戦争2日目 中央
右翼が勇者たちと戦っていた同時期の軍中央部では、アルフが指揮を執り、シグルソンがそれを補助をしていた。
「そこ、戦線を崩すな。誰かが疲れたら、代わりが戦線に入り、常に戦線を保て」
「おい、そこの回復をそいつらに頼む」
戦場は一進一退の状況が続いていた。
「シグルソン顧問、リンゼル君、相手の戦線を崩すのは難しいな」
「ええ、状況的にこちらが相手の主攻でしょう。相手も本気の部隊数みたいですし、何より意思疎通がすごいですね」
「うむ。多分だが、誰かがこいつらを操っているのだろう。対面する隊全体が1つの意思で動いているように感じるな」
「そうか。組織として運営の違いか。将の力だな」
「それは違うぞ。あっちはまぁ、ズルだな。そんな方法は人には取れん。むしろアルフは人外の戦法によく対応していると言われるだろうな」
「失礼します。本部より伝令。中央軍にスピキアーズ軍および宮廷魔術師団投入とのこと、ただ今スピキアーズ軍の大将アレス・フィン・スピキアーズ様、軍師レオナ・スピキアーズ様が到着なされました」
「うむ。来てくれたか。こっちに呼べ」
「はっ」
「失礼します。アレス・フィン・スピキアーズ、レオナ・スピキアーズ入ります」
「ああ、よく来てくれた。助かる。左翼はもう大丈夫か?」
「はい、ハンニバル様、コーネリアス様が指揮を執り、戦線の維持をしています」
「右翼の状況は?」
「はっ、現在勇者3名と交戦中で、うまく誘い出した模様です」
「そうか、マルクはうまくやったか。伝令役もさせてしまいすまないな。アレス殿」
「いいえ、アルフ様、私は私の役目をしているだけ、この戦場において立場などどうでもいい事、むしろ戦争に勝たねば、全てを失うだけです」
「そうだな。しかし、よく成長したな。アレス君」
「アルフ様にそう言っていただき有難きこと。マルクの成長には負けますが」
「ああ、我が弟の成長には俺も負ける」
「ふふふ。マルクが近くいると大変ですわね。アレスもアルフ様も」
「ああ、レオナ君。その通りだ。あいつはドンナルナ家でも異質だな。あまりにも訓練にしか、強くなる事にしか興味がなさすぎる」
「ええ、本当にそこは変わりませんよね」
「ふむ。冗談はこのくらいにしよう。ここは戦場だしな」
「ええ、アルフ様。状況は?」
「1つの意思で動く相手側に苦戦している。そのせいで戦線維持だけしかできていない状況だ。アレス君、スピキアーズ軍には相手の注意を引っ張ってほしい。1つの意思ならば、多数の方向には対応できないだろう」
「わかりました。こちらで動き、スピキアーズ軍に対応しなくてはいけない状況を作り出します」
「うむ。頼む」
そして、戦場に入ったアレスとスピキアーズ軍はレオナの戦術の元、中央軍で遊撃として、魔族・ダークエルフの中央軍を混乱させようと縦横無尽に動いていく。徐々に魔族・ダークエルフ軍の意識はそっちに向いていく。
「よし、アレス君とレオナ君がうまくやってくれたな」
「さすが、お2人です。スピキアーズ軍によって相手の隊列に乱れがあります。そこを突きましょう」
「うむ。アルフ、俺に数十騎を貸せ、相手の戦線の乱れを突いて、崩してくる。その後はお前の指揮で相手を駆逐しろ」
「わかりました」
「ラックス、ルックス、来い」
「「はっ」」
「数名を連れて来い。あとヨンダル、キュリロスお前らも来い」
「「はっ」」
そしてシグルソンによる戦線の乱れを突く突撃が始まった。アレスらスピキアーズ軍が動き、魔族・ダークエルフ軍の注意を引っ張っている間にできた戦線における綻びは小さなものだった。
しかし、シグルソンはそこを上手く突く。リックス・ラックスの2人にスピードでけしかけさせ、一瞬の戸惑いを生じたところに重戦車であるヨンダルやキュリロスを間に入り込ませた。
それにより一時的にできた戦線の凹みにより他の戦線で綻びが大きくなる。さらにシグルソンらがその凹みを増やす。それに呼応するかのようにアレスらスピキアーズ軍がさらに魔族・ダークエルフ軍の戦線を乱す。
いくら1つの意思で動いていてもこうも複数の指揮で戦線を乱しにかかられてはどうしようもない魔族・ダークエルフ軍であった。
そしてそこにアルフとリンゼルの主攻が一気に攻勢を仕掛けた。魔族・ダークエルフ軍は戦線を保つ事は難しくなり、徐々に隊列の乱れが生じて、軍は崩壊へ向かっていた。
アルフらが戦線を崩し、魔族・ダークエルフ軍がそれに対応しようと多くの兵を集めていくと、シグルソンらが一気に他の部分から戦線を抉っていく。
そっちにもと対応していくと、今度はアレス率いるスピキアーズ軍が戦線を抉っていく。と堂々巡りとなった魔族・ダークエルフは混乱に陥り、徐々に中央での優位を保てなくなっていく。同時に右翼における敗退により、そちらに将の意識がいっていたのも大きい。
そして戦線は完全の傾いた時だった。急に同盟の戦線が大きく崩れた。ドーンという爆発音と共に砂煙が立ち、前線のものが吹っ飛び、そして消えた。
砂煙がなくなるとそこにいたのは明らかに異形と言える怪物がいた。
「あれは何だ?」
「わかりません。情報にない者がいます」
「俺が出る」
「いけません。アルフ将軍がいなくれば、戦線は一気に崩れて中央を崩された同盟は負けます。そうなれば王国も、獣人族国家も全て消えます」
「な、それでもここであれに対応しなくても負けるぞ」
リンゼルとアルフが押し問答をしている間も前線は魔族・ダークエルフ側に押されていく。
そこにヨークスが進言する。
「俺らが行きます。時間を稼ぐので、将軍は応援を呼んでください」
「な、ヨークス、ルーイか?大丈夫か?」
「大丈夫です。マルクと鍛えた俺らはそんじょそこらの攻撃なら死にません」
「わかった。任せる」
「先輩、頼みます」
リンゼルの言葉に頷きルーイは答える。
「任せろ、リンゼル。ここは俺らが時間を稼ぐぜ」
「いくぞヨークス」
「ああ、ルーイ」
ルーイとヨークスは2人で怪物と対峙する。
「我は魔王、お前らを殺す。カンバル様のためです」
「こっちも負けられねえ。俺らが相手だ。俺はルーイ。ヨークス、いくぞ」
「ああ、ヨークス・カルバインだ。いくぞ」
そして魔王対ヨークス、ルーイの対決が始まる。
マルク側
くそ、間に合え。兄上らは無事か?あれか?あのでかいのが?
「ミカ、俺は先に行く。ミカはまずは兄上と合流して、傷ついた者を助けろ」
「はい」
「心配するな。必ず勝つ」
「ええ、信じてます。でも無理はしないでください」
「わかった。ここで怪我してのちの戦線に影響したんじゃダメだからな」
「そういう事じゃないです。ただ、無茶して」
「そうか、わかった。ありがとう」
「ええ」
もう少しで中央部に近づく。く、人が多い。中々近づけないぞ。
「おい、マルク」
「父上、あの音を聞いてですか?」
「ああ、お前もか?右翼は?」
「はっ、勇者3名を倒し、うち2名は捕縛しました。赤井という勇者は逃しましたが、それでも大怪我をさせたので、戦線に復帰するにはかなりの時間を要するかと」
「そうか。まぁ、マルクがそう言うなら余程の怪我だろう。であれば、少しは大丈夫か?」
「はい、現在リオル、クリス、リックの3名に指揮をさせ、右翼は攻めさせています。うまくいけば相手の戦線を崩し、悪くても現状を維持はできると思います。
彼らも実践戦闘研究会の出身です。戦術もちゃんと学んでいます。そこらの軍師程度には戦術を使えますので、戦線の維持及び自分たちより戦力の低い相手への攻略は可能です」
「そうか。すると」
「ええ、こっちの方が優先度は高いかと」
「あの怪物か。あれは何だ?」
「わかりません。ただ、可能性があるのは、古代文明時代にカンバルが開発した、エルフらの討伐隊を壊滅させた怪物と言われた擬似生命体の可能性があるでは?」
「あれか。エルフらの話に出てきた。あの怪物を?」
「ええ、それなら奴らの戦力として納得がいきます。もともとはあれを基本に作られたのがダークエルフだと聞いています。だとすると、それが残っていたとしても不思議ではないかと。それに御神体の力を合わせたもの、それがあの怪物かなと思っています」
「そうか。あり得る話だ。ゼル、俺とお前とマルクで行く。様子を見て、あれを倒すぞ」
「はっ」
「リット、お前は本部で指揮を取れ。ロドメルを補助に回す」
「はっ」
「ガイアス。いつでも獣人族部隊と冒険者部隊を動かす準備をしておけ。この後の主攻として行く可能性がある。中央の被害次第だが、酷いようなら残りの獣人族部隊と冒険者で補う」
「獣人族部隊の一部と冒険者部隊を残しておいて良かったですね」
「ああ、彼らのおかげで戦線は保てそうだ。あくまであの化け物を倒す必要があるがな。最悪、ガイスさんとガッソさんに任せることになるか」
「ええ、そうならないようになんとかしましょう」
「無理はするな」
「はっ」
中央部隊の前で父と短く会話して、俺と父上は中央に入ろうとした瞬間。ドゴォーンと爆発音が左翼から聞こえる。
「今度は左翼か?」
「父上、左翼は父上が行ってください。トルネストとの因縁に決着を」
「な、お前が1人であの怪物を?一人であの化け物は大丈夫か?」
「ええ、気配を探ったら。ヨークスとルーイが戦っているようです。あの2人となら連携も取れます。少なくともあの怪物を後退させます」
「そうか、わかった。行ってくる。無茶はするな」
「はっ」
そして俺は中央にいる怪物の元へ。




