学院の初日
学院の日々の始まりです。
翌日
今日から学院が始まる。まぁまだ授業はない。
学院では貴族と平民の学力差が問題である。だから、10歳から11歳までの2年間の初等科制度がある。貴族は金のある家は家庭教師をつけるし、小さい頃から学んでいるから、平民とはどうしても教育格差が出る。
そこで、平民に10歳から初等科教育を施し、貴族は学院から教育を施すということになる。それでも、高位の貴族は学んでいる量が多く、学力差は埋められない。さらに学院の生徒数が多いため、授業免除試験を用意して、平民の子供を重点的に教育できるようにしている。これが学院の教育制度だ。初代陛下と御三家の初代様が制定されたらしい。
そのため、入学後、数日に渡り、免除試験が行われる。
俺もこの免除試験を受ける気だ。この試験のうち、基礎教養科目は全て受ける。受けられるのは、一学年分だ。2年になると全ての基礎教養科目と応用教養科目の免除試験を受けられる。
本当はレア先生の授業を受けたいが、諦めた。どうしても訓練や研究に時間がない。
これはしょうがないと諦めて書類を提出した。レア先生は一瞬微妙な顔をしたがわかってくれただろう。受け取ってくれた。
で、試験は明日からとなる。その前に部活勧誘だ。学院には複数の有名な部活がある。有名なのが、実践武術研究会、槍術研究会、魔法スキル研究会、魔術詠唱研究会、集団戦闘研究会、錬金術研究会、戦術研究会だ。このうち、父上が作った槍術研究会は兄上も学院時代は入っていたとのことだ。
「マルク、部活はどうするの?」
「ああ、悩んでいるよ。魔術詠唱研究会か槍術研究会かだけど」
「え?マルクは槍術研究会だよな?」
「槍術は屋敷で習ってるから、いいかなと思う。魔術詠唱は使えないけど、学ぶと魔法の研究ができると思うんだ」
「でも魔法は使えないよね?」
「ああ、使えないよ。でも研究すれば何か未来につながるかもとは思うんだ」
「そうか」
「そうね」
「2人は?」
「俺は、実践武術だよ。剣術スキルだから少しでもスキルを良くしたいんだ」
「そうなんだ。」
「私は戦術研究会だよ」
「へえ。レオナらしいね」
「うん、お父様も入ってた部活なんだ」
「そうなんだ」
「じゃあ、一緒にはなれないね」
「マルク、最近、魔術詠唱研究会は人が減っているって噂だから気をつけてね」
「ありがとう、レオナ」
こうして2人と別れて、魔術詠唱研究会の部室に来た。
「あの〜、失礼します」
「うん?誰?」
「ええと、魔術詠唱研究会の部室でいいんですよね?」
「そう」
「でしたら、入部を考えているのですが、部長はいらっしゃりますか?」
「私」
「そうですか。他の部員は?」
「ああ、あと1人。それで全員」
「そうなんですね。えっとその方は?」
「ええっと、今は、勧誘?」
「私に聞かれても」
「多分、そう」
「部活の内容は?」
「うん、それぞれで勝手に研究して、それを理論として戦わせて、高める」
「ようは自由と」
「そう」
「で、先輩の研究を教えてもらえたりできますか?」
「うん。はい」
なんだか、先輩はエルカ姉様に似てる。研究結果をまとめた物を受け取った。
読んでみると、内容は素晴らししいの一言だ。詠唱の意味をそれぞれまとめた辞書のような物を作ってあり、その言葉を一つ一つ紡ぐとどうなるかがわかる。また紡ぐ言葉の相性なども。これは新たな魔法を作ることもできる。
なぜ、これほど素晴らしい物を作っているのに人がいないのだろう。
「ありがとうございます。実に素晴らしいですね」
「!?その凄さを理解してくれる?」
「ええ。これは素晴らしい。詠唱の意味が実によく分類され、相性など大事なポイントもこと細やかに試されて纏めてある。これがあれば、新たな魔法が作れるのでは?」
「!?」
「どうしました?」
「すごい。なんでわかるの?そこまで理解できた人は私と彼女以外学院にいない」
「そうですか、皆、魔法に関して勉強不足ですね。スキルに頼りすぎです」
「そう。君、入部しない?」
「そうしようか、悩んでいます」
「過去の先輩方の研究もある。顧問はレアリア先生」
「レアリア先生ですか」
「知っている?」
「はい。担任ですし、先生が学院の教員になる前は家庭教師をしてもらっていました」
「そう、名前は?」
「ああ、マルク・ドンナルナと申します」
「あっ。君が」
「ええ、噂のです。入部はダメですか?」
「ううん。あれだけわかるなら、大丈夫。それに部員は少ない。入ってくれるのは嬉しい」
「そうですか。よかったです。個人的には古代文字の魔法文字を研究したいのですが」
「資料はある」
「本当ですか?」
「うん。入ってくれるなら、見せてあげる」
「そうですか、一つ質問してもいいでしょうか?」
「うん」
「では、なぜこんなに部員が少ないのでしょうか?十分に入ってくる素地はあるのではないかと思うのですが」
「魔法スキル研究会のせい。理事長や理事の連中が『スキルがあれば詠唱はどうでも良いとか、スキルがあれば大丈夫とか』そんなことを言って、うちに嫌がらせをする魔法スキル研究会を黙認したり、支援するから」
「なぜ、理事は彼らをそんなに優遇するのでしょうか?」
「あそこの部長が理事長の娘。理事長は現在の宮廷魔術師副長で貴族派の現在トップ。だから嫌がらせをする」
うーん、宮廷魔術師副長ねえ。メル姉に聞いてみるか?あれか、あの宣誓もその人が絡んでいるのか?貴族派がまたのさばっている?レオサード元公爵が処刑されて、力を失ったんじゃないの?父上に聞いてみよう。
「ちなみに理事長はなんて名前の方でしょうか?」
「ヨーゼフ・フィン・カルバイン伯爵」
「ああ、今年の首席合格のカルバインの親」
「うん。そっちは長男で、魔法スキル研究会の部長は長女。大戦では何も活躍できなかったし、魔法も才能がないのに、コネで上がった男。君のお母様が宮廷魔術師長になっていれば状況は変わっていた」
「母上は家庭に入ることを選んだと聞いたことがあります」
「そう、それはしょうがない」
「ええ。入部の件、少し考えて答えを出します。まぁ入部することで検討しようと思いますが」
「本当?嬉しい」
抱きつかれた。まぁ細い方なので問題は・・・。
「ん?変なこと考えた?」
鋭いな。こういうのは女性相手に考えたらいけないのか?気をつけよう。
「では、今日のところはこれで失礼します」
「うん、ぜひ入部して」
「検討します」
この後、槍術研究会に行ったが、無能は要らないと断られた。はぁ、なんか頭痛い。多分、スキル偏重が学院内で蔓延っている。これは大変な学院生活になりそう。カルバインの件は母上に聞いてみよう。
家に帰ってきた。母上にさっきの件を聞いてみよう。
「今戻りました。母上」
「マルク、おかえりなさい」
「はい。母上に少しお聞きしたいことがあるのですが、宮廷魔術師副長のヨーゼフ・フィン・カルバイン様という方をご存知ですか?」
「ええ、知っているわ。それがどうしたの?」
「はい。実は・・・」
先程の件を説明した。母上は苦い顔をして聞いていた。
「で、魔術詠唱研究会に入るか、考えるにあたって、私が入ると余計に何か妨害を受けるのではないかと思って、カルバイン家がどうなのかなと?」
「うーん。正直、何もない男というのが一番かしら。あそこは代々、魔術師を出す家系なの。それで先代が大戦時に魔術師長だったの。でも、今の魔術師長と私が大戦で活躍して、先代の魔術師長は何も活躍していないの。というよりは大きなミスをしたのね」
「では、なぜ魔術師副長にカルバイン様がなっているのでしょうか?」
「それはね。聖国と繋がりが強いの。そのせいもあって、トルネストの件で禁書にするのを頑張ったのよ。禁書にはできなかったけど、売れないように間違っていると証明したのね。その功績というより聖国の圧力や、あのバカ公爵の推薦でそうなったの。その時は天月大戦の末期だったわ。だから、カルバインの件は内政干渉だけど、聖国との繋がりを切りたくない王国はカルバインを宮廷魔術師副長にしたのよ」
「そうですか?どうしたらいいでしょうか?」
「そうね。陛下も学院のスキル偏重は良いと思ってらっしゃらないから、ラルクから伝えてもらいましょう。そうすれば、マルクの妨害はしないでしょう」
「はい」
そうして、夕食の後で母上が父上に話しておいてくれることになり、部屋に戻り、その後に訓練をして、夕食の時間になった。俺は夕食を食べ終わり、早めに寝た。
マルクが部屋に戻った後
「ラルク、マルクから聞いたんだけど、カルバインが学院理事長として、学院をスキル至上主義みたいな感じにしているみたい」
「ああ。そうみたいだ。今日、ラインバッハとガルドからもその話を聞いた」
「そう、入学式の話をしたのかしら」
「ああ。その通りだ」
「そう、マルクが魔術詠唱研究会に入部しようと考えているらしいんだけど、その部にカルバインがスキルがあれば良いとか、かなり圧力をかけているみたい。マルクは自分が入るとより妨害を受けて、迷惑をかけるかもしれないからどうしたらいいかって相談してきたわ」
「そうか。やはり、ガルドに動いてもらうか?」
「ええ。スキルを重視するのは、ある程度はしょうがないわ。でも明らかな偏重は良くないわ。もしかしたら、知らないだけでいいスキルがあるかもしれないし、悪いスキルと言われたものも、本当はすごいスキルかもしれないわ。マルクのように」
「ああ、そういった子が伸びずにいたら、王国の損失だな」
「ええ。だからスキル偏重はダメよ。それに新たな魔法の研究にまで影響したら、もう最悪よ」
「そうだな。さっきの件は使えるか?」
「ええ、もしかしたら、魔法学院にも影響しているかもしれないわ。それにメルが心配よ」
「ああ。それも調べてみよう。マルクには妨害など気にするなと言っておいてくれ。なんとかすると」
「ええ。わかったわ。忙しいところごめんなさいね」
「いや、いいんだ。帝国や聖国との関係が良くないのは前からだ」




