合格の翌日 訓練
久々の訓練回です。
翌朝
父上と兄上とゼルと今日も訓練だ。父上らの謹慎もそろそろ終わる。今は少しでも訓練して2人に少しでも追いつくことが重要だ。まだまだ足元にも及ばないが、これから俺はまだ強くなれる。いつかは追いつき、追い越す。
「ふむ、基本技の訓練も終わったな。これより、模擬戦だな」
「はい、父上」
「ええ。では最初はアルフ様とマルク様に行ってもらいましょう。お二人の様子を見て、私とラルク様でアドバイスを致しましょう」
「ああ、そうだな。その後は、俺とアルフ、ゼルとマルク、そしてゼルとアルフ、俺とマルクだ」
「ええ、最後に私とラルク様でいいでしょう」
「ふん、お前には負けないがな」
「はて、いつ私がラルク様に負けましたでしょう?」
「スキルがアリならば勝てるぞ」
「ほう、マルク様とアルフ様に基本こそ、修練が必要と仰ってらっしゃるのに、スキルに逃げますか」
「お前は主を敬うということを知らぬのか?」
「ええ、敬っております。しかし、槍は別です。私が師匠ですから。弟子に負けられません」
「くっ。負けぬ」
「ええ。いいですね。その意気込みをねじ伏せてあげましょう」
「まぁまぁ、私とマルクで始めていいですか?」
「はい。お願いします」
「ああ」
「じゃあ、マルク始めよう」
「ええ、兄上、今日こそ勝たせていただきます。手を抜かぬようお願いします」
「うん、手を抜くことはしないよ。マルクを尊敬はしてるからね。でも負けないな。まだ壁として、立ち続けるよ。兄だしね」
兄上も、俺も半身になる。お互いに仕掛けるタイミングを計る。右足に力を入れたり、前足を前に少し動かしたり、静かだが、お互いに牽制し合う。
兄上が動いた。右肩を狙った突きが来る、速い。左に半歩。何とか動いて避けるが、体勢が崩れてしまった。でも負けない。また兄上が突きを狙ってくる。体勢は少し悪いが、俺は兄上の突きに柄返しを仕掛ける。何とか上に逸らした。体格が小さい分で、なんとか避けれた。よし、懐に入れたぞ。
ここで、下から切り上げだ。武闘オーラを一気に全開に。兄上も全開にして逃げる。疾駆か。逃がさん。息を吸い。一気に切り上げる。あっ、叩き落としか。
ああ、負けた。疾駆で逃げると見せかけ、隙のできた右手に叩き落とし。うまい。今日も負けた。
「はい。そこまで。マルク様は、柄返しからの切り上げは素晴らしかったです。体格の差を逆に利用して懐に入る。とてもうまい切り返しでした。しかし、最後に気を抜き、相手の狙いを読み間違えましたね。アルフ様は、懐に入られたところで冷静だったのは良いことです。そして、いいフェイントです。武闘オーラを足に集め、疾駆で逃げる振りというフェイントとは良く考えました。ただ、2つ目の突きは少し急ぎすぎで、粗かった。そこは改善すべきです」
「ああ、マルクは、アルフが懐に入ったところで武闘オーラを全開にした。それを囮だと読めれば、自分は武闘オーラを捨てるというのもできた。アルフはもう少し勝負に入る前のところを丁寧にだな」
「ええ、マルク様は武闘オーラを練る時間を捨て、速さを重視してればもっと良い結果になったでしょう。アルフ様との経験の差ですね」
「ええ、ゼルと父上の言う通り、少しの経験の差でなんとか勝ちを拾いました」
「いえ、勝ちを拾うことは戦場では大事です。負ければ死ですから。今日もアルフ様の大勝利になります。その差はまさに天と地の差です。マルク様は生きる残ることをもっと大事に」
「はい。兄上、ありがとうございました」
「それでは、次はアルフ様とラルク様、私とマルク様です」
「「えっ、直ぐに」」
「ええ、戦場では常に、戦い続けなければいけません。弱音を吐けば死にます」
「くっ!わかりました。父上、よろしくお願いします」
「うむ。先程の戦いは良かったが、余力を残すことも戦場では大事だ。身をもって学べ」
兄上が息を切らしながら、対峙を始めた。
「では、こちらも始めましょう。マルク様」
「ああ。頼む」
ゼルと対峙する。ゼルは隙のない半身で、槍を持っているのかというほど軽く持つ。しかしその握りは強い。足も腕も動く気配が全く見えない。これが強者という構え。
俺は、攻めるしかない。力量差が違いすぎる。仕掛けるタイミングを狙う。だが一向に来ない。切り上げをフェイントにゼルを動かす。しかしゼルは軽く、後ろに下がるだけ。間合いを読まれている。これでは攻めれない。ゼルの動きをよく見て対応するしかない。あ、右足が少し動いた。突きだ。突きが来る。
俺は少し下がり、構える。巻き槍で相手を崩し、隙を作りたい。だが、ゼルの突きが速い。
く。槍を合わす余裕がない。構えた瞬間を狙ってきた。くそ。これでは巻き槍は狙えない。小さいモーションの切り上げで、槍を弾く。なんとか、槍を上に行かせた。肩を軽く、掠る。でもなんとかいける。痛いが死んでいない。ここから懐に入ってやる。
あっ。槍が降ってきた。くそ、あそこから槍をうまく扱い、切りおろしか。
俺は半歩下がり、左に逃げるしかない。ふう。何とか避けれた。だけど、懐から外れた。また一からだ。
また、間合いの探り合いだ。く、ゼルは本当に隙がない。自分の間合いに持ち込めない。
あっ、柄返し、くそ。槍の軌道をずらされて。間に合わない。切り上げで防ぐか。それじゃあ間に合わないか、後ろに足を引こう。いや、前に進み、武闘オーラを全開で耐える、それがいい。
痛い、でも柄だ。死んでいない。ここから一歩踏み込むんだ。
小さいモーションでの切り上げを狙おう。武闘オーラをそのままに、ゼルに一撃を撃ち込んでやる。ゼルも武闘オーラでスピード上げて、間合いを詰めてきた。お互いの技を潰しにきた。くそ。これでもダメか。身を切った攻撃も防がれる。
ああ、足をかけられた。
転びそうになり体勢を崩したが、膝を踏ん張って、顔をあげる。ああ、槍先が首元に。
「はい。ここまででいいでしょう。最後の粘りは良かったです」
「ああ、見ていたが、その意気込みはよし。最後まで諦めずに、前に出たところは良い」
「ええ、前に出ることで、柄の当たる状況を作り、武闘オーラを使って耐えきるというのは良かったです。それは死を拒絶し、生き残るという強い意志を強く感じました。それこそ、戦場で大事です。そして最後の小さいモーションでの切り上げは見事。突きでは遅く、間合いも近すぎる。そこを槍を持ち替え、短い間合いで出来る切り上げでスピードを重視したのは素晴らしい。一瞬は焦りました。それでも痛みに一瞬の隙を作られたので、私はその瞬間に間合いを詰めることができました。あとは、攻撃に集中したことが足元を疎かにしましたね」
「ああ。まぁ、ゼルぐらいの力量がなければ、あの間合いを詰めるのも、足払いを狙うのも無理だ。その前にマルクが勝っているだろう。よい試合だったぞ」
「はい。あれっ。試合は?」
「ああ、直ぐに父上に負けた。突き一発だった。マルクとの試合で力を使いすぎた」
「そうでしょうね。先程の試合はマルク様が負けましたが、必死だったのはアルフ様でしたから、その必死差が勝敗を分けた。兄としての威厳を守るためという意志が勝ったのでしょうが、力を使いすぎましたね」
「そうなのですね」
「ああ、マルクは日々強くなっている。学生ではもう勝てるやつはいないと思うぞ」
「まぁ、そうでしょう。でも慢心はいけませんぞ」
「ああ、目指すところが違うからね。俺は学生1強いなんて興味がない」
「そうですねえ。マルク様の目指すラルク様は、学生など数秒で倒されます」
「うん。いい目標が一番近くにいるからブレないんだ。それに兄上も、ゼルも目標だよ」
「ええ、もう私も迷わないですよ。目標をしっかり見据えられています。ゼルと父上を越す。その為に、苦しくても前に進む。これを謹慎期間に学びました」
「ほう。それは嬉しいな。ゼル、どうだ。順番を変え先にやるか?」
「ええ、力がみなぎりました。おふたりにいいところをお見せしましょう」
父上とゼルの一戦は正に壮絶という言葉が合う。一進一退で進む。激しい突きと払いの応酬だ。技術のゼルと速さ、硬さの父上、父上が有利な気もするが、ゼルの技術は凄まじい。俺が語れるレベルではない。饒舌に語れば、それは間違いになる。それほど、細かな技術とスピード、強さが入り混じる死闘だった。
結果お互いに首元に槍があり、引き分けだ。戦場ならお互いに相打ちだろう。まあお互いに戦術的にも死闘を避けるだろうな。
この後に、俺は父上と、兄上はゼルと模擬戦を行い、終わった。今日の訓練はいつも以上に熱がこもった。まぁ、兄上と父上の謹慎が解けるのが近いからだ。来週には兄上は騎士宿舎に戻り、一から出直しとなる。父上は副隊長の職を辞して、いち近衛騎士として、陛下の警備に当たるんだって。あの元王子のせい。




