再びのエルフの里① 隠された真実
そして俺らはエルフの里に来た。
「止まれ。エルフの里に何用だ?」
「お久しぶりです。マルク・ドンナルナです。母リネアと共に来ました」
「そうか。また来たか。長老に会いにか?」
「ええ、エルフの知っている真実に近づいたので」
「そうか。わかった。入れ」
「長老に聞かなくても?」
「ああ、これは次期長老としての判断だ。お前が来ることで、エルフの未来を変えたい」
「そうですか。わかりました。ありがとうございます」
「気にするな。俺らが望んだことだ」
そして、俺と母上は長老のところへ案内される。
「ローザ、これは何だ?」
「長老にお客様です」
「儂は許可してないぞ」
「長老、真実に辿り着くかもしれないところに来ました。もう話してもらえませんか?」
「な、儂らは人族とは関わらん。そう決まっておる」
「長老、私たちは未来を変えたいのです。滅びを待つのはごめんだ」
「な、お前もガッソと同じか」
「ええ、ガッソ兄と同じです。もうこれ以上、長老ら永きを生きた者に従い、破滅を待つのはごめんだ。あんたらの思想はもう十分だ」
「お前は」
「長老、前回来た時に言いましたよね。破滅しようとする貴方の思想は自由だが、未来を生きようとする者に強要するなと」
「な」
「まだ、貴方達はこんなことをしているのね」
「お前は誰だ」
「エネアの娘で、エリアの孫よ」
「エリアのか」
「貴方達は破滅を望んできながら、お祖母様を犠牲にして、生き延びようとした。そしてそれがダメになるとまた破滅の未来しかない?いい加減にしなさい。何度、未来を捨てれば気がすむの。どれだけの人の幸せを壊す気?過去に何があったか知らないけど、お母様がどれだけ苦しんだか?わかっているの?」
「な、それは」
「長老、もう全てを話してください。俺らエルフは岐路に立っているのです。これからは未来を生きたい」
「な」
「おじいちゃん、私も外の世界を生きたい」
「メリー」
「長老、もう十分でしょ。貴方達のくだらないプライドや矜持、使命などで、子や子孫らの未来を奪うのはやめにしたらいい。どれだけの永い時を生きようとも貴方達はどうして変わらない?今が変わる時だ。その機会を見逃し続ける気か?だったら、貴方は長老を降りるべきだ。ローザさんに譲るといい、そのくだらない席を」
「な、・・・・」
「ねえ、洗脳剤があるから、これを飲ませて長老の座と伝承をローザさんにゆずらせましょうか?」
「母上、ダメです。しまってください」
「そう」
「長老」
「おじいちゃん」
「・・・・・・わかった」
「話してくれるのですね?」
「ああ、ただ先にお前らが考えた真相を教えろ。真相が見えたのだろう?」
「ええ、私たちが見えた真相は・・・」
俺はルーナ達と話して見つけた真相を告げた。
「うむ。だいたいはあっておる。ただ、大きなところが間違っている。それは月夜も天神も全てカンバルだ」
「本当ですか?」
「驚いたか。真相を話すにはまずはエルフなどの長寿族、そして人族について、この世界の成り立ちを話す必要がある。伝承を話していこう」
「人族、長寿種族、世界の成り立ち」
「そうだ。まずはこの世界の成り立ちだ。この世界は神が作った世界だ。他の世界は知らんが、この世界を作った神は1つの大陸を作った。その大陸に多くの種を産み落とした。その1つが人族であった。その他にも動植物を多く産み出した。そして大陸は多くの生物が生存する楽園となった」
「神は」
「まぁ、続きを聞け。そして大陸は恵が多く、繁栄した世界になった。神は知能ある種族である人族と交信をし始めた。それはさらなる繁栄のためだった。
しかし、人族の中にそれを利用して国を作り、自分たちの世界だけを発展させていき、神になろうとした者らが現れた。そのため、神は大陸を3つに分け、人族もそれぞれの進化をするようにした。
結果生まれたのが、エルフと獣人族と魔人族とドワーフと小人族らの少数種族だ。また、人族の中に他の大陸を目指した者らが現れた」
「そんなことが」
「進めるぞ。そして人族が最も進化していない種族、そして我ら長寿種族に進化した種族に分かれ、それは格差と差別を生み出した。長寿というのは生命としての進化として最も高い位に存在するものだからな。
その中で、エルフは神と交信する者らの中で神を信じ、その教えを守ってきた者らが進化した種族で、数は多くないが、魔法に長けて、神よりお告げを聞き暮らす、自然の守人だった。
獣人族は速さと魔法を体に纏う事ができる戦人であった。
ドワーフは身体能力と物を作る魔法を得意とする作り人であり、少数種族らは手先の器用な飾り人として進化した」
「それでは人族は?」
「ああ、進化しない劣等種族というレッテルで他の種族から蔑まれた」
「そんなことが」
「そして、古代文明は長寿種族を中心になっていった。そんな中で我ら長寿種族は奢りを見せていった。それぞれの種族が自分の種族こそが最も優れた種族だとそう言い始めた。
故に我ら長寿種族はお互いを嫌う性質が少し残っている。種族の血が純粋なほどな。だから長寿種族間での婚姻はありえない。
しかし、人族はそれでも諦めずに知能という物を発展させていった。その結果、個々では弱く、それを補う集団では強い種族という歪な進化を遂げた。
その中で古代文明はさらに発展を続けながら、内部では各種族が争い、権力争いを続けた。だが、それはあくまで、長寿種族の中であった。人族はその中では劣等種族とされ蔑まれた」
「そうなのか」
「ああ、そしてそんな折に人族に1人の英雄が現れた。マレクというものだ。この者は各種族の武術を体系かし、さらに魔法を使用する方法、そして錬金術を産み出した」
「錬金術?」
「錬金術はお主らが魔道具と呼ぶ物を作る術だ。儂ら長寿種族が魔道具を作れんのはそれが理由だ。獣人族だけは人族と交わる者らが出たことでできるようになったがな。獣人族の寿命が短いのは人族と交わった者らの血の結果だ」
「な」
「話を戻そう。マレクは魔導具作成や武術の体系化、そして魔法の利用を才能という形で人族に栄華をもたらした。その結果として、人族は長寿種族と並ぶように、いや、上に立つことさえ始めるようになった。
マレクがいた時代が古代文明が最も繁栄した時代だ。しかし同時に大きな問題を生んだ時代でもあった。
その問題は差別の激化だ。
長寿種族、才能を持つ者、これが上に立ち、持たぬ人族の者は奴隷のようになった。そんな時代が長く続いた時だった。カンバルが生まれたのは」
「・・・」
「カンバルは、スキルのない者らの中で育った。本人も才能はなかった。しかし奴は諦めずに、1人きりの研究者として、洞窟で研究を続ける道に進んだ。
研究の中で才能を得る方法を見つけ、自分の才能を得た。しかし、世界はそれを認めなかった。すでに階級社会化が進み、最下層と呼ばれた才能なしの人族が自分達、上位種と同じになる事を許さなかった」
「今と同じような、くだらない権力争いで」
「うむ。これは人という生き物の性であるのかもしれん。まぁ話を続ける。
カンバルは打ちのめされ、世界を、神を恨むようになった。そんな折に、レキシナと会った。レキシナは知っているだろうが、我が里の巫女だ。神と交信するエルフでも優れた巫女だった。
そのレキシナは神のお告げ、世界を壊す者を救えというお告げにより2人は会ったのだ。レキシナはカンバルの事を知り、世界を壊さなぬように、彼を救う動きをした。
カンバルは初めて、人に優しくされたため、レキシナを愛した。しかしレキシナはあくまで使命であった」
「やはり、レキシナに愛を」
「うむ。そしてレキシナに救われたカンバルはさらに研究を進め、多くの人に幸せを齎す事を求め、研究にのめり込んだ。レキシナはカンバルの心の闇が消えたと感じたため、彼の元を離れた。
これが大きな問題だった。
その後、カンバルは研究を発表したが、それは評価されど、才能のない者らにはその影響が行き渡らない結果となっていった。
自分の名声は上がれぞ、仲間のためにならない研究は、数少ない友人や家族からもひどい事を言われるようになった。カンバルが本当に狂っていったのはこの辺からだった」
「・・・」
「そして唯一の救いだったレキシナさえも逢いに来てくれない事がさらにカンバルを苦しめ、狂わせていった。
奴の本当の闇は消えていなかった。カンバルは研究をさらに進めていき、1つの事に没頭していった。それが擬似生命体の研究だった。
奴は自身の進化を望んだのだ。魂を移し替え、エルフとして生きることを望んだ。
レキシナが自分を見限ったのは人族だからと」
もう口を挟めるような話ではないと思った。
「そして、擬似生命体の生成に成功した。それはまさに怪物だった。魂のない生命体だ。しかし、それにカンバルは入ることはできなかった。
それ故に神の存在を探し始めた。
それを神は知り、レキシナに擬似生命体の破棄とカンバルの殺しを告げた。
レキシナは悩んだが、神のお告げに従った。これが世界を変える大きな出来事につながっていく」
皆が静かに結末を待つ。長老は一瞬、よろめいた。
「すまぬ。この術は体力を使う。全てを語る。そのあとはローザ、里は全てお主に託す」
「はっ。わかりました」
「うむ。すまぬな。続ける。レキシナはエルフで討伐隊を組み。カンバルの住む研究所に向かった。
カンバルは研究していたために気づかなかったが擬似生命体がレキシナらの侵入に気づいて、交戦となった。
擬似生命体の強さは桁外れでエルフらはほぼ全滅した。レキシナも瀕死の怪我を負った。そう長くはもたない。外の様子に気づいたカンバルは外に出て、その様子を発見した。
最愛のレキシナが自分を殺そうとしたことに気づいた。だが、奴はもう狂っていたのだろう。やっと自分の元へ来てくれたと瀕死のレキシナを抱き寄せた。その腕の中でレキシナは息を引き取った」
長老の言葉はゆっくりとだが、過去の事実を明らかにしていく。それに全員が息を飲む。
「カンバルはその後、神がレキシナを殺したと妄執に囚われ、神を化現させ殺す事に没頭していった。我らエルフは恐怖のあまりにカンバルに近づく事をやめ、住まいをここに変え篭った。あの擬似生命体は危険だった。
そして、それから時が経ち、世界は崩壊の時を迎えた。
赤い光が世界を覆い、時が止まったようになり、古代文明は消え、まるで、世界の歴史はなかったかのように、新たな世界が始まった」
長老は全ての力を使うかのようにもう話すことをやめることはないようだ。見守るしかない。
「レキシナが死んだ時に生き延びた者が長老となった我が里はカンバルに近づかぬよう、人族とは関わらぬよう、定めを決めた。我らの里は世界を閉じたことで、あの赤い光の中で記憶を失わずに生き延びた。
それから、人族が世界を奪い、我ら長寿種族は弱き者となり、ダークエルフと魔族が生まれた。
ダークエルフと魔族は、天神となったカンバルが化現し、あの怪物を元に作り出した種族だ。
そして人族らをいじり、スキルや魔法もカンバルが変えた。同じ頃に本当の神はお隠れになった。
これが今の世界だ。
我らは人族と、カンバルである天神と月夜神には近づかないという定めに従って生き、そして我らの存在意義であった神がいなくなったことで、今のような生き方に変わったのだ」
長老は首を振り、言葉を言い換える。
「いや、そう決め、嘆くばかりだった。変えようともせずに」
「そうですか」
「ああ、これが儂から語れる話だ」
「まるで、見てきたかのようです」
「それはさっきも言ったが秘術だ。この記憶を残した長老が産み出した唯一の秘術、記憶写しの術だ。一部の記憶をマナに乗せ、他人に移すことをする。
マナにより、人格や性格の一部が写ってしまう。故に儂はこういう性格になった。若い頃はガッソやローザのように里を変えたいと思ったわ。だが前長老にこの秘術を渡されてからはこの通りだ。可能であれば記憶を渡したくはなかった」
「な、それじゃあ」
「いや、お主は余計なことはしていない。記憶を写し、1人だけで真実を抱えるのは終わりだ。若い者に掟を守らせ、閉じた社会を生きらせる時代ではない。この記憶も必要がない、もう世界を変えるべき時だろう」
「長老」
「おじいちゃん」
長老は力尽きたように倒れる。
「この術はな、移す以外の方法で記憶を外に出す事を禁じた術だ。記憶を忘れぬこと、記憶を外に出さぬことを目指しておる。それ故に、今回のような事をすれば命を失う」
「そんな、俺は」
「いいのだ。前回来た時からこうなる事を予想しておったし、そうするべきか悩んでおった。故にお主にヒントを与えた。お主の言葉は厳しかった。
それにな、エリアのことは先代が変えようとしたのだ。本当はこんなのはいけないと。それを知らずに儂はそれを知らずにエリアのことを反対した。
そして全てを知り、絶望した。あの世でエリアに謝ろう。
そしてエネアにも。お前らが里に来る事を拒否したのは儂が長老として先代のように強くなれなかったからだ。バカな私を許してくれ。リネア、そしてその子、マルクよ」
「そうなのね。大丈夫よ。そのおかげで友に出会え、愛する人を得て、子も持てたの」
「そうか。幸せだったか。リネア、ダークエルフと、人族とは関わらないという約束のもと、譲り受けたエリアとエネアの遺骨を儂の部屋の奥に隠してある。お前が持っていけ。それが良かろう」
「え?」
「エネアの遺品は持っておろう。ゴホ、ローザが渡したのだろう。ゴホ、いつかお前が里に来る事があれば渡そうと思っておった」
「そんな」
「う、もう、ダメそうだ。ローザ、あとは、頼む。メリー、よ。弱い、曽祖父、ですまぬ、な。お主ら、が、世界を、変え、て、く・・」
「おじいちゃん」
「長老」
そして長老は息を引き取った。俺らは長老を見送り、祖母と曽祖母の遺骨を受け取り、エルフの里を出て言った。
俺と母上は里を出て皆のところに行く間に話をする。
「母上、俺は余計なことをしたのでしょうか?」
「いいえ、違うわ。長老はきっと変えたかったのよ。前に来た時から悩んでいたって言ってたでしょ?あくまで、マルクが来た事はきっかけだったの。どうにかしたいと思ったのをどうにかする勇気がなかったのよ。それが貴方の言葉で、子孫を守りたい長老は納得したのよ。だから気にしないの」
「そうですか。それと、俺とカンバルは近いと思いました。俺はああならないでしょうか?大丈夫でしょうか?」
「何を言っているの?貴方とカンバルは違うわ。カンバルは心が弱いのよ。自分をちゃんと持ってなかったのよ。だから間違えたの。世界を否定するしかなかったの。
でも貴方は違うわ。貴方は望む未来がないなら自分を変えることを選んで、自分の道を考えたの。そう途中まではカンバルもそうだったのね。それでも、カンバルには変わらずに進み続ける事は出来なかった。
困難に会うたびに折れていき、そして自分を変える事も、自分を信じる事もできずに世界を否定していった。
マルクは違う。自分を否定せずに成長をしていったの。世界を否定せず、作り替えることを選ばすに、世界を変える事を選び、真っ直ぐ進んだのよ」
「そうなんですかね」
「自信を持ちなさい。マルク。ガイス達が言ってたでしょ。マットに似てるって、そう思う部分もあるわ。真っ直ぐ信じた道を進む強さを持っている。それをするためなら、自分すらも成長させる強さを持っているの。周りを巻き込む強さがある。前に言ったわよね。貴方の素晴らしいところは心だと、誰より強い心を持っていると」
「はい」
「貴方の良さを、みんなが信じる強さを忘れない事よ」
「はい」
更新が遅くなりすみません。顎関節症だかなんだかになり、顎が痛いという状況で更新するのも億劫になっています。とにかく痛み止めが効いている時はいいのですが、そうでないと何もする気が起きず。すみません。




