甘やかな自殺
真夜中の県道に寝転んだ
センターラインに背骨をあてて
南向きの車線に足を
北向きの車線に頭を置いた
街灯がないから星がよく見える
夜の闇にあたしの存在が溶ける
誰になるかはわからないけど
あなたを殺人車にしちゃうよ
ごめんね
許してはくれないよね
あたしの大切なあの子を轢いたバイクを
あたしがずっと許せずにいるように
あぁ
おなかがすいたなぁ
とっても気持ちは落ち着いているのに
こんな時でもおなかはへるもんなんだ
LEDのヘッドライトでやっておいで
どうせあたしの姿は見えない
ハイビームで走る車なんて一割もいないから
どれだけあなたの自慢のヘッドライトがあかるくても
車道に寝転がってるあたしはロービームじゃ見えないよ
どっちから来るかな
北から来ればおなかから下を潰される
南から来てくれれば首を飛ばされる
べつに特別嫌なことがあったとかじゃないんだ
いつものように死にたいだけ
風がさわさわ
気持ちいい
光が見えた
南からだ
私は体を上のほうにずらす
左のタイヤが頭の上を
正確に通ってくれるように
眩しくないロービームの光
確実にあたしを轢き殺してくれる
希望の光
おいで
おいで
早くここまでおいで
近づいて来る
あたしには気づいてない
タイヤの走行音がやって来る
蛇のような音でやって来る
シャシーの下まで見えそうな角度
気づいてない
気づいてない
ブレーキを踏む様子もまったくない
かっこいいスポーツカーだ
飛ばしてる
やって来た……
体が自動的に飛び起きてしまうのがおもしろい!