閑話 ラルクと陛下と宰相
幼馴染の3人組の話
王国の中も情勢が変化して行く
戦場から帰り、初日の任務の日、ラルクは国王のラインバッハと宰相のガルドと話し合っていた。
「ラルク、エドワードはどうだった?」
「ああ、大丈夫だ。ちゃんと指揮もできていたし、家臣の進言も、諫言も聞いていた。王としての器はちゃんとある。名君ではないが、それなりに賢い王になる。少なくとも自身の器も、度量も、才能も理解しているぞ」
「そうか、やはりエドワードが良いか」
「俺がいない間、あのバカ王子はどうだったんだ?ガルド」
「あぁ、あれは本当にもう無理だな」
「なんだ?」
「あぁ、ラルクが言っていたように、公爵と親しくしてな」
「やっぱりか。ルインが言っていた通りか」
「ただ、仲良くするだけならいいんだが、公爵の孫をな、自身の近衛に入れてな。こっちも驚いた。窘めたら、あくまで私兵ときた。王家に私兵などあり得ないが、法も知らないのかと思うわ。それだけでなく、王宮に公爵の子飼いの貴族の子を入れたり、騎士の役職者にねじ込んできたり、お主の娘も閉職に追いやられそうだ。どうも反乱でも考えているかのようだ」
「何!?アルフは何をしている?」
「あぁ、何もせぬ。むしろ腹心としてやらかしている」
「廃嫡にするか」
「今のままならそうなるぞ。手を打て、ラルク。失うにはもったいない人物だからな」
「はぁ、バカ息子が。マルクの方が良いな」
「お前の親バカはなかなか珍しいな。まぁとにかく、ラインよ。黙っておらず、覚悟をしろ。あのバカはもう救えん」
「ふむ、そうか」
「ああ。エドワードが結果を出した以上、もう待たぬぞ」
「わかった。ガルド、準備を頼む。できれば叔父上もな」
「ラインの言う通り。そうしないと、どうにもならないぞ。ガルド」
「わかっている。宰相として、そこは任せろ」
そんな会話がなされているなど知らぬ。王太子は弟のエドワードと会っていた。
「エドよ、此度はよく頑張ったようだな」
「ええ。兄上。長いこと王宮を空けましたが、その甲斐もあり、帝国を蹴散らしてきました」
「そうか、よくやった」
「ありがとうございます。ただ、家臣の、とくに近衛隊副隊長のドンナルナ卿のおかげです。我が国は良い家臣がいるということは喜ばしい限りです。しかし帝国にはそれがなかった。実に良きことですね。兄上、知っていますか?英雄というのは・・・・」
「ああ」
アルスはラルクを苦手としていた。「英雄などいらぬ。自分以上の存在はいらない」そういう考えを持っていた。またエドワードのマイペースなところも嫌いだった。
「兄上?」
「うん。何でもない。アルフも誇らしいだろう」
「ええ。ですが、エドワード殿下より目立つのは、些か不遜というところかと」
「うむ。それはあるな」
「何を言います。兄上も、アルフも。家臣が活躍することが国を支えるのです。私はあくまで王族、国の礎です。家臣や民こそが国でありましょう。いい国民がいることが喜ばしいといつも父上がおっしゃっていますよ。兄上、間違っておりますでしょうか?」
エドワードは王として生き方を理解していた。
エドワードとアルスは異母兄弟である。エドワードの母親は第2王妃で、三家の一つ、軍師のガリシアン家の出身のため、兵の、民の、家臣の大切さを嫌という程、教え込まされてきた。
対して、アルスの母親、第1王妃は聖国の前枢機卿の妹の娘にして、枢機卿の従兄弟にあたる人物だ。宗教一家に育った彼女は民など金づるぐらいにしか思っておらず、兵は自分のために働くのが当たり前という考え方だ。それはアルスにも継がれており、アルスも同じ考え方だ。
しかし、第1王妃は三国一の美女と呼ばれる女性だった。そのため女好きのラインバッハの寵愛を受けた。その違いは彼らのこれからを変えてしまう。
こうして少しずつ、王宮内は動き始めていた。




