辺境伯領 首都オルガ
翌日
ゼルと槍術の訓練をした。魔法と武闘オーラは訓練ができないので、今は禁止中だ。その訓練にアカードさんも参加された。ライル様やルイン様は剣を得意とするため不参加だが、アカードさんは槍術を得意とするため訓練に参加された。
「しかし、マルク様の槍は鋭いですね。騎士よりも強いです。基礎はもう私と変わらないかと」
「ああ、マルク様はその辺の騎士よりも遥かに訓練なされているからな」
「手合わせをお願いしたいです」
「したい」
「マルク様、アカードは強いです。油断なされぬよう」
「はい」
そして、アカードさんとの模擬戦が始まった。相手は槍術の使い手、父上や兄上、ゼル以外では初めてだ。
まずは、アカードさんが先手で突きをして来た。ゼルに教えを請いただけはある。基本に忠実な素晴らしい突きだ。しかし、俺もゼルに毎日訓練をしてもらっている。父上や兄上と模擬戦を繰り返して来た。さらにシグルソン教官が直々に戦い方を鍛えてくれている。ここは見える。
俺は左に避けながら右足を踏み込み、左足を前に出すのと同時に槍を回し、打ち落としからの突きを行う。驚いたようなそぶりはあったが、アカードさんは打ち落としを避け、突きを裁く。お互いに距離を取り直す。
アカードさんが一息ついた。その隙を逃さずに一気に突きを入れる。アカードさんは咄嗟にその突きに柄返しを仕掛けてくる。それを読んでいた俺はさらに右足を強く踏み込み、加速する。アカードさんは柄返しが間に合わないとふみ、右に避けながら槍を回し、切り上げに変え、槍の軌道を変えさせようとする。
だが、俺の槍が一瞬早くアカードさんに触れる。アカードさんは致命傷を避け左肩に先に槍先が当たり、体勢を崩す。俺は即座に槍を回し、切おろしに入る。これに、少しの体勢変化からアカードさんは片手で槍を持ち突きに入る。予想だにしない、予備動作のない突きに俺は避けれずに右肩にいい一発をもらう。だが俺の左手一本で行った切り下げがアカードさんの右肩から首に入り、勝った。
「実践では、引き分けですね。両者ともに、もう戦えないでしょう」
「ええ。マルク様の突きの速さにはついていけませんでした。一息入れた一瞬の隙を見逃さずに突きを放つのは歴戦の猛者と変わりません。もう私より強いです」
「いえ、アカードの突きはすごかった。実践では片手で切り落としは不可能かもしれません」
「マルク様もアカードも良い教訓になったでしょう。いい時ほど相手の反撃に気をつけることです」
「はい、師匠」
「わかった。ゼル」
「しかし、そのお年でそこまでとは。これはラルク様も素晴らしいお子様に恵まれ、良いことですな」
「ええ。アルフ様、メル様、エルカ様とマルク様、皆才能に恵まれている方ばかりです」
「ドンナルナ家はご安泰かと思うと嬉しい限りです。辺境伯家もルイン様はもちろん、ライル様も良き領主になられると思わせていただける方、王国の安定にも重要なドンナルナ家の強さを身をもって感じられたこと幸いです」
「アカードさん、褒めすぎです」
「ふふ。マルク様、ご謙遜は美徳ですが、すぎると民を不安にさせます。貴族たる者、ある程度の不遜さは必要ですよ」
「マルク様は大丈夫です。謙遜はすぎるのは仲間のみ、敵対者などには容赦をしないことをできますでしょう」
「ゼルまで。褒められるのに慣れてないから恥ずかしいよ」
「ふふ。ドンナルナ家の方らしいです。当主もライル様もラルク様も褒められるのは苦手な様子、マルク様もしっかりとその伝統をついでらっしゃるようだ」
「そうです。アカード」
「もういいって」
こうして、訓練は終わり、朝食を食べてライル様の案内で街を見て回る。領都オルガは交易都市らしい賑わいと要塞都市らしい壁や櫓に囲まれた街だ。なお、帝国や魔族国家領の境目には要塞があり、その要塞は領都オルガの北にある。明日からそこをライル様とルイン様と見に行く予定だ。
「マルク、本当にここは不思議な街ね」
「やっぱり、レオナも驚いているじゃないか」
「ふふ。マルクもレオナもルーナも驚くのはわかるよ。俺は逆に他の街に行った時に、オルガが普通ではないと驚いたさ」
「ライル様の言うことはわかりますね。私も初めて、他の街に行った時は街とはこういうもので、オルガが変わっているのだと驚きましたね」
「ライル様もアカードさんもそうなんだ。オルガは交易と要塞という二つの面を持つからこうなのでしょう?」
「ああ」
「付け加えるならば、色々な国の人がいることも理由です」
「守衛としては難しい部分もありますね」
「レオナの言うこともあるよ。間者とかは常に警備隊が目を光らせる必要があるね」
「やはり。ライル様、現地に来るというのは勉強になります」
「ふふ。ハンニバル様にいいお土産ができたかな?」
「はい。ライル様の言う通りですわ」
「そうか」
「あれはなんですか?」
「あれはリンゴーと言って、甘い果物だよ」
リンゴーは黄色の果物で中は白い。甘く、少しの酸味がある。前世の記憶にある林檎に似ているが、マンゴーにも似ている。独特のものだ。
「あれは辺境伯領の特産ですか?」
「いや、商業都市国家群のものだね。スピキアーズ領にも行くんだろう?そこにも卸されているはずだよ」
「そうですか。ではスピキアーズ領で母上や姉上らへのお土産にします」
「そうか。リネア様たちへの土産はうちからも用意させているから。父上に相談してあるよ」
「ライル様、そんなことはしないでください。訪問させていただくだけでもご迷惑をおかけしているのに」
「マルクはそういう所がまだまだだな」
「そうなんです。ライル様」
「そうです。マルクは貴族らしい感じがしません」
「何が?」
「マルク、我が領に来てもらった貴族に手土産一つ渡さないと、王都での評判に関わるんだ。辺境伯領は別に構わないがうちについてくれる貴族たちが困る。そういうものなんだ」
「そうなんですか。大変ですね」
「マルクももっと貴族としての立ち振る舞いは勉強しないとね」
「はい。ライル様。ライル様を見本に頑張ります」
こうして辺境伯領を廻って行く。目新しい物ばかりで面白い。王国の西や南にある小国国家群や商業都市国家の品や学園都市の本がある。王都ではあまり見ないものばかりだ。武器屋には短弓や長弓、石斧など。無骨で良い品が多い。
また、本屋では魔法の早撃ちについて、大国の歴史、古代文明について、世界旅行記などの題名はそそられる。王都は貴族がどうたら、王国がどうたらが多い。
食べ物は南国の小国家や商業都市国家群などから入ってくる物も多い。王国では見られないものがある。どうやら、未開領域の先の大陸の国からも輸入できるようだ。
そんな色んな物を見た後は、領内で行われている政策などをライル様の説明で教えてもらっている。一番は医療と道と教育だ。宮廷回復士を招いて回復士の学校を作ったり、その学校で学んだ者たちが勤める治療所を作ったり、道を広げて交通の便をよくし、その途中に兵士の滞在所を作って交通の安全を保ったり、学院の教師を学園都市から招いたりしているようだ。
そんな街や領の説明を聞いて、見て回り、今日は終了した。
翌日
また、訓練を軽めに行う。今日はライル様とルイン様が模擬戦から参加された。どちらも剣についてはかなりできる。いい動きをしている。ゼルもそれなりと言うだけはある。十分に剣では騎士になれるぐらいは強い。
「ふぅ。ゼルと久しぶりに訓練したけど、緊張感がすごいな。マルクはよく毎日できるよ」
「ルイン様の剣、凄かったです」
「ふふ。ありがとう。そこそこなんだよね」
「ええ。でも騎士でも十分には活躍できるでしょう」
「十分にというくらいのレベルだよ。騎士として上がって行けるほどではないかな。ご先祖様たちに比べるとね」
「まぁ比べるのは難しいのではないでしょうか。ルイン様も十分に強いですよ」
「そうか。ゼルに言われると嬉しいね」
「さすが父上です」
「ライル様もいい剣筋です」
「ええ、ライル様の剣筋は今でも十分に騎士になれますね」
「そう言われると嬉しい。ゼル、ありがとう」
と本人たちはそこそこだと思っているようだ。
「まあ、領主だから騎士としてより、軍を動かしたり、部下の力量を見極める方が重要だけどね」
「そうです。父上。まぁ私もそうなるので、このくらいかと思います」
「ふふ。お2人とも自分で限界を決めるのはいかがですかね」
「ゼル、顔が怖いよ」
とゼルに怒られながらも、自身の力量の把握と自身の役目をしっかりと理解されているようだ。
こうして訓練を終えて、今日は戦場となった要塞に向かう。要塞の先が戦場になったのだが、そこは平原で、お互いに睨み合いをした場所だ。
朝食を食べ、要塞に向かう。今日の夕方に要塞に着いて、明日から戦場を見る。
一台の馬車に俺とレオナとルーナ、もう一台にルイン様とライル様とリアが入った。リアは魔法が得意なようで、先は宮廷魔術師になりたいようだ。護衛はアカードさんとゼルがしている。途中で一度小さな猪が出たので、ゼルが一撃で倒し、要塞に持っていき、手土産にするようだ。
そして要塞についた。要塞は高い壁と堀に囲まれて、かなり強固な門がある。山と森に挟まれている谷がある。その前に平原があり、あそこが戦場かな?
要塞ではかなり歓迎をされた。父上とハンニバル様がこの戦場で大活躍したからだと、ここにいる辺境伯領兵は戦場で戦った人たちが多く、その際にドンナルナ家の父上が多くの兵が傷つかぬようにエドワード王太子殿下に進言したり、ハンニバル様が相手をはめ、辺境伯領に被害が出ぬような作戦を敷いたことは辺境伯領兵には好評だったようだ。
「ルイン様、ライル様、無事のお着き、お慶び申し上げます。マルク様、レオナ様、ルーナリア様、ゼル様に足をお運び頂いたことを嬉しく思います」
「そうか。よろしい。そう硬くなるな。ゆっくりしていってよい」
「はっ」
まずは、要塞を少し見て回った。外から見た時は実に堅い要塞だと思ったけど、中から見るとしっかり住みやすくされている。ここは守備をするためだけど、長期的な滞在が多いため、備蓄や兵の気休めになる休養施設がしっかりある。ここはそういうところまで気が使われていて、重要地点として守りやすい要塞のようだ。
そこで個室を用意されてのんびりした。これから3日間滞在して、戦場を細かく見ていく。




