集い始める戦力
獣王国の軍団と冒険者ギルドギャシャドゥル支部長ホークによる小競り合いの一報は瞬く間にガルディア全土を駆け巡った。
それはもちろんガルディア王国国王レオンハルトと獣王国ビステリア国王ゼリックの耳にも届けられた。
一見すると両者痛み分けという見方も出来るのだが、両国においてその報じられ方は全く異なるものとなる。
ガルディア王国では、獣王国がガルディアの主要都市の一つであるギャシャドゥルへ攻め込もうとし、それをホークが単騎で完膚無きまでに叩きのめし壊滅させたと報じられた。
一方の獣王国ビステリアでは、十二支臣である“猛獣タイガード”と“飛翔バルバドール”がガルディアの主要都市の一つであるギャシャドゥルを強襲し、ギャシャドゥルの街は炎に包まれたと報じられた。
どちらも間違いではないが真実ではない。
しかし、それもまた仕方のないこと。
これから戦争をするという上で、自国の民及び戦士たちの士気を下げるようなことはあってはならない。
そのためにも時には事実を伏せることも必要なのである。
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ガルディア王国王城 ───── 会議室
「さすがは前王様の時代に最強と云われた男。千五百を相手にたった一人で壊滅させるとは ───── 聖騎士長の言った通り聖騎士団を出すまでもありませんでしたな」
「確かに…老いたとはいえなかなか使えるみたいだな。まぁ〜王国に仕える器量も無いような奴であるから善戦したということにしておこう」
「いや、その見解は間違っているぞギュスターヴ。はっきり言ってホーク殿は今現在であっても現十二の剣と肩を並べるかそれ以上の力の持ち主だ。今回は獣王国も突発的な侵攻だったようだしな。この結果も当然であると考えるべきだ」
「ほ〜う。四聖にも名を連ねる聖騎士長アーサーにそこまで言わせるほどか。冒険者ってのも案外捨てたもんじゃないようだな」
アーサーに諫められたギュスターヴは驚いた表情を見せるのだった。
そして、それと同時に冒険者に対する認識を改める必要があると感じたようだが、その発言に対して苦言を呈する者が ──────── 。
「ギュスターヴ、冒険者も大切なこの国の民であり、これから始まる戦争においても重要な戦力であることを忘れるな」
「ハッ。失礼致しました、陛下」
「今回は不幸中の幸いとでも言うべきか、たまたまホーク殿がいるギャシャドゥルだったから良かったものの、今後いつ何処の街が狙われるかも分からん。皆気を引き締めて事にかかれ!」
「「「 ハッ!! 」」」
今回の一報によってガルディア王国に住まう民たちは大きな賑わいを見せた。
いつ始まるかも分からない戦争。
じわりじわりと侵攻してくる獣王国。
毎日のように報じられる村や町の被害。
この目には見えない恐怖が多くのガルディア国民に小さくないストレスを与えていたのだ。
そんな状況の中で舞い込んできた勝報。
それは不安に押し潰されそうになっていた人々の心を救う報せとなった。
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「凄いぞ!たった一人で千を超える軍勢を壊滅させたんだとよ」
「そいつは凄いな。支部長ともなるとそこまで強いのか」
「馬鹿もん!今時の若いもんは“轟撃のホーク”も知らんのか。我々と同じ平民の出ながら前王様より王国聖騎士長への勧誘を受けたほどの男じゃぞ」
「平民から!?それは凄い御仁だな」
「聖騎士団に魔法師団、さらに冒険者までいるんだ。獣王国になんて敗けるわけね〜よ」
その活躍はホークの意思とは関係なくガルディア中の人々に希望を与え、王国騎士団や魔法師団、そして何より冒険者たちに勇気を与える結果となるのだった。
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獣王国ビステリア王城 ───── 玉座の間
「ガッハッハッ。派手にやられたなタイガード」
「今回は少し油断しただけだ。あのジジイ…次会ったら必ず殺してやる」
「クワックワックワッ。あんな化物を相手に何の策もなく真正面からぶつかるなんて自殺行為だよん。助けるこっちの身にもなってほしいもんだね〜」
「うるせぇ〜ぞ、バルバドール。そもそも助けなんて必要無かったんだ」
「ウッキッキッ。そんな包帯グルグル巻きの状態で言われても説得力無いッキ」
「なんだと?殺されてぇ〜のか?サルザール」
獣王国もガルディア王国と同じく国内は大いに賑わっていた。
大国ガルディアとの戦争。
数の上で圧倒的に不利な戦い。
今はまだ大人しくしているガルディアがいつその重い腰を上げて攻めてくるかも分からない。
獣王国の国民もガルディアの国民と同じく目に見えない恐怖に苦しんでいたのだ。
そんな状況の中で入ってきた主要都市への強襲が成功したという報せ。
これによって人々は大国とも戦えるんだという精神的な支えを得たのだ。
そして、さらに獣人族の中に眠る獣の本能に火を点ける結果となったのだった。
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「さすがはタイガード様とバルバドール様だ」
「ガルディアの主要都市を強襲するなんて凄いね〜」
「ボクも大きくなったら絶対に強くなって十二支臣になってやる」
「ホッホッホッ。ガルディアなんぞ所詮はひ弱なヒト族の集まり。我ら誇り高き獣人族の敵ではないわ」
実際にガルディアを攻めた十二支臣たちの思いとは裏腹に獣王国の国民たちは大きな期待を持ち、ガルディアとの戦争を前にした戦士たちも士気を上げるのであった。
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冒険者の街リザリオ ───── ギルドマスター執務室
「ギャシャドゥルの被害状況は?」
「はい。ホーク支部長からの報告では獣王国からの爆撃により崩壊した箇所はあるものの、住民に負傷者は無く、死亡者も無しとのことです」
「フゥーーー。そうか ────── 」
秘書の女性からギャシャドゥルの状況を聞きホッと胸を撫で下ろすメリッサ。
「それで獣王国との戦争に向けて出した召集依頼についてはどうなっている?」
「そちらは徐々にではありますが参戦するクラン及びパーティは増えています。今のところSランクでは『トライデント』と『ローズガーデン』が参加する意思を示しており、Aランクでも『モノリス』、『九尾の狐』、『ジークハルト旅団』を始めとした五十近くのクラン及びパーティが参戦する予定です」
「そうか ───── 。それで、奴らはどうだ?」
「『宿り木』ですか。彼らはまだ名簿には載っていませんね。まぁ〜Bランクになったばかりですし、さすがに荷が重過ぎるんじゃないでしょうか」
「フム ───── そうだな・・・」
両国の間で高まる戦争への機運。
そして着々と準備が進められ、名のある冒険者たちも続々と参戦の意思を示し始める。
まだまだ傍観を決め込む者たちがいる中、スズネたち宿り木のホームでも戦争に関して話し合いの場がもたれていたのだった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
ひとつの戦いによってもたらされるモノ。
それぞれの思惑が交錯しつつも確実にその時は近づいている。
そして、次々と名だたる冒険者たちが参戦を表明する中、スズネたちはどのような答えを出すのか。
次回『自分たちに出来ること』
お楽しみに♪♪
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