第一歩②
前話の続き スキルと魔法編です。
『飲み込む』かぁ。
普通に考えれば、何でも飲み込むか、それともどんな量でも飲み込むかだ。まぁ飲み込む物の質か量かだ。
でもそれだけなのか?今まで誰も持っていなかったスキルだぞ?そんなありふれたスキルか?
過去の文献を調べたら、初代レオナルク王やそのお仲間の方々は誰も持っていない特殊なスキルを有し、それで旧大国と戦い、独立したと言われている。その特殊なスキルは初代レオナルク王以外や仲間の方々以外は持つことはなかったと言われている。その血筋たる王家の方々やお仲間の血筋の人間ですら現在、そんなスキルはないらしい。
そう考えると、俺のスキルはただ飲み込めるとは違うと思う。
それだけなら、大食漢とか、〇〇耐性とか、〇〇吸収とか、そんなスキルのはず。でも俺のスキルは『飲み込む』だ。これが何かは試すしか解らないだろうな。
何か飲み込んでみよう。そしたらわかるかも。でもいきなり槍とかはないな。
金属は怖い。毒もなぁ。魔法もなぁ。
うん?魔法?
魔法でなくてマナなら?
俺自身のマナを飲み込んでみよう。そうすれば何かわかるかもしれない。それならあまり被害もないはず。
マナを出す訓練は、小さい頃からやってきた。姉上らが魔法の訓練をするのを見て、マナの動きを感じられた時に、これは訓練できると思い、何年もやってきた。
これは前世の記憶を思い出す前からやっているから、もう2年くらいだ。ほぼ確実にマナを操作し、体の外に出すことはできる。これを飲み込めば。
自分の体の中にあるものだし、被害はないんじゃないか。何も苦しむこともないないはず。
よし、まずは体の中のマナを感じて、少しずつ動かす。あぁ感じる。前に感じたよりもすごく感じる。またマナが増えたな。
よし、これを体の外に出して、口に入れる。・・・飲めた。
あああああああああ。
何だこれは?苦しい。苦しい。体が熱い。燃えるようだ。力が湧いてくる。苦しい。痛い、体が痛い。苦しい。
はぁ、酷い目にあった。
何だこれは?でも何か力が湧く。自分のマナを飲むと強くなるのか?
今だけか?それとも明日以降も強くなる?
わかんないぞ。明日になってみないとわからない。
もし明日も力が湧くなら、姉上にマナを飲ましてもらおう。そうすれば他人のマナを飲めるのかわかる。それで力が湧くのか試さなくちゃ。
それができたら、魔法だ。そして色々と試す。
そんなことを考えてたら、メイドが呼びに来た。姉上が帰って来たらしい。『訓練の用意をして、訓練場に来るように』と伝えて来た。よし、訓練着に着替えてと。
訓練場についた。姉上と母上はもう準備ができているようだ。しかし、姉上は帰ってきたばかりなのに準備万端だ。やる気がすごい。申し訳ない。先日の俺の様子で、心配しているんだろう。
「マルク、準備はいい?」
「はい。母上」
「マル君、今日は魔法を使うから、まずはしっかりと見てて」
「マルク、見てないと殴る」
母上、メル姉、エルカ姉様がそれぞれに言葉をかけてくれる。皆、少しでも俺のためにと気を使ってくれる。この気遣いに応える。期待に応える。それしか俺にはできない。
「マル君、私たちの返事はしてくれないのね?」
「いいえ、メル姉。少し考えごとをしておりました。姉上の優しさに感動して、どう返していければと」
「マルク、私はそんなの求めていない。弟のために何かするのはできる姉なら当たり前。エルカはできる姉様だから」
「はい、エルカ姉様」
「まぁまぁ、エルカ、メル。マルク、まずはマナを練るわ。これができれば魔法の第一歩よ。魔法スキルがなくても、派生スキルのこれはできるかもしれないわ。」
「そうね、マル君ならできるよ。そしてそれができれば魔法スキルも出て来るわ。」
「うん、そうでなければ神を」
「はい。母上、メル姉、エルカ姉様」
本当にエルカ姉様は怖い。本当に神を殺しそうだ。
「じゃあ行くわよ。」
母上のマナが手に集まって行く。
「すごいマナだ」
「えっ?」
「マル君、マナが見えるの?」
「マルクは見えてる。マナの動きを目で追っていた」
「そうなの?エルカの言う通り、目で追えるの?私のマナの動きがわかるの?」
「はい、母上、メル姉。エルカ姉様の言う通り、わかります。」
そう答えると
「じゃあ自分のマナは練ることができるの?」
「はい」
「じゃあ。やってみて」
「はい」
母上に促されマナを練る。
まずは体の中を感じるように、マナを感じる。そして、感じたマナを操作し、掌に集中するように動かして行く。掌に集まったマナを体の外に出す。形は玉でいいだろう。よしできた。
「「えっ」」
「当然、エルカの弟なら当たり前」
「いや、エルカ、違うわ。スキルなしにマナを練っているのよ。普通はここまでできればマナ操作のスキルが出て来るわ」
「お母様、というより、これは魔法じゃないかな?」
「そうね、メル。そうよね」
「ん。こんな魔法聞いたことない」
「ええ、そうよ。聞いたことないわ。母さんでも知らないわよ」
「お母様ですら知らないなら。メルや私が知らないのもしょうがない」
どうやら、俺がやっているマナ操作はすでにスキルが必要どころか魔法になっているらしい。
「ていうか、マルク、これはいつから出来ていたの?」
「もう2年くらい前に」
「どうやって?」
「姉上の訓練を見ていたら、体の中をぼやっとした光が動くのを見えたので、自分でも出来ないか試していたらできました。」
「そう」
「マル君は天才だよ」
「エルカの弟は天才なのは当たり前。まぁマルク、よくやった」
みんなが驚いてくれている。エルカ姉様も驚いている。明らかに褒めた。珍しい。
嬉しいな。母上らの顔がほんのり嬉しそうだ。驚いているけど。
「そうなのね。じゃあ、マナを練るのはもう大丈夫ね。次は属性の魔法を試してみましょう。メル、火魔法で灯火を出してみて」
「はい。お母様」
メル姉が掌に火を出した。無詠唱だ。メル姉と母上は無詠唱ができる。
これが火魔法か。体の中のマナが掌から出る瞬間に変容している。でもどうやっているのだろう。
「メル姉、すごい。でもどうやってマナを変容させてるの?」
「「「えっ?」」」
母上たちが驚いた。
「うん?母上、俺が何か変なこと言った?」
「マナを変容って言ったわ」
「違うの?」
「違うわ。マナを集めてスキルと詠唱で発動させるのよ」
「ん。メルがしたのはお母様が言った通り。メル?」
「エルカの言う通りだよ」
うーん、俺にはマナが変容したとしかわからない。この辺がスキルがあるか、ないかの違いか。
しかし、どうしよう。どうやってマナを、スキルを使わずに火に変えるのか?これがわからない。多分、母さんたちも知らないはずだ。
「どうやったら、マナを火にできるでしょう?」
「そうね。スキル以外にどうしたらいいかしら?」
「うーん、天才のエルカにもわからない」
「エルカ、回復魔法をかけてみたら?回復魔法はマル君の中に魔法が入るから何かわかるんじゃない?マル君の体の中にエルカの魔法が入れば魔法が何か気づくかもよ。マル君はマナが感じられるしね」
「メル天才。さすが私の妹」
「メルが姉だけどね」
「エルカが姉」
「まぁまぁ。エルカ、マルクに回復魔法のヒールをかけてあげて」
「ん。お母様」
エルカ姉様が俺の腕に手をかざそうとする。
『マナよ、かの者の傷を癒したまえ。ヒール』
そう言う。
すると体の中に姉上のマナが入ってくる。
うん、マナが入ってくる。
うん?マナだ。体の中にマナが入って来てる。それが体の疲れを取っている。掌では明らかに変容して、ヒールという魔法になっていたマナが体の中ではマナになっている。
どういうこと?回復魔法では、マナは変容しているようで変容していない。マナが現象を起こすのか?
そうかマナは魔法という現象を巻き起こすだけでマナが変わっているわけじゃないのか。
でも、だったら、空気中のマナが人の体を治さないのは?現象を起こさないのは?
それにマナで現象を引き起こすってどういうこと?
マナが何をしたら現象を変化させる?
マナで現象を起こす際に、現象を誘導するものに、マナを変換するのだろうか?
マナを現象の助けにする?だとしたら、マナは何だ?何で現象を誘導できる?
詠唱か?でもメル姉は詠唱を使わずに現象を変えた。やっぱりマナが現象を変化させている?待てよ。前世の記憶に科学がある。これで現象を知れば、もしかしたらわかるのか?現象を変化させるものとなる何かをわかるのか?いや・・・。
「マルク」
「マル君」
バシッ。エルカ姉様が頰を叩いてきた。痛い。痛い。
エルカ姉様は体は小さいが力はまぁまぁ強い。まぁメル姉だったら。
メル姉が睨んでる。心の中を読まれている?
「ごめんなさい。マナが何かを考えてました」
「マナが何か?」母上が聞く。
「はい、エルカ姉様に回復魔法のヒールをかけてもらったら、体の中に自分のじゃないマナを感じました。さっきはマナが変容したと言いましたが、マナ自体は変わっていないみたいです。だとすると・・・。マナは何なのか?」
「マルク、今日はここまで。集中できないなら危険だからね」
「はい、母上。すみません。」
「エルカは楽・・・真面目に教えようとしていた。マルク、エルカにごめんなさいは?」
「エルカ姉様、ごめんなさい」
「ん、許す」
「マル君も魔法を使うために何かに気づいたのかな?マル君が魔法を使うためにはメルは何もしてあげれないからなぁ」
「そんなことないです。メル姉。メル姉が魔法を見してくれたからわかったこともあるんです」
「そう。嬉しい」
メル姉が抱きついてきた。これは避けちゃまずい。メル姉が一番怒らせるとマズイ。
これで魔法の勉強は終わりだ。
しかし、考えなくちゃいけないことが増えた。
マナとは何か?
マナがどうして現象を引き起こすか?
あと、エルカ姉様が使った詠唱は何なのか?
そして、なぜ俺だけがわかるのか?俺だけがマナによる現象の変容と気づいたのか?
スキルも考えなくちゃ。
槍の訓練も。勉強も。魔法も。
やることが多い。
「あっ、マナを飲ませてもらいたいことを言うの忘れた」
メイドが驚いてこっちを見てる。
独り言を言ってた。みんなが変な目で見てる。
「なんでもない。考え事してたら、口に出しちゃった。気にしないで」
部屋に戻ろう。
考えをまとめなくちゃ。はぁ、マナを飲ませてもらいたいことは今度聞こう。そもそも、マナを出すことはできないか。それなら、他の方法でマナをもらおう。あっ、ヒールだ。それなら。回復魔法を口の中にかけてもらおう。しょうがない。その前に実験だ。
少しずつ、設定の全容を描ければと思っています。