スピキアーズ領
翌日
朝はアレスとゼルと訓練する。アレスが自分から一緒に訓練したいというので、スピキアーズ領軍の訓練所を借り、行った。アルフォンス様も見に来た。
アレスはまず、ゼルと打ち合う。俺は端で基礎の訓練をする。
「はい。ここまで。そうですね。基礎ができているのでいい試合ができます。あとは経験と積み重ねです。日々多くの訓練に励み、そして経験を増やすことです。それがアレス様の血肉となり、強くなるでしょう」
「ありがとうございます。ゼルさん」
「はい。では、次はマルク様と打ち合ってみてください。それで力を計りましょう。似た力量のものはいい経験になります」
「はい」
こうして、アレスと試合をする。いつも通り、ギリギリの試合になる。それでも、今日も俺が勝った。
「マルク様の方が積み重ねの分、経験で勝ったと言うことでしょう。アレス様のフェイントは素晴らしいですね。虚実が入り混じり、上手くひかっけました」
ゼルが冷静にアレスを褒めた。確かに上手い攻撃だった。ギリギリで立て直せたのが勝因だった。
「しかし、それでも立て直す力がマルク様にはある。そこが経験です。立ち直られたことに驚き、その後に隙ができました。予想していない状況で心を保つのは経験です。ここを経験していく数が多ければアレス様も動じないようになるでしょう」
「はい」
「マルク様もよく、立て直せましたが、まだフェイントを見抜く経験がまだまだです。私やラルク様と戦うが故、圧倒的な力量差で負ける。なので、フェイントなどの技術への対応が足りないです。ここは経験です。アレス様とよく戦うといいでしょう。力量の近い同士の戦いは今まで見えてこなかった事を見せてくれるはずです」
「ふむ。本当にアレスには良い環境が学院にあるようだ。良き友でライバルがいて、良き師がいる。これは成長もする」
「ええ。アルフォンス様、アレス様の環境は素晴らしい。それはマルク様にも言えることですが。それに私はアレス様の師ではないです」
「そうか。アレスの師は違うか」
「父上、師はトーラス先生といいます。学院の教官で、部活の顧問でもあります」
「そうか。なら学院でよく学べ」
「はい」
こうして、朝の訓練が終わり、朝食後に領都を見て回った。スピキアーズ領の領都は海に面する小さい街だが、ドンナルナ辺境伯領の領都オルガに似て、色々な文化が入り込んでいる。海に面する港街ならではの良さだ。商業都市国家との取引や未開領域の先の国のものなどが入って来ている。
これらがこの街を面白い街にしている。すごいなと思う。こういうものを取り入れたのが、現領主のアルフォンス様らしい。それまでも付き合いはあるが、その文化は入れなかった。それがどこか余所余所しい感じがしていたらしい。しかし、今は新たな文化を取り入れて他国の人が来やすい街にしたことで交易がしやすくなったようだ。
さらに、オルガにはなかったものがたくさんある。商業都市国家群が海運を重要視しているのはよくわかる。そのおかげもあり、多くのものがここにある。この領都に砂糖や塩を買いに来ているんだろう。それを帝国あたりに売り儲ける、それが商業都市国家群の狙いだろう。商人はしたたかだ。
アレスが案内してくれる。
「すごいな。見たことないものが多いね」
「でしょう。王都では見ないものばかりかな。海運業の人たちが珍しいものを持ってくるから、それを買いに王都の貴族や商人もくるよ。王都の商人におろして、王都でも売っているけどね」
「本当に珍しいわ。これ、可愛い」
「女の子は可愛い物は好きだよね」
「そうだね。マルクもメル様やエルカ様に買って行ったら?」
「確かに、そうした方がいいね。先輩方にも買っておこう」
「そうですね。それがいいと思います」
「そうだよね。そうしよう。何がいいかな?」
「先輩方へのお土産は一緒に買いましょう。そうすればいいかと思います」
「ありがとう、ルーナ」
「いいえ。どういたしまして」
「私も部活の先輩に買って行かなきゃ。ねえ、マルク、似合う?」
「うん。似合うよ。レオナは赤がよく似合うよ。髪が赤い茶色だから、それに合わせてだよね。オシャレだよ。可愛いね」
「ありがとう、マルク」
「マルク、これは先輩にどうでしょう?」
「いいね。ミリア先輩っぽいね。黄色の服が好きだもんね」
「ええ。ですから選びました」
「さすが、ルーナだよ。ルーナと一緒に選んで良かった」
「ふふ。そうですね」
「マルク、尻に敷かれる姿が目に見えるよ。大変だね」
「うん?何が?」
「そこは成長しないんだね。ルーナもレオナも大変だ」
「うるさい。アレス。怒るよ」
「本当、そうです」
「ごめんよ。レオナ、ルーナ」
「何の話?」
「「マルクには関係ない」」
「そうかな?さっきまで俺の話だったと思うけどな」
「いいのよ。気にしない」
「そうです。気にしなくて大丈夫です。ほら、これなんかサリー先輩にいいんじゃないですか?」
「おう。いいね。それにしよう。青は先輩っぽいね」
そんな話をしながら買い物をしていく。買い物後は領都の政策を見ていく。
「初等教育はかなりやっているし、商人養成学院と船乗養成学院と職人養成学院はうちの領の特色かな?」
「そうだね。オルガに行って来たけど、あそこは医療と初等教育だったね」
「そうね。戦場になりやすいから、あっちは医療とかに力入れているのよね」
「ですね。スピキアーズ領は海運に力を入れているからですね」
「そうだね。海運が大事だからね。あとは塩と砂糖が重要だからそれあたりに力を入れて教育しているよ」
「面白いね。アレスは領地経営の勉強もしているんでしょう?」
「うん。でも、まだ足りないね。父上の大きさを知るばかりだよ」
「それは、俺もそうだよ」
「そうよね。父親の凄さを知るばかりだわ」
「でも、いい領だね」
「ああ、自慢の領だよ。父上が本当に努力したんだよ」
「そうみたいだね」
そうこうしているうちにに船乗学院に着く。
「ここが船乗養成学院だよ。今日は授業がないから生徒は誰もいないけどね」
「アレス様、マルク様、レオナ様、ルーナリア様、今日はお越しいただきありがとうございます。私が案内いたしますヨーダと言います。本日はよろしくお願いいたします」
「ええ、よろしくね。ヨーダ」
「よろしくお願いします。ヨーダ殿」
「「よろしくお願いします」」
「マルク様、私には敬語はおやめください。ただの元船乗りです」
「わかった。よろしく」
「はい。では案内していきます」
ヨーダさんの案内で船乗養成学院を見ていく。船のことをかなり学べるようだ。船乗りだけではなく、漁業のことも学べるようで、漁師の子供も来ているとのことだ。また実際に船で海に出たりする実習もあり、本格的に学べるとのことだ。一年で卒業らしい。
「この学院は領主様が経営され、海運会社も投資をしており、学費は格安で、卒業生はすぐに即戦力になるということもあり、人気の学院です」
「それは凄いですね。良い船乗りを育てるのは大変でしょうから、この学院の意味は重要ですね」
「ええ。マルク様のおっしゃる通り、船乗りを育てるのに金を使っても亡くなってしまうことも多く、泣き所だったのが、安全で格安でいい船乗りを雇えると好評ですね」
そんな話をして、色々と施設を見ていく。そしてすべて見せてもらった。
「今日は案内ありがとう。ヨーダ」
「アレス様、このくらい大したことありません。怪我で船に乗れなくなり、どうしようもない私を見捨てずにこんな良い職場をいただきました。その恩に比べれば、このくらいは当たり前です。多くの船乗りが怪我や引退後の仕事場があるという安心感が嬉しいのです。スピキアーズ家の方々には感謝しかありません。船乗りはいつでもスピキアーズ家の味方です」
「スピキアーズ家とスピキアーズ領は本当に素晴らしいね。これだけ、領民に愛される領主は少ないんじゃないかな」
「そうね。そう思うわ」
「そうです」
「そう言っていただけると我ら領民も嬉しいです。この領が、スピキアーズ家が我らの誇りですから」
「凄いな。アルフォンス様は」
「ええ、そうね」
「そうです」
こうして2日目の見学は終了した。その後はスピキアーズ邸にて歓待を受け、寝た。
いつもお読みいただきありがとうございます。
今日は投稿時間を一時間早めました。すみません。




