友を助けられるのは幸せ
翌日
今日は母上の魔法Ⅰの授業だ。その後は授業がないから、部室で研究を進めたい。ただ、そろそろ皆に魔法理論を教えて、意見を聞きたいが、まだダメだろうか?今日の夜にでも父上に聞いてみよう。それまでは魔法文字と詠唱との類似性と違いを研究しているとでも言って、改変されているところを探すための意見を聞いてみよう。
今日も訓練から始め、朝食を取り、学院に向かう。母上は俺が出た後に学院に向かう。
校門に着いた。あ、ライル様だ。何か揉めている?
「おい、ライル、お前はあの無能と仲良くするな。親戚だから何だ。不必要な者に付き合っているほど、この国は時間がない。俺らのようなすごいスキルを有した、天神様に選ばれた人間にこの国の教育が回るようにするべきだ」
「はあ、カークス。お前は何の権限を持ってそんな事を言っている。貴族の当主か?違うだろ。たかが三男だろ。それも当主に見放された。くだらないプライドに縋る前に努力をしろ。実にくだらない。ガリシアンの家名が下がるぞ」
「お前!」
「おい、ライルじゃないか?何をしているんだ?」
「ああ、カリウスとレオル」
「あ、カークスか。馬鹿に朝から絡まれるとは運がないな。ライル」
「そういうな、カリウス。カークスも馬鹿じゃない。俺らが来たんだ。どっか行くだろう」
「ああ、そうか、レオルの言う通り、どっか行け。カークス」
「ふん」
「レオル。カリウス。ありがとう。別に大した事はないが問題になるとな」
「ああ、あいつの面倒なところはすぐに上に縋るところだ。しつこいぞ〜」
「カリウス。朝から気分の下がることは言わないでくれ」
「ははは」
カリウス先輩が笑っている。俺はライル様に謝らないといけないと思い、近寄る。
「すみません。ライル先輩。俺のせいで」
「なんだ、マルク見てたのか?」
「たまたま、登校したらライル先輩を見かけまして」
「そうか、気にするな。あいつは去年から俺に嫉妬して絡んで来たんだ。それがお前を理由にすることで正当化したいだけだ。元々あったことだ。お前が気にすることじゃない」
「そうだな、マルクは気にするな。カークスは何もできない、執念深いだけの男だ」
「それが面倒なのだがな。まあカリウスとライルが言う通り、俺らは元々、絡まれていた。それが理由が変わっただけだ」
「ありがとうございます。ライル先輩、カリウス先輩、レオル先輩」
「ああ」
「それより、マルクは何かされてないか?」
「ライル先輩、ご心配いただき、ありがとうございます。まぁされていると言えばされていますが、今に始まったことではないです。スキルがわかった時から、外に出れば、ずっと無能だ何だと蔑まれ、罵られて来ましたから別段、気にしません」
「強いな、マルクは」
「ああ。ライルの言う通りだな。俺が7歳の時にそれをされたら、俺は部屋からでれなくなる」
「レオル。そうだろうな。心が折れるか、閉じるだろうな」
「ふふ。きっと皆さんなら、最終的に乗り越えて、笑い話にしていますよ。特にカリウス先輩は、あいつは意地汚いとか、あいつのやり方が一番おバカだったとか言っているのが目に浮かびます。さらにやり返してサリー先輩に『やりすぎだよ。カ〜リ〜ウ〜ス〜』って怒られる姿も」
「ははは。カリウス言われてるぞ。でもマルクの言う通り、目に浮かぶ」
「ププ。ダメだよ。レオル、笑っちゃ。ははは」
「お前らいい加減にしろ」
「すみません。ここらで失礼します」
「あ、逃げやがったな、マルク」
「まぁまぁ、カリウス。プププ」
「まだ笑ってんのか、ライル」
こうして校門を抜けて、教室に向かう。教室にはレオナとアレスがすでに入っていた。
「おはよう、レオナ、アレス」
「おはよう、マルク」
「おはよう、マルク。今日はいつもより遅いじゃない。どうしたの?」
「ああ。俺のせいで絡まれていたライル先輩を見てね。話してたから」
「ああ、そうか」
「もしかして、カークスかしら」
「ああ、カークスが絡んでいたよ」
「そう、くだらないプライドにしか縋れないのは惨めね」
「全く。でも2人も気をつけてね。俺のせいで2人が嫌な思いをするのは嫌だから」
「ああ」
「ええ」
レア先生が教室に入ってきた。
「はい皆さん、席についてください。ホームルームを始めます」
「「「「はい」」」」
「良いお返事です。では出席を取ります。・・・・」
特に連絡事項もないのかレア先生は出席を取り始め、全員の出席を確認した。
「はい。全員いますね。では今日は特に連絡事項はありません。皆さん今日も元気に授業を頑張ってください」
「「「「はい」」」」
俺が魔法学Iの教室に入ると、大変賑わっていた。もう母上が赴任して数週間が立つのに、授業を取ってないのに授業を受ける先輩方の増加が後を絶たない。もう講堂でやろうと言う話まであるらしい。さすが母上だ。やっぱり英雄なんだな。
「皆さん、おはよう。今日もいっぱいね。よくもまぁ。この授業は魔法の初歩よ。学院の二年生以上には物足らないなんじゃないかしら。まあ、皆が学びたいと思うことはいいことだけどね。じゃあ、授業を始めるわ」
こうして授業は始まった。多くの生徒は熱心に聞いており、すぐに質問が飛ぶ。それを母上はしっかりと答え、進める。つまらない自慢話がないため、授業はどんどんと進んでいく。細やかに、でも大胆に内容が吟味された話に、授業を受ける生徒は集中していく。
「はい、一限目はここまで。一旦休憩にするわ」
一限目が終わり、アイナをお供に母上は講師準備室に消えていく。
「マルク、リネア様の話は面白い」
「ミリア先輩、サリー先輩。おはようございます」
「おはよう。マルク。リネア様の授業は素晴らしいね」
「はあ、後で母上に伝えておきます」
「「!?」」
「どうしました?」
「リネア様によろしく言ってね」
「リネア様に素晴らしい授業をありがとうございますと伝えてください」
「ミリア先輩、何だか敬語になってますよ」
「うん。マルク、よろしく」
「はあ」
「本当によろしくね。マルク」
「はい。サリー先輩」
母上が戻ってきた。
「はい。続きを始めるわ。席について」
「「「はい」」」
「では、さっきの続きから・・・・」
母上はまた一つずつ質問にも答えながら、いい授業をしていく。普段はおっとりとして、理論派には見えないが、授業では実に理論的で、的確に進める。いい授業だ。
「はい。ここまで。今日は少し早いけどこれで終わりよ」
「「「「はい、ありがとうございました」」」」
「ええ、どういたしまして」
母上は講師準備室に戻っていく。
俺も教室を出て、部室に向かう。昼食を部室で食べるためだ。サリー先輩やミリア先輩も一緒に向かう。
「まだ、レオナとアレスはきてないですね」
「そうね。さっきの件頼むわね」
「わかりましたよ。サリー先輩」
「絶対、絶対」
「はい。ミリア先輩」
「マルク、お疲れ様です」
「ああ、ルーナ、誰かに見られなかった」
「ええ」
コンコンと音がする。レオナたちかな?
「入るわよ。マルク。サリーちゃん、ミリアちゃん」
あ、母上だった。
「「「はい」」」
「はあ、もう皆が講師準備室に来て大変だから、逃げて来たわ」
「そうですか。お疲れ様です。母上」
「「「お疲れ様です。リネア様」」」
「もう、皆、そんなに肩肘張らないで。マルクの友達なんだから」
「「「はい」」」
「母上、母上は女性の生徒の憧れらしいので、しょうがないのではないですか?」
「そうなの。まだ、私に憧れてくれるの?」
「皆、リネア様に憧れています。リネア様は王国の女性全員の憧れです」
「そう。まぁいいわ」
母上はこういうのがあまり好きじゃないんだよな。父上もだけれど。
「失礼します。ミリア先輩、サリー先輩マルク、ルーナ、お疲れ様。・・・えっ?リネア様?」
「あら、レオナ・ガリシアンさんかしら、初めましてね。マルクがいつもお世話になっているわ。これからもよろしくね」
「はい」
「失礼します。ミリア先輩、サリー先輩。お疲れ様です。ルーナ、マルク、お疲・・・。リネア様?リネア様お久しぶりです」
「あら、アレス君。お久しぶりね。かしこまらなくてもいいわ。何度も会ってるじゃない」
「ええ、ですが緊張します」
「ははは。アレス、何度目でも緊張して」
「マルク、お前にとっては母親だからいいが、俺は何度お会いしてもリネア様はリネア様なんだ」
「まぁまぁ。いいじゃない。マルクも友達をからかうのはそれぐらいにしなさい」
「はい」
「今日はどうされたのですか?」
「ええ。ちょっと逃げて来たのよ。追われるのも疲れるの。それにルーナリアちゃんに用があってね」
「私ですか?」
「そうよ。この前に話したルーナリアちゃんの家族の件が片付きそうなのよ」
「そうなのですか。母上」
「もう、マルク。焦らない」
「はい」
「まぁ簡単に言うと、ガルドがどうやらリーナリアちゃんの家族を自分の部下にする話が進みそうなの。今の待遇より少し良くなってね」
「そうですか。リネア様、ありがとうございます」
「私じゃなく、ガルドとラルクと陛下が頑張ったのよ」
「陛下が」
「ええ。それでね。アルメニア家は何故か貴族派にお金を払ってたみたいなの。今の地位を保つために。でもね、そんな事をしなくてもどうにでもなるのにね。慕う人たちを間違えてたのよ。あんな連中は慕う必要なんかないのにね」
「母上、お言葉が。皆が戸惑っています」
「あら。そうね。まぁ。だからルーナリアちゃんはもう少ししたら、貴族派の子息の話を聞かなくてもいいわ。解決するのは来週くらいかしらね」
「ありがとうございます」
「ふふ。そんな謝辞なんかいいわ。ラルクも、ガルドも友達を救えずに心に引っかかっていたの。それがその娘さんと家族を救えて嬉しいのよ。私もね」
「でも、感謝したいのです。父の件以降、誰も手を差し出してくれませんでした。その中でリネア様が助けてくれました」
「ふふ。マルクの友達で、ラルクの友達の娘を救うのは当たり前よ」
「そうだよ。ルーナ。友達なら当たり前だよ」
「マルク、ありがとう」
涙を流しながら、感謝を言うルーナ。俺は友達の手を離さないことができたかな?
「さあ、昼ごはんにしましょう」
「「「「「はい」」」」」
こうして、部室は何だか、緊張感があるが、とても暖かい雰囲気になった。




