことで繊細さと大胆さという相反する動きをとるようになる。

それによって空気の乱れは複雑になり、そして攻撃の速度や剣筋はより鋭くなっていった。


ヒュンッ ─── ヒュンッ ─── ヒュンッ ─── 。


ブシュッ ─── スッ ─── ブシュッ ─── 。


そうした中で時間の経過と共に被弾することが増えていくアーサー、をそれ横目にクロノは変わらず飄々とした態度で全ての攻撃を躱していくのであった。



「ハァ…ハァ…ハァ…」


「おいおい、どうしたどうした?ガルディア王国最強の聖騎士長様はもう限界か?魔王に関しても躱わすので精一杯なのか反撃すらしてこねー有様じゃねーか。そろそろ終わりにしてやろうか」


「なんだ、終わらせていいのか?」


「ガッハッハッ。澄ました顔してんじゃねーぞ魔王。やれるもんなら反撃してみろよ!さっさとしねーとその首斬り落としちまうぞ!!」



圧倒的に有利な状況が続く中でゼリックの口もどんどん饒舌になっていく。

そして、当初の目的であったアーサーの存在など忘れてしまったかのようにクロノへの挑発を続け、自身の力を最大限まで使うことが許されそう敵との戦いを楽しみだしているのであった。



「ガッハッハッハッハッ。オラオラオラオラーーーーー!!」


「・・・・・」


「フゥー・・・フゥー・・・」



しかし、時間は経てども戦局が大きく変わることはなく、最も手数が多く一方的な攻勢を続けるゼリック、それとは対照的に決して慎重な姿勢を崩さないアーサーなのであったが、そんな中でついにクロノが動きだす。

ゼリックからの攻撃を受け流しつつ、アーサーへの攻撃を開始したのだ。



「おい、クソ聖騎士」


「ん?何か突破口でも見つけられたのか?」


「うぜぇな、お前。自分の国に仇なす者を前にして甘いことを考える軟弱者が。その点でいえば、まだ獣の方が幾分かマシだな」


「なっ…!?貴殿はスズネの従者であろう。であれば、自国の民と同様に ───── 」


「はぁ?俺は魔王だぞ。愚か者め!その認識の甘さに溺れ、国が滅ぼされてから後悔するがいい」



シュンッ ──────── ドゴッ。



「ゴハッ」



──────── ドゴーーーーーン!!


──────── ガラガラガラガラッ。


未だクロノに対して迷いが見え隠れするアーサーのみぞおちに強烈な蹴りが打ち込まれ、その衝撃によってあっという間に岩壁まで弾き飛ばされてしまった。



「さて、この場に相応しくない邪魔者は排除した。そろそろ本気でやろうか」


「ガハハハハ。それは違いねー!ここは命を奪い合う場だ。心身ともに弱ぇー奴は立つことさえ許されねぇ」



ゴロゴロゴロゴロ ──────── 。


二人による舌戦が続く中、彼らの上空では暗く分厚い雲が唸りを上げ始める。



「いちいち大袈裟な奴だ。とりあえず出て来い!! ──────── 稲妻サンダーボルト



バチッ ─── バリバリバリバリッ!!


そして、クロノの命を受けた巨大な雷が爆音と共に闘技場の真ん中に落ちる。


バヂッ ─── バヂバヂッ ─── バヂヂヂヂッ ─── 。


すると、それまで闘技場内に放たれていた微弱な電流が巨大な雷によって弾き飛ばされ、ゼリックの姿が露わになったのだった。



「ガッハッハッハッハッ。やるじゃねーか!まさかこんな強引なやり方で俺の“雷光流し”を打ち破るとはな」


「その程度の脆弱な技で調子に乗るな」



闘技場内に強力な雷魔法を放つことでゼリックの雷光流しを無効化させたクロノ。

ここから二人による戦いは激化の一途を辿る。



「オラオラオラオラ」



ギーーーンッ!ガキーーーンッ!



「フンッ!」



ドギャンッ!!



「おーおー、危ねぇー危ねぇー」



ギーンッ!ギーンッ!ギーンッ!


ドギャンッ!!


ガキーンッ!ガキーンッ!ガキーンッ!


ドギャンッ!!


激しく斬り合う両者。

手数で押すゼリックに対して、それを巧みに受け流しながら強力な一撃を叩き込むクロノ。

まさに息詰まる一進一退の攻防が続く中であの魔剣が声を掛ける。



[おいおい、押されているのではないか小僧。我が手を貸してやろうか?]


「黙れ!叩き割られたいのか」


[お〜怖い怖い。しかし、あの程度の相手に苦戦するとは ───── お主、弱くなったのではないか?]


「あぁん?魔剣ごときが…殺されたいのか」


[クククククッ。それはこちらの台詞セリフぞ。弱いお主などに興味はない。もしも、そのようなことになれば我がお主を喰らうことになるぞ。そのこと…努努ゆめゆめ忘れるでないぞ]


「フンッ、安心しろ。貴様ごとき魔剣に討たれるほど弱くなることなど不可能だ」


[クククククッ。恐ろしや…恐ろしや…]



ギーンッ!ガキーンッ!


ギーンッ!ガキーンッ!




─────────────────────────



「ハァ…ハァ…ハァ…」



ガラッ…ガラガラガラガラッ。


激闘が続く二人の戦いを瓦礫に埋もれながら見つめる男。

己がプライドを懸けて戦う彼らの姿とは対照的に情けなく瓦礫にまみれながら屈辱を味わう自身。


《何をしているのだろう》


クロノに言われた言葉を胸に自問自答する。


《自分は何をしているのか》


《自分は何をしに来たのか》


《自分はなぜ戦うのか》


《自分は何のために剣を握るのか》



「スーーーッ…フゥーーー。スーーーッ…フゥーーー」



呼吸を整え、心を落ち着かせ。精神を統一していく。

そして、静かに目を閉じる。

すると、脳裏に国王レオンハルトの姿が思い浮かぶ。

それに続いて配下の聖騎士や兵士たち、さらに城下に住まう民たち、そして最後にガルディアの風景が広がる。


【滅ぼされるということは、これら全てを失うということ】


決意を新たに立ち上がるアーサー。



ドーーーーーン!!!!!



大きな爆発音と共に黄金に輝く闘気が放たれる。



「ようやくやる気になったか」



静かに微笑むクロノ。



「余計なことしてんじゃねーよ」



ガキーーーンッ!!


苛立ちながらもどこか嬉しそうに剣を打ち込むゼリック。

そして、そんな二人に目掛けてアーサーが渾身の一撃を放つ。



「もう迷いはしない! ───── 神聖なる斬撃セイクリッドスラッシュ



光り輝く巨大な斬撃がクロノたちへと襲いかかる。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ。


迫り来る光の斬撃。

舞い上がった小石が一瞬のうちに消滅したのを目にし、予想以上の威力と判断した二人は咄嗟にそれを回避する。

そして、的を外した斬撃は直撃した岩壁を粉々に砕いたのであった。


ガラガラガラガラガラガラ ──────── 。


そのあまりの威力に驚きのあまり笑みを浮かべる二人。



「獣王ゼリック、魔王クロノ、お前たちにガルディアの平和を奪わせるわけにはいかない。ガルディアの守護者にして、王の剣であるこのアーサーが貴様らを今ここで討つ!!」



迷いを完全に断ち切ったアーサーが高らかに宣言する。



「今さらやる気になったところでどうだっていうんだ。そもそもお前ら二人ともこの場で俺に殺されんだよ!!」


「弱者どもがいちいち喚くな」



その宣言を合図に一斉に臨戦態勢をとる三人。

ここまでの戦いがまるで余興であったのかと錯覚してしまいそうになるほどに殺伐とした空気が戦場に流れる。

そして・・・。



「ハァ〜…もうグダグダと回りくどいことする必要もねぇな。喜べ、お前らには特別に俺の本気を見せてやる」



そう言うとゼリックはグヴゥゥゥゥと唸りだす。

その唸り声に呼応するように再び雷雲が空を覆い、雷鳴が轟く。

すると、その様子を見ていたユニが突然慌て始める。



「あっ!?あれは・・・」


「ユニさん?どうしたんですか?」


「まさか…兄様があの姿に・・・」


「あの姿?何かまずい状況なんですか?」


「それは、兄様の…獣王ゼリックの真の姿。獣人族が本来持っている力を解放するための姿 ───── 獣化です」


「力の解放・・・。それってヤバいんじゃないですか」


「はい…。以前、その力の80%を解放して制御しきれずに獣王国を滅ぼしかけたことがあります」


「国を滅ぼしかけたんですか!?」


「それも随分と前の話です。今ではその力を100%使えると聞いておりますが、実際にどれほどの力を有しているのかも分かりません」



国を滅ぼすほどの力と聞き、絶句し表情が固まってしまうスズネ。

いくらクロノといえど、それほどまでに強大な力を前にして無事でいられるのかという不安も重なり心が大きく揺れる。

そして、そんなスズネの姿を目にしながらもユニはさらに言葉を続ける。



「そんな獣王ゼリックに対し、獣王国の民たちは畏敬の念を込めて彼をこう呼びます。雷を統べし王 ───── “雷帝”と」





最後までお読み頂きありがとうございます。

迷いを断ち切り剣を取ったアーサー。

そして、いよいよその真の力を解放するゼリック。

それを目にした時、クロノは何を思うのか。


次回『獣王の真力』

お楽しみに♪♪


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