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知らない。 教えてない。

そしてメリーから聞いた情報を元に対策をしていく。1週間が経った。


俺らは魔獣に対する対策もして、準備をしていた。そして奴らが来た。魔獣の群れが要塞に来た。ついにカンバルの化現が完全に完了したのだろう。


こっちもカンバルが化現する前に攻めておきたかったが、如何せん、場所がわからなかった。どこにいるのかを掴めずに、要塞を潰されたり、古代文明の遺跡を奪われた場合を考えて攻めて行けなかった。


そのために、受けて立つしかない。ここで、カンバルを潰す。そして未来を紡ぐ。


「皆、気を張れ。魔獣がくるぞ。ここからは冒険者を中心に行く。ここからが俺らの踏ん張りどころだ。行くぞ」


父上の声で一気に魔獣と対峙する。


俺らは、まずはガイス師匠やガッソさんら、サンゼル、リッキーら、そして俺ら冒険者上がり、獣人族の部隊が前に出て行く。そして、俺らが第一陣の魔獣たちを迎えうち、奴らの足を止めさせる。


魔獣は足を止められ、いきなり出足をくじかれ、止まる。そして魔獣の後ろに佐藤がいた。

「良太、裏切ったのね?」


山本さんが声を上げた。怒りが声に現れている。

「そう、なんで?」

市川さんが続く。


「なんだ。舞と里奈か?生きていたのか?」

「ええ、生きてるわ」

「うん。生きてる」


「へえ、愛しの彼氏が死んだのにか?」

「そうよ。辛いわ」

「うん」


「じゃあ、死ねば?俺には関係ないよね?俺が世界を変えるのに二人はいらないな」

「な」

「あんたねえ」


「だから、俺はカンバル様に選ばれたんだ。お前らは選ばれなかった。それだけだ」

「友達じゃないの?」


「友達?俺がお前らと?」

「ええ」


「おいおい、何を言ってんだ?お前らが俺に興味を持ったことがあったか?」

「な、でも直樹は?」


「直樹ねえ、あいつも俺のことなんて興味を持ってないだろう。あいつはいつも自分だけだ。俺がどう思うか?俺がどんな状況か?それを気にしないで、俺が必要な時だけ、俺の話を聞きにくる。それが友達か?ただの便利な下僕だろう。あんな奴のためになんで俺が友達と思わないといけないんだ?」


「あんたねえ」


「そんな説教なんて聞きたくないな。俺はこの世界に来てよかった。前は誰にも見てもらえなかった。それがカンバル様だけは俺の辛さを理解してくれた。この世界に来る前にカンバル様が俺に話してくれた。その時に初めて、俺の話を聞いてくれて、俺の気持ちを理解してくれた。だから俺はカンバル様の作る世界を見たいんだ」


「そう、もう貴方は敵よ」

「そうか。俺は最初から敵でも、仲間でもないけどね」


ここから魔獣と人との戦争は始まる。俺らが第一陣も魔獣を殺して行く間、魔術師達が詠唱をして行く。そして俺ら前線が引くと、魔術師達が浄化をして行く。この魔法は広範囲にするとかなりのマナを使う。故に詠唱をしてできる限りマナ操作をしっかりとする事でマナの使用量を減らす。


第1陣は大体倒した。そして今度は第2陣だ。今回のはかなり強い魔獣が多い。虎や蛇らといった魔獣のゾンビだ。浄化で倒したいが魔術師達が辛そうなので俺らが倒して行く。


「魔獣の足を止めさせろ。その間に攻撃力のあるものが潰して行く。それまで耐えろ」

「「「「「「おう」」」」」」


その言葉を合図に前線は重戦士に変わる。彼らが止めたところを攻撃の高い者らが攻撃して行く。少しずつ少しずつ倒して行く。数は少しずつ減って行く。


「なかなか、やるね」

「おい、勇者。カンバルはどうした?」


「おい、様をつけろ!」

「ああ、邪神、いや、妄執のストーカー様は元気か?」


「おい、お前はカンバル様が直接、殺してもらえるから待ってろ」

「余裕ぶっているけど、もう少しで魔獣は死ぬけど」


「はん、そんなことは別にどうでもいい。もう少しでカンバル様が来る」

「そうか、カンバルは遅刻するのか?なんだ?戦場が恐いのか?」


「おい、お前、様をつけろ。様をつけろと言っているだろう。それと恐れられてなどない。もう俺が痛めつけてやる」


佐藤という勇者が出て来た。そこに山本さんと市川さんが行く。


「お二人さん、任せた」

「ありがとう。これで裏切り者に罰を与えられるわ」

「感謝」


二人のために、佐藤を挑発して前に出させた。そこから、山本さんと市川さん対佐藤良太の戦いが始まった。


山本さんは剣で佐藤を攻撃して行く。剣の連撃をしていく。これを佐藤はどんどんと避けて行く。そしてその間に市川さんが魔法で攻撃をしていく。佐藤は少しも食らうこともなく、どちらの攻撃も避けていく。


佐藤には剣のスキルや魔法スキルなどはなさそうだし、マナ察知なんかもなさそうだ。さらに武術スキルもなさそうだ。武術も経験もないように動きだ。それなのに避けて行く


「良太、避けんな」

「当たれ」


「それで当たってあげるとでも?バカなの?」

「うるさい。あんたのスキルは、操作する能力でしょう?」

「違うよ」


「隠していたのね」

「隠すとか」


「友達にはありえない?何度言ったらわかるのかな?友達だと思ったことはないって」

と、言葉を交わしながら、攻撃をかわして行く。


「ねえ、ミカさん。サトウのスキルって?」

「聞いた話では、遠隔操作という何でもかんでも操作する能力と、遠見、思考加速、物質投射、あと魔法スキルだと聞いています」


「どれも遠くからの攻撃を得意とするか、後衛向きだね」

「ええ」


何だかおかしいな。あいつには誰かの目を通して見ているスキルがあると思ってたんだけど。それがないのか?隠して来たスキルがそうなのか?


「どんなスキルを持ってんのよ」

「教えるとでも?どんだけ甘いんだよ。バカは死んでも治らないんだね」

「死んでも?」


「気づいてないの?あっちの世界で死んだ者からこっちの世界に召喚してるんだよ。そうじゃないと他世界が困るじゃん。そうすることで、召喚をしやすくするんだ。俺らは死んだだよ」

「な」


そうなのか。俺は死んだからこっちに来れた?もう少し聞きたいなぁ。


「はっ?それを本気で言ってんの?」

「ああ、そうだよ。嘘で言うならもっといいタイミングで言うよ」

「そうなの?」


「あれ?攻撃が緩んだね。気持ちが落ちた?」

「あんたはあっちの世界のことを何にも思わないの?」

「そう、何も思わない?」


「二人とも気にしすぎじゃない。俺は友も、家族もいないからね」

「「え?」」


「やっぱり知らなかったね。俺は養護施設の出身だからね。さっきも言ったけど、気にもしなかったんでしょう?」

「・・・」


「そう。まぁ、どうでもいいけど。そういうところが嫌いなんだ。だから友達ヅラする奴は信じてないんだ。他人を利用することしか考えてないのに、そうやって私は知っているという感じで話をして来る。本当は何も知らないのに。そして俺に同意を求めるだけだ」

「あんたの状況は同情するけど」


「同情なんかいらない。そんなものは必要ない。俺は話を聞いて欲しかっただけだ。俺の本当の気持ちを知って欲しかっただけだ。それを誰も聞いてもくれない、わかってもくれなかった。だから死んだとわかった時に、それで全ての苦しみから逃れられたと思った」

「そう」


「だけど、いきなりどこか知らない場所に来た。白い場所だ。俺はまたあの苦しみを味わうのだと思った。もう十分だと思った。でも召喚の途中でカンバル様にお会いできた。俺と同じ苦しみを知り、俺の気持ちを理解して、俺を救ってくれた」

「利用されてるのよ」

「そう、利用」


「ははは。お前らが言うか?利用?ああ、そうだろうよ。でもカンバル様の目指す世界は俺も目指す世界だ。だからいいんだ。利用されてもいいんだ」

「そう。もう話し合っても無理ね」

「最初から無理だよ」


こうして3人の会話は終わった。そして3人は剣と魔法で話し合うかのように攻撃を早くする。山本さんの攻撃は全く当たらない。どういうスキルだろう。


山本さんがどんどんと攻撃する。そして市川さんが山本さんの攻撃の切れ間で魔法を撃つ。しかし、佐藤は全く、相手を見ずに避けていく。やっぱりあいつは何かをしている。誰かの目を使って見ているか、数秒先を見ているな。


山本さんが諦めずに攻撃を続ける。雲が一瞬、太陽を隠す。

「ピャアア」


鳥が鳴いた。なんだろう。違和感がある。戦場に鳥?魔法が入り乱れる中に?そして魔族の地に?そしてずっと一匹で戦場の空を飛んでいるように旋回して飛んでいる。さらに、今だけ鳴いた。


違和感しかない。あの鳥を落とそう。それで何かわかるかも。俺は魔法を使い鳥を落とした。瞬間に佐藤に山本さんの攻撃が当たる。

「やっと一撃入れれたわ」

「いい。里奈」

「ははは。君たちの実力じゃないけどね。それに効いてないよ」


やっぱり、あの鳥の目を利用していたか?スキルは誰かの視野を奪う?それだと、もっと使いやすいのはいるよな?何でそれを使わない?

「おい、お前、あれを殺した程度で俺のスキルをわかったとでも?」


「ああ、何かの視野を得る能力か?」

「ははは。やっぱりわかってないな」


まだ足りないのかな。それだけではない。きっともう一つ能力があるのだろう。


「お前らにいいことを教えてやる。俺ら世界渡りをしたものはな、何か神と等しい能力を得る。それはカンバル様が与えてくれる。だから返す必要があるんだ」

「な、何を言ってんのよ。そんなのないわ」


「お前が使えないだけだ。直樹も使えなかっただろう?」

「良太だけ使える設定はズルい」


「おい、舞。初めから使えるのではなく、使えるように訓練したんだよ」

「な、どうやんのよ?」

「教えるはずがないよね?」


「な、ならそんなこと言うんじゃないわよ」

「嫉妬や絶望を味わえたでしょ?俺はいつもお前らに感じてたよ。暖かい家庭のあるお前らに。俺の親だけが何でクズなんだ?って。どうして、家族は選べないのか?って」

「な」


「ああ、これも知らなかったよね。そう、お前らは何も知らない。ただのバカだ」

「・・・」


「俺みたいに何もかも見通す目もないのに、他の人の事を知ろうともしない」

うん?何もかもを見通す目?今の失言だな。自分でスキルをバラしてないか?


「私たちが良太のことを知ろうともしなかったのは謝るわ」

「今更、謝罪なんかいらないね。別にお前らがどうしようと関係ない。カンバル様が作る世界が実現すればいい」


「そう、良太も私のことは知らない」

「ああ、舞のことなんて興味がないよ」


「そう、他人の事なんてわからない」

「ああ、そうだ。そしてそれなのに皆は自分以外を否定する」


「違う。わからないから、話してもらうしかない。ちゃんと言わないとわからない」

「違うね。お前らは知ろうともしないだろう?」


「良太がちゃんと話したことなんて聞いたことない」

「な、俺は言った。俺養護施設出身なんだと」


「覚えてる。でも違う風に言った。良太は『俺は家族と離れて暮らしている。気にしなくていい。気にされたり、同情されるのは嫌だ』って言ってた」

「な、そうかもしれないけど、それでわかるだろう?」


「わからない。人はそんな簡単には分かり合えない。だから言葉が重要なの」

「な、いつも言葉少ないお前に言われたくない」


「私は話すのは苦手、でも聞くのは好き。だから、あの時も聞こうとした。でも良太は自分で拒んだ」

「な。俺が悪いって言うのか?また否定するのか?」


「違う。否定してもない、悪いとも言ってない」

「な、じゃあ、なんだと言うんだ」


「まだ、やり直せる。友達として戻れる。直樹のことは悲しい。でも私たちも悪かった。あん時は私たちも見えてなかった」

「な?それは?」


佐藤良太が戸惑い出した。多分、今まで誰にもわかってもらえないと勝手に殻に閉じ籠っていたんだろう。それが誰にも気持ちを言わなかったからだと言われ、自分にも間違いがあると思ったのかな。それで戸惑い出した。きっとそんなところだろう。


「違う。違う。お前らが直樹を亡くして、許せるはずがない。そんなことはありえない」

「ええ、悲しいし、そう簡単に許せないかもしれない。でも私たちも悪かったのはわかったわ」


「ああ、お前らが変わるなんてありえない」

「そうでもないわ。人は変われるの。すごく大変だけど」

「違う。ありえない」


「現に私はそこの男を許したわ。

 この前、私たちのところに来て、謝ってきたの。別に憎んでもいないし、嫌ってもいない。ただ、負けられない戦いで、守るべきものがあった。だから君らと戦ったって。そう言われて驚いた。

 私にそんなのあったかな?って思ったわ。そんな覚悟もなく、私は人を殺したわ。彼はそうではなく、殺される覚悟を持ってたし、勝てなければ大切な人を失うという事を知っていた。

 それを直樹が死んだ事を聞いて、この前わかったのよ。最初はカンバルやクロに利用されてた憎しみで戦った。でも今は違う。

 せめて、自身のした事の償いをしたいって思ってる。そんなには変わってないと思うわ。でも私も舞も少しは成長したのよ。貴方だって変われるの」


「そんなことはない。ありえない」

「嫌な事もあったのかもしれない。でも楽しい事もあったでしょ?」


「違う。違う。喋るな。偽善者が喋るな」

「やめないわよ。貴方はわかっているはずよ。本当は分かり合いたかったのよ。そして笑いたかったのよ。でもできない自分をきらいだった。変わりたかった。そうでしょ?」


「違う。喋るな、ブス」

「そんなんじゃ、もう怒らないわ。言いたいことがあるなら言いなさいよ。良太」

「うるさい、うるさい、うるさい」


「良太、そんな連中の言葉は偽物だ。私の言葉だけを信じろ」

「カンバル様」


「はぁあ。いいところでクソ邪神が出てきて。空気を読めよ」

「マルク・ドンナルナか。私は、私だけが神だ。唯一神だ。生意気な口を利くな」


「おいおい、クロと言ってることが変わんないね。邪神の関係者はボキャブラリーがないのかな?」

「クロごとき、擬似生命体と同じにするな。邪神と言うな」


「起きたばっかで、頭がまだ働いてないのですね?邪神様?」

「この下等生物が」


いきなり攻撃して来た。良太も近くにいるのに、俺はミカさんを抱え、避ける。

だが、山本さんが巻き込まれてしまいそうだ。あ、やばいか。


「里奈」

佐藤がかばい、二人はなんとか避けた。


「おい、良太、何をしている?そいつは出来損ないの勇者もどきだ。そんなのを気にする必要などない」

「いや」


「なんだ?お前も私を裏切るのか?」

「違います。ただ」


「そうか。友達ごっこがしたいのか?ならば直樹という無能勇者と共に儂の中で眠れ」

「な、カンバル様?」


「どうした?儂が作る世界も実現のためなら死んでも、利用されても良いと言ったであろう?今がその時だ。儂がお前の理想も叶えてやる」


そう言うと、佐藤に触れた。すると佐藤の体は徐々に消えていく。そして消えていった。


「何をした?」


「同化だ。儂と良太の体を同化したのだ。そして儂の体に入れた。お前の飲み込むのように力を飲み込めぬからな。同化して儂と同一にした。かなり力を使う不便な力だ。しばしの時間をやる。良太の力を完全に同化できた時がお前が、世界が滅ぶ時だ。その時まで待て」


「おい、お前よう、俺らがそんな時間をやると思ってのか?」


ガイス師匠らだ。魔獣は俺らが佐藤を相手にしている間に倒したようだ。魔獣は佐藤に操られていた。それを俺らがあいつの注意を完全に引くことで、できないようにした。


そのおかげで群を成せなくなり、ゾンビらしい遅い動きになった魔獣は簡単に師匠らが潰していった。


「ははは。今でもお前ら程度ならば、問題ない。まぁ、つまらん力を使うのも意味がない。あの無駄な勇者の力を使おう。『輪廻』」

すると、そこに一人の獣人族が現れた。


「マット」

「マットか?」


「ははは。お前らが知るマットというものとは姿形は同じだが、記憶などはない。新たな命だ。感情しか持たぬ人形だな。戦い方の記憶だけは植えておこう」


「てめえ、お前はどこまで命を弄べば気が済むんだ」

「お前だけは許さん」


ガイス師匠が攻撃をしようとするとマットさんの姿をした者が止めに入る。ガイス師匠が攻撃を躊躇した。


「くそ、てめえ、くそ」

「ガイス」

「そうだな、こいつもだそう」


カンバルがそう言うと直樹の姿をしたやつが出て来た。こっちも喋る事もない。


「直樹」

「直樹、やっと会えたのに」


「ははは。輪廻以外はスキルが一緒だぞ?愛しの男に会えたな」

「このクソ邪神」

「クソ野郎」


「ではな」


俺はマナを奴に打ち込んだ。調子に乗っている間の一瞬の間の隙を使った。奴は避けれずに当たった。その後すぐに消えた。これで奴の位置がわかる。その前に二人を天に行かせてあげよう。


「師匠、ガッソさん。イチカワさん、ヤマモトさん。2人はもう死んでいるんだ。これ以上あのクソ邪神に利用されないようにあの世に行かせてあげよう」


「く、それしかねえか」

「ああ」


「そうなのよね。せめて、ここであのクソ野郎のために戦わせるのはダメね」

「うん」


ガイス師匠もガッソさんも辛そうだ。市川さんと山本さんは涙を浮かべている。きっと辛い。わかるが、どこまで行っても彼らはもう違う者なんだ。皆が知っている彼らじゃない。


そして師匠とガッソさん対マットさんの転生体、山本さんと市川さん対赤井の転生体が始まった。


師匠とガッソさんはすぐに仕掛けた。お互いの力を理解しているのだろう。師匠が一撃を入れたところにガッソさんが攻撃をする。それでマットさんの転生体は動けなくなるが、ガッソさんも師匠も最後の一撃を入れれない。


また、山本さんと市川さんも赤井の転生体と凌駕する。赤井の転生体はそれぞれの攻撃をスピードで避けるが、数度避けたうちに山本さんの攻撃が当たる。速いがそれだけだった。大したことはない。経験のない転生体はスキルを使いこなせない。そして市川さんが魔法で追い詰め、山本さんが仕留めるという時、やはり躊躇してしまう。


「ダメ、殺せないわ」

「里奈、私がする。里奈はサポートして」

「舞」


そして、今度は山本さんがサポートして市川さんが仕留めにいく。彼女は魔法を撃つ。目は涙で一杯だが、覚悟をした顔だった。市川さんの魔法は赤井に当たる。


それは凄く強い魔法、今までとは比べものにならないほどに強い魔法だった。


市川さんは膝から崩れ落ちた。もう何もできないかのように、彼女の心が壊れかけているかのように。


よく踏ん張った。きっと自分を嫌いにすらなりかねない行為だろう。それでも愛する人をまるで人形のように使われるのが嫌なのだろう。その気持ちで最後の覚悟を振り絞ったのかな。


「山本さん、市川さんを要塞に連れて行ってあげて。ここにいると辛いだろうから」

「わかった。ありがとう」


「ああ、こんなことぐらいしかできないけど」

「いいの。貴方が私たちに、自分で別れを告げる時間をくれたんだよね。わかってる。貴方なら簡単に倒せたのに」


「いや」

「いい。ありがとう」

「ああ」


俺は赤井の遺体に結界を使った。カンバルにこれ以上は彼という存在を弄ばせるのは彼女らには辛すぎるし、何より俺も許せない。そうしていると。


「おい、ガッソ、ガキが2人で乗り越えてんだ。俺らもよう」

「ああ、やらないと情けない」

「ああ」


そう言うと2人は一気にマットさんを攻め立てた。師匠が槍で足を突き、ガッソさんが剣で腕を切り落とした。もうマットさんの転生体は動けない。マットさんは強いのだろう。


でも転生体は身体能力だけで弱かった。経験という積み重ねがない武術など恐さはない。


そして2人は一気に仕留めに行った。師匠は槍で胸を一突き、ガッソさんは首を一閃した。そしてマットさんの転生体は死んだ。その後は赤井の転生体同様に結界を張って要塞に運んだ。


俺は母上、エルカ姉様と協力して2人の遺体を完全に封印した。カズキさんやシズルさんの遺体も同じようにしてあるらしい。彼らが自身で願ったことらしい。


そして俺らは休みを取った。師匠とガッソさんは誰とも会いたくないようで、部屋で静かにしているようだ。山本さんと市川さんも2人で静かにしていた。


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