父と同じ問題児
こうして魔法学Ⅰの授業を抜けて、部室に来た。部室で研究していると、レア先生がいらっしゃった。
「マルク、魔法学のカレス先生に喧嘩をふっかけましたね」
「あっちから吹っかけたのです」
「そうですか?先生は、『あいつが授業を取る限り、授業はしない』とおっしゃいました」
「そうですか。じゃあ、違う授業に変更すべきですかね」
「そのことで学院長室に来てもらいます」
「はあ、わかりました」
そう言われて、学院長室に連れてこられた。
「マルク君、困りましたね」
「申し訳ありません。忍耐が足りず。先生を怒らせてしまいました」
「行動が間違いではなく、結果を間違えたという事ですか?」
「いえ、やったことも問題と捉えています。他の生徒の時間を、学ぶ機会を奪いました」
「そうですか、先生には悪いとは思わないが、他の生徒に申し訳ないと」
「ええ。そう思っています。申し訳ありません」
「はあ、ラルクにそっくりです」
「父上を知っているのですか?」
「ええ、私が学長になって初めての新入生がラルクやガルド、陛下でしたからね」
「そうですか」
「ええ。ラルクは問題を起こすと、先程とよく似たことを言ってましたよ」
「そうなのですか。父上と同じ」
「そういうところは真似しないでほしいですね」
「申し訳ありません」
「まぁ、ガレス先生は問題がありましたからね。スキルレベルの低いものや平民、貴族派のものでないものを蔑み、評価をさげるというのは問題として何度も上がっています。もうこれを機に変えようと思います。ただ、代わりがね」
「そうですか」
「そこで、あなたにある人を説得してきて欲しいのです」
「ある人?」
「ええ、あなたの母親、リネア・ドンナルナです」
「母上を?」
「ええ、リネアほど、優れた魔術師はいません。しかも引退している。それなら問題ないでしょう」
「はぁ。頑張ります。でも理事長が認めないのでは?」
「何を言っているのです。貴方はリネアのことをちゃんと知っていますか?」
「英雄で、聖女で、大賢者で、天才魔術師と呼ばれた人ですか」
「そう、彼女が教員になるというのに、たかがカルバイン如きに何かを言うことなどあり得ません。それに彼女が教員になれば、寄付もすごく入ります。そうなればカルバイン家など無視できます」
「そうですか」
「わかりましたか?頼みますよ」
「わかりました」
「では、今日は授業がないでしょう。帰って説得してきなさい」
「はい」
「説得できなければ2週間は謹慎ですよ」
「えっ?」
「当たり前でしょう。先生を叩きのめすような問題行動をしたのですから」
「はい」
学長室を出て、すぐに家に帰る。どうやって説得しよう。嘘偽りなく言うしかないか?怒られるな。
「ただいま戻りました」
「あら、マルク、早いわね?何かあったの?」
「はい。それで母上に報告と相談が」
「そう、じゃあ食堂で聞くわ。お昼まだでしょ?」
俺は母上の後を追い、食堂に行く。
「それで、何が起きて早く帰って来たの?それと相談って何かしら?」
「はい。まずは今日の出来事を説明します」
「そうね。それを先に聞きたいわ」
「はい。今日は魔法学の授業でした。それで・・・・」
魔法学の授業の話をした。母上は少し怒ったような、呆れたような表情で聞いている。
「そう。それはひどい話ね。でもマルク、貴方もダメよ。目立たないと約束したわよね?」
「はい。申し訳ありません。あまりにも最初に言われた一言に引っかかってしまいました。別に無能と言われるのは耐えられますが、授業を受けるなというのは無理でした。それでは学院に来た意味がなくなります」
「そうね。貴方は学院に入り、魔法理論を完成させるのが目標だものね」
「はい。それで2週間の謹慎になりまして」
「はぁ、そんなところまでラルクに似なくても。でも、その程度で謹慎なんて?学院は何をしているのかしら」
「はぁ。その謹慎を説く条件が母上に魔法学の授業の教師になってもらうことだそうです」
「あら、そういうこと。学院長の仕業ね。そうね。考えさせて」
「もちろんです。私のせいで母上に面倒をかけるのは間違いです。私が我慢して魔法学を諦めればいいのです」
「それは違うわ。子供は親に迷惑をかけていいの。それにマルクが一番辛い時に私もラルクも何もできなかったの。少しの迷惑なんてどうってことないわ。マルクは何でもかんでも自分で抱えすぎよ」
「ありがとうございます。母上」
「まぁラルクと相談して決めるわ」
その後、俺は昼食を食べ、いつも通り訓練して、夕食を食べ、部屋で瞑想の訓練をして、借りて来た資料を読み漁った。
マルクが資料を読んでいる中、ラルクの執務室では
「ラルク、どうかしら」
「そうだな。リネアがいいなら、大丈夫だ」
「そう、じゃあ、どうしようかしら。マルクの事を思うと、してあげたいのよね」
「リネア様がしたいようにするのがいいでしょう?何かあればこのゼル、命をかけてお守りします」
「うむ。俺もどうにかする。家族なら当たり前だ」
「そうね。家族なら、家族の為に何かをするのは当たり前ね。決めたわ。私、やるわ。数年だけどね。それに授業を受け持つだけ」
「そうだな。それがいいだろう」
「ええ」
「ありがとう。ラルク、ゼル」
「ええ。マルク様も喜ぶでしょう」
「しかし、俺にそこは似なくてもな」
「そうね。問題児までね」
「勘弁してくれ、リネア」
「ふふ。そうね」
2日後、俺は母上と学院に行き、母上が学院の教員になる事が決まり、その場で謹慎を解かれた。なので、そのまま授業を受けて、それから帰った。謹慎は1日半ほどで、終わった。




