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6:マグカップ


 放課後。


 俺達は新居の最寄り駅から少し離れたところにあるショッピングモールに来ていた。


 当然、二人で歩いていれば怪しまれる可能性はあるのだが、幸い高校からは二駅離れているし、何より最寄り駅は各駅停車しか止まらないような駅なので、うちの高校の生徒はそもそも少ない。


「あはは、なんかドキドキするね」


 キョロキョロしてうちの高校の制服がいないか探す俺と違い、アリスは堂々と横を歩いていた。


「なんか悪い事してる気分だよ」


 俺が思わずそう言うと、アリスが悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「ふふふ……禁断の恋とか?」

「まさか」


 俺はその言葉を鼻で笑った。

 確かにアリスは可愛いし、一緒に暮らし始めて分かったけど、性格は良いし努力家だし料理は上手だしと言う事なしだった。


 だけど、まだそこには――姉弟だから、という言い訳がましい理由がちらつき、俺はなんともむず痒い気持ちになっていた。


 何より気になる事がある。アリスは一体全体、俺の事をどう想っているのだろうか。


「さて、じゃあまずは雑貨屋でも行くか。と言っても色々お店あるけど」


 俺はショッピングモールの店内地図を見て、どう行くかルートを構築していると、アリスが何やら難しい顔をしていた。


「ん? どうした?」

「んー、これはこれでデートみたいで楽しいんだけども……せっかくだしもうちょっとサプライズが欲しいなあ」

「へ?」

「よし、決めた。賢兎君、これより第三十二回どれだけセンスの良いマグカップを見付けられるか選手権を開催します!」


 アリスがまるで選手宣誓のように右手を掲げ、満面の笑みを俺に向けた。


「いつのまに三十一回もやったんだそれ?」

「ルール説明! 持ち時間三十分! 価格は二千円まで! これでどれだけ相手に相応しいマグカップを見付けられるかで勝負します!」

「えっと、つまりそれは、俺がアリスのマグカップを、アリスが俺のを買ってくるってことか?」

「イグザクトリィ! その通り」

「マジかよ……」

「というわけで、今から開始! 三十分後にまた、ここね!」


 アリスはそう言うと、スタスタとエスカレーターの方へと向かっていった。


「強引だな……」


 だけど、流されやすい主体性のない俺からすると、それは決して嫌ではなかった。何より男として、例えそれがどんなファンシーな勝負であれ、手を抜くことはできない。


「しゃあねえ、付き合ってやるか」


 口ではそう言いつつ俺は気合い十分で、俺は雑貨屋に向かったのだった。



☆☆☆


 二十分後。


「んー」


 色々と見て回った結果、普段なら絶対に入ることのない、とあるお洒落なインテリアショップに入った。ここが一番マグカップの種類が多く、その前で悩んでいるのだが……。どれもピンと来ない。


「マグカップをお探しですか?」


 あまりに長いこと悩んでいるせいか、見かねたお店のお姉さんがそんな風に声を掛けてきた。なぜかその目には、やけに楽しそうな光が宿っていた。


「あ、そうなんですよ。贈り物として探してて」

「なるほど……相手は女性ですね?」

「ええ」

「なるほどぉ……では」


 お姉さんが嬉しそうに笑うと、棚の端にあった一つの白いマグカップを指差した。そのマグカップの右側だけが丁度一つ分不自然に空いている。


「これがオススメですね」


 そのマグカップには、麦わら帽子を被った可愛らしい女の子が嬉しそうに虫取り網を掲げて走っている絵が描かれていた。その女の子が金髪碧眼なせいか、俺にはその子とアリスの姿が妙に重なって見えた。


 これが良いかもしれない。ふと、そう思った。なんというかアリスの幼少期を想像すると、まさしくこんな感じだろうと、目に浮かぶからだ。


「あっ……いや」


 しかし俺はその値札に書かれた二千五百円という数字を見て、諦めた。それはアリスがおそらく適当に決めたであろう予算をオーバーしている。


 もちろん、黙っていればバレないだろうが、それはなんか違う気がした。


「すみません、予算を少しオーバーしていまして」

「ふふふ……実はそれ在庫処分セールをしていまして今、()()()()()してるんですよ」

「へ? そうなんですか?」

「そうなんですよ。だからそれが凄くオススメです。もうそれしかないと思います」


 なぜか、お姉さんがやけにゴリ押してくる。


「じゃあ、これで」


 いや、押し切られたわけではないぞ? そもそも値段以外はぴったりだと思っていたし、セールは駄目というルールもなかったし!


 俺がそれをレジに持っていくと、店長らしき女性が俺とそのマグカップを交互に見て、そして最後に笑顔を浮かべた。


「ギフトですよね?」

「ええ、はい」

「では特別割引で税込み二千円です」


 そうして俺は千円札二枚を財布から取り出した。


「……お幸せにね」


 なぜか店長がそう言って、ギフト包装してくれたマグカップをお洒落な紙袋に入れて渡してくれた。なんだろ、こういうお店はそういうことを言うサービスがあるのだろうか。


 俺は首を傾げながら、待ち合わせ場所に向かった。


「ふふふ、私の方が早かったね」


 そこには既にアリスがいて――見たことある紙袋がその手にぶら下がっていた。


「おっと、まさかの店被り」

「あー、ふふふ、仲が良いね私達。あのお店、絶対に賢兎君は入らなさそうと思ったのに」

「俺も初めてだよああいうお店。でも一番品揃えが良かった」

「じゃあ、カフェで交換しよっ!」

「おっけー」


 俺達はカフェ入ると、紙袋からギフト包装された箱を取り出し、交換した。


「はい、賢兎君に」

「ほい、これ」


 俺達は同時になぜかゆっくりと包装を開けていった。


 それに、何か運命めいたものを感じながら。


「あ、これっ!」

「あれ、これ……」


 俺の受け取った箱から出てきたのは、綺麗な水色のマグカップだった。それには、時計のような形をしたホールケーキを手に持って、何から逃げるように走る白ウサギが描かれている。


 その絵柄、何よりマグカップの形状に俺は既視感を覚えた。


 そしてどうやらそれは――俺だけではなかったようだ。


 俺が選んだマグカップをまじまじと見つめるアリスがキョトンとした顔をした後に、徐々にそれを笑顔へと変えていった。


「ふふふ……あははは! あのお店、また使わないとね!」


 アリスが笑いながら、俺が選んだカップをテーブルの上に置いた。


「賢兎君のマグカップ、並べてみて」

「へ?」


 俺は言われるがままに、アリスのマグカップの左に並べると……。


 その二つのマグカップに描かれた絵柄――追い掛ける女の子と、逃げる白ウサギ――で一枚の絵が完成したのだった。


 それはつまり……そういうことだった。


 俺はそこでようやく、なぜお店の人があんなにニヤニヤしていたのか理解したのだった。


 ……やれやれ、とでも言いたくなるよ。


「ふふふ……大事に使わないとね」

「だな」


 まあ、アリスが思いのほか嬉しそうにしているので良かった。


「早速今日の夜、これでコーヒーを入れよう」

「そこは紅茶じゃなくて?」

「それ、よく言われるけど私はコーヒー派なの。イギリス人が全員紅茶派ってわけでもないんだよ? でも賢兎君がそう言うなら紅茶にしようかな。お茶会しようよ! 誕生日じゃない日、万歳!」

「なんじゃそれ」


 こうして俺達の新居に、ペアマグカップという、何とも気恥ずかしい物が増えたのだった。


お店の人も粋なことをしてくれますね。あとどうでもいいですがイギリス人はコーヒー派が実は主流なイメージ(実体験)


ハイファン短篇を投稿しました! 

追放された王子が竜王の力で規格外でチートな国作りをするお話です! 良ければ是非読んでみてください!

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ハズレスキルというだけで王家から辺境へと追放された王子はスキル【竜王】の力で規格外の開拓を始める ~今さら戻れと言われても竜の国を作ったので嫌ですし、宣戦布告は部下の竜達が怒り狂うのでやめてください~

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ハイファン追放ざまあの新作です! 竜王の力で規格外でチートな国作りをする王道的なお話です! お楽しみください!

ハズレスキルというだけで王家から辺境へと追放された王子はスキル【竜王】の力で規格外の開拓を始める ~今さら戻れと言われても竜の国を作ったので嫌ですし、宣戦布告は部下の竜達が怒り狂うのでやめてください~



興味ある方は是非読んでみてください
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