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AVENGE〜復讐の権化〜  作者: 一条飛沫
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白髪の夢

 どこからか声が聞こえる。誰の声だろう。いや、人の声なのかも分からない。実に神秘的で神々しい声だとその時は思った。加護を与える?僕に?加護なんて御伽噺(おとぎばなし)でしか知らない。本当にこの世界にそんなものがあったとは知らなかった。それにこの世界に神が複数存在しているのは知っていたが、復讐の神なんて聞いたことがない。


 だが、今はそんなことどうでもいい。こんな僕に、何の力もない平凡な僕に加護が与えられた。それだけが今の僕に生きる理由を与えてくれる。とりあえず何か食べよう。しばらく何も口にしてないせいでふらふらだ。僕は両親の死体も恋人の首もほったらかしたまま台所を漁る。手当たり次第に食糧を(むさぼ)りながらふと顔を上げるとそこには鏡がある。これは母がいつも使っていたものだ。そこにはこの世の何よりも透き通った白い髪に真っ赤に染まった眼を持った、ガリガリに痩せ細った一人の少年の姿があった。無論僕である。


思わず鏡をじっと見る。しばらくはそれが自分だとはわからないような変わりようだ。前までの僕は綺麗な黒髪に漆黒の瞳を持った美青年ということで村の人たちから可愛がってもらっていたはずだ。

 

それも今となっては遠い昔の様に感じられる。色々と気になることはある。加護のこと、村を襲った騎士達のこと、僕の恋人が殺されたこと。だが今は考えるのはやめにしよう。そう思い、僕は死体の片付けを始める。どういう訳かもう死体を見ても何も思わない。吐き気など一切ない。ただあるのはこの事態を引き起こした者たちへの憎しみと憎悪である。


 家から少し行ったとこ。風通しがよく日当たりのいい場所に3人の死体を埋めた。手を組み、せめて来世では幸せにとの思いを込めて祈りを捧げる。できれば村のみんなも弔《とむら》ってやりたいところだが、そんな気力はない。とりあえずその日はまるで死ぬ様に眠った。


  





夢を見た…………いつか己に訪れる日の夢を見た…………己の戦う姿が鮮明に見える。白髪を風になびかせ疾風の如く兵の間を駆け、斬る。黒く禍々しい剣を振り上げ、斬る。ただ無感情に。殺しを全く躊躇しない姿は鬼神の如く。美しさまで覚える。背中を合わせ、共に戦っている者がいるがその者の顔は見えない。ただひとつ分かることはその人の戦う姿は僕以上に美しかった。

 





 朝が来て目が覚めた。いや、朝ではない。もう日は高く登り太陽は僕を見下ろしている。何故だろう。さっきまで見ていた夢が曖昧(あいまい)にしか思い出せない。その変わりに加護についてはなんでも知っている。まるで産まれてきた時から備わっていたようなそんなしっくりくるものがある。きっとこれが加護というものなのだろう。

 

 この世界には神力を用いる神聖魔法、魔力を用いる魔術、精霊と契約して戦う精霊魔法、己の力と技のみで戦う剣術、そして神からの恩恵である加護がある。


神力は神を信仰する者ならば誰でも持っており、神力を持つものは修練すれば神聖魔法を使うことができる。主に悪魔への強い特効効果を持ち、回復魔法も神聖魔法の一種である。


魔力は生物ならどんなものでも持っているものである。魔力総量はそれぞれ差があるが、この世に魔力を持たない生物はいないとされている。しかし、魔術の発展は未だ(とぼ)しく日常生活に役立つ程度のものや辺りを散策する程度のものしかない。


精霊魔法はごく僅かなものしか使うことができない。それもそのはず。精霊魔法は運よく精霊と巡り合い、契約を交わして行使する魔法だ。精霊は滅多なことがなければ会うことができず、あったとしてもすぐに逃げられてしまう。それゆえに精霊術師は非常に強力で重宝されている。


剣術。それは語るまでもなく己の力と技、精神を鍛え上げて部の極みを目指すものである。


最後に加護だ。加護は言うまでもなくこれらの中でずば抜けて珍しい。一柱の神は1人にしか加護を渡せない。しかも神が皆、加護を渡すとは限らない。故に加護を授かった者は神の化身や信託者などと言われている。


 こんなこれまでは無かった知識まである。これはおそらく復讐の神とやらの仕業なのだろう。僕が授かった加護は『復讐の加護』『復讐の神の化身』の2つである。加護を2つ持つことがすごいのかはわからないが、この加護が強力なのは明らかである。復讐の神とやらが何を思い、僕に加護を授けたのかは分からないがこの加護は有効に使わせてもらうとしよう。


 僕の目的はこの村をこんなふうに変えた王国を潰すことである。何の罪もない人々をこんなふうに殺した奴らにはしかるべき報いを受けさせてやる。王国の隅々まで殺し尽くす。慈悲など与えない。


 そんなことを考えながら村の死体を掃除する。本当はこれまでお世話になってきた人達にはいい場所で眠ってもらいたいがそれには時間がかかりすぎる。そうやって死体を集め、村の中央の広場に穴を掘って埋める。やっと作業が終わった時あたりはすっかり暗くなっていた。宵闇が廃墟になった村をより一層不気味に見せる。


 ほぼ全ての感情がなくなった僕にとっては怖いと言うこともないがこれは何かが起こりそうな気がする。加護を授かったといってもまだ今はろくに戦えない。加護の力で死ぬことはないし、いつかは勝つだろう。だが今は戦闘は避けるべきだ。そう思い早足で家に帰る。誰もいない村で寝るのも悪くはないが、ここは燃えて寝られるような家屋はない。それにやはり自分の家の方がぐっすり眠れると言うものだ。


 少し小走りで帰路を辿る。茂みに覆われた家が見えた。僕が生まれてからずっと過ごしてきた家だ。家の中は血で汚れているがそんなものは今の僕には気にならない。本当に悪い予感がする。今日は早く寝よう。


「……こっちよ……私を見つけて………」


そんな時である。どこからか声が聞こえたのは。


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