ラルクからの手紙 変わらぬ訓練
辺境伯で戦線が開かれ、紛争の終了を待つマルク。
その経過を聞きながらも健気に頑張ります。
あれから1カ月がたった。父上はもうドンナルナ辺境伯領でエドワード殿下の近衛として辺境伯の守備についているだろう。まだ特に戦端は開いてない。国境で睨みあっているようだ。
お互いに戦争するようなタイミングではない。だが帝国は皇帝の代替わりによって、新皇帝の武威を示す必要がある。新皇帝は皇太子だったから、それなりに地盤は硬いはずだが、国内に問題がないという訳ではない。
元第2皇子で弟とは母親が違う。しかも新皇帝は聖国の枢機卿の娘で、新皇帝の弟の母親は帝国貴族、現侯爵の妹だ。
そんな訳で、新皇帝は少し国内の地盤が弱い。しかし聖国の支援を強く持っている。だから今回の武威を示す行為だ。新皇帝は武威を示したい。そして新皇帝の弟が貴族に力を示したいのを利用して、新皇帝は弟を亡き者にできれば万々歳だ。という訳なんだ。
そんな状況のため、無駄な戦争と分かっておりながら、両者は睨み合う。そんなことなら魔族国家の対策をしたい。自国の富国をしたい。これが本音なんだ。本当に政治は面倒だ。泥を啜って戦争を回避するのが政治だと思うだけどね。
そうこう考えていたら、リリアに呼ばれた。父上から手紙が来たらしい。
「マルク、ラルクから手紙が来たわ。あなた宛の手紙もあるわ」
「ありがとうございます。母上への手紙には戦況のことが詳しく書かれているのですか?」
「ええ。少しね」
「そうですか、どうでしょうか?」
「うん、まだ睨み合いが続いてもう少しかかるって」
「そうですか。特に問題なく、父上が元気で、王国が安泰なら良いですね」
「ええ。まだ帰って来れないのはねぇ。まぁマルクの言う通りね」
「はい。母上」
俺は父上の手紙を開けた。
『マルクへ
リネアの言うことを聞いて、普通に暮らしておるか?
ちゃんと訓練に、勉強に励んでいるか?
まぁ、マルクならば真面目に訓練に、勉学に励んでいるだろう。
俺はまだ帰れないだろう。帝国の兵は士気も高く、戦況も開いていないから、まだ睨み合いが続くと思われる。
リネアの言うことを聞き、リリアやゼルに手伝ってもらい頑張るのだぞ。
帰った時にマルクの成長した姿を楽しみにしている』
短いが父上らしい。厳しいが優しさの溢れる手紙だ。父上も期待している。頑張ろう。帰ってきた時に喜ばせたい。
だから今明日も午前は槍術の訓練だ。
翌日
今日の訓練も、基本の六技をそれぞれ500回ずつからだ。一つ一つを丁寧に、ただ強くなるために、こういう時は心を整え、強い気持ちで、冷静にだ。
俺にできることをただ丁寧に確認するように、自分と向き合う。全部終わった。
次は武闘オーラの訓練、『覆』、『集』、『凝』、『露』と続けて行く。
最近、『飛』以外はできるようになった。『飛』ができるようになったら武闘オーラありでゼルと模擬戦を始める。だが、まだ『飛』が出来ない。これが難しい。最大の奥義だ。これが出来ると多くの技を出来るようになる。
ふう。午前の練習が終わった。昼食が終わったら、魔法の訓練だ。母上は忙しいので、自分で今できる魔法をしっかりできるようにする。できることを普通にやれるようにする。流れるようにやる。それが大事だ。1時間ほど練習して、終わる。
次は、スキルの訓練だ。最近はよっぽどのことがなければゼルかリリアかアイナが見ていれば、スキルの訓練をして良いと言われている。リリアに見守ってもらい。マナを飲んで行く。
「マルク、スキルの訓練しているのね。今日は少し時間を取れたから付き合うわ」
「ありがとうございます。母上。今マナを飲んでいるところです」
「じゃあ、魔法を飲む?それでいいかしら?」
「はい。よろしくお願いします。まずは回復魔法から」
「わかったわ」
母上がハイヒールをかける。俺はそれを飲み込む。うー。やっぱり自分のじゃないと少し体が呻く。でも、すぐに治る。もう慣れてきた。
次は母上が的に向かって上級魔法を撃つ。それを横で、呼吸をして少し吸い込む。全種類を飲み込んで行く。
次は中級魔法を飲み込む。もう5つまでというのはない。だいたい15種類ぐらいまでは飲んで良いことになった。体が悲鳴をあげる直前にやめる。それをちゃんと宣言する。それをしないと積み重ねた信頼を失う。
中級までは大丈夫だ。魔法の練習をしっかりしたから、まだ余裕がある。上級を飲み込めるな
母上が風の上級魔法を撃ってくれるので、それを飲み込む。
体が呻く。ギシギシと体の色々な部分が喚く。抑えるため、床を転がり、痛みをこらえる。声は出さない。まだ耐えられる。何度か上級は飲んでいるが、これは中々なくならない。ただきつい。熱い。きつい。苦しい。辛い。でも耐える。耐える。早く収まってくれ。
ふう。何とか耐えきった。
「まだ、辛いみたいね」
「ええ。今日はこれ以上は無理です。前よりは良くなっておりますが、上級魔法は厳しいですね。耐えられるようになってきたんですが」
「そうね。ちゃんと限界を見極められるようになっただけ偉いわ」
「はい。母上。約束ですから」
こうして今日の訓練も終わった。
今日は夕食後はゆっくり休もう。
「マルク様、訓練はいかがでしょうか?」
「ああ、大丈夫。しっかりできているよ」
「申し訳ありません。訓練にお付き合いできず」
「いいよ。ゼルも今は忙しいでしょ。時間ができたら、またお願いするよ」
「ええ。わかりました」
「頼むよ。じゃあ部屋に戻るね」
「はい」
ゼルとこんな話をして、食事を終えてから部屋に戻った。
ふう。心を整えて。瞑想してから寝よう。心を強く、常に平常を保つ。これが大事だ。
俺はそこが崩れたら全て崩れる。今までの努力も、父上の期待も、母上の信頼も、2人の愛も、メル姉とエルカ姉様の優しさも、ゼルの教えも、アイナ気遣いも、リリアが尽くしてくれることも、全てが無駄になる。全てを大事にするために心が一番大事だ。
ふう。今日は休もう。
変わらぬ決意と努力をお楽しみいただければ幸いです。
成長を暖かく見守りください。




