簪
翌日
母上に近づく者が現れた。誰かと思えば、クロの娘、エリナだった。あのアルス元王子も奪回をした双子のダークエルフの一人だ。もう一人は今も捕まっている。ガイス師匠が捕まえてくれた。
「エリナ、やっぱり貴方が来たのね?」
「ええ、カンバル様のためにね」
「そう、なんでそこまでカンバルのためにするの?貴方が愛するクロまで殺されたのに」
「違うわ。父様はカンバル様の身となるためにその命を享受したのよ」
「そうかしら、そうは思えないわね。騙された、もしくはそのためだけに作られたのでしょう?何の生きる意味も与えられずに、ただカンバルのくだらない妄執のために死ぬ事を目的にした生命とは悲しいわね」
「な、ふざけないで」
「そう、貴方も同じなのね。悲しい存在ね。まぁ、いいわ。貴方と生き方を話しても意味なんかないもの。盲信した者ほど話し合う意味なんかないわ。本題に入るわ。なんで、エネア母様、エリアお祖母様の遺品を狙うのかしら?」
「言うはずないわ」
「そう、じゃあ、話したくなるようにしてもらうわ」
「な、何をする気よ」
「貴方たちが好きな洗脳をするだけよ。話すことが幸せだと思うようにね」
「この魔女め。最悪の悪魔め」
「あら、貴方達に言われたくないわね。そのまま、その言葉をお返しするわ」
「そんな、私は」
「まぁ、いいわ。自分の事はわからないものね」
そして、リネアは薬を使う。徐々にエリナの意識が白濁していく、そしてついに意識は完全にリネアの言うことを聞くことが幸せというトランス状態に入る。
「ねえ、エリナ。どうして、エリアお祖母様やエネア母様の遺品を狙うの?」
「それは遺品にカンバル様が送った物がある」
「送った物?」
「そう、カンバル様がレキシナに送った物だ。です」
「そう、それはどれ?」
「簪だ。それはカンバル様が魔法を込めた物です」
「そう、それを何で欲してるの?」
「カンバル様自体のマナが足りない。御神体にあったカンバル様のマナが使われた」
「そうなのね。マルクの推論が正しそうね。じゃあ、何でエネア母様の物になったの?」
「エリアはレキシナの血筋に当たる。だから引き継がれた」
「え?だって、レキシナには家族は?」
「子はいない。弟がいた。巫女としての力は引き継いでいないけど、家族だったです」
「そう、それで。じゃあ何でエルフに渡したの?」
「必要がないxbyそlzdhだ」
「あら、少しおかしくなったわね。薬の量を間違えたかしら?」
「お前は殺す。こんな事をして」
「あら、意識を戻したの?でも変ね。そんな量ではないけど」
「リネア、オマエハコロス」
「完全に壊れたのね。これはアレかしら」
「ふzなlzhかあ」
エリナは死んだ。
「あら、死ぬ量ではないはず。これはカンバルが何かをしたわね。セコイ男ね」
「おい、本当か?お前がやりすぎてんじゃねえのか?」
「ガイス、貴重な情報源をそんな壊すようなことしないわ。だから少量でギリギリ聞ける量にしたの。そのあとは姉妹仲良くできるようにしようと思ったのに」
「本当かねえ。恐え、恐え」
そしてエリナの体が急に宙を浮いた。
「おい、リネア、離れろ。あぶねえぞ」
「リネア、こっちだ」
「ええ。わかったわ」
エリナの体は消えていった。
「大丈夫か?」
「ええ、母様の遺品も大丈夫よ」
「そうか。ならいいがな」
「にしても、母様の遺品をどうしようかしら?ラルクに会いに行きましょう。ゼル、愛しの妻が会いたいって言ってるって伝えてくれる?」
「はっ」
「おい、本当昔っから、てめえはこういう大事な時に悪ふざけをすんなあ」
「ああ、困ったものだ」
ガイスとガッソが文句を言うが、リネアが睨むと、蛇に睨まれた蛙のように静かになった。こういうことを言って殺されかけたことが過去に何度もあった。大抵は地獄のような薬の類の実験動物にされたことでだが。
俺は父上に呼ばれた。会議室に向かう。
「将軍、参上しました」
「ああ、マルク、そっちに座れ」
「マルク、頑張っているわね?」
「母上?兄上、メル姉に、エルカ姉様まで」
「ああ、俺もマルク同様に呼び出されたんだ。事情は知らないぞ」
「私もよ。マル君」
「ん」
「そうですか?これは家族のことですか?」
「ああ、そうだ。だから騎士団長、将軍という呼称で呼ぶな」
「わかりました。で、ご用件は?」
「もう、せっかちなんだから。家族が久しぶりに集まったのに、そう急がなくてもいいんじゃないかしら?」
「母上、今はそういう時ではありません。これが終われば、いくらでも家族でゆっくり会えます」
「まぁ、そうね」
「じゃあ、本題に入るぞ。リネア、いいな?」
「ええ」
「そうか、実はな、リネアの元に刺客が来た」
「やはり、そうですか。ダークエルフですか?」
「ああ、そうだ。エリナという者だ。覚えているだろう?アルスを奪われた時のやつだ」
「ああ、あの者ですか」
「そうだ、アルフ」
「で、お父様、どういうことがわかったの?」
「ああ、リネアの持つエネア様の遺品の簪がな、カンバルが作った物らしい。それにはカンバルの魔力が入っているから、それを狙ったようだ」
「そうですか。ではそれをどうするかということでしょうか?」
「ああ、リネアは壊そうという言うがな。お前らにとっては祖母の遺品だ。だからお前らの意見を聞く」
「私は母上の思う通りになされればいいと思います。お祖母様の思い出は母上の中にしかないですし、それを大事になされるべきは母上だと思います。私がどうこう言うことではないです」
「私もお母様次第でいいです」
「メルに同じ」
「そうか、アルフも、メルもエルカもリネアが決めるで問題ないか」
「「「はい」」」
「マルクは?」
「俺もそうは思いますが、母上、無理はしてらっしゃいませんか?」
「ふふふ。マルクは本当に優しいわね。でも無理はしてないわ。私はエルフとして生きてないの。もうドンナルナ家が私の家だから、母様とのことも、お祖母様のことも思い出だけでいいの。だから遺品はいらないわ。これで世界が壊されるならいらないわ。過去より今よ」
「そうですか。じゃあ、母上の思う通りに」
こうして話は終わり、俺の祖母に当たるエネア様の遺品である簪を壊す。ゼルと父上が壊そうとする。しかし、なんだかおかしい。
「ちょっと待ってください。何だか簡単すぎませんか?」
「何がだ?」
「なんだか、カンバルは壊させるように仕向けていると思いませんか?」
「え?どういうこと?」
「なんだか、全てが仕組まれているような気がします。エリナというのはどうなりましたか?」
「ええ、死んだわ」
「遺体は?」
「飛んで行ったわ」
「飛んで行った?」
「ええ、いきなり宙に浮いて、そして飛んで行ったわ」
「そうですか。何だかきな臭いですね。それに気になっていたのですが、エルフの裏切り物がいるのではないかと?」
「エルフにか?」
「ダークエルフに襲われた時に何故このタイミングかと思ったんですが、その時に情報を売ったか、情報が伝わるように何かを仕掛けた者がいるのではと思いました。
ですが、エルフの里が襲われたことでうやむやになってしまいました。それを考えるに、何か意図があってエリナにわかりやすく母上を襲わせたのでは?だからエリナの遺体を奪わせなかった?」
「そうか、それはあり得るか?だとするとローザか」
「そうでしょう。又はメリーかもしれません。あの場にいたのは俺と母上とローザとメリーと長老だけですから」
「そうか、しかし、それだと?」
「エルフとの関係を考えないといけないですね。ラルク様、エルフをお呼びしましょうか」
「ああ」
「ゼル、できれば、アイナとガッソさん、アイルさんを先に呼んで」
「その3人を?」
「ああ」
「どういうことだ?今のエルフのことを知らんだろう」
「はい。ローザさんと関係が遠い人がいいと思います。まずは3人に確認したいことがあります」
「そうか」
そして、アイナとアイルさんの姉妹、ガッソさんが呼ばれて来た。
「話というのは何だ?」
「ええ、ガッソさん、エルフのことを聞きたいです」
「ずいぶん前に出たぞ?」
「ええ、わかってます。その時のことを知りたいです」
「そうか。で、何を聞きたい?」
「はい、ローザさんはどんな方ですか?」
「ローザか。確か、長老の妹の子である。俺は年が離れているから、あまり関係がなくて、そんなには知らんがな」
「ガッソさんは長老とは?
」
「俺か、俺は長老の子になる」
「そうなのですか」
「何だ、疑っているのか?」
「ガッソ、怒らない。マルク君、ガッソは長老の一人息子よ。兄弟もなく、その息子がいなくなって長老はかなり落ち込んだものよ」
「「え?」」
「どうした?」
「ガッソはバカですが嘘はつきませんよ。マルク様、リネア様」
「違うんです。長老のひ孫にメリーという者がいたんだです」
「な、そんなはずはない。俺以外に子はいない。もちろん、俺の子でもない。メリーというのは長老のひ孫のはずはない」
「こっちでメリーに会ってはいませんか?」
「ああ、こっちには来てないぞ」
「そうですか。きな臭いですね」
「ええ、ローザも怪しいわ。何だか、全てが怪しいわね」
「母上、父上、あいつに聞きましょう」
「あいつ?」
「ええ、ダークエルフの襲撃の時に捕まえた」
「ああ、あの弓術士の。大丈夫よ。ちょうどいいくらいに調整したわ」
「そうですか」
一瞬、調整の言葉に恐さを感じたのは内緒だ。
そして、奴が呼ばれた。
「ねえ、聞きたいのだけど、メリーって知っている?」
「ああ。リネア様、彼女はダークエルフの血を引くハーフエルフです」
「そう。エルフの里の長老との関係は?」
「特にありませんが、長老のひ孫としました」
「どうやって?」
「はい。呪いで洗脳です」
「狙いは何かしら?」
「はい。エネアの簪を壊すことです。探したのですが、見つかりませんでした」
「そうなの?ローザに協力はしなかったの?」
「あの者だけはかかりが悪く、メリーを疑っている節がありました。ですので、ローザだけは遠ざけておりました」
「そう、上手くいかなかったのね?」
「はい」
「で、簪は何なの?」
「はぁ、ちゃんと知りませんが、リネア様が知っているのでは?」
「ちょっと、ど忘れしたの」
「そうですか、確か、リネア様は神と交信する際の道具だと」
「そう。わかったわ。ありがとう」
「いいえ。いつもはありがとうなど言わないですが」
「いいの。さぁ、行きなさい」
「はっ」
そして、彼は連れてかれた。嬉しそうな顔で出ていった。クロには褒められたことがないのだろう。
そして、ローザを呼んだ。そこで、母上がローザに洗脳を解く薬を使った。これでローザは洗脳が解けたようだ。
「あ、メリーはそうか」
「洗脳が解けたようね。メリーは敵だったわ」
「ああ、ずっと疑っていた。長老に子はガッソ様だけだった。それなのに孫がいた。長老がそう言うので、おかしいと思ったが、そうだと信じた。それでも何だか変で簪だけは隠した。マルクが来た時に、リネアに渡さなくてはと思った。メリーが場所を聞いて来たから、余計にそう思った」
「そう、これで誰が敵かわかったわ。そして簪の重要性も」
「ああ、簪は大丈夫か」
「ええ」
「そうか、メリーはどうする?」
「どこにいるの?」
「ああ、今回は連れてこなかった。何だか連れて来たら問題を起こすと思ったから、王国において来た。レオサードの要塞近くの街だ」
「そう、いい判断ね」
「ああ、そうか」
「おい、騎士団に言って、メリーを捕まえてこい」
「これ、エルフのみんなに渡して、これで洗脳は解けるはずよ」
「わかった。ありがとう」
そして翌日に捕まったメリーから情報を抜き、処刑した。
メリーから聞いた情報はカンバルの狙いだ。奴は簪を壊し、神の力を使えないようにしたかったようだ。そのためにエリナとメリーを使い、簪を壊すように仕向けたのだ。
メリーはエルフの里に入り込んだだけでなく、今回もレオサード領の要塞にエリナを入りやすくしたようだ。そして入った後にわざと捕まり、それらしい話をして簪を壊させるように仕向けたとのことだ。
さらに、現在、カンバルがしているのは、俺らが考えたように、レキシナの意識がしたドラゴンの封印壊しで、御神体にためていたマナが減ったために、それを貯めるために魔獣を殺しているようだ。




