黒金は日常を求む
「ご主人。私の顔に何かついてますか?」
俺の目の前で俺の顔を覗く、何も着ていない金髪の少女を見て、俺は意識を手放すの事を選んだ。事の発端二時間前に登る。
「雨宮、試験どうだった?」「土御門、ついに!ついに!一次試験を突破したぞ!!!」
ようやくかよと、ため息をつくのは俺の親友である土御門勝。そして放課後の教室で盛大に喜ぶ青年が、俺こと『雨宮優』である。
術者と科学者の間に生まれ、死霊術を術者である父親から受け継いだ、正真正銘の無能である。
「雨宮、これまで四回に渡って一次試験落ちたんだろ?二次も一発は無理だろ。」「やってみなくちゃ分からないだろ!?」
死霊術は免許、もとい資格が無ければ使う事すら犯罪となる魔法だ。そんなとんでもない魔法を受け継いだ俺は、降霊術や憑依魔法・実体化魔法にすらも使えず、使えるのは死霊術の中でも魂の冒涜とされる『霊壊術式」と呼ばれる異端魔法だけ。そういう尖りすぎた魔法しか行使出来ない彼は、実技試験しか存在しない死霊術の免許取得は難航していたのだった。
「とはいえど今回の実技、人の降霊が試験内容なんだよな。俺鳥ですら念入りに準備しないと呼び出せないのに。」
土御門は帰る準備を終えたのか、雨宮の肩を叩きながら、「ならクリアできるまでリトライするだけだろ。」
これまでも、そしてこれからもそういうスタンスでやってきたんだろと、笑いながらそう言う。
「まぁそうだ。それでようやく資格取得の一歩手前まで来れたんだから、やるだけやるだけ。家には父親が放置している様々な魔法を手助けする道具もあるはずだ。多分行けるだろ」とそう考えていた。自分の無能さを真に理解してなかった故にあれは起きたのだから。
「庭でやっていいものではないけど、試験受ける度に近所に連絡行くらしいからもういいや...」
ただでさえ危険な類に分類される死霊術をまともコントロール出来ない人間は使うんだ、周りの視線を時間が経てば経つほど痛くなる。だからこそ!今回で終わらせて晴れて死霊術士として頑張れるように!今、終わらせる!。
倉庫に立てかけられていた大きめのベニヤ板を庭に敷き、その上に魔法陣を書いていく。基本中の基本であり、そもそも一次試験を突破した人間にはまず要らない物、つまり無能をより強く周知させる代物という事になる。そうだとしても試験の合否にはあまり関わらない、故に念入りに書き込む。教科書や資料、果てに父親の補助用具すらも使う。努力だけは欠かさない。
これでよし、書き終えた。あと呪文の行使、魔法をイメージとよく言われたものだ。それをよりイメージしやすくしたのが『呪文』であり、それを補助するのが『構え』だ。準備は出来た、見直しもした。これで失敗したら3万円が飛ぶ...それだけは出来ない。もう二桁単位で万札が消えている以上もう失敗は出来ない。財布も空に飛んでいける程だ。
「天の国至った先人よ、我が問いに答え、再び空に還るが良い。」
呼び出す、質疑する、そして魂を帰す。この手順が降霊術の形であり、呪文もこれに沿うように唱える。体から力が抜ける感覚、体温が下がり脂汗が滲む。念入りの準備をするという事はそれだけしっかり魔法を行使する事とイコールであり、その分体内で生成される魔力も等しく失われる。そもそも雨宮優ほど症状が出る方がおかしいというのは言うまでもない。
詠唱を終了して1分.2分..3分...何も起こらない。魔法陣は起動を知らせるようにベニヤ板を書かれた箇所を焦がしている。なのに起こらない。「失敗か。」
重い体を下ろすように地面に座る。これまでも何度か近い事、同じ事が起きている。今回であれば単純に「呼び出せなかった」のだ。つまりこちらに来たい魂がいなかった、もしくは呼び出すには相応しい対価が無かったという事になる。
「お金もより一層かけないと試験合格出来そうにないな。明日土御門にまた笑われそう..いや一香に嫌味かな。」
自然とため息が出る、仕方ないそろそろ日も暮れる。今日の晩御飯は何にしようかな。
そんな事を考えてた。家の二階、父親の部屋から大きな物音がするまでは。
何かが崩れる音がした。それはかなり大きい音で、庭にいた俺は簡単に気づいた。しかし盗みなら問題だ、父親の物品は俺には理解できないが値を張る代物も多い。故に息を荒げながら部屋に走り込む。走り込んだ。
結論から言うとそんな人はいなかった。悪い人間はいなかった。
いたのは綺麗な金髪で蒼眼をした一人の女の子だった。しかも服を着ていなかった。
自分でも首が死ぬと思える速度で視界からその少女を消す。側から見たら変態に近い立ち方ではあるが、問題は色々ある。まず彼女は誰だということ。そして何故この部屋にいるのかということ。それを聞く前に
「ご主人?」そう言われた。聞き間違いでは無い。そう言われたのだ。
俺は従者を雇えるほど金持ちでもないし、人に尊敬される人間でもない、ましてや年もいっていない。
思いつくのはただ一つ。彼女は降りてきた魂というそれだけ。
降霊術自体、かなり有名な魔法であり、そして幾らか危険が伴う魔法である。その中でも一番多く起こる問題は「降ろした魂が悪意を持っていた」という事。これだけで事件になるし、信用も本人は悪くないのに失われる。そういう問題に対しての案が、『主従付与』である。降ろしている間だけこちらに従わせるゲームでいう装備アイテムみたいな代物ではあるが、多分これである。間違いなくこれである。
「俺が主人?」「違うの?」
合ってる。そう答えたら色々俺が社会的に殺される。でも女の子だ。放っては置けない、思考するのを諦めた。
「合ってると思う。君の名前は?俺の名前は雨宮優。」「セレナ...セレナです。」
「ここは何処ですか。私は何をすれば。」記憶が曖昧、しかも下の名前?苗字を答えない。それは多分俺の技術量の問題だ。腕の悪い死霊術師はこの手の記憶の欠損を起こす。理由は様々あるが今は後だ。
そして図星が付いた。彼女の正体が。
「これ幾らするんだ。」自分でも想像出来ない顔をしていたと思う。
父親の部屋に飾ってあった自動人形、つまり「依代」になり得る代物であり、何処ぞのお偉い方から寄贈されたみたいな話を父親にされた記憶が残っている。そんな代物の降りたのだ。憑依したのだ。こんな少女が。
終わった。今回ばかり父親に怒られる。いたそれで済めばいいほどだ。どうしようどうしよう。
「ご主人、私の顔に何かついてますか?」
立ち上がり、その綺麗な素肌と憑依しきれていない人形部分の手足が視界に映る。
高校生の男子に、他から見ても美少女に分類される「セレナ」と名乗るそれの裸は刺激が強すぎた。
鼻の奥から温かい感触がする。頭が熱くなる。そして不意に視界が暗転した。




