決着と親子
マルクが倒している間の右翼
「リオル、一気に行こう」
「クリス、そうだな。ただサトウという勇者には気をつけろ」
「そうか。確かにまだ1人勇者が残っていたな」
「ああ、マルクは集団を扱う勇者じゃないかと言っていた。前回の勇者召喚もカズキ様という強力な勇者、剣士と魔法使いの2人、ユウタ様という戦術家、そして魔法や魔道具作りの巧いシズカ様の5人だったそうだ」
「そうか。それだと戦術家がいてもおかしくないか」
「ああ、そうだ。クリス」
「おい、リオル、クリス、相手に動きがある。どうやらかなりの数で来るみたいだ。気をつけろ」
「「ええ」」
そして、同盟の右翼と佐藤良太率いる赤井コピー隊がぶつかる。同盟軍は1人1人が凄まじい攻防をしている。同盟のそれぞれは1人1人が強く気持ちを持ち、英雄のようだった。その中でもリック、リオル、クリスの3人は多くの敵を葬っていく。
のちにこの3人はこの右翼の戦いが評価されて勲章を受け、貴族になる。それほど、ここでの戦いは激しく、厳しいものになった。それほどキツイ戦いの中でリックとリオルとクリスは活躍して行く。
リックは無拍子と自身の隊、第03小隊を指揮して多くの者らを仕留めて行く。
父から引き継いだ隊だが、隊長になった当初は周りから舐められた。しかし、それでもリオルらの訓練を横で見て、厳しい訓練で隊を強くしていった。
最初は隊を抜けたいという者も多くいたが、それでも変わらずに厳しい訓練をしていく。そして、自身が隊員の倍以上もの訓練を課していることで、負けじと更なる訓練をする隊員が増えていった。その結果、リットが隊長時代より、隊を強くしていった。
そんな鍛えられた隊はリックの動きに合わせて、攻撃をしていく。それは頭がリックで、体が隊の龍のようだった。そして頭であるリックが無拍子で1人を攻撃して、フォローする様に他の隊員がふらつく敵を隊員が殺していく。そうして何十、何百人もの赤井コピーを殺していく。
一方でリオルは個人の武で圧倒する。
その強さは他の隊員にはついていくことすらできないほど、そして一気に葬っていく。多くの赤井コピーがリオルによって倒されていく。時に剣で、時に魔法で、時に誘導して他の隊員に攻撃させる。その動きはまるで戦場で描かれた絵画のように美しく、そして凄まじい戦いだった。
クリスはかなり巧く戦う。
彼の強さは俯瞰の目だ。他のものには見えない光景が彼には見える。それはスキルのおかげであったが、昔から周りを観察する癖が彼にはあった。そして自身の力を把握する力があった。
周りからは物分かりのいい子という評価だったが、本人のそれはそのレベルをはるかに超えていた。周りの動きを見る目に優れ、そして誰よりも観察をしていた。
その力量差や自身の得意さを誰よりも見えていた子は7歳になり、その力がスキルによるものとわかった。だがそれだけだった。力量がわかるだけに自身の可能性を閉じてしまっていた少年はリオルらと出会い、負けたくないと思った。それでも得意な観察で自身の力を見極め勝てないとも自覚していた。
それが壊れたのはマルク・ドンナルナと出会った時だった。無能と言われた者がどこまでも可能性を信じていた。そしてその殻を破った事を知った時に胸が熱くなった。
自身が見ていたのは現状ではなく、難しい現状を見て勝手に作り出した言い訳だったという事を思い知らされた。そして俺は現状を誰より把握できるなら、それを生かす方法も誰よりもわかっているとそう理解できた。
それからのクリスは変わった。誰よりも正確な判断で、誰よりも自身を成長させていった。
クリスは1人への攻撃を最小限にして倒していく。そして、邪魔な位置や他の隊員が倒せそうにない者をなるべく倒していく。これにより、他の隊員が楽に戦え、疲れる事なく戦場はクリスたちのものへと変わっていった。
そして誰もが戦場はリオルらの活躍で傾くと思った。しかし現状は変わらなかった。圧倒的な兵数で数の暴力を作り、迫って来る赤井コピー軍が右翼を襲う。それはまるで終わりのない戦いのようだった。
徐々に戦力で圧倒されていく同盟の右翼軍だ。数という戦争の基本は基本にして究極だった。そして同盟軍右翼は徐々に疲れで動きが悪くなる。同盟軍右翼はジリジリと押され始めて後退していく。その中でリック、リオル、クリスが奮闘していくも、小さな事だった。
もう右翼はダメかと思われた瞬間だった。右翼に助っ人が来た。
サンゼルとヤイにケビン、ガイスとガッソらとエルフの一軍だった。彼らが右翼の右から攻めるために来た。彼らは赤井コピー軍の横っ腹を一気に攻めていく。それは猛烈な勢いで赤井コピー軍を葬っていく。
それに気を取られた赤井軍は前線への攻撃を緩めた。この隙に回復薬を使い、回復して来たリオルらの右翼軍が同時に赤井コピーたちを攻撃し始めた。
一気に挟み撃ちの形となった赤井コピー軍はどんどんと数を減らしていく。それは数の暴力を発揮させられないほどのスピードで数を減らされていく。特にガイスらとエルフ軍が強烈な勢いだった。
ガイスが槍でどんどんと倒していくと、今度はガッソが剣で切っていく。さらにエルフ軍が数は少ないがレイア草の成分を濃くした粉をつけた矢をものすごい勢いでうち込んでいく。数が多すぎるが故に矢を避けれずに苦しむ赤井コピーたち、そこをつき、ヤイらが殺していく。
そしてサンゼルは1人無双をしていた。そのために赤井コピーが殺到するも、それを簡単に倒していった。さらにその集まった者らをケビンが横槍を入れ葬っていく。赤井コピー軍の右側は完全に戦線を崩され、もう収集がつかない。
そして、前線もクリスやリオル、リックが一気に攻めていく。そのために前線も崩れ、赤井コピー軍はすでに崩壊へと進んだ。
同時期の左翼
マルクが怪物と戦っている間、左翼軍は一気に攻勢をかけていた。レオナルク王国の重戦士部隊、レオミラン王国の重戦士部隊がトルネストコピー軍を抑え込み、そして獣人族軍が一気に横っ腹を攻め込んでいく。これで魔族・ダークエルフ軍右翼のトルネストコピー軍は為す術もなく崩れていく。
これで終わると思われた瞬間だった。大きな音が中央より聞こえ、同盟軍左翼の戦線は動きを止めた。それを見逃さずにトルネストコピー軍が息を吹き返して来た。さすがの天才マルク・トルネストである。
「く、トルネストも隙は見逃しませんね」
「ええ、兄上。まぁ天才は天才ということでしょう」
「ええ、その辺は流石に抜け目ないということでしょう」
「ええ」
こう、ガリシアン家の天才2人が話している間に、戦線はまた膠着状態に入るかと思われたが、そこは天才のコーネリアス・フォン・ガリシアンとハンニバル・フォン・ガリシアンである。
その対策を合図で伝え、獣人族部隊がいく。スピードで獣人族部隊がトルネストコピー軍の隙が立て直しきれていない部分を突く。それによって崩れた部分をガリシアン家の私設部隊がついていく。
これで完全な復活はさせない。これでまだ同盟側が優位な状況を作り出した。高度な戦術戦を要す戦いが左翼では行われていたが、またも徐々に流れは同盟側に傾き、左翼の決着は近いと同盟軍の兵士らは思っていた。
「まぁ、そろそろ、トルネスト本人のお出ましですかね。切り札を切らないと勝てない状況ですよ。マルク・トルネスト」
「そうですね。兄上」
と、2人が予想したように大きな音が前線で鳴った。魔法が撃たれた。同盟側は魔術師や魔道具である程度も備えをしていたが、その凄まじい魔法に全てを破壊された。
「はぁ、これほどに魔法を進化させるとはね。いくらなんでも派手すぎだ。マルク」
「兄上」
「ああ、まぁ大丈夫でしょう。レオサード軍を出しましょう」
「はい」
レオサード軍が前に出る。彼らは魔法を使える、重騎士の武と魔法の混成軍だった。
今までの重騎士の軍とは一線を画す軍隊となっていた。マーク・フィン・レオサードは自身の領に戻ってから、徹底して自軍のことは自軍で解決できる重騎士隊を組織することを重視した。
始めは多くの批判を浴び、自軍内でも『変わり者』、『戦術が不得手』と言った陰口を叩かれた。しかし、それでもマークは在りし日にマルクと話した「いずれ、万能な軍の重要性は増す。特化した軍は強い。だけど脆い。万能は弱い、けど硬い。これが大きな差となり始める」という話を唯一信じて進んだ者だった。
王国、いや世界初の回復や結界まで完璧にできる重騎士部隊が出来上がった。王国でもある程度の傷は直せる重装騎士部隊はいるが、完璧に自軍で魔法も武力も両方を防げる、そして使いこなす軍は始めてだった。
後にこの軍を万能守衛騎士と呼ばれ、新たな戦術、新たな隊として世界を席巻する。マーク・レオサードの名が歴史に初めて出てきた瞬間だった。
レオサード軍が前に出る。彼らはマルク・トルネストから強烈な魔法を食らうが、それを耐え前進する。
その一番前にはマーク・フィン・レオサードがいる。その姿はまさに王国の盾と言える。どれだけ攻撃を受けようと壊れることのない盾。
まさにその表現が正しい姿で進んでいく。その圧力は凄まじくジリジリとトルネストを押し始める。そこに援軍が来る。
「獣人族特殊部隊隊長ガイアス、ラルク将軍の命令により参上しました」
それを聞いたハンニバルはコーネリアスに進言を
「ガイアス殿よ。よくぞ、来てくれた。兄上」
「ああ、ガイアス殿、ここはあなたらのスピードを生かしてくれませんか?」
「はっ」
「では、この位置から一気に貴方達獣人族特殊部隊がマルク・トルネストを急襲してください」
「はっ」
そうすると、ガイアスは左翼本陣を出て、トルネスト軍側の後方数百メートルに物凄いスピードで進む。そこから一気にトルネストの後方を取りに猛スピードで進む。
その道を開けさせるため、ジュライとジンダらを中心にしたレオナルク王国重騎士部隊がトルネストのコピーたちを押し上げていく。
すると一本道ができ、そこを通り、一気にマルク・トルネストへと急襲を行う。同時にマークもマルク・トルネストへと圧力をかけ、前に出て行く。
両方に気を使わなくてはいけないマルク・トルネストはガイアスの一撃を食らった。それは重く、早い一撃で基本通りの最上の拳撃だった。
右拳はマルク・トルネストも腹を打ち抜き、その衝撃は内臓を破壊するほどだった。マルク・トルネストは血を吐き、くの字で飛んで行った。しかしマルク・トルネストは瞬時に回復をする。
マルク・トルネストは立ち上がると、今まで何も話さなかったトルネストは声を荒げた。
「やはり、コーネリアス、お前の策はすごいな。俺とは違う。何かもできたが、何者にもなれなかった俺とは違うのか?」
「貴方は焦っただけです。マルク。あえてそう呼ばせてもらいます。友としてもう一度言います。貴方は何者にもなれた。だが功を焦り、自身の心に負けた。その結果が何者にもなれなかったのです。自身の心の弱さを認め、諦めなさい。まだ貴方の子を苦しめますか?」
「うるさい。お前に何がわかる。お前は最初からガリシアン家ではないか?最初から『ある者』であったお前とずっと『何者でもなかった』俺とは全く違う。知ったような事を言うな」
「ええ、私と貴方は違う。そして、それはラルク様もです。彼の方も、私も御三家という呪縛で苦しみ、そして、自身を見つめ、諦めなかったから今があるのです。
ラルク様の子、マルク・フィン・ドンナルナ殿のことは知っているだろう。貴方も名前やその生い立ちくらいは聞いたでしょう?彼の方は無能と呼ばれ、何者でもない、何者にもなれないと言われた。それでも自身を諦めずに、誰よりも自身の心と戦い、そして打ち勝ち、今や英雄です。
彼の方こそ、貴方が目指すべき姿でした。それを心の弱さに負け、自身の功を欲するが故に焦り、早く何者かになろうとした。彼の方の言葉を貴方に教えてあげます。
私が最も尊敬する彼の方の、最も素晴らしき言葉を、
『未来はそんな簡単に変わらない。自分の未来を変えるには、自分の全てをかけて自分の人生の英雄にならないといけない。だから皆が英雄に憧れる』です」
コーネリアスはトルネストを睨み、大きな声で言う。
「この言葉を噛み締めろ。このバカが」
顔を顰めるトルネスト。
「其の者も結局はドンナルナだ。そして英雄の子だからそうなれたのだ。何も持たぬ者の家に生まれれば違った」
「お前は〜」
「うるさい。うるさい。ここで因縁に決着をつけよう。これを飲めば俺は最強になれる。カンバル様の力を得るこの薬で、俺はお前らに勝つ。俺が正しかったと認めさせる。このくだらない社会を全て壊し、持たぬ者が幸せに暮らせる社会を作る」
「カンバルが今の社会を作ったのだぞ?」
「違う。今のくだらん社会は前の神が作った。カンバル様もそれを変えようとしたが、カンバル様の当時の力では無理だった。だからこの度、新たに化現して、新たな社会を作る。それこそ、持たぬ者が幸せになれる社会だ」
「あんなのが作る社会はデストピアだ。緩やかに死んで行く社会だ。努力しないで名声を得るなどくだらない社会なのだ。そんなのはくだらん妄想だと気づけ。このバカ者が」
「違う。お前はいつも俺を否定する。俺はいつも社会に否定される。それなら社会も、お前もいらない」
「違うぞ。マルク。友が間違った道を進むのを止めるのが親友だ。それがお前への友情だ」
「うるさい。お前を友などと認めたことはない」
と言い放ち、マルク・トルネストは薬を飲む。
すると筋肉は隆起し、さらにマナが溢れて、明らかに今までと比べても意味がないと思うほどに強くなったと感じる姿、そして、命を捨てた戦いだとわかる姿、マルク・トルネストは怪物になった。
同盟軍の兵士が怯む。そんなことを気も止めず、トルネストが地を叩くと大きな音がする。
ドシャーンと吹き飛ばされた兵がぶつかり合う金属の音がなる。そして怪物となったマルク・トルネストは同盟左翼軍を攻撃を次々と開始する。それらの攻撃により、兵はどんどんと倒されていく。
その音が戦場を駆け巡り、徐々に左翼の戦線が崩され、兵が倒れて行く。左翼は負けという様相になろうかと時にラルクとゼルが到着した。
「コーネリアス、ハンニバル」
「ラルク様、これはいいところにお越しいただきました」
「余裕はないか。それほどか?」
「はい。あれは流石に想定を超えましたね。軍師がどうこうできる話ではないです。申し訳ないです。いつもラルク様に迷惑をおかけして」
「いい。俺とゼルで行く」
コーネリアスとハンニバルは悔しそうに、顔を顰め。
「はい。お願いします」
そして、ラルク対トルネストの最終決戦が始まる。因縁はついに決着へ。
「トルネスト」
「fんxhz、dlxじぇいxんs、djdbし」
「もう話をできないのか」
「ラルク/-xんhdか、あ」
「そうか。俺はわかるか。お前が悩んでいる時に気づいてやれなかった。俺はバカな男だ。いつも大事な者が大変な時に気づかない。何もできない。俺の子、マルクの時も、アルフの時も」
「ああdんxjdbzkdんさぁおsmsdんzjx」
「もう俺が決着をつけてやる。その曲がった心を叩き直してやる。そしてルーナリアに謝れ。お前は子供に誇れる親じゃないとな。迷惑かけてすまんとな。それでも尊敬してくれる最高の娘を誇って、天国であの子の幸せを願い続けろ」
「んしょああ、ルーナ」
そして2人は対峙する。ラルクはゆっくりとその距離を詰めて行く。マルク・トルネストだった怪物は叫び声をあげラルクに一気に駆け寄る。
「bhskじあはlz、あpzksz」
「このバカが」
ラルクは一気に突きを入れる。しかし、その一撃は全く効いてない。怪物は腕を振り上げ、ラルクに殴りつける。ラルクは防御をするが、吹っ飛ばされる。硬化でなんとか防ぐ。
そして、ラルクは受け身を取り、瞬時に体勢を立て直し、また槍を構える。怪物はもう正気を失い、腕を振り上げ下ろす。そこにラルクはいないのも関係なく振り下ろす。もう完全に理性はない。それはマルク・トルネストではなく、単なる怪物だ。誰も倒せないただの怪物だ。
ラルクは死ぬかもしれないと覚悟する。そうしないとこの一戦は倒せない。そう思った。
それから、ラルクは再度、槍を強く握る。そして右足に力を入れて、次に左足を強く踏み込み、怪物の胸元に槍を突きに行く。それはまるで、ラルク自身が槍であり、槍がラルクであるかのような、皆がまさに槍神と思うほど美しく、そして一瞬の風のように速い。
誰もが瞬きをした瞬間に槍は怪物に届く。
怪物は槍が胸に刺さり、一瞬だけ動きを止めた。皆が勝ったと思った。だが怪物は動き出す。そして槍を自身の体から引き抜くと、槍ごとラルクを振り上げ、地面に叩きつける。
怪物の胸には赤い血が流れている。それでも効いていないかのように、ラルクは叩きつけられた。
怪物はラルクを叩きつけた後に、血を吐く。同盟軍の兵らは怪物はすごいダメージを食らったと感じた。
しかし、ラルクが死にそうな様子に驚いた。ラルクといえば、王国の風壁だ。誰よりも硬く、速い。それで、誰も傷をつけられない者がラルクだった。
そのラルクが致命傷を負った。そのことがその場にいる者全てに衝撃を与える。それでも若者たちは動く。怪物がラルクに向かわないようにするために怪物の注意を引く。ラルクの回復する時間を稼ごうと。
なんとか、ラルクは立ち上がった。ふらっとする。そこにゼルが近づく。
「ラルク様、貴方はバカなのですか?」
「な。ゼル」
「声を出さずにこれを飲みながら聞いてください。これはリネア様がラルク様が無茶した時にと持たせてくれた物です。リネア様特製の回復薬です」
「・・・」
「飲めましたね。今はマーク君とジュライ君とジンダ君が時間を稼いでいます。さらにガイアス獣人族特務部隊長も」
「・・・」
「貴方のために時間を稼いでいます」
「・・・」
「何を一人で戦っているのです。誰がこの世界の運命を貴方に託しましたか?貴方の子のマルク様でさえもそれぐらいはわかっているはずでしょう?違いますか?」
「ああ」
「それなのに、父親のラルク様がそれを一人で背負ったような顔で戦うのは間違っております。それくらいわかっているでしょう。本当にラルク様は昔から変わらない」
「わかった。ゼル。すまん」
「大丈夫ですね?」
「行くぞ。ゼル」
「ええ」
そして元マルク・トルネストの怪物対ラルクの再戦が始まる。今度はゼルがラルクを助け戦う。ついに一戦は最終局面を迎える。
ラルクは対峙すると、怪物との間合いやタイミングを計る。すると、ゼルが仕掛ける。
ゼルが一撃を入れるフリをして、怪物の足元を狙う。これにより、怪物は一瞬だけ体勢を崩す。その隙を見逃さずにラルクが先程同様の槍と一体化した一撃を入れる。
しかも先程と寸分変わらない位置に、その一撃は怪物を貫く。しかし、怪物はそれでも動き続ける。致命傷のはずが、全く効いていないような感じすらする動きは周りの兵を驚かせる。
それでも、ゼルが牽制する間に、ラルクは槍を引き抜いて距離を取り、また構える。
そしてゼルがまた攻撃を入れ、怪物の気を引く。またラルクは距離を図りながら、少しずつ動く。その間も怪物は攻撃をして行く。
その凄まじい攻防に他の兵らは近づけない。両者の攻防によって起こる衝撃で周りものは少しずつ下がっていく。コーネリアスはラルクらに横槍が入らぬように他のトルネストコピーたちを攻撃するよう兵らに指示を出す。
そして幾度も攻防を経て、終わりが来た。それはまさに一瞬だった。まさに王国の風壁と呼ぶにふさわしい一戦となった。
ゼルが肩に一撃を入れる。そしてその一撃で槍が刺さり、怪物先程の一撃の跡がはっきりと見える。そこをラルクはまさに槍の一撃というのが相応しい、先程の一撃を超える最高の突きを入れた。それはまさに槍という生き物が放ったような一撃だった。
その一撃が怪物を貫き、そして大きな穴を怪物に開けた。
「トルネスト、もう終わりだ。俺がその心を貫いた。そして心を入れ替えて生まれ変われ。そしてまた俺と友人になろう」
「ラルク様」
「やっと、正気を戻したか」
「私は」
「もう話すな。わかっている。今、ルーナが来る」
ルーナリアが走ってきた。既にその目には涙を浮かべ、それを見たトルネストは唇を噛んだ。
「お父さん」
「ルーナ、す、ま、ん」
「はい」
「俺、の、よ、わ、さが、お前、を傷つけ、てばかりだった」
「そんな」
「もう、お前は、お前の、道を、行け。俺の、自慢の、娘だ」
「はい」
ルーナリアは涙を流し続け、そして最後まで言葉を聞いた。その瞬間は誰も声をかけずにいた。そしてその涙が枯れた時、同盟の勝鬨が上がった。右翼、中央、左翼の全てで同盟の勝ちとなった。
しかし、またもクロが
「なんだ?体が動かん」
「どうですか?毒は?」
「お前?」
「そこの怪物が飲んだ薬は、怪物になると同時に死んだ後に毒を撒き散らします」
「お前は〜」
「おっと、人間と今は争いをする時間はありません。こいつを持ち帰り、彼の方を蘇らせる時なのです」
「待て」
「では」
ラルクが苦しむの横目にクロはマルク・トルネストだった怪物の死骸を持ち帰った。
それでも、魔族・ダークエルフ軍は全軍が負け、壊滅をして、勇者とカンバルが作った怪物は負け、マルク・トルネストは死んだ。残ったのはクロと佐藤良太だけとなり、同盟の勝ちで戦争は終わった。
本陣
俺は父上と共に皆に支えられて本陣にいた。俺もそれなりに力を使った。回復には2、3日はかかる。父上もかなり力を使ったようだ。ボロボロだった。マルク・トルネストとの一戦は厳しいものだったのか。
「父上」
「マルクか。お前もかなり力を使ったか?」
「はい。怪物は強かったです。父上もですか?」
「ああ、マルク・トルネストが怪物と同じになった」
「そうですか。何かを使って怪物になったんですか?」
「ああ、薬を飲んでいた」
「そうですか」
それから各地の戦線の報告が進んだ。それぞれが勝ちのためにかなり消耗したようだ。それでも同盟は勝った。だが、佐藤良太とクロが倒せていない。完全な勝ちとは言えない。だから怪我が酷いもの以外はここに残る。
俺はレオサード領の要塞に行く。そこで数日を過ごし、回復をする。
「よお、マルク、ダメな弟子だぜ。まぁ、本物の怪物はヤバイらしいがな。まぁおめえしか倒せねえとは思うが、俺の弟子なら怪我せずに勝てや」
「ああ」
「全く、ダメな弟子を持つと大変だ。まぁ、おめえが戻ってくるまではここを守ってやる。早く回復しろ」
「ああ」
そして俺はレオサード領に行った。ゆっくりと回復していく。1週間ほどが経った。クロらは驚くほどに静かだった。だがその静けさはそう長くはなかった。




