炎隧道
「ハァ…ハァ…ハァ…」
仲間たちとの合流を目指し炎の壁沿いをひたすら歩き続けるアーサー。
壁沿いとはいうものの場所はガルディア王国内に存在する中で最も大きくて高いパスカル大山脈。
その道は当然傾斜の強い急勾配であり、さすがのアーサーといえども確実に体力を奪われていた。
「ハァ…ハァ…切れ目は…まだなのか…」
必ず仲間たちと合流出来ると信じ、懸命に山を登っていくアーサーだったのだが、その先に炎の切れ目は無く、代わりにその目に飛び込んできたのは大きな炎のトンネルであった。
「なんだ?これは・・・」
中を覗き込んでみても全く先は見えない。
明らかな『罠』。
誰がみても『罠』。
どこからどうみても『罠』。
そんなことはアーサー本人が誰よりも理解している。
それでも彼に選択肢はない。
ここまで来るのにどれだけの時間を費やしたのかも分からない。
その間随分と長い時間仲間たちに戦いを任せてしまっている。
刻々と過ぎていく時間と焦る気持ちの狭間で思考を巡らせる。
“行くしかない” ───── アーサーは覚悟を決めて足を踏み出す。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか・・・」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
一方、その頃獣王国ビステリアの王城にも偵察部隊からその一報が届けられていた。
バサッ…バサッ…バサッ… ──────── ザッ。
「報告致します。先ほどアーサーが炎隧道に足を踏み入れました。一時間もしないうちに例の場所に姿を現すかと思われます」
もちろん報告の相手は獣王ゼリックである。
その一報を聞いたゼリックは傾けていた身体を起き上がらせ機嫌良く笑みを浮かべた。
「はぁ〜〜〜やっと来やがったか。待たされ過ぎて寝ちまうところだったぜ」
不満を口にしてはいるがどこか嬉しそうにみえる。
そうして首を左右に動かしゴキッゴキッと音を鳴らすと、ゼリックは待ち侘びたようにゆっくりと玉座から立ち上がった。
「さぁ〜て、それじゃ俺様直々に出迎えに行ってやるか。分かっていると思うが決して邪魔はするなよ。アーサーとはサシで戦って必ず俺の手で殺してやる」
「承知しております。獣王様、ご武運を ──────── 」
その場にいた側近たちは一様に胸の前で手を合わせて頭を下げる。
そんな彼らの思いをその背に受けながらゼリックは足取り軽く部屋を出ていく。
「ああ、任せておけ。きっちり奴の首を斬り落としてきてやるよ!」
ガルディア王国と獣王国ビステリアによる戦争が開戦してから数時間が経ち、いよいよ満を持して今回の戦争を企てた張本人である獣王ゼリックが出陣する。
─────────────────────────
ゼリック出陣の報せは直ちに各所で指揮を執る十二支臣に伝えられた。
「はぁ〜…やるならさっさと終わらせてよね…。あ〜早く帰って寝たい…」
「よし。俺たちはガルディアのクソどもに邪魔させないようこのまま抑え込むぞ」
「うるせぇーーー!今それどころじゃねぇーんだよ!!あの雌…首を引き裂いてグチャグチャにしてやる」
「盛り上がってきたピョン!ウチらもまだまだ暴れるピョンよー!!」
「連絡ご苦労。我は引き続きここで侵略者どもを焼き払う」
「ゼリック様・・・」
「いいわ、いいわ〜。ヒト族どもが絶望する様を拝めるのも時間の問題ね」
「いよいよ〜始まるのね〜。獣王国に〜勝利を〜」
「了解ッキ。いよいよ始まるッキね!」
「クワックワックワッ。さぁ〜て、どちらが勝つんだろうねい」
「そうか…。俺も負けてられねーな。ヒト族どもにさらなる恐怖を味わわせてやる」
「ゼリックちゃんも頑張ってるようだし、アタイも猪突猛進で頑張るわよ〜」
それぞれが異なった反応をみせつつも、各戦闘地そして各部隊の士気は爆発的に跳ね上がったのだった。
もちろん相対するガルディア軍にとっては何が起こったのか分かるはずもなく、ただただ敵軍の士気が急激に上がり、目の前の戦いがより困難なものになっただけなのであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ザッ…ザッ…ザッ… ──────── 。
ザッ…ザッ…ザッ… ──────── 。
メラメラと燃え続ける炎。
どこを見てもそれに囲まれている環境にも関わらず不思議と熱さは感じない。
いったいどれくらい歩いたのだろう。
一向に変わらない風景に気が滅入りそうになる。
「ハァ…ハァ…。 ──────── ん?」
突如として前方に現れた外の光。
陽の光が差し込むことも少ないパスカル大山脈にいるはずなのに ───── なぜ?
そんなことを考えながらもアーサーの足は自然と駆け出していた。
ザッザッザッザッザッ ──────── 。
やっとの思いで炎のトンネルを抜けた先にあったのは、あちらこちらに大小さまざまな岩が点在するただただ広いだけの空閑地。
「何処だ?ここは・・・」
辺りを見回すアーサー。
ここは本当にパスカル大山脈なのかと疑いたくなるような景色ではあるのだが、耳に届いた声によってその考えは吹き飛ばされる。
「よう。ガルディア王国聖騎士団聖騎士長アーサー殿」
──────── !?
声の主をその目で捉えたアーサーはその者の突然の出現に驚きを隠せない。
「獣王…ゼリック…」
どうしてこんなところに獣王がいるのか。
本物か…偽物か…。
これも何かの作戦なのか。
獣王国の狙いは何なのか。
瞬間的にいろいろな考えがアーサーの頭を巡り始めたのだが、前方の大岩に腰を掛けて不敵に笑う男の言葉によって全てを理解する。
「さぁ〜楽しく殺し合おうか!アーサー」
最後までお読み頂きありがとうございます。
ようやく炎のトンネルを抜けたアーサー。
しかし、一難去ってまた一難。
突如として現れた敵国の王ゼリック。
今回の戦争の行方を大きく左右する戦いが始まる!!
次回『獣王ゼリックvs聖騎士長アーサー』
お楽しみに♪♪
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