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王都からの使者

魔女の森から無事モアへと戻ったスズネたち。

新しく仲間となったラーニャを連れてスズネの家まで辿り着いたのだが、そこには予想だにしない光景が広がっていた。


家の前ではスズネの祖母であるロザリーが一人の騎士と話をしており、それを取り囲むように一個小隊約五十名の騎士たちが配置されている。

ひと目で只事ではないことを察したスズネたちは、急いでロザリーのもとへと駆け寄る。



「おばあちゃん」


「お〜スズネ、みんなもお帰り。お目当ての子には会えたのかい?」



心配のあまり慌てるスズネとは対照的にいつもと変わらぬ様子で孫たちの帰宅を出迎えるロザリー。



「えっ…あ〜無事に会えたよ。この子が新しくパーティに加わったラーニャちゃんだよ」


・・・・・。


「いやいや、そうじゃなくて、なんか凄いことになってるけど何があったの?おばあちゃんは大丈夫なの?」


「あ〜大丈夫、大丈夫。それにしても、また可愛らしい子が仲間になったね〜。魔力量も大したもんだ。あたしはスズネの祖母でロザリーっていうんだ、宜しく頼むよ。」



この誰しもが圧倒されるような状況下において、顔色ひとつ変えず、まるで騎士団の存在など無いかのように振る舞えるロザリーの姿に驚きをもって応えるラーニャ。



「あっ…えっ…はい。わっちがラーニャですじゃ。おばあ様、この状況は大丈夫なのか?困っているようであれば、わっちの魔法で全員消し炭にしてやろうか?」



困惑はしていても、一個小隊を前にしても尚、強気で好戦的なラーニャの言動に変わりはない。



「あっはっは、なかなか元気な子だね。やっぱり若いうちはこうでないと」



ロザリーは豪快に笑った。



「取り込み中のところ悪いんだけどよ〜ロザリー殿。こっちの用件を済ませてもいいかい?」



これまでスズネたちとロザリーのやりとりを傍観していた騎士がバツが悪そうに声を掛けてきた。

スズネたちが到着するまでロザリーと話し込んでいた人物だ。

よく見ると他の騎士たちが着ている銀の鎧とは違い、質も良く、キラキラとした白金プラチナの鎧を身に纏っているところを見るに、おそらくこの一団の指揮官だと思われる。



「いや〜すまないね。孫たちとの話に夢中ですっかり忘れてたよ。お前たち、こちら王国聖騎士団において“ナンバー”を与えられた十二人の団長が一人、ガウェイン殿だ」



ナンバーを与えられる?

十二人の団長?


聞いたこともない言葉が次々と出てきてロザリーの話が全く入ってこない。



「只今紹介に預かったガルディア王国 王国聖騎士団第四席ガウェインだ。今回は、王国より出された召喚命令に従い魔王クロノを連行するため参上した次第だ」


「召喚命令?それは、クロノを捕らえて王都へ連れて行くってことですか?」



突然王国の聖騎士が現れ、しかもクロノが王都へ連行されるという情報量の多さに、いつも冷静なミリアもさすがに整理が追いつかない様子だ。



「いや、捕らえるというのは正しくないな。サーバインの学長ヴォルディモア殿より魔王クロノ召喚の報告を受け、ここ一ヶ月ほど監視及び調査をさせてもらっていた。それらを精査した結果、一度王都メルサへ来てもらい、魔王本人を見定めたいらしい。まぁ〜要するに、この国の国王が魔王に会ってみたいってことだ」



ホッ ────── 。



「それじゃクロノが牢に入れられるとかはないんですね」


「ハッハッハッ、ないないない。ちょっと会って話すだけさ」



クロノの身に危険が及ばないことを確認し、胸を撫で下ろすスズネであった。

そして、それまで漂ってた緊張感が嘘のように一同に安堵感が生まれ少し表情を緩めたその時、当の本人がその空気をぶち壊す。



「おい、何勝手に話を進めてんだよ。俺は行かんぞ」


「「「「えっ!?」」」」


「は?何が“えっ!?”だ。なんでこの俺がわざわざ出向かないといけないんだ。この国の王だかなんだか知らんが、人のこと呼び出すんじゃなくてテメェが来いよ」



怒っている。

誰の目から見てもクロノは怒っている。

それはそうだろう。

いくらこの国の王であったとしても、それはあくまでも“人間の世界では”の話であり、その他の種族には関係のない話である。

ましてや相手は魔族。

さらに言えば、クロノは魔族の王である。

その種族の王を一方的に呼び出すというのは、さすがに無礼というものだ。



「魔族風情が ───── 」



周囲を取り囲む騎士たちの中からそのような声がした。

それを聞いたクロノはスッと右腕を上げた。

すると、クロノたちを取り囲んでいる騎士の一人の身体がフワフワと宙に浮かんだのだ。



───── うわぁぁぁぁぁ ───── 



突然の出来事に騎士たちが慌て出す。

当然、宙に浮いている騎士が一番混乱し騒いでいる。



「な…な…なんだこれは。助けて、助けてくれ〜」


「喚くな、下郎が」



そう言うと、クロノは鋭い殺意と共に振り上げた右の手をゆっくりと握り締める。



「ゔっっっっっ・・・」



身体が宙に浮き自由を奪われた騎士が両手を首元まで持っていく。

そして、息が出来ず足をバタバタとさせながら踠き苦しんでいる。



「そこまでだ!!」



その様子を見兼ねたガウェインが声を荒げる。

そこに先程までの軽い口調の男の姿はない。

背負っていた大剣に手を掛け、目を大きく見開き、臨戦態勢を取っている。



「なんだ?先に吹っ掛けてきたのはお前らだぞ」



みるみる内に魔力を集中させていくクロノ。

その凄まじい殺気と圧力が周囲を包み込んでいく。

その姿を目の当たりにしたガウェインの額にはうっすらと汗が滲み、武器を持つ手にもより力が入る。



「お前たち、いい加減にしな!!」



緊迫した状況の中、ロザリーの雷が落ちる。



「こんな人が往来するような場所で殺気なんて飛ばしてんじゃないよ。殺し合いがしたけりゃ街の外でやりな」


「そ、そ、そうだよクロノ、一旦落ち着いて」


「ホント馬鹿ね。ちょっと挑発されたくらいでキレてんじゃないわよ」


「殺りましょう旦那様。滅殺です。滅殺してやりましょう」



慌てた様子で宥めるスズネ。

溜め息混じりに呆れ顔を見せるミリア。

クロノの戦闘が見れると思い、ワクワクしながら煽るラーニャ。

三人とも事の重大さに気づいておらず普段通りクロノに接する。



「クロノ、あんた騎士団なんかと揉めちまったら本当にお尋ね者になっちまうよ」


「そこは問題ない。この場にいる騎士団を全員消せば、証拠は無くなるだろ」



クロノの返答を聞き、はぁ〜と大きく溜め息を吐いたロザリーは、ここぞとばかりに切り札を使うことを決める。



「本当にそれでいいのかい?派遣した騎士団が消えたら真っ先に疑われるのはアンタだよ。それから、お尋ね者になってこの街に居られなくなったら・・・あたしが作った料理もお菓子も食べられなくなっちまうよ」



───── ドサッ ─────



ずっと宙に浮きっぱなしになっていた騎士が地に落ちる。

他の騎士たちが駆け寄り無事を確認すると、その旨をガウェインに報告する。

報告を受けたガウェインは内心ホッとしていたが、目の前の脅威に対して気を緩めることなく警戒を続けた。

しかし、その警戒も予想だにしない光景によってあっさりと解かれることとなる。


先程まで殺気を撒き散らしていた眼前の男が膝から崩れ落ち、両手を地につけ、額には冷や汗を浮かべながら絶望している。

そして、顔を上げるとロザリーに向かって悪態をつき始めた。



「おいババア、お前は悪魔だ。よくそんなことを思いつくな。こんな雑魚共の命では全く割りに合わんぞ」



そんなクロノの悲痛な叫びに対し、ロザリーは“してやったり”と言わんばかりの表情を見せる。



「さぁさぁ茶番は終わりだよ。騎士さんたちも矛を収めな」



その言葉を聞いたガウェインは、部下たちに向けて武装解除の指示を出す。

こうして最悪の状況は免れたのだった。



─────────────────────────



「はぁ〜一時はどうなるかと思ったよ。ダメだよクロノ、あんまりみんなを困らせちゃ」


「俺は何も悪いことはしてない」



「アンタってホント馬鹿よね。一応は魔族の王なんでしょ。少しは後先どうなるかくらい考えなさいよ」


「うるさい、売られた喧嘩を買っただけだろ」



「あの状態の旦那様を御するとは、ロザリー殿は一体何者なのじゃ」


「はっはっはっ、しがない薬屋の婆さんだよ」



スズネたちはすっかり安堵した様子を見せているが、騎士団の様子はそうではない。

一触即発の状況ではなくなったとはいえ、目の前の脅威が完全に無くなった訳ではないのだから当然である。



「ロザリー殿、助力に感謝する」



ガウェインはフゥーと大きく一息吐くと、深々と頭を下げてロザリーに感謝を告げる。



「まぁ〜それはいいさ。ところでガウェイン殿、この後はどうするんだい?」



ガウェインはチラリとクロノに視線を向ける。



「フンッ、行けばいいんだろ。だが、勘違いするなよ、お前たちに屈した訳ではないからな。ババアの脅しに仕方なくだからな」


「ああ、分かってるさ。魔王クロノ殿、ご協力に感謝する」



必死になって言い訳を並べるクロノの姿に、薄っすらと笑みを浮かべるガウェインなのであった。



─────────────────────────



一連の騒動を終え、スズネたちは一息つく。



「はぁ〜やっと一息つけるわ。どっかの馬鹿が暴れようとするから余計に疲れちゃった」



魔女の森から三〜四時間かけてモアの街に戻り、すぐさま騒動に合い、さすがに疲れた様子のミリアが愚痴をこぼす。



「ほんとビックリしちゃったね。でも、とりあえず争い事にならなくて良かったよ。あっ!?でも王都に召喚されたってことは、この後すぐに出発しなくちゃいけないんじゃ・・・」


「えっ!?ムリムリムリムリ、絶対にムリ!!アタシはもう一歩も動けないわよ。そもそも呼ばれてんのはクロノでしょ、アンタ一人で行ってきなさいよ」



ミリアは強烈な拒否反応を見せる。

そんな彼女たちのやり取りを見ていたガウェインが穏やかな口調で声を掛ける。



「ハハハ、そう心配するな。旅から戻ったばかりなんだろ?出発は明朝にしよう。まぁ〜念の為に見張りは付けさせてもらうけどな」


「はぁ〜良かった。これからとかホント死んじゃう」


「ほんと良かったね。私も疲れちゃってたから助かったよ」



魔女の森へ向かうところから始まり、騎士団との一触即発の騒動まで、これまでの日常とは異なる怒涛の展開に疲れ切ったスズネたち。

ガウェインの心遣いもあり王都への出発は翌日とし、この日はゆっくりと疲れを癒すことにしたのであった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



─────  翌日  ─────



家の前には歩兵騎士と騎馬兵がズラリと並び、スズネたちを乗せる馬車も用意されていた。



「それじゃ、行ってくるね。おばあちゃん」


「ああ、みんなも気をつけて行っといで。クロノ、この子たちのこと宜しく頼むよ」


「俺はこいつらの引率係じゃねーぞ」


「どの口が言ってんのよ、一番の問題児のくせに。余計ないざこざ起こさないでよね」


「わっちはどこまでも旦那様に付いて行くのじゃ」



まさに遠足に出発する直前のようである。

そんな様子でわちゃわちゃと騒いでいるスズネたちの元にガウェインがやって来た。



「さぁ嬢ちゃんたち準備はいいか?そろそろ出発するぞ」



───────────────────────────────────



モアの街を出てから数時間が過ぎた頃、スズネたちは王都メルサの姿を目に映すところまで来ていた。



「わぁ〜アレが王都メルサか〜。綺麗〜」


「王都になんて来ないもんね。アタシも初めて見たけど、ホント素敵ね」



初めて王都を目にしたスズネとミリアは、目をキラキラさせながら感嘆の声を漏らす。



「お〜あそこにこの国の王が住んでおるのか。立派な家に住みよって、偉そうに・・・。わっちの魔法で木っ端微塵にしてやろうか」



モアを出発してからずっと馬車に揺られるだけの時間に暇を持て余したラーニャが、イライラした様子で物騒なことを言い放つ。

そんなラーニャに対し注意をしたのは意外にもクロノであった。



「おい、止めておけ。また騎士共が無駄に騒ぎだすだろ」


「ム〜〜〜〜〜。暇じゃ暇じゃ、わっちはもう寝るのじゃ」



そう言うと、ラーニャは膝枕をする形でクロノの方へポテッと倒れ込んだ。



「おい、離れろ」


スーッ、スーッ、スーッ。



邪険に扱うように言葉を吐き捨てるクロノをよそに、瞬く間に深い眠りに落ちるラーニャなのであった。


そうこうしている内に一行は王都メルサに到着する。

王都であるメルサはスズネたちが暮らすモアの街と比べて往来する人の数も倍以上に多く、商店の一つひとつが立派な装いをしている。

さらに王城へと近づくにつれて、建物がより大きく、より高く、より煌びやかになっていく。

そんな見慣れない光景の連続にただただ圧倒され言葉を失うスズネとミリアであった。


そして、あっという間に城門に到着。

城門の前まで来ると、門番の男が一人駆け寄ってきた。



「お待ちしておりました。ガウェイン様」


「おう、ご苦労さん。王宮より召喚された魔王クロノ殿をお連れした」


「畏まりました。只今、開門致します」



門番の男が開門を告げると巨大な門がゆっくりと開かれた。

門を潜り抜けると、正真正銘この国の王が住まう王城が姿を現した。

そのあまりの大きさにスズネたちは目を丸くする。

そして、中に入るとさらに驚きの連続が待っていた。


全て大理石で埋め尽くされた床。

思わず見上げてしまうほどに高い天井。

一目で見入ってしまうくらいにキラキラと光り輝く巨大なシャンデリア。


スズネたちにとってはまさに異空間である。

王城内の光景に圧倒されているスズネたちとは違い、ただ一人クロノだけは全く気にも留めない様子で、先行するガウェインの後をスタスタと付いて行く。


そして、一同はいよいよ国王の待つ“謁見の間”の前までやってきたのだった。



「王国聖騎士団第四軍団長ガウェイン、魔王クロノ殿及びその一行をお連れ致しました」



その言葉に応える形で、中から「入れ」という言葉が聞こえゆっくりと扉が開かれる。



「はぁ〜緊張してきた〜」


「アンタ変なこと言ったりしないでよ」


「何かあれば皆殺しにしましょう。旦那様」


「この国の王とやらがどんなものか・・・見ものだな」



そう言うと、クロノはニヤリと笑みを浮かべるのであった。



最後までお読み頂きありがとうございます。

一難去って、また一難。

まさかの国王からの呼び出し!!

クロノたちは何事もなく終えることが出来るのでしょうか。


次回『謁見』

お楽しみに♪♪


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