授業初日② 午後の授業と部活
もうレオナらが食堂で席を取っていてくれたので、その席に着く。
「ねえ、実技の授業はどうだった?」
「授業はトーナメントで実力を知るっていうので、マルクが皆をコテンパンにしたよ。」
「えっ、スキルは確か?」
「そうだよ。ルーナ」
「でも、コテンパンって」
「ああ、スキルなしの試合だからね」
「いや、途中、スキルを使われたよ」
「まあ、あれは使ったのかな。使い方も知らないと思うよ。先生も言ってたけど、技量が全くだめだ。あれじゃぁ、宝の持ち腐れだよ」
「アレス、相手のスキルはすごくないの?」
「レオナ、いや、アクセラレーションはすごいスキルだよ」
「アクセラレーションって加速するスキルだよね?」
「ああ、そうだね。マルクはそれを全く相手にせずに、武器を奪って勝ったよ」
「すごい」
「ルーナ、その通りだ」
「アレスは褒めすぎだよ。あいつがもっとスキルを使えて、武術に真面目に励んでいたら、勝てなかったよ」
「そう」
「レオナ、そっちは?」
「そこそこだよ。走るのが多いね」
「そうか。走るのができれば逃げれるからね」
「うん」
「午後は基礎戦術学だね。レオナ、頑張ろう」
「マルクは講義で寝そうだね」
「いや、寝ないよ」
「本当かな」
「レオナ、本当だよ」
そんな話をしながらご飯を食べていると、変なのが絡んできた。
「いや〜、無能の匂いがする。臭いな〜」
「・・・」
「無能は喋れないのかな」
「・・・」
「おい、無視するな」
「・・・」
「おい、俺を誰だと思っている?ガルバイン家の嫡男、ヨークス・ガルバインだぞ」
「・・・」
「マルク・ドンナルナ」
「ああ、俺を呼んでいたの?知らなかった。それはごめん。無能って名前じゃないから、わからなかった。どうでもいいけど、授業があるから、じゃあね。」
「な、お前」
何か言っているけど、無視するよ。面倒だ。
そして、午後の授業だ。基礎戦術学だ。授業は前半は講義形式で、後半のコマは対戦形式だ。後半はレオナの独壇場だろうな。ちなみに、アレスは歴史の授業、ルーナは魔法スキルの授業だ。
「マルク、今日の対戦形式は一緒に組みましょう」
「ああ。いいよ。お手柔らかにね」
「ふふ。戦術勝負に手を抜くというのはないわ」
「目が怖いよ」
「えっ?あっ?そんなことないよね?」
「うん、そうだね。冗談だよ」
女性のこういうところを気にするのは、どこでも、誰でも変わらない。
前半の講義は、まあ、面白かった。大戦のある一戦の帝国軍の戦術と王国軍の戦術を比較検討した。王国軍はガリシアン家の当時の当主、つまり先代、帝国軍は凡庸な将軍と言われる人(王国側では)だ。
ただ、どちらも、非常に優れた作戦で、王国側もそれなりの死傷者を出した一戦だ。ただ、帝国の方がだいぶ多かった。事前の策がうまく言ったと言っていい。これは現在のガリシアン家現当主である軍務大臣が先代の元で、戦略を担当した結果というのが真相らしい。
先生の説明では、事前に相手が重装兵が多く歩が遅いことから、急襲し、一点突破させたというのが説明だった。確かにそう見えるが、王国側も結局、攻める際に沼地を行かなくてはいけず、しかもかなりの兵が重装備で待ち受けていたことを見ると、そこは相手もわかっていて、待ち構えたということだろう。
しかし、それを読んだガリシアン軍は背後からの伏兵によって、相手側の兵を混乱させた上で、主攻によるランチェスター戦術を行なったのだろう。前から来るはずの兵を待ち構えていたら、後ろから兵が来るとなると焦るだろうな。
そんなんで、前半のコマは終わり、休憩を挟んで、対戦形式の授業である。これはコマを使う戦争シミュレーターゲームだ。仮装戦場で、コマを動かしながら戦う。審判にコマの動かしたい所や種類など、また伏兵などを伝える。それによって、審判が判断し、敵に見つかったコマなどを戦場に表す。さらに勝ち負けや倒したかなどを判定をする。これはかなり細かい判断となり、どう判断するかはルールがしっかりあり、先生が審判をする。
「レオナ、負けないよ」
「ええ、手を抜かないわよ」
「ああ。当たり前だよ」
そんな会話の後、俺たちは戦術戦を始める。
まず、最初に戦力の振り分けと本陣を置く場所と兵糧の場所を決める。俺は南側が陣地、本陣を戦場の俺から見て左手側の山に置く。そして、斥候部隊を左翼から山なりに進ませる。戦力は右翼に軽装騎兵、真ん中に重装歩兵、左翼に弓兵と重装騎兵を置く。
魔法兵を重装歩兵と軽装騎兵の後ろに置く。シンプルな囲い型。なお、伏兵を右翼の南側にある谷に隠す。これは騎馬弓兵だ。兵糧は本陣の山付近と谷付近の森に分けて置いた。これには気づかないと思うが、レオナが相手だから油断できないかな。勝負は両翼だな。
相手の布陣は、見える範囲は真ん中に重装歩兵と重装騎兵、俺から見て左翼に弓兵と軽装騎兵、右翼に軽装騎兵と歩兵だ。真ん中に魔法兵か。お互いに真ん中で受け、両翼で勝ち、囲うのが勝ちだろう。
戦術戦が始まる。お互いに両翼を動かす。その後真ん中の兵を動かし、様子を見る。俺は斥候部隊を動かし、相手の兵糧を探す。あれを奪うか燃やせばかなり有利だ。レオナは俺から見て右翼の騎兵と弓兵を動かしてきた。俺は騎兵を動かして、ぶつける。さらに真ん中を前に出した。これは斜陣かな。珍しい陣形になった。俺は騎馬弓兵を動かす。一気に騎馬弓兵と軽装騎兵と一緒に挟む。
レオナは一瞬驚いた様子だが、冷静に真ん中の重装騎兵を動かして右翼にぶつけ、軽装騎兵を騎馬弓兵にぶつけようとする。さらに歩兵を前に進ませる。俺は左翼の重装騎兵を動かして左翼と真ん中を有利に持ち込もうとする。しかし、そこに伏兵が来た。魔法兵だ。少ないと思ったがやられた。魔法による攻撃で戦線を一部崩された。
一気に重装騎兵がかなりの被害だ。相手も軽装騎兵にかなりの損害があり、真ん中も重装歩兵の数でこっちが有利だ。俺とレオナの両翼は痛みわけだ。俺は魔法兵を動かして右翼を一気に攻める。レオナは左翼を進める。俺は重装歩兵を真ん中からある程度左翼に行かせ、防ぐ。こうなると、あとはお互いに真ん中の主攻で勝負を決めるということになる。でもそこはいい勝負なるはずだ。
だが、予想に反して、ここからがやられたい放題だった。俺がレオナ軍の兵糧を見つけられないのに、レオナは見つけて、俺の軍の兵糧は燃やされた。さらにレオナ軍の左翼の残った重装騎兵や魔法兵が真ん中の重装歩兵を攻撃、俺も相手の重装歩兵を右翼の魔法兵や騎馬弓兵で攻撃するが、一歩及ばず負けた。
「弓兵には驚いたわ。騎馬弓兵か、素晴らしい策だわ。それを伏兵にして谷に隠すなんて、軽装騎兵を捨てるしかなかったわ。何かするなら右翼だろうとは思っていたけど。そんなスピード重視の布陣とは思わなかったわ」
「ああ、俺も魔法兵を伏兵とは思わなかった。こっちの右翼側に伏兵は配置してくると思ったけど、まさか左翼の重装騎兵対策とは。しかも虎の子の魔法兵とは恐れいったよ」
「うむ。両者共に、実に良い伏兵だった。ただ、失ったものがマルク君側が大きかったでしょうかね。兵糧を失ったのは痛かったですね。あれにより士気の低下を判定しましたが、それがなければ歩兵の数でうまく切り抜けたでしょう。それと重装騎兵の損害の大きさです」
「はい。先生、正直に言うと、重装騎兵を減らせなければ負けていたと思います。また兵糧を見つけられないと負けていたと思います」
「レオナの斜めの陣にやられました。左翼がぶつかるのが遅く、魔法兵の餌食になりました。あれが痛く、また兵糧をどうしてわかったかが聞きたいです」
「兵糧を分けたのはいい案だったわ。その案は今度から使うわ。でも隠した場所が一般的すぎたわ」
「そうか、もっと隠す場所を考えるべきか」
レオナの作戦は面白かった。まず軽装騎兵を左翼真ん中に押し込み重装騎兵で対策、伏兵は軽装騎兵を当てるはずだった。しかし、騎馬弓兵で作戦は覆された。しかし、第2案の左翼が出て来たときに、時間を作り、そこに魔法兵を仕掛け、重装騎兵を潰す策がはまった。その結果、自身の左翼はかなり被害を出したが、重装騎兵で俺のをやっつけた上で、自身左翼側で五分五分の状況に持ち込み、レオナの右翼側の有利で戦線を進めるという案を採用できたと言うことらしい。やられた。
こうして俺とレオナの対戦は終わった。他の皆の戦術を見たがレオナより明らかに下だった。特にガリシアンの四男ルイーズは酷かった。語ることもないくらい。あれがガリシアンか。見放されたんだろう。俺とレオナの一戦を見てる時は顔を歪め、静かだった。基礎戦術学は終わった。大変な授業だったが、かなり収穫のある授業だった。
今日の授業が終わり、ルーナと合流して、魔術詠唱研究会の部室に向かう。部室で先輩らに挨拶して、古代言語の資料と詠唱に関する資料を借りたい。
それと、スキルを使わずにマナを動したり、見たりする方法を見つけるために資料を見つけ出したい。魔法理論を見つけ、しっかり誰でも使えるようにしないと聖国に潰されるのがオチだ。誰でも使えるようになれば、王国も聖国とぶつかっても権益を守るだろう。
部室の前に来た。結局、俺とルーナ以外は部に入らなかったようだ。部室に入るためドアをノックする。
「失礼します。マルク・ドンナルナ、入ります」
「ルーナリア・アルメニア、入ります」
「やあ、来たね」
「お疲れ様です。サリー先輩」
「こんにちは。サリー先輩」
「こんにちは、ルーナちゃん、マルク君」
「まずは入部してくれてありがとう」
「いいえ。俺は自分の目標のためですから」
「私も目標のためです」
「そう。今日からは各自研究よ。うちの部は特に先輩後輩とかうるさくないし、お互いの研究のために、意見を出し合う事もしょっちゅうね。それで、喧嘩する事もあるんだけど」
「そうですか、それはいいですね。喧嘩はしたくないですが」
「はい。私もあまり先輩後輩にうるさいのは苦手なので嬉しいです」
「そうね。喧嘩はまぁしたくないわね。そうそう、毎日来る必要もないし、来たい時はいつでも来てね。これ合鍵よ。2人分あるから。まぁ、レア先生以外には黙っておいてね。この部の伝統だから、先生方は勝手に合鍵を作っていることを黙認してくれているみたいだけど」
「「わかりました」」
「それと、マルク君のお姉様2人はうちのOBになるわよね。今度、お会いできないかしら?あのお二人の研究はすごいの。色々とお聞きしたいのよね」
「はあ。2人の休みが学院の授業の日にかぶれば大丈夫かと思います。聞いておきます」
「そう、ありがとう。研究で困った事や学院のことで聞きたいことは何でも聞いて」
「ありがとうございます」
「ミリアはまだ来てないのかな?来たら挨拶させるから」
うん?なんか書類の山が動いた。人が出て来た。
「「「え?」」」
「もういる。サリー」
「ミリア、もういつも言っているけど、書類は片付ける。その中で寝ない。レア先生を何度もびっくりさせたでしょう」
「うん。わかっているけど眠い」
ドアがノックされる。誰か入ってくる。レア先生か?
「皆さん、お集まりですね。今日から魔術詠唱研究会は4人となります。これから頑張って部員を増やして、盛り上げましょう」
「「「はい」」」
「ミリアさん?」
「・・・はい」
「もう、ミリア、私たちは3年生だから、人を増やさないとマルク君たちが大変でしょう?」
「わかっている」
「ちゃんとしないと、マルク君がメル様やエルカ様を連れて来てくれないよ」
「!?それは嫌〜。マルク君、しっかりするから、エルカ様を連れて来てね」
どうやらミリア先輩はエルカ姉様の信者のようだ。喋り方が似てるのは似せてるんだね。
「大丈夫です。ちゃんと連れて来ます」
「そう。それなら、いい」
「今日は何をするんですか?」
「そうね。基本は自由よ。夏休み空けに部内発表会をして、優秀なものは学内の文化祭で発表したり、国内の学会に出すわ。まぁ、魔法学院の生徒や宮廷魔術師もいて、学会ではなかなか通らないけど。メル様はあの超魔法、『アースキャノン』を発表して、学会で賞賛をもらったけど」
「エルカ様は回復魔法と防御付与魔法の『リジェネ・プロテクション』を発表して学会に取り上げられたのよ」
「すごいです」
「レアリア先生は詠唱の分類化をして、学会に取り上げられたわ」
「御三人がいらっしゃった時は魔法詠唱研究会に入ることが、魔法を使える者にとって王立学院で一番の名誉だったの。その当時の魔法詠唱研究会の方はレア先生以外は皆、宮廷魔術師か宮廷回復士をしているわ」
「マルクのお姉様方はすごいです」
「はは。俺以外の家族は皆すごいんだ」
「そうね。私の2つ上のアルフ様は、入学当時から武闘オーラを発動できて、王立学院史上最強と言われた方、ラルク様とリネア様に関してはもう説明もいらないわね」
「レアリア先生の言う通り、俺の家族は皆英雄だよ。俺は出涸らしかな」
「マルクはそんなことはないです」
「そうね、マルク君もすごいわ。今日、実技のリンドルフ先生に聞いたら、A組の生徒がスキルを使ったのに、相手にもせずに倒したらしいわね」
「ああ、あれは彼奴が弱いだけです。スキルの使い方も、武術もてんでダメだっただけです」
「ふふ。そうね」
「レアリア先生?」
「ごめんなさい。もう十分に自己紹介も終わったわね。マルク君、ルーナリアさん、入部を歓迎するわ」
「はい、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「では、解散」
「ミリアさん、そこ片付けるように」
「!?サリー助けて」
「はあ、しょうがないな」
「俺も手伝います。そのかわり、古代文字に関する資料と詠唱文字に関する資料、あとできれば、マナを見る方法や操作する方法に関する資料を貸してください」
「うん。えらい。マルク君、用意する」
「ありがとうございます」
「私も手伝います」
「ルーナちゃん。好き」
「・・・」
「ははは。ルーナちゃんに引かれたわね。ミリア」
「むっ、サリー」
「はいはい。片付けましょう。ほら、ミリアさん、動く。私も手伝いますから」
「先生〜」
「ほらほら」
こうして、部室の片付けをすることになった俺は片付けを終え、古代文字と詠唱の言葉の分類化に関する資料を借りて帰った。マナ操作の理論はスキルありきのようで無駄になるから今回は持ち帰らなかった。
学院の1日目を終え、帰宅した。まず、家に着くと、ゼルとやり残した武闘オーラの訓練と模擬戦を行い、魔法の訓練とスキルの訓練を母上と行った。そして夕食をとり、今日の授業の復習と明日の授業の予習をして、借りて来た研究資料を読んで寝た。




