授業の初日 実技の授業
1週間後
俺は朝早く起きて、訓練だ。とはいえ、学院までの少ない時間のため、基礎を徹底してやる。ここを蔑ろにすると、一気にダメになる。何事も基礎が一番大事だ。早い突き、早い武闘オーラの練り、これが初歩にして、奥義なんだ。
「よし、今日の分は終わり。もっと早く終わらせられるようにして、ゼルと少しでも打ち合いをしたい」
「ええ。でも基礎の訓練が粗くなるようではいけません」
「そうだね。基礎は早く、丁寧にだ」
「そうです。それを忘れぬよう。勉学も同じですぞ。授業を蔑ろにすれば、必ず、しっぺ返しを食らいます」
「ああ。肝に銘じるよ」
「そうでしたらいいのです」
「ああ、ありがとうゼル」
「いいえ」
こうして、訓練を終えて汗を流し、食事をして、学院に向かう。今日から授業が始まる。今までの1週間は、校舎を見学したり、先生方や先輩との顔合わせなどのオリエンテーションだった。
「やあ、マルク。なんだかスッキリした顔だね」
「ああ、朝から槍術の訓練をして来たからね。それに、色々と考えて、基礎を蔑ろにしてたのに昨日、父上や兄上らとの訓練で気づいたから」
「そう、朝から。すごいな」
「そんなことないよ。できることをするってことだよ」
「まあ、そうだね」
「おはよう、マルク。朝からなんだかシャッキとしてるわね」
「ああ、朝から訓練したんだ。今日から授業を頑張るよ」
「そう、本当に訓練が好きね。それはそうと、今日は実技よね」
「ああ、実技だ。その後は基礎戦術学だね。今日は一緒だね」
「ええ、でも実技は別だけどね」
「ああ、そうなんだね。まあそうか」
「ええ」
「おはようございます。マルク」
「おはよう、ルーナ」
「今日も元気そうで」
「うん、そうだ。授業は一緒じゃないけど、お昼は一緒に食べようよ」
「はい」
「じゃあ、お昼は食堂に集合しよう」
「はい」
「レオナもそれでいい?」
「うん」
こんな話をしてたら、ホームルームの時間になった。
「皆さん、今日から授業が始まります。しっかりと学び、頑張ってください」
「「「「「はい」」」」」
「アレス、実技で組もうよ。」
「ああ。マルクと訓練するの久しぶりだね」
「うん。今日も負けないけどね」
「今日こそ勝ってやる」
「望むところだ」
「新入生諸君、今日は初授業だな。まずは今日は2人一組で模擬戦をしてもらう。その後、トーナメントだ。皆の実力を図ると共に自身の立ち位置を知る良い機会だ。頑張るんだぞ」
「「「はい」」」
「マルク、じゃあ、始めようか」
「ああ。アレス」
「よし行くぞ」
俺は、半身になり、少し距離を図る。アレスは剣を構える。その剣は両手持ちの剣で、剣先は細く、途中は幅が広くなる。レイピアほど剣が細くない。打突 と叩き切る両方をできる剣だ。
ここから、アレスが少し距離を詰めてくる。もう少しで俺の距離だ。来た。右足に力を込め、地面を蹴り、一気に左足を踏み込む突く。アレスはギリギリで剣で弾くが完全に体勢を崩す。ここから一気に踏み込み、切り上げに行く。アレスは剣で防ごうとするが、もう遅い。剣を弾き、首に槍先をつけ、終わりだ。
「マルク、負けだ」
「ああ」
槍を収める。
「今日も負けか。次は勝つ」
「ああ。いつでも挑戦を受けるよ。いつも俺が勝てるように、もっと強くなれるよう頑張るよ」
「はは、本当にマルクはすごいよ」
「ははは、あいつ、無能に負けたよ」
「ああ、あいつ弱いな」
「あはははは」
「あいつら」
「マルク、言わせておけばいい。後でトーナメントをするんだ。あいつらは恥をかくだけだ」
「そうか。トーナメントでぶちのめしてやればいいか」
「マルクが言うと怖いな。多分あいつらは自信を全て崩されるだろうよ」
「いや、スキルがなんちゃらとか言い出す」
「そうかもな」
「さあ。みんな、模擬戦は終わったな。ではトーナメントを始めよう。スキルはなしだ、いいな」
くじで順番を決めた。俺は2番目だった。さっき笑ったやつとだ。ぶちのめしてやろう。
最初の一戦は長くかかった。どちらも弱い。さっき笑ったやつの1人が勝った。俺の次の対戦相手はあいつだ。まずは目の前の奴に勝ち、次はあいつを倒す。その前に最初の相手を笑ったことを後悔させよう。アレスは真面目に取り組んでいる。それを笑うのは許せない。
試合開始と同時に、俺は半身になる。すると、相手は俺の動きを探ることもなく、いきなり俺の間に入ってきた。そんな隙だらけならば、俺は一気に踏み込み、突く。結果、相手は俺の突きを避けることもできずに後ろに吹っ飛んだ。こいつは弱すぎる。
近づいて手を出して立たせる。当たる瞬間にかなり手加減した。見た目ほど、痛くはないはずだ。
「次に笑ったら、今度は本気でやるから」
俺が耳元で呟くと、相手はかなり顔を引きつらせて頷いた。
「マルクお疲れ、俺も勝ったよ。マルクの相手はbだって」
「そうなんだ。アレスの方が100倍強いよ」
「ありがとう」
「ああ」
次の相手も一気に突きで終わった。アレスを笑っていた癖に、こいつも弱い。こんな奴らが幅を効かせたら、この学院のレベルも、王国のレベルも下がる。
なんで弱いのに粋がるんだ。スキルだけじゃ意味ないだろ。周りから学び、鍛錬し、自身を高めて、それで初めて半人前だ。そこから幾度も苦難を乗り越えて一人前だ。それを何にもしていないのにスキルごときで偉ぶるから弱い。本当にこんなことも知らないから、貴族派やスキル重視の連中はダメなんだ。
次の試合はaクラスらしい。なんだか喚いている。
「俺はaだぞ。優秀なんだ。なんで、あんな無能とやらなくてはいけない。あいつを殺すぞ。いいのか?」
「いいから戦え。この授業を落としたくなければな」
「は、殺しても文句言うなよ。先生が責任を取れよ」
「いいからやらない?」
「なんだと、無能。舐めているのか?無能の分際で」
「はいはい。やろう」
先生が大きい声で注意する。
「おい、スキルは禁止だからな。使ったらその瞬間負けにする」
「へっ、こんな奴にスキルなんかいるか」
もういいや。とりあえず片付けよう。
俺は開始と共に半身になる。こいつも何の構えもせずにいきなり突っ込んできた。振りは早いけど、それだけだな。これを右に踏み込み避ける。その際に足をかけ、転ばせた。ついで立ち上がるのを待つ。こちらから仕掛けない。こいつにはしっかり力差を理解させる。
奴は、今度は剣を横薙ぎにして攻撃してきた。ただ、何のフェイントもなければ、横薙ぎのスピードも正直言えば本気でやっているのかと疑いたくなるくらい遅く、全くもって問題にならないレベルだ。しかも型も未熟だから、これはカウンターしてくださいという一撃だと思い、反撃を考えた瞬間、あっ、急に早くなった。スキルの使用で先生が止めようとしている。
これじゃ、こいつはなにかとスキルがと言い続けるだろう。多分さっきのはアクセラレーションという加速化のスキルだ。まぁスキルはすごいんだろう。でも使い方はなってない、使う技量もない。全くもってダメ。ここは巻き槍で奪ってやる。まずは最初の一撃を避ける。またスキルを使って、奴は剣を振るって来た。俺はそれに槍を合わせて巻き槍を行い、一気に奪う。
もう剣もない。一気に首に槍を這わせ、終わり。目の前の対戦相手は呆然と俺を見ている。
「そこまで。スキルを使い負けるとは情けない」
「奴もスキルを使ったはずです。引き分けだ」
「使っていない。マルクはお前の剣に槍を合わせて、巻き槍で合わせただけだ。それをされるだけの技量差があっただけだ」
「そんなはずはない。俺のスキルについてこれるはずはない」
「そんなことも気づかないぐらいに、お前は鍛錬不足だ」
俺は彼に近づき、一言だけ告げる。
「君のアクセラレーションは良いスキルだよ。でも、鍛錬も足りない。使い方も悪い。剣の使い方、戦いの仕方もなってない。それではどんなスキルも宝の持ち腐れだ」
奴は悔しそうな顔で、納得していない顔だ。そもそも、無能と言ったのはお前だろ。俺がスキルを『飲み込む』しか持っていないのは知っているだろ。まぁ『飲み込む』はすごいけどな。
そして、結局、アレスと決勝だ。
「また、やるな」
「ああ」
「今度は負けないぞ」
「アレス、そう簡単には強くならない。これは物語じゃない俺らの人生はそう簡単じゃない」
「ああ。それでも勝つぞ」
「よし、その意気込みは買った。本気でこい。こっちも本気でやる」
また、半身になる。今度は間合いを測り合う戦いになった。アレスもここ数戦で戦いになれたのだ。今までは、強い踏み込みで一気に叩き込む戦いを好んでいたが、それではうまくいかない戦いをして来たんだろう。あっちの山はいい相手がいたのか。俺もそっちが良かった。
なかなか間合いをつかませない。だが、右足を一気に踏み込み距離を詰める。アレスはそれに合わせて、前に詰める。それで自分の間合いにしようとする。だが、これはフェイントだ。俺は踏み込んだだけで、距離を詰めていない。相手のアレスが踏み込んで、距離を詰めたところから、一気に踏み込み突きを撃つ。
アレスは避けられず、まともに突きを食らった。勝敗は決まったように見えたが、何とか剣で塞がれた。うまい体をひねり、剣で防いだ。うんいい戦いだ。こういうのがいい。
今度もこっちから仕掛ける。柄返しをして一気に剣の軌道を変えて、隙を作る。そして間合いを詰め、小さいモーションから槍を下げ、切り上げを行う。
アレスは上に上げられた剣を何とか下げて、防ごうとする。そこから、俺は、切り上げで上げた槍を途中で止め、後ろに一歩下がり、もう一度踏み込み、振り下ろし、下げて来た腕に叩き落としをする。アレスは避けようとするが間に合わずに、腕に当たり、剣を落とした。勝敗は決まった。俺は槍をアレスの顔の前で止める。
「そこまで。マルク、アレス、いい戦いだった。素晴らしい一戦だ。皆、彼らの戦いから盗め。いい戦いは学ぶものが多い。マルク、最初のフェイント、最後の連続技は素晴らしかった。最後の切り上げからの叩き落としは実に良い選択だ。これからも励め」
「はい」
「アレス、最初のフェイントに引っかかったところだが、そこから体をひねり、剣で突きを受けたところは素晴らしい。いい守りだ。もっと頑張れば良い騎士になれる。お前は領主として兵を使う側だが、自身の剣技を鍛えれば命を拾うことも多いはずだ。最後にアドバイスだ。盾を持ってみろ。スキルがなくても、良い守りとなるだろう。あとは反復と実践だ。励め」
「はい」
この先生はよく生徒を調べている。そして、よく見てる。それに武術に詳しい。この先生の元なら学院でもよく学べる。これはいい。後、シグルソン教官に学べば、武術はかなり訓練ができる可能性が高い。これは嬉しい誤算だ。しかも剣や他の武器との戦いができるかもしれない。これも家にいる時にはなかなかできない。学院に入ってよかった。
「よし、今日の授業は終わりだ。実技は2限連続だ。この授業でへばらず、一年やり続けるには体力が必要だ。次の授業は徹底して走らせる。自身が身につける防具と武器を持ってこい。それを持って、徹底して走らせてやる」
おお、今度は武器や防具をつけての走破訓練か、これまたよくわかっている。
これをできない奴は戦場で死ぬ。俺も小さい頃は走りまくった。今は常に槍を止まることなく続けることで、ずっと振り続けられる体力をつける訓練もしている。これで体力強化をしている。
まあ、武力向きじゃなくても走ることはできる。文官向きはもっと楽な実技を受けるらしいけどね。そっちは走るなど体力をつけたり、武器を振るうらしい。とにかく基礎を身につけさせるということらしい。できるできないではなく、やればいいらしい。まあ、できない子にやらせても辛いだけだ。それよりも、ただできることで頑張ることも重要だ。レベルの違う中でやっても怪我するし、高い連中も大変だ。同レベルで競うことが大事だとゼルも言っていた。
着替えて食堂に向かおう。皆で食事して、午後の授業だ。




