侵攻のストップと謎
それから2日経ったが奴らはまだ攻めて来なかった。何故だ?いまいちわからない。それを話し合うための会議が行われた。エルフの代表や俺、他に市川舞、山本里奈も、そしてカンバルの研究についても第一人者のカインさんも出席した。
「何故、奴らは静かなんだ?」
「ええ、それがわかりませんね?弾切れするとは思えないですね?」
「ああ、それならばあの映像の余裕さがおかしいな」
「ええ、それだと不思議ですね」
皆が謎を理解できない。俺らも不思議だった。俺が1つだけ、疑問があった。
「カンバルの化現が不完全だったとか?」
「な、それはあり得るのか?」
「わかりません。ですが、それならば全ての筋が通るかと?」
「確かにそれならば、攻めて来ないのも、先日の攻撃もわかりますね。ですが、なにが足りないのでしょう?」
「ええ、それがわかりません。エルフの代表、御神体と言われる物について、何か知りませんか?」
「御神体のこと?いまいち、知りません。エルフ側にはダークエルフが御神体を大事にしていたとしか、伝わっておりません」
「そうですか?御神体を使って、ドラゴンの封印を壊せるほどの物ですからね。よほどすごい物とは思いますが、どんなものか?映像を見るには心臓のようなものでしたけどね?」
皆が考え込む。その中で父上が声を絞り出す。
「うむ。心臓に見えた。誰かの心臓なのかもしれない。カンバルのか?」
「さぁ、誰のですかね〜?」
「父上、御神体を使ってドラゴンの封印を解こうとしたというのは変じゃないですか?」
「え?」
「ドラゴンの封印を解くのに、供物を得るためとは言え、そんな大事なものを使うのって?」
「確かに」
「そうですね。当時は魔族とダークエルフは対立していたと思っていたので、何とも思いませんでしたが、今となっては疑問ですね?」
「もしかして、御神体は他にある?」
「そんなことが?」
「いや、あり得るのか?」
「わかりません。ですが、そうなるとエルフの里を襲撃したことが謎になります」
「え?どういうことですか?」
「はい。気を悪くしないでほしいのですが、あの時、俺を足止めしてでもエルフの里を攻撃した理由がわかりません。もうすでにレキシナやカンバルの事を話した後のエルフの里と俺らなら、普通は俺らを狙うはず。しかし、ダークエルフ共はあえて俺らを足止めして、主部隊をエルフの里に向かわせた。これは少しおかしい行動だと思います」
「確かに戦力という点ならば、エルフ族はそれほど多くない。しかも先程の映像から知るに、マルクのスキルをカンバルは狙っていた。それなのに、マルクよりエルフの里を狙ったというのは変だな?」
「ええ、イチカワさん、ヤマモトさん、何故エルフの里を狙ったか知りませんか?」
「よくは知らないけど、何かを探すと言っていたわ」
「そう、大事なものだって」
「そうですか。貴重な話をありがとうございます」
「ええ」
「はい」
「やはり、何か足りてないのでは?御神体か?それとも御神体と対になるもの?」
「その時は何か盗まれたものはないのか?」
「いいえ、特には。死んだ者は多いですが」
「そうか。辛い話をすまぬな」
「いえ、ここで全てを明らかにしないと、ここにきた意味がないですから。我々ももう里に篭って、危険から逃げるのではなく、自分たちで未来を得ることを決めましたから」
「そうか」
「エルフの里にあったはずが、襲撃の前に無くなった物?」
「え?」
「いや、エルフの里に俺らが行った時までに無くなった物が奴らの探していた物だとしたら?」
「それならわかるな」
「それならエリア様とエネア様の遺品では?」
「あ!」
「それしか考えられません」
「父上、母上が持ってらっしゃったはずですよね?」
「ああ、要塞に持ち込んでいる」
「そうですか。とりあえずは守りを固められそうです」
「ああ、そうだな。ゼルを呼べ」
ゼルが呼ばれ、来る。
「はっ、ただ今、呼ばれて参上しました」
「ゼル、リネアの持つエリア様とエネア様の遺品にカンバルが狙う重要な物が含まれている可能性がある。お前はリネアを守れ。ガイスさんにも協力をしてもらえ」
「わかりました」
「頼む」
「はっ」
と、ゼルは会議室を出て、母上の元へ向かう。ガイス師匠らは文句を言いだしそうだが、きっと母上を心配してついてくれるだろう。あの二人はガイス師匠もガッソさんも何だかんだ言いながらも母上を仲間として大事に思っている。
「あの、やはりドラゴンに御神体を使ったというのはおかしいという事を考えたほうがいいと思いますが?」
「カインさん、御神体じゃないから大したことではないという結論では?」
「いえ、本当に御神体じゃないのですか?もしそうなら、ドラゴンを封印した結界を解くほどの力が?」
「?」
「はい。それほどの力がある物がそうあるのかと?確か、ドラゴンの封印は勇者であるシズル・ルクレシアス様が施した物だったと。しかも命をかけて作られたものだと聞いています。それなのに、重要な物でもない物で封印が解けるのでしょうか?それに御神体としてリネア様が知っていた物が偽物だったのでしょうか?」
「あ!」
「そう考えると、御神体だというのは正しいのではと思います。ただ、ドラゴンの封印を解くのに力を使いすぎたのでは?」
「そうか。そういうことか」
「マルク、何か思いついたか?」
「ええ、怪物です。魔王と呼ばれた怪物です」
「それがどうした?」
「はい。魔王だった怪物にはレキシナの意識を少し入れてありました。多分カンバルの妄執で、初めて作った擬似生命体にレキシナの意識や記憶を入れたのでしょう。不完全でしたが。それ故に怪物にはレキシナの意識があり、苦しんでいた節があります。もし、レキシナの意識が少しだけ、優勢な時期があったなら?御神体に入った力を使い込むためにドラゴンの封印を解くという行為をさせて、力を使わせたのでは?」
「な。迷惑な話だが、筋は通る」
「ええ、それならわかります。ただ、魔王とクロは繋がっていたのにできますでしょうか?」
「あの、クロは表立って魔王を名乗れないと言ってましたよ」
「本当ですか?ヤマモトさん」
「はい」
「そう、そう言ってたと聞いてます」
「そうですか。イチカワさん。だとすると、魔王を通して魔族に命令をさせていた。レキシナの意識が奥で出てこれていない時はそれでよかったけど、レキシナの意識が優位になったら、その命令に反してそういう事をしてもおかしくないのでは?」
「確かに、全ての謎は解けましたね。ただ、今は何をしているかです」
「ええ、御神体に足りない物である。エリア様とエネア様の遺品に含まれる物、そして力を溜めるための何かをしているという事でしょうか?」
「ええ、だと思いますが後者はわかりませんね」
「ええ」
こうして、会議は終わった。結局はこちらは受け身にならざるを得ないのは変わりないが、何が起きているかについて、推論でもできただけでも、進んだと言える。少しは落ち着くということだ。




