閑話 アルフの苦悩
マルクの兄、アルフはどうなるか?のお話です。
アルフは実家から離縁を言い渡された日から、明らかに元気をなくし、目は虚ろになり、何かを考えているようだ。
「はあ」
「アルフよ、どうした?」
「いえ、何もありません。任務中に気が抜けてしまい、申し訳ありません。殿下」
「うむ、そういえば、先日、実家に帰り、あれらの件の許可を取りに行ったのであろう?」
「はぁ、父上には勘当されました。ですので、マルクの件は無理です」
「うむ、そうか」
「はい」
「では、公爵の孫娘との婚姻は大丈夫なのか?」
「そちらは私の判断で良いとのこと。ただ、少し考えさせてください」
「なんだと?」
「はい、父上には離縁を申されましたが、私はドンナルナ子爵家です。ドンナルナ家として、公爵閣下の孫娘様と婚姻するのが筋だと思います。そうでないと婿入りという形になり公爵閣下もお困りになるのではないかと」
「うむ。そうか」
「はい。殿下」
「うむ。今日も公爵とその配下の者らと会うのだが、お主も来るな?」
「申し訳ありません。本日は少し体調が悪いので、お暇をいただきたく」
「うむ。そうか」
そんな会話をして、本日の任務を終え、アルフは宿舎に戻った。
(はあ、マルクはあんなスキルなのに、なぜ父上は庇うのか?どうして私の時とは何が違うのだ。それに父上に言われた事だ。俺は自分の弱さから逃げているのか?
最近、確かに訓練を怠っていた。アルス殿下に付き添い、公爵閣下の開催されるパーティーに参加して。酒を飲む機会が多く、修練の時間を取れていなかった。
それで弱くなったのか?いや、そんな事はない。ありえない。俺は弱くない。弱くなっていない。昔よりスキルレベルも上がり、一突きの強さは上がった。皆にもまた強くなったと言われている。だから、俺は逃げてなどいない。マルクを免罪符などしていない。それに今の立場に縋り付いてなど・・・・。いや)
アルフは答えをわかっていながら、それから逃げるように、自分の評判にすがるように、自身の考えを否定していた。
(マルクは無能だ。なぜ、そう言ってはいけない。殿下にも公爵閣下にもそう言われている。いや、弟をそんな風に言っていいはずがない。なぜ、俺は・・・。
違う。違う。俺はマルクを思い、文官の道を勧めた。・・・。本当にそうか?父上の言う通り、自分のためなど考えていなかったか?俺は変わってしまったのか?)
アルフは決して、マルクを嫌いなどということはなかった。それどころか可愛い弟として、実家にいた時は大切にしていた。マルクが困った時は自分の命を顧みずに、マルクのために何かしてやろうと思うほどに。
(くそ。やはり父上の言うことを聞くべきか。少し休みをとり、殿下から離れるべきか?アルス殿下はどこかおかしい。彼の方の近くにいたら・・・。
いや、しかし、俺に価値など。あそこから離れたら、また父上を超えるなど・・・。本当にそうか?)
答えをわかっていながら、そこに辿り着く勇気を持てずにアルフは堂々巡りをしていた。
そんな折に、使者が来た。
「アルフ様、宰相閣下から、至急、執務室に来るようにと」
「宰相閣下が」
「はっ」
「わかりました。すぐ伺います」
アルフはすぐに、宰相の執務室に向かった。
「アルフ、急な呼び出しすまぬ」
「いえ、宰相閣下」
「ふむ、ラルクより、先日の件は聞いた。お主はアルス殿下の近衛から外す。少し殿下から距離を取れ」
「なっ。宰相閣下もそのようなこと。私は・・・」
「お主もわかっておろう。昨今、元気がないと聞いている」
「父上にドンナルナ家を継がせぬと言われたからです」
「違うな。お主の顔を見たら、悩んでおるのはわかる。そうであろう?」
「・・・違います。そうではありません」
「お主の気持ちもわかる。ラルクという英雄と比べられ、自分が足りないと思ってしまう。それで、足搔けども、踠いても、超える方法など見つからず。泥濘にハマる。その結果、甘言に乗ってしまったのであろう。今なら、儂が救ってやる。ラルクにも殿下から離れろと言われたであろう。それにアルスは殿下ではなくなる」
「それは・・・」
「それ以上言うな。そしてこれは秘密にしろ。わかったな」
「はっ」
「少し、暇をやる。実家に戻れ」
「しかし」
「大丈夫だ。儂がどうにかする。お前は帰ったら、マルクに、ラルクに、リネアに謝罪しろ。もうわかっておるだろう。自分が何を間違っておったか?」
「はい」
「うむ。宿舎に戻れ」
「はっ」
こうして、ガルドとの話を終え、アルフは宿舎に戻った。
ガルドが本当にいい仕事をします。




