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友②

授業が終わり、部室に行く。ルーナに会いに行く。いつもは授業が多い日はあまり行かない。だから今日は会えると思う。

「こんにちは。ミリア先輩、ルーナ」

「私はこれで」


「ちょっと待って、ルーナ」

「私に構わないでください。マルク君に関わるのはダメなんです」

「貴族派かな。それとも俺は嫌われたのかな?」

「わかっているくせに聞くのはずるいです。嫌っていません。嫌っていたら、部室には来ません」


「そうなんだね。じゃあ、やっぱり貴族派だよね」

「ええ、そうです。でも、どうしようもないんです。私の家は貴族派に属します。祖父も、叔父も私が貴族派に歯向かえば仕事がなくなります。マルクみたいに皆が強くは生きられないのです」

「そうか」


「マルクはわかっていません。父は、マルク・トルネストはダメな人でした。同じマルクなのに、マルクの様に、父上は強くなかったのです」

「マルク・トルネストさんがルーナの父上?」


「ええ、そうです。あのマルク・トルネストです。間違った理論を本にして、国を追われた。父の事を隠すために、私と母はトルネストの名を捨て、母の実家を頼りました。それからは肩身の狭い思いをして過ごしましたが、私が3属性の魔法スキルを有したことで、貴族派から祖父や叔父が支援を受けれて、それで何とか暮らしています。それを捨てるのはできません。父を否定しなくては生きていけないのです。私は父が好きでした。でも今はそれを隠し、貴族派の言う事を聞き、父上を悪く言われようが、笑うのです。そして、大好きな父を擁護してくれる貴方を無視しなくてはいけないのです」

「ごめん」

ルーナは感情を爆発させるみたいに、早口で言ってきた。きっと、何年も溜めてきた何かだ。

他人の俺がわかるるもんじゃない。俺は自然に呟いていた。


「謝らないでください。貴方が悪いんじゃない。私の弱さがいけないのです。分かっています。でも貴方の様に全てをかけて、自分にできない事を受け入れ、前に進む事をできないのです」

「俺だって」


「わかっています。貴方は決して英雄の様に優れているわけでも、誰にも負けない強さがある人でもありませんでした。

最初は貴族派の人に近づけと言われて、話しかけました。でも本当は、少し話をしてみたかった。入学式で見た貴方は、最弱、無能と言われるスキルしかないのに、決して暗く辛そうな人ではなく、真っ直ぐと強い笑顔をする人でした。私は貴方が英雄の様な人だと思いました。どんな辛い状況でも答えを見つけ進む人、私にはできないと思ってました。だから話してみたいと思ったんです。

でも話をしてみると、それは間違いでした。貴方は普通の人でした。それでもきっと努力を怠らない人、負けたくないともがくだけの人でした。物語の英雄とは違い、辛い状況で無理矢理に笑い、努力する人でした。本当の英雄とはこういう人を指すのかもと思いました。

そして魔法を撃ちたいと、自分と同じようにスキルがない人でも撃てる様にしたいと言っていた貴方はかっこよかったです。

多分魔法を撃つ方法を見つけたのでないですか?父の理論をしっかりと理解して否定している時、ガレス先生の話に反論している時、そう感じました」


「いや」

「答えは大丈夫です。あくまで、私の邪推です。でも、それは私には眩しかった。貴方の様になりたいと思いながら、貴族派の言う事を聞き、貴方と話す事をしない私には」

「元には戻れないかな」

「無理です。貴族派の言う事に反したら、母も私も居場所をなくします。私は学院に通えません。それに一度裏切った私がマルクの横に立つ事は、私自身が許せないです」


トントン。ドアをノックする音が鳴る。

「入りますね」

「入るわよ」


「「レアリア先生、リネア様?」」

「レア先生、母上」

「さっきから大きな声で話しているみたいね。何を言っているかはわからないけど、廊下に大きな声が聞こえているわ」


「え?」

「大丈夫よ。廊下は誰もいないわ」

「はい」

「母上、どうしてこんな時間まで?それに部室に?」

「ふふ。レアと話してたら遅くなってね。ついでだからマルクと帰ろうかとここに来たの」

「そうですか」


「で、何があったのかしら?」

それから、ルーナは黙っていたが、何度も母上が聞くので、根負けしてさっきの話をした。


「そう、やっぱり、トルネストの」

「え?母上は知ってらっしゃったのですか?」


「ええ。ラルクから聞いたの。貴方がルーナリア・アルメニアさんと友人になったって言ってたでしょ。ラルクはマルク・トルネストとは友人だったのよ。いや、戦友で弟みたいだったわね」

「じゃあ、大戦で」

衝撃の事実だ。だからトルネストさんの書物が我が家の書庫にあったのか。


「ええ。天月大戦でね。トルネストは天月大戦でラルクとシグルソンの部隊にいたことがあったわ。そのあとはラルクとは違う軍、ガリシアン家の軍にいたらしいわ。」

「え?」

「ルーナリアさん、貴方も知らなかったのね?」

「はい」


「そう。トルネストも活躍したのだけど、ラルクがね。王国では一番活躍したのよ。その隣にいたから目立たなかったのね。私もあの時は結界だなんだで目立ったから、それもあるわね」

「そうですか」

俺には、ルーナの表情が複雑そうな感情を表したように、泣いているようで、それでいて笑っているようでもあると思えた。


「ええ。ラルクはトルネストがあの本を出した後に、貴族派に潰されていくのを、どうにもできなかったのを、救えなかったと嘆いていたわ。トルネストが焦っていたと。友人として気づいてやれれば、もう少しやりようはあったのにと」

「そうですか」


「もしよければ、貴方と貴方のお母様を支援させてくださらない?」

「え?」

「きっと、陛下も、ガルドも支援してくれるわ。2人もトルネストの件は嘆いていたのよ」

「・・・そうですか」


「ええ。あの当時は大戦が終わった後の復興が大変な時期だったから、色々と大変でね。それで、貴族派の行動を御するのができなかったのよ。聖国もうるさいしね」

「それで何とか、救おうとラルクも動いたのだけど、どうにもね。だから今なら貴族派も力を失っているし、貴方と貴方の家族くらいは何とかするわ」

「でも」


「歩き出すか、止まるかは貴方次第よ。でも私もマルクも貴方が助けてと手を出した時はいつでも助けるわ。貴方は自分を信じられないんじゃない?自分を許せないんじゃない?大好きな父を捨て、尊敬したマルクを裏切って。でもね、人は間違うのよ。それを許してくれるのが、家族と友達だけ。それを忘れちゃダメ」

「はい」


ルーナはまるで、何かを噛み締めるかのように涙を流した。それは多分、マルク・トルネストさんへの愛だろう。それを無理矢理に捨てた事を悔やんでいたことへの気持ちだろう。他人が言葉になんかできないもの、理解できないものだ。


「そう、それで私は支援していいのね?」

「はい。お願いします」


「そう。まだ今のままでいきましょう。マルク、ルーナリアさんと話すのはこの部室だけにしなさい。それ以外は話してはいけません。こっちの準備ができるまでは」

「わかりました。母上」


「いい返事ね。ルーナリアさんも、今までと変わらずにいるのよ。貴族派の言う事をもう少し聞いていて。ちゃんとラルクとガルドに仕事させるから。それとレアちゃん、貴方はルーナリアさんをフォローしてあげて」

「「「はい」」」


「あと、貴方は」

「ミリア・リニエです」

「ミリアちゃんも今日の事は秘密ね」

「はい」

「それじゃあ、マルク、帰るわよ。皆さん、失礼するわ」

「「「「はい」」」」


こうして、俺と母上は部室を後にして、帰った。帰った時には夕食で、すでに父上もお帰りになっていた。

「あら、ラルク、ただいま。ごめんなさい。私とマルクも今帰ったばかりなの」

「大丈夫だ。リネア、マルク、ただいま」

「おかえりなさい。父上」


「ああ。どうしたんだ?遅かったな」

「ええ。少しね。先に夕食にしましょう」

「ああ」

父上らと食卓に座る。メイドたちが配膳してくれる。


「それで、何があったのだ?」

「ええ。ラルク、ほらルーナリアさんよ」

「ああ。トルネストの娘か」


「ええ。彼女が貴族派に脅かされて、マルクと仲良くすると家族が大変みたいなの。だからラルク、ね?救えないかしら?」

「そうか。やはり。アルメニアは貴族派だからな。まあ。わかった」

「アルメニア家はどんな家なのですか?」

父上の表情が曇る。


「ああ、元々は魔術師の家系でな。数代前に宮廷魔術師を出してから、一時期は良かったがここのところ才能がある子が生まれなくてな。最近は魔術研究所の仕事をしている法衣貴族だ。いつお取り潰しとなってもおかしくない貴族だな。それで、魔術師として才能があったマルク・トルネストと娘を婚姻させたんだがな」

「そうですか。トルネスト家はどうなのです」


「トルネスト家は小さいながらも領地を持つ貴族だ。まあ、あいつは本の件でな、色々とあって、家は分家が継いで、あいつとあいつの家族は家の取り潰しを逃れるために家を追放されてな」

「そうなのですか」

「ああ」


「じゃあ、ガルドと陛下にもよろしくね」

「ああ。あいつらもあの時は悔しそうだったからな。後輩を救えず」

俺は驚いた。そうなのか。


「父上だけでなく、宰相や陛下も仲が良かったのですか?」

「うん?俺とトルネストが仲よかったのを知っているのか?」

「先ほど、母上より聞きました」


「そうか。トルネストは俺らの一代下でな。俺は学院時代は関わり少なかったが、ガルド達は仲が良かったらしい。まぁその後、俺とトルネストは天月大戦で一緒の部隊に入り、仲良くなったがな」

「そうなのですか」


「その後のことはリネアから聞いたか?」

「はい。本の件の時、父上はどうにかしようとなされたが、復興期で貴族派を追い出す事は出来ずに救えなかったと」

「そうか。そこまで聞いたか」

「はい」


「うむ。だからな。アルメニアと聞いた時に、すぐに気づいた。あいつはいい奴でな。弟みたい奴だった。俺に憧れてるとよく言っていた。あの時も本を出し、俺を超えるなどと言っていた時に、あいつの焦燥に気づけばよかった」

「そうですか」

父上は今度は悔しさがに伝わってくる。口角が上がり、歯を噛みしめているようだ。父上にとっては悔しい、辛い出来事だったんだろう。


「ああ。友とは難しいものだ。友だからこそ言えぬ事もある」

「ええ」

「マルクも気づいたか?まだ彼女は救える。お前は手を離すな。俺は離してしまった」

「はい」

俺の決意は固まった。


「うむ。学院に入ってよかったな」

「はい。良い友や先輩に囲まれて、本当に良かったです」

「そうか。マルク、覚えておけ。英雄なんてのはな、本当は、なんでもできる様な者ではない。ほんの少し活躍する場を与えられ、皆に担がれる神輿だ。お前はそれを忘れるな。俺はあの時まで、それを忘れていた。周りを大事にしてればな。大事なものを守れたのにな」

「父上。今の教えを決して忘れませぬ」

「そうか」


父上の顔は少し寂しそうだった。トルネストさんの本があったのは、彼を忘れないためかもしれない。


友という者との距離間のお話でした。一章出てきたマルク・トルネストさんの回収です。

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