戦争初日
2日後、ついに魔族・ダークエルフ対同盟軍の闘いは始まる。まさに世界の命運が決まる最終決戦がここに始まろうとしていた。
魔族やダークエルフと対峙している。お互いに戦場で今かと待ち構えている。これが最終決戦であることはここにいる者は全て理解していた。戦えぬ者で支援をしている者らは要塞に待機となった。
この戦場はそう長くはならない。侵略するか、侵略されるかわけではない。滅ぼすか滅ぼされるかだ。力を残す必要はない。これが最後だ。1週間もしないだろう。
始まりが来る。それは1つの言葉からだった。
「よぉ、アホどもよ。来てやったぜ。滅ぼして弄んでやるからな。待っていろ。それとルーナリアとかいう女、父親がこっちにいるぞ。マルク・トルネストだ。おーい、人族、長寿種族共、裏切り者の娘、ルーナリア・トルネストを信じられるのか?」
「バカ勇者もどき、うるさいぞ。偽物ばかりが騒ぐな」
父上だ。
「トルネストは死んだ。どうせお前たち得意の嘘かもしくは偽物だろう。偽物勇者に、偽物トルネスト、エルフの模造品と偽物ばかりを集めた邪神教徒どもが騒ぐ暇があれば早く攻めてこい。倒してやるぞ」
「てめえ。調子に乗んな。この老いぼれが」
「全軍準備」
「行くぞ。おら」
「よし、バカ勇者が来た。全員迎え撃て」
父上の一言で同盟軍の士気は上がる。ミカさんがレオナルク王国に来てからずっと研究していた音声を皆に届ける魔道具「マイクロフォン」。これにより父上の声が届き、勇者の揺さぶりは無意味になった。
やっと実践に投入できた。間に合ってよかった。
そして魔族らを前線に相手方が出てくる。そこには赤井という勇者とマルク・トルネストがわんさかいた。それらは同じ顔、同じ服装、同じ背丈だ。
「なんだ?」
「同じ顔ばかりだ」
そんな声が聞こえて来た。同盟軍に動揺が起きる。奴らは
「複製だ。きっとコピーを擬似生命体で作り出してきたのだ。動じるな。同じ顔だろうと怖がるな。奴らは命を弄ぶ最低の連中だ。こんな連中に家族を奪われたら苦しいぞ。負けたいのか?」
兄上が前線で指揮を執り、同盟軍を鼓舞する。そしてその声に反応するかのように同盟軍の兵士は顔が引きしまる。それぞれが自分の家族をあんな連中に弄ばれる姿を想像したのだろう。そして、ルーナを思い、辛いだろうと考えたのだろう。そんな事で揺すられるかと。
「ふざけるな」
誰かが叫んだ。
「俺の家族をあんな連中に弄ばせるか」
その声は大きな波となり、同盟軍の間から聞こえてくる。それは皆の心の叫びだった。全軍が高い士気で、すごいスピードで進軍し、魔族・ダークエルフらの前線とぶつかる。
そこからは一進一退の戦場が始まる。俺はまだ出番ではない。まずは全軍による主攻同士の重量戦だ。
前線にはジュライ先輩やジンダ先輩、ヨークスやルーイらもいる。さらにアレスが率いるスピキアーズ軍、マークが率いるレオサード軍、リッキーやサンゼルらが中心となった傭兵冒険者集団、そして兄上が率いる騎士団、ガイアスを中心にした獣人族騎士団などが敵の前衛とぶつかり合う。
そして、宮廷魔術師やシンディーら冒険者の魔術師たちが回復から結界、攻撃魔法とを打ち合う。そこには多くの者が世界を我が物にしようとする連中に対する意地が見えた。
ヤイらが俺の代わりに動いている。ケビンと有角族、王国の斥候部隊とともに連中の策を封じる為の斥候として罠や策をする工作部隊の探索をしている。
王国の斥候部隊には集団戦闘研究会で斥候として学んでいた者らも多くいる。父上が騎士団を指揮するようになり、改善して作った部隊だ。
そしてエルフらが回復薬を塗った矢をトルネストコピーや赤井コピーに打ち込んでいく。少しは効くようだが重傷というほどは効いていない。
「おいおい、古い手だな。そんなの対策しているに決まってんだろ。アホなのか?」
俺は勇者が喚く。対策していることくらいはわかっている。勇者を見分けるために話させようと挑発を仕掛けているんだよ。
「おい、偽物勇者だか複製勇者だか知らんが、うるさいぞ。バカは複製しても治んないのか?」
「てめえ、前から何度も何度も、偽物だとか言いやがって。てめえこそ偽物の英雄だろうが」
「ああ、俺はお前と違って英雄にこだわってない。周りがそう言うだけだ。大変だな。偽物は自分で勇者と言わないと誰も言ってもらえないのだろう?」
「てめえ、いい加減にしろよ。苦労知らずが調子に乗んな」
「はぁ?聞こえないぞ。偽物?ここは戦場だ。もっと腹から声を出せ。そんな事も出来ないのか?大変だな。偽物勇者は?」
「てめえ。いい加減しろ。てめえも腹から声を出してねえだろう。魔道具で言ってんだろうが?」
「俺は仲間が優秀でな。こっちにいる勇者はそれは優秀だ。お前が来なくて本当に良かったぞ」
「あ?そんな聖女もどきのどこが優秀なんだよ?聖国に捨てられた女だろう?」
「潰れた国を、偽物エルフを見限る事ができる優秀さだ。お前のように偽物の神を気取る邪神にすがるしか出来ない、何にもできないお子様とは違う。帰れアホ」
「てめえ、それでも英雄か」
「おい、英雄に何を夢見てんだ?」
「はぁ?英雄に夢なんか見てねえ」
「ああ、夢見る子供か?おい戦場に出てくんな?子供は家で寝てろ?」
「誰がガキだ?こら」
バカが前に出てきた。俺はマナを奴に打つ。俺のマナで奴にマーキングしておく。
「てめえ、いきなり打ってくんじゃねえ」
「は?ここは戦場だ。そんな事もわからないのか?つくづくバカだな」
「てめえ」
「あ?おい、俺はあの英雄とやってんだ。しゃしゃり出てくんなモブキャラが」
クリス先輩が行った。死角からの攻撃は入りそうなところで一撃を避けられた。よく避けたな。もしかしてあれも偽物か?だとしたら、詐術は結構面倒なスキルだな。
「この野郎。なめやがって、おいコピー共来い」
「おい、クリス出過ぎるな。皆クリスに続け」
リット騎士団副長が声を出し、クリス先輩に続かせる。
それに合わせて、リンゼルが兵を動かした。軍師として、リット騎士団副長についているようだ。そしてリック先輩の隊とマイル先輩の隊がクリス先輩を助け、リルニアが回復薬付きの矢を射った。
それが赤井に当たる。あ、傷ついていない。本物か?じゃあ、どうやって死角からの攻撃を避けた?気かマナを感じて気配を察知したのか?そういうタイプには見えないけどな。
「おい、勇者(笑)の偽物(笑)。どうした。さっきまでの威勢はどこ行った?」
「てめえ、うるせえな。このモブをけしかけて、てめえは高みの見物か?おい、へっぽこ英雄さんよ。あと笑いながら言うな、この野郎」
「ははは。元気じゃないか。雑魚勇者のアマイ?だった?君の名前?」
「てめえ、人の名前も覚えられねえのか。くそ。痛えな」
「あ、死にそうだね」
「うるせえな。このくそ英雄が」
「おいおい、負け犬はよく吠えるね」
「負けてねえだろう」
さらに追い込んでいくクリス先輩。周りではリック先輩とマイル先輩がコピー勇者たちを葬っていく。しかし、他の勇者連中は来ないな?どうした?
すると、魔族・ダークエルフ側が退却の音を鳴らした。さすがに赤井という勇者が前に出すぎたかな。
同盟は追撃を軽めにして。退却した。今日の対戦はこの辺で終わりのようだ。俺は隊で右翼の状況や同盟軍全体の様子を確認をしていく。
「ケビン、お疲れ様。ヤイは見回りかな?」
「ヤイ先輩はそのまま、斥候部隊を率いて見回りしています」
「そうか。わかった」
そのあともリオル先輩やミカさんと話して明日以降の話をしていた。
そして、俺は兄上と話しをしに行った。
「兄上、マルク・トルネストの方はかなり、苦戦したみたいですね」
「ああ、あいつらは上手く立ち回ったみたいだ。ロドメル先生がいなくちゃ、あいつらの策にはまりそうだった。上手く策を読んでくれて、ギリギリいい勝負ができた。問題は勇者のうち、出てきてないものだろう」
「ええ、ロドメル先生はどこです?」
「ここですよ。マルク君、久しぶりです」
「ええ、先生、お久しぶりです。どうですか?マルク・トルネストの策は?」
「ええ。うまい策をしてきますね。まぁ、私が教えた策なので、読めはしますけどね」
「そうなのですか。だから先生が?」
「ええ、私が第一次レオアル戦争で限界を感じ、王立学院の教諭になって、最初に教えたのが彼でした。いい生徒ですし、ある種の天才でした。マルク君によく似ていました」
「似ていた?」
「ええ、何でもできるところ、教えたことをすぐに吸収するところ、いきなり想定を超える時があるところがね」
「そうですか。トルネストさんがですか?」
「ええ、マルクという同じ名で、力が似たようなところがあるのは不思議ですね」
「そうですか」
そんな話をして、俺は会議へ。
「しかし、アカイという勇者はバカですね」
「ああ、あいつがバカでよかった。右翼はあまり被害なくいけたな」
「ええ、マルク殿の挑発が良かったですね。ふふ、アカイというのと気が合うのですかね?」
「いえ、わかりやすい性格なだけですね。ああいうのは操りやすかったですね」
「マルク殿は以外に性格が悪い」
「そんな事はないですよ」
「冗談ですよ」
「そこまでにしろ。コーネリアス。久し振りの戦場で気が昂ぶっているのはわかるが仲間をいじめるな」
「はぁ。すみません。マルク殿、ラルク様。久々の戦場で昂ぶってしまって。まぁ話を戻しましょう。もう1人の勇者、サトウというのが気になりますね」
「ええ、クリス先輩の戦いを見ていましたが、まるで見えているかのようにアカイは避けました。それを見るにアカイ自身がコピーの目を通した情報を元に動けるか?それとも他の者が他の方法で見ているかだと思います。後者だと思います」
「そうですか?何故そう思ったのですかね。マルク殿?」
「ええ。矢を避けれなかった事ですね。偽物からは見えた位置から撃たれました。しかしそれを避けられなかったですからね。それにそのあと熱くなったから、声か何かを聞こえなくなったのでしょう。
だからアカイはクリス先輩の攻撃を避けれなくなったのだと思います。見えているなら、熱くなっても避けれるでしょう。アカイという勇者はそのくらいの技量はありますよ」
「そうですか。アカイの死角からのクリス君の攻撃は避けたれたが、コピーから見える位置からの矢を避けられなかった」
「はい」
「ふむ。そして、アカイは全てを操っているようには見えない」
「ええ。動きは操っているかもしれないですけど。ただわからないのはそれをしている者がどうやってしているかです」
「ええ、何かのスキルだと思いますがね?」
「ええ、そう思います。でも何を使っているんですかね?」
「わからんが、今はそれに囚われている場合ではないな。まず初日の分析だが、左翼はかなり苦戦したな。そこを立て直す。リット、お前は俺の元で全体を補助しろ。ハンニバルとコーネリアスは左翼を指揮して、トルネストのアホから左翼の優位を奪って来い。そして右翼はマルク、お前が指揮して勇者をおびき出し倒せ」
「「「「はっ」」」」
「スピキアーズ軍をハンニバル、コーネリアス両名に預ける。うまく使い左翼を対応しろ」
「「はっ」」
「アルフ、中央は苦戦するかもしれないが、戦線を維持しろ。マルク、お前は早めに勇者を倒して、中央に右翼を進軍させるか、お前が中央を助けろ」
「「はっ」」
そんな話をして、会議は終わって、隊に戻る。明日も今日と同じく、主攻同士の攻めぎ合いになる。その後にヤイが戻ってきて、俺はヤイを労い。休ませた。




