炎の魔神
ムシャムシャムシャムシャ。
ムシャムシャムシャムシャ。
「ガウェイン様ーーーーー」
カルラの墜落?によって周囲に立ち込めていた煙霧が吹き飛ばされ視界が良好になったことで一時的に距離を取っていた騎士たちがガウェインたちの元へと駆け戻ってきた。
「お二人ともご無事ですか?」
「ああ、見ての通り問題ない」
「ガッハッハッハッ。吾輩たちは何もしておらぬがな」
「彼女はいったい何者ですか?」
「Sランクの冒険者クラン『焔』のリーダー、カルラだ」
「Sランク冒険者・・・。まさか龍族の攻撃を封じてしまうとは。只者ではありませんね」
その時、ガウェインたちの会話が耳に届いたカルラが食事の手を止め、大声を上げて笑いだす。
「キャッハッハッハッハッ。あいつら何言ってんの?マジでウケるんだけど。イッヒッヒッヒッヒッ」
「フフフッ…カルラ様…笑っては…ププッ…失礼ですよ…フフフフフッ」
「フリットだって笑ってんじゃん!王国の騎士って、な〜んにも知らないんだね。マジ雑魚じゃん!!」
何を笑われているのか分からない。
ただ、完全に馬鹿にされているということだけは理解出来る。
助けてもらった恩がある以上、無下に扱うわけにもいかないが・・・。
騎士といえども人間。
頭にくるものはくるのだ。
「クソッ…馬鹿にしやがって」
一人の騎士が漏らしたひと言。
それに対してカルラたちも反応する。
「これは失礼しました。そういった意図はありませんので、我々の無礼をお許しください」
「カルラは馬鹿にしてるよ。だって馬鹿じゃん。アレが龍族?あんたたち本物見たことないでしょ。あんなちっぽけなやつが龍族なわけないじゃん。龍族と比べたらあんなやつただの羽の生えた蜥蜴でしかないわ」
ムシャムシャムシャムシャ。
ムシャムシャムシャムシャ。
言いたいことだけ言って再び食事を始めるカルラ。
確かに騎士たちは龍族というものを見たことがなかった。
それ故に、大きな身体に強固な鱗を持ち、口からは炎を吐き、大きな翼で空を舞う、そのような者を龍族と誤認してしまったのだ。
しかし、カルラの言う通りドランは龍族ではない。
大翼蜥蜴の獣人である。
まぁ〜それを知ったところでどうということはないのだが、それでも騎士たちの間には少なからず動揺が生まれたのだった。
「アレが蜥蜴だって?まったくふざけたこと言ってくれるぜ。本物の龍族となんて死んでも戦りたくねーよ」
「ガッハッハッ。まぁ〜吾輩たちのやることは変わらん。蜥蜴退治の続きといこうではないか」
偶然とはいえ戦地に現れたカルラという存在によってそれまで漂っていた悲壮感や不安感といった嫌な空気が晴れ、第一軍にも勢いが戻ろうとしていた。
ムシャムシャムシャムシャ。
ムシャムシャムシャムシャ。
「あのガキ…ナメやがって…。我をその辺の同族と一緒にしよって・・・」
自身が持つ最強の一撃をいとも容易く喰べられてしまい怒り心頭のドランであったのだが、それを増長させるかのように浴びせられた屈辱的な言葉。
しかも、食事の片手間に ──── である。
そして何よりもドランを苛つかせたのは、この場に現れてから一度としてカルラが自身を見ていないことであった。
ただの一度も視線を向けることなく馬鹿にされたのだ。
まさに“眼中に無い”とはこのことである。
ここまでの屈辱を与えられて我慢など出来ようはずもない。
ググッ…グググググッ…。
「我を侮辱したこと、死んで後悔するがいい! ──────── 火炎の咆哮!!」
ヴォゴゴーーーーーッ!! ──────── 。
食事に夢中となっているカルラへ向けて放たれた特大の一撃。
先ほどのものよりひと回り以上大きな火炎の砲撃がカルラを襲う。
それを目の当たりにしたガウェインたちは一様にカルラに向けて逃げるようにと叫ぶのであったのだが、当のカルラ本人と隣に立つフリットの二人は気にする素振りすら見せないのだった。
「カルラ様、新たな食事が届きました」
「は〜〜〜い。今こっちを喰べてるからまとめておいて」
「畏まりました」
迫り来る特大の火炎。
それを真っ直ぐ見つめるフリットは両腕を大きく広げた。
そして、グルグルと円を描くように回し始めるとそこに吸い込まれるように火炎が集まっていき、瞬く間に大きな火炎の球体へと姿を変えたのだった。
「フゥーーー」
ひと息つき涼しい顔をしながらカルラの食事が終わるのを待つフリットであったのだが、周囲の者たちはそういうわけにはいかない。
いったい何が起こったのか。
あの男は何をしたのか。
ガウェインたち第一軍はもちろんのこと、ドランを含めた獣王国軍も驚きを隠せずにいた。
その時、その場にいた者たちがフリットに目を奪われているとカルラの食事がひと段落つく。
「はぁ〜〜〜〜〜。お腹半分ってところかな。フリット、さっきのやつちょうだい」
そう言ってフリットから火炎球を受け取るとカルラはそれをさらに小さくしていく。
そして、手のひらサイズにまで小さくしたところで一気に口に頬張るのであった。
モグモグモグモグ。
モグモグモグモグ。
「あーーーーーっ、これで八分目!満足、満足。それじゃ〜帰ろっか ───── って言いたいところなんだけど、あの蜥蜴…カルラに攻撃したよね?殺意を向けたよね?殺そうとしたってことはカルラに殺されても文句は言えないよね?」
「えっ!?カルラ様、戦るんですか?」
「だって、カルラ食事の邪魔されるの嫌いじゃん!弱いくせに勘違いしてるやつ嫌いじゃん!それに加えてカルラに敵意を向けてきたあいつは ───── 殺すしかないじゃん?」
ドンッ!! ────────── 。
爆発音と共にカルラの姿が消える。
瞬きする暇もないほどの超スピード。
そして、その行く先に最初に気付いたのは他ならぬドランであった。
それもそのはず、カルラが現れた場所は ───── ドランの目の前だったのだ。
「なっ!?」
「歯〜食いしばれよ!蜥蜴野郎!!」
ボゴッ ──────── 。
キーーーーーン ──────── ドゴーーーーーン!!
左頬に激痛が走る。
それを感じた時にはすでに身体は地面に激突していた。
殴られた側の上下の奥歯は砕け散り、口の中には血の味が広がる。
ボウ…ボウ…ボウ…ボウ…。
カルラの周囲が赤く揺らぎ始める。
ボッ…ボッ…ボッ…ボッ…。
その揺らぎは徐々に色濃く鮮やかになっていく、そして ──────── 。
ゴゴーーーーーッ!!!!!
髪は逆立ちオレンジ色をしていた髪色は燃え上がる炎へと変わり、瞳は漆黒に染まりその中で深紅の瞳孔が鈍い光を放っている。
そこには可愛らしい少女の姿は見る影もなく、彼女の通り名が示す通り炎の魔神の姿があったのだった。
「あらあら、カルラ様あいつのこと殺す気だな。あ〜恐ろしや恐ろしや」
ドゴッ ──────── ベキベキベキベキッ。
「ゴフッ・・・」
ドスッ…ドスッ…ドスッ…ドスッ…。
ドランの身を守る強固な鱗が次々と砕け散っていく。
ガウェインたちが束になっても傷一つ付けられなかったほどに強固だったものがいとも容易くボロボロにされていく。
戦いが始まってからまだ十秒も経っていないにも関わらず、すでにドランの姿は血塗れになっている。
それは到底戦いと言えるようなものではなく、ただただ圧倒的な力による暴殺ショーであった。
「なっ…なんて力だ・・・」
「あれがSランク冒険者の実力なのか」
強過ぎる力というものは時として敵も味方も関係なく恐怖を与える。
この時、第一軍の騎士たちと獣王国軍の戦士たちにも同様のことが起こっていた。
ただただ目の前で繰り広げられる暴力に言葉を失い、すでに意識を失くしながらも殴られ続けているドランの姿を眺めることしか出来なかった。
「おい!もうその辺にしておけ!!」
その惨劇に痺れを切らし第一声を上げたのはガウェインであった。
いくら敵とはいえ意識を失った者を悪戯に痛めつけることを彼の騎士道が許せなかったのだ。
しかし、その叫びは彼女に届かない。
ドスッ…ボゴッ…バキッ…ドゴッ…。
ガウェインの言葉も虚しくカルラは打ちつける拳を止めようとはしない。
「このクソ蜥蜴が!弱ぇーくせに粋がってんじゃねーぞ!!お前ごときがカルラに勝てるわけねーだろ!!!」
ドスッ…ボゴッ…バキッ…ドゴッ…。
もうダメだ。
ドランは助からない。
周囲に部隊を配置したマウルスたち獣王国軍の戦士たちもそれを止めたい気持ちを持ってはいるものの、暴虐を尽くすカルラの隣で涼しい顔をして立っている男に一切の隙が無く、踏み込めば確実に殺られるという圧によって身動きが取れずにいた。
そして誰もがドランの死を確信したその時、突如として振り上げられたカルラの拳が止まり、魔神の姿が解除されて元の少女の姿へと戻ったのだった。
「ふぁ〜〜〜〜〜。お腹いっぱいで眠たくなってきちゃった。フリット〜、寝るからおんぶして〜」
「はいはい。ホントまだまだ子供なんですから ───── よいしょっと。それでは皆様、この度はご迷惑をおかけしました。我々はここらでおいとまさせていただきます」
こうして暴虐の限りを尽くした後すぐさま夢の世界へと旅立ったカルラを背負うと、フリットは両軍に頭を下げ謝罪を済ませると空高く飛んで行ったのであった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
カルラの前に無惨にも散ったドラン。
睡魔によってその一命は取りとめたものの、今回の戦争ではここで無念の戦線離脱となる。
そんな中、隣の戦闘地で激しい暴虐がなされていた時、スズネたちは獣王国の王城をその目に捉えていた。
いよいよ王城へ乗り込むスズネたち、決戦の時は近し!!
次回『正面突破』
お楽しみに♪♪
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