百獣の王
「先代獣王であった父レオニスは獣王国に住まう多くの民からも慕われた娘の私から見ても優れた王でした ──────── 」
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獣王国ビステリア ──── 王城 〜 獣王執務室 〜
コンコンコン ──────── 。
「入れ」
「失礼します。獣王様、またパスカルの地にてヒト族との小競り合いが起こったとの報告が入っております」
「フゥー、またか…。ヒト族との争いは止めるようにと通達したはずだが?」
「まだまだヒト族を下に見ている者も多いですからね。それにパスカル大山脈は我ら獣人族が先祖代々守ってきた地でもありますから、ヒト族が我が物顔で立ち入ることが許せないのではないでしょうか」
今から遡ること百年前。
まだヒト族が他の種族と友好的な関係性を築いていなかった時代。
精霊族やエルフ族を始めとしたほとんどの種族が自らの住処で静かに暮らし、積極的に他種族とは関わらないようにしていた一方で、獣人族はその気性の荒さも相まって度々ヒト族と争いごとを起こしていた。
そういった経緯もあり当時新王となったばかりであったレオニスは国を統治することに苦慮を強いられていた。
そんな獣王国に生まれた新たな王は世にも珍しいホワイトライオンの獣人であり、その類稀なるリーダーシップと統率力により『百獣の王』と呼ばれ多くの国民から敬愛されていた。
しかし、獣人族の中にはその恵まれた身体能力とそれぞれの動物特有の能力を駆使して戦う武闘派も多く、彼ら強硬派は他種族との共存よりも自分たちの配下に置くことを望んでおり、レオニスの改革はなかなか思うように進まなかった。
「レオニス様、一度強硬派の者たちを一掃した方がよいのではありませんか?」
「おい、滅多なことを言うものではないぞ」
右腕である宰相オウルックが過激なことを口にするが、レオニスは冷静な口調でそれを窘める。
「しかし、レオニス様が我が国の繁栄を願いどれだけ改革を進めようとも、奴らの暴挙によって他種族…特にヒト族からの反感は強まる一方ですよ」
「少し落ち着け、オウルック。他種族との共存共栄、そして世界の安寧を目指す我々が自国の中で争っていては発する言葉に何の力も備わらなくなってしまう。彼らはただ変化を恐れているだけだ。そして、我々は彼らにその変化が自分たちと獣人族の未来に光射すものであると理解してもらうために出来ることをやるのだ」
これは誰が良くて誰が悪いという単純な話ではない。
他種族との共存共栄を願うレオニスたちも、ヒト族と争いを繰り広げている強硬派と呼ばれる者たちも、ただ獣王国とその未来を想って行動していることに変わりはない。
そのことを理解しているからこそ、獣王レオニスは彼らを糾弾するようなことをしたくはなかったのだった。
しかし、そんなレオニスの思いとは裏腹に獣人族とヒト族の衝突が無くなることはなく、それどころか強硬派の者たちが改革を進める同胞にまで手を掛ける事態にまで発展することに・・・。
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時を同じくしてガルディア王国。
ガルディア王国 ──── 王城 〜 国王執務室 〜
コンコンコン ──────── 。
「入れ」
「失礼致します。国王様、パスカル大山脈へ薬草採取に行った冒険者パーティが獣人族の襲撃に遭い負傷したとのことです」
「フゥー・・・。先日獣王国の周辺には近づかぬようにと通達を出したはずだが?」
「はい。そうなんですが、どうやらその通達によってパスカル大山脈で取れる薬草や素材が街に入ってこなくなり、品薄のため価格も高騰しているようなのです」
「ハァ〜、冒険者というのは何とも御し難いものだな」
この当時ガルディア王国を治めていたのは第二十三代国王ドルニアス・ノービス。
現在の国王レオンハルトの祖父である。
彼もまたレオニスと同様に絶えることのないヒト族と獣人族の争いに心を痛めていた。
王国に所属する聖騎士や兵士たちは国王であるドルニアスの言葉に従うのだが、その支配下にはない冒険者たちはその言葉よりも自分たちの利益を優先するのだった。
それ故に彼らを制御することは難しく、獣王国との和平と国交に向けて政策を進めていたドルニアスとしては頭を悩ます種のひとつとなっていた。
その時、そんな国王を傍でサポートする聖騎士長ロハンがひとつの提案を口にする。
「ドルニアス様、いっそのこと通達を無視した者には厳罰を処してはどうですか?」
「アッハッハッハッハッ。面白いことを言うなロハン。そんなことをしても何の意味もないことくらいお前も分かっているだろ?」
ロハンからの提案を一笑するドルニアス。
その反応に薄い笑みを浮かべるロハン。
どうやら彼は思い悩む国王を前にしてわざと無意味な提案をしたようだ。
「では、それ以外の方法で冒険者たちを納得させねばなりませんね。まったく骨が折れますよ。僕としては斬って捨てた方が楽なんですけどね」
若干十九歳という歴代最年少で聖騎士長となったロハン。
まだまだ幼さも残ってはいるのだが、戦略と統率力に優れており、何より愛剣デュランダルを手にした彼を止められる者などこのガルディア王国にはいなかった。
しかし、そんな圧倒的な力を有しながらもロハンは国王であるドルニアスを父のように敬い尊敬し生涯の忠誠を誓っていた。
「何か良い案がないか一緒に考えてくれるか?ロハン」
「もちろんですよ!僕はドルニアス様の忠実なる剣ですから」
ここから両国内にて激しい意見の対立が起こるのだが、ドルニアス、レオニス両国王とそれを支える重臣たちの尽力によってガルディア王国と獣王国ビステリアによる長きに渡る争いに終止符が打たれる。
そして、そこからとんとん拍子で物事は進み、二国間だけでなく他の種族も含めた友好協定が結ばれる運びとなったのだった。
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精霊の森北部トリニア平原。
調印式当日。
澄み渡るような青が広がる空の下、期待と不安が入り混じる独特な空気感の中、各種族の代表者がトリニア平原に集結し今か今かとその時を待っていた。
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【参加種族】 【代表者】
ヒト族 国王ドルニアス
獣人族 獣王レオニス
精霊族 精霊王ノア
エルフ族 族長モーフィス
妖精族 女王ティアナ
ドワーフ族 族長ジダルク
オーク族 族長ダダン
魚人族 海王ゾッゾ
小人族 族長ピノ
巨人族 族長ズール
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「レオニス様、いよいよですね」
「ああ、そなたを始めこの日のために尽力してくれた者たちにはどれだけ礼を言っても言い切れん」
「なんと勿体なきお言葉。しかし、まだですぞ。調印式が終わるまでは気を緩めてはなりません」
「重々承知している。──────── それでは、参ろうか」
そして、いよいよ各種族の代表者たちによる友好協定の調印式が始まる ──────── 。
最後までお読み頂きありがとうございます。
現在の平和な世界を創り出した王たち。
自国をまとめ上げ、他種族と手を取り合う世界。
その始まりの一歩である調印式が始まろうとしている。
この平和な日々が続くことを願って ──────── 。
次回『友好の証』
お楽しみに♪♪
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