邪神無双
皆が息を飲んだ。神と戦う。そう思わされるそんな姿を見て。それでも多くの者が気持ちを折らない。もう、ここで負けたら生きていけない。なら、神だろうと、悪魔だろうと、自分より上の存在だろうと関係ない。俺は生きたい。ただそれだけだ。
「意気込むな。下等生物。ここに儂がどうやって来たかわかるか?」
「あ?」
「転移だ。お前らは驚くだろう。正直言えば、すぐに神殿に行けるが、せっかくだから羽虫を殺してから行こうと思ってな。儂の人生を狂わせた羽虫をしらみつぶしに潰してからな」
「くそ野郎が」
「ははは。怯えろ。敬え。ひれ伏せ。お前らなどとは存在の価値が違う」
俺は怒りにふるえた。そして声を張り上げる。皆を鼓舞するため。
「邪神はうるさいな。お前の存在が一番下だよ。ここにいる奴より少しだけ、魔法ができるだけだ。だけど、ここにいる誰より苦労も、努力もしていない。何もかもから逃げただけだろ?
レキシナを愛したのに、相手にもされていないという事実からも、禁忌を侵さなくては自分が評価されるようなことができないという事実からも、そしてつまらない妄想に囚われて、誰にも相手にされないということから。
ただ単に、自分以外を愛せないから他人にも愛されない悲しい野郎だよ」
「なんだと、レキシナは俺を愛し」
「おいおい、邪神よ。まだそう思っているのか。レキシナは神に言われたからお前を助けただけだ。そして、魔王にならされた後も、お前を邪魔した」
「違う」
「邪神、どうした?」
「違う。邪神と呼ぶな。儂は唯一神にして、絶対神だ」
「嘘つくなよ。邪神、まだ不完全な神だろう?本当の神を封印して置かないと神も名乗れない、俺の力を奪わないと世界を変えれない、偽物が」
「うるさい」
「おいおい、本当の事を突かれて怒ったか?さっき言った事も嘘だろ。俺の力がないと本物になれないから、わざわざ俺を殺しに来たんだろう」
「な、違う」
「じゃなきゃ、とっくに神としての力を奪い、世界を変えているだろう」
「そうじゃない」
「バレバレだ。偽物、来いよ」
「お前は〜」
そして俺らと邪神の戦いが始まった。
邪神カンバルと向かい合う俺ら、奴はニヤリと笑った。そしてすごいマナを手に込めた。後ろには多くの兵がいる。俺とミカさん、エルカ姉様、メル姉ら魔法を撃てる者が結界を張る。
そして、カンバルは魔法を撃った。俺はその魔法に俺のマナをぶつける。少しでも威力を減らしたい。少しは魔法の勢いは減ったが、その魔法は結界に当たる。結界が弾け飛ぶ。後ろにいた多くの者が犠牲になった。
「くそ」
「ははは。お前らなど、いとも簡単に殺せるのだ。これが神とそれ以外との差だ。存在が違うのだ」
「てめえは邪神だろうがよぉ」
ガイス師匠が行った。しかしその攻撃はいとも容易くはじき返された。
「ガイス」
「く、大丈夫だ。てめえ、余裕ぶりやがって」
「余裕ぶっているのではない。余裕なのだ。何度も言うが、お前らごとき下等生物と儂では存在が違う」
「な、てめえは邪神だ。それ以外でもそれ以上でもねえ」
「ふん。邪神と言い、すでに神と認めておろう」
「あ?神?へんちゃらおかしいぜ。神なら世界を救ってみせろや」
「だから救うと言っているだろう。儂が誰も傷つかぬ世界を作ってやると。儂を頂点に誰もが皆平等で、努力などいらない世界だ。生まれ、才能、環境、金、権力、地位、それらが全て無用な世界だ。そして変化も、進化もない世界だ。全ての生きる者が儂の下で、皆が一生平等に幸せに暮らせる世界だ。良いだろう?」
「ふざけるな」
「師匠」
「ガイス」
「マルク、ガッソ、行くぞ」
「「ああ」」
「ははは。獲物から来てくれるか?」
師匠は何度も攻撃するが、一向に攻撃が入らない。ガッソさんと俺も加わる。しかし、カンバルは余裕を見せる。
「おら、少しは喰らえや」
「行くぞ」
「死ね。俺の剣でその命を奪う」
3人で同時にカンバルの急所をそれぞれ狙う。
「ははは。人であった時と同じ急所があるとでも?儂は神だぞ!そんな物はない。儂に弱点も、急所もない。神になればどこも硬く、強いのだ」
「くそ、槍が通らねえ」
「剣で切れぬものなど、そんな物はない」
「みんな、離れて」
全員が距離を取った。俺は魔法トルネードを放つ。カンバルの周りに強烈な風が起き、そして全てを切り裂くかのように渦巻いていく。前に撃った時とは比べ物にならないほどのトルネードを小さい範囲で撃つ。縦に高く。そしてすごいスピードで渦巻くように。
邪神カンバルも無傷は無理だろう。
「ははは。儂の新たな力、万物の目の前では無意味だ。この力は全ての事象を見渡す。良太は使いこなせずに、たかが動物の目を使うことや、操っている全ての物の視覚を共有する程度、そして数秒先が見えた程度だったがな。本当の力は神にならぬと見えぬ。儂には見える。お前らの心の中も、この先の未来も全てがな」
「うるせえ。見えるはずないだろう」
「ああ、お前の妄想だ」
「弱き者はなんでも否定する。理解できないことはありえないとな。そうやって他人を否定する事で自分を確かめる。長寿種族は本当に変わらんな?それが進化?他より優れた種族?笑わせる」
「そんなことは思っちゃいねえ」
「ああ、そんなことを思って生きてなどいない」
「儂には見えるぞ。神と俺らはこんなに違うのかと、後悔しているだろう?」
「してねえ!」
「してるか!」
「だったら来い」
「行ってやらあ」
「ああ、行く」
「皆、無事な者は、動ける者はガイスさんとガッソさんに続け」
「「「「「おう」」」」」
そして、全員が攻撃を加えて行く。しかし、カンバルはどこ行く風と、全てを見通して、それらの攻撃を全てノーダメージで受けて、弾き返して行く。そして来た者らを吹っ飛ばして行く。それでも皆が何度も立ち上がる。
俺らは何度も、何度も攻撃する。魔法、武術など手を変え、品を変えながら。しかし、一向に攻撃が通る見込みがない。俺らの体力は、マナは、少しずつ切れ始める。そして邪神が一気にマナを放ち、皆を吹っ飛ばした。
「ははは。もういいだろう。十分にわかっただろう。神とそれ以外の下等生物とは大きく違うということが十分にわかっただろう。お前らは所詮、寄り集まっても弱い、弱小生物だ。神から見れば、お前らも虫も、蛇も、虎も全てが同じだ。弱い、弱い生き物だ。儂が世界を作り変えたら、輪廻させ、新たな命として保護してやろう」
「うるせえ。お前になんか、保護されたくない」
「ほう、マルク・ドンナルナか。さすがは英雄か。いつの時代も英雄は皆の希望か?」
「俺は英雄じゃない。英雄なんてすごい者じゃない。ただ、努力して、努力して、ほんの少し強くなっただけだ。英雄はみんなだ。お前をみんなで倒す」
「ははは。後ろを見ろ。もう起き上がれるのはお前だけだ。そしてお前が俺に同化され、全ての力を奪われれば、全ては儂のものだ。この世界は儂の物になる。
そしてその時、新たな世界が始まる。
何者も全て平等の世界だ。努力も、生まれも何もかもが関係ない世界だ。儂だけがルールであり、守護者であり、武力であり、儂だけが神である世界だ。
それ以外は皆平等に弱小生物で保護される生き物だ。皆、儂の保護下で幸せになれるぞ」
「おい、邪神。お前が神になるなどあり得ない。神になりたいなら俺は殺せない。でもお前は俺が殺す。だからお前は神になれない。それを証明してやる」
「ははは。来い」
「おらあ」
そして俺対邪神カンバルの第2ラウンドが始まる。俺は黄金闘気を一気に入れて、40%まで入れる。すでに集中力は満タンだ。この状態ならもっといける。俺はこいつに勝つ。
「ははは。お前にとってはこいつらは足手まといだったか?」
「違う。みんなが時間を稼いでくれたから、今がある。今まで多くの人が歴史を紡いだから今がある。全ての人の努力がここにつながっているんだ」
「ははは。強がりを」
「お前にはわかんないだろうな。ひとりぼっちの悲しい奴にはな」
「違う。儂はひとりぼっちなどではない」
「どうした?下等生物の言葉に熱くなって」
「うるさい、この蝿め。くだらない言葉で罵りおって。敬意という物を知らんのか?神を敬う気持ちはないのか?」
「あいにく、無宗教なんだよ。それにお前は神じゃない」
「この腐れ小僧が」
俺の黄金闘気は50%に来た。行く。相棒頼むぜ。たまには力を貸せ。
俺はさらに、火槍ドラグーンにも黄金闘気を纏わせる。すると、火竜も力を貸してくれるようだ。火槍ドラグーンは赤く光を帯びて、俺の思いに応えてくれる。
「待たせたな」
「はっ。槍が赤く光った程度で儂に勝てるとでも?」
「ああ」
俺は一気に突きに行く。そこで俺は疾駆、アクセラレーション、重力操作を入れ、体を速くする。さらに身体操作と鷹の目を入れ、邪神カンバルの死角へ入る。
そして今度は硬化と剛力を入れ、一気に突く。当たる瞬間に全てをもう一度フルパワーで入れ、当てる。最後に身体の中に入る瞬間にマナを槍先から最大限に放出させる。これは今の最強の技だ。バカやろー。
「ははは。少しはやるな。ほんの少しだがダメージを受けたぞ。まぁでも、それがお前の最強技だろう?」
「くそ」
「ははは。それで傷一つしか与えられないならば勝てる道理などないではないか?マルク・ドンナルナよ。どうするのだ?」
「うるせえ。一度でダメなら何度でもやってやる。それしかない。俺はいつもコツコツと積み重ねてここまで来たんだ。全ての生き物は誰かがが積み重ねて、それをまた誰かが継いで、ここまで来たんだ。
それをお前ごときにどうにもさせない。一回でダメなら、何回も。1人でダメなら何人もだ」
「さっきも言ったであろう。お前らがどれだけ集まろうと変わらん。弱小生物だと。そして神には敵わないとな。
それにお前は1人になって強くなっているではないか?結局、あるのは純粋な強いか弱いかだけだ。それ以外は意味をなさん」
「うるせえ。諦めねえ。諦めねえのが俺の強さだ」
俺はもう一度同じ攻撃を繰り返す。また当たるが。
「ははは。さっきと同じく、少しだけ効いたぞ。でもな、お前はもうボロボロだ。これを続ける。自分を犠牲にして、それでも少しのダメージだ。笑わせる。英雄とは人のために無駄死にをする者を言うのか?」
「違う」
「じゃあ、今の状況は何だ?後ろを見てみろ。お前が体をボロボロにしながら、儂にほんの少しのダメージを与えている間に全ての者が逃げ出したぞ。ははは。結局は無意味だな」
「違う。俺が逃げる時間を作ったんだ」
俺は皆に合図をしていた。態勢を立て直せと。
「それで、儂がお前の力を奪い、全てを得るだけの存在になってもか?」
「ああ、誰かが生きていれば変えられる。その可能性が残る。それでいい。一度でダメなら何度でもだ」
「ははは。自己犠牲もいきすぎるとバカバカしいな」
「言ってろ。結局は逃したんだ。俺の作戦は成功した」
「ははは。お前の作戦は無意味だから逃したんだ。それも分からぬほどにバカなのか?」
「ああ。俺はバカだ。どうしようもない程にな。それに諦めないことだけは筋金入りのバカだからな、何と言われようと勝つ可能性が1パーセントでもあれば、それにかける」
「だから、可能性はお前が死ねば、0だと言っているだろう」
「そうとは言えないだろう。いつか誰かがきっとやる」
「夢想だな」
「お前の妄執よりはマシだ」
「ふざけるな、儂のは妄執などではない」
「どこがだ?レキシナに愛してもらえなかったから、エルフになりたくて擬似生命体を作ったんだろう?世界に相手にされなかったから世界を変えると思ったんだろう?そして自分の理想を形にしたいから世界を壊すんだろう?」
「違う」
「それは妄執って言うんだよ」
「違うと言っておろうが」
急にカンバルは攻撃を開始した。俺はなんとか避けた。今までのがとは雰囲気が違う。なんだ。でも考えている余裕はない。この攻撃は鋭い、そして当たれない。当たれば死ぬかもしれない。
「ふん、避けよったか。たかが弱小生物がいいスキルを持っているからと調子に乗りおってから。もう良い。余興も終わりにしよう。もう、お前のくだらん話は聞き飽きた」
「はん、俺もお前との戦いは何も得るものがない。心が熱くならない」
「うるさい小蝿だ。もう良い。吠えるな」
また鋭い攻撃が来る。奴の右手が俺の腹を突き抜けようと、速いスピードで来る。ギリ避けれるか?




