勝利
翌日
俺らは戦準備をした。昨日言われた魔族の将軍と戦う。誰がやるか。俺がやるのが手っ取り早いのだが、活躍が俺ばかりでもという事でリオル先輩がやる事になった。ヤイは嫌だと言い、ケビンとミカさんはリオル先輩に譲った形だ。
まぁ、油断しているように思われるが、リオル先輩のこれからを考えると戦わせておきたいのが隊長としても心情だ。リオル先輩とケビンが成長すれば隊として大きい。俺とヤイは指揮が増える傾向にある。
なので、個人の武力はケビンとリオル先輩に任せたい。そのうちはリオル先輩にも指揮をさせて隊を任せられる人にしたい。というか、そういうふうにしろと言われている。まぁ、その前に武功を挙げてほしい。
そして、今日の戦端がぶつかる。例の者が来た。確かに強そうだ。何人かやられたのも頷ける。だが、リオル先輩ならいけるぐらいだ。これなら勝てると思う。まぁ、勝敗は経験とかが物を言うから相手次第とは思う部分もある。リオル先輩の経験は戦場ではないから。
そして俺らが前に出された。まぁ、作戦通りだ。俺やヤイらは他の魔族が手を出さないように蹴散らしていく。ミカさんは何かあった際に備える。
ケビンが周りの魔族を圧倒して、殺していっている。ケビンは強いよ、いや強くなったよ。ここ数ヶ月の成長はリオル先輩の方が上だが、数年で見るとケビンの成長は眼を見張る物がある。
ケビンは魔族の隙を見せた瞬間にはもう突いて殺している。鋭い一撃だ。基本通りではあるが、あまりにも基本を完璧にこなすので、それが対応できるレベルを超えている。基本の部分ではすでに俺を超え、師匠すら超えそうな勢いだ。槍術道場をもう開いてもいいかもね。
そして、俺とヤイも蹴散らし、殺していく。多くの魔族が俺らのいる場所で死んでいく。それを見て、魔族の将軍は焦っているようだ。だが相手はリオル先輩だ。そう簡単に仲間を助けに行こうとすれば死ぬ。
そして二人の戦いが始まる。魔族が死んでいくのを横目に二人は対峙して大きく動かない。いつもなら、悩まずに行けというが、相手はそれを許すような奴ではない。だから今回のリオル先輩は正しい。相手を待つのではなく、仕掛けているが動かない、それが今の状態だ。死を知らない時のリオル先輩とは違う。
二人は半歩を前後に動く。リオル先輩が前に行けば、魔族の将軍が引き、魔族の将軍が出ればリオル先輩が引く。この繰り返しだ。しかし、側から見れば動かないように見える。それはそう見えるだけで、本当は仕掛けあい、相手の隙を見出そうとしている。魔族の将軍はかなりやる。だが俺とヤイとケビンがその横で魔族を殺していく。仕掛けあいをしていればそのうちにこっちの形勢がドンドンと良くなる。
魔族の将軍は優秀なのだろう。戦況を変えるために動く。同時に他の場所も動きが増えたようだ。軍師が動いたか?まぁハンニバル様が動いてどうにかするはず。俺らは命令をこなす。
ただ、俺はヤイに、他の場所がヤバイ時は行けと目で合図する。ヤイはそれをわかったと頷き返す。ヤイは個の強さもだが、それ以上に副長として鋭さが成長した。
リオル先輩に向かい、魔族の将軍が斬りかかる。それを剣で受ける。力は魔族の将軍の方が上だ。押されるリオル先輩、ジリジリと踵が土を削り、下がっていく。
しかしリオル先輩はここで、剣をずらして、相手の勢いをいなしていく。それにより相手は体勢を崩しかけるもすぐに立て直す。だが隙が生まれた。そこを見逃すリオル先輩ではない。
リオル先輩は剣這わせながら、相手が体勢を崩したところで右に抜けながら胴払いをした。魔族はギリギリ避けようと動く。しかし、リオル先輩は剣を上に払い、魔族の肩を切った。リオル先輩は細身の剣を好む。
その剣は鋭く、魔族の将軍の肩を切り裂いた。肩から出血した魔族の将軍は、左腕を捨てた。傷自体はそれほどは深くはないが肩の腱を切られたのだろう、左腕はだらんと動かない。いいところを切った。
そしてリオル先輩は向きを変え、相手と対峙する。今度はリオル先輩から攻める。連撃を繰り返し、徐々に相手に切り傷を増やしていく。対する相手はまるで一撃を狙うように捌かずに受けていく。
この戦いは次の一撃で決まる。リオル先輩は離れる。うん、いい判断だ。相手が一撃を放とうとした。それを感じたか、読んだのだろう。
一瞬の力みを感じて距離を取った。俺がリオル先輩の戦いを見ている間も魔族が魔法を撃ってきたり、付与で早くなった奴が攻撃したりするが、俺は全ていなし、魔法は結界で相手に弾き返し、攻撃はいなして切り上げ殺した。
「お前、名前は?」
「ああ、王国第00小隊リオルだ。お前は?」
「わしはランブル魔王国将軍ガブレオだ」
そして、魔族の将軍は覚悟を決めたようだ。右腕一本で重い一撃を放って来た。上からの一撃だ。リオル先輩より大きい相手だからこそできる上段からの振り下ろしだ。
対してリオル先輩は一気に武闘オーラを全開にして、距離を詰める。うまい。それなら奴の攻撃の勢いは潰せる。どちらが早いかに持ち込んだ。
リオル先輩の一撃が早かった。胴払いは魔族を真っ二つにした。奴の顔はまるで強者に殺され、満足という顔だった。リオル先輩も肩で息を吸っている。
勝負は圧勝のように見えるが俺らが周りで殺しまくる事で、そうなっただけで、実際には紙一重だった。
俺はリオル先輩に近づき一言告げる。
「リオル、苦しいところだと思うが、勝鬨を上げろ。そうすれば戦線が大きく同盟に傾く」
「ああ」
そして一息吸って、リオル先輩は勝鬨をあげる。
「第00小隊、リオル・リニエが、魔王国将軍ガブレオを討ち取った」
大きな声が戦場を駆け巡った。俺の合図で、ミカさんが魔法によってこの声が周りに聞こえるようにサポートとした。
リオル先輩の勝鬨が上がると同盟側の士気が上がり、一気に戦況は同盟側が押していった。その後、魔族側は色々な策をして来たがそれをハンニバル様が悉く潰していき、戦況が完全に同盟側のものとなって、今日も戦いは終わった。
現在の戦力数は同盟は3万8千人、魔王国は1万4千人にまで差が広がった。同盟側の被害は死者1500、負傷者5500となった。対して魔王国は死者が12000で、負傷者4000となった。何より将軍一人死亡という事実が魔王国には重くのしかかった。リオル先輩の活躍は大きかった。
俺は待機場所に戻ると本陣に呼ばれた。
「第00小隊隊長、マルク・フィン・ドンナルナ、参上しました」
「ああ、入れ」
そして入ると、満足そうな面々がいた。まぁ、ほぼ勝ちは決まった。だがここからは気をつけないといけない。窮鼠猫を噛むだ。この世界にはない諺だが。
「マルク、よくやった。リオル・リニエにもよくやったと伝えろ」
「はっ」
「うむ。だが、ここからは殲滅戦だ。気をつけていこう」
「はっ」
「ええ。そうしないと、手負いの馬は虎を蹴り殺すと言いますからね」
あ、似た諺があった。知らなかった。
「ふふ。初めて聞く諺ですか?これはガリシアンのみに伝わる諺です。初代様が残された言葉なのです」
「そうですか」
それは知らない筈だ。
「まぁ、あまり気負ってもいいことはないでしょう。ここはまず、要塞を取り戻せれば御の字です。全て殲滅できなくてももう少し倒して、要塞を奪取すればいいのです。アルフ将軍、そこをお忘れなきよう」
「そうだな。気負っていたか。まぁ、良い状況に酔っていたところもあるか」
「それに気付ければいいですよ」
「すまない。ハンニバル殿」
「ええ、では会議を続けましょう」
「ああ、では明日以降の配置をお願いする。ハンニバル殿」
「はっ。では獣人族には・・・・・・」
さすがはハンニバル様だ。しっかりと締めるところは締めるか。見習おう。
兄上らは会議を続け、第00小隊は明日は待機となった。さすがに武功が俺らに行きすぎだということだ。今回は魔族と他の種族とも生存戦争だ。
だから、それほど武功、武功とはならないし、まだ文句は出ていない。こんな時にそんなことを言うような者はもう王国にも、獣人族国家にもいない。そもそも、今回は利益がない。
故に、武功を得ても何かを得ることはほとんどない。だがそれでも武功というのは名誉だ。これをいらないという騎士や傭兵はいない。故に俺ら第00小隊が突出している現状では、俺らは待機となる。
俺ら以外にも数人は魔族の強者を倒して武功を挙げた。彼らは小隊長クラスや一隊員らしい。若い者が多い今回の軍では目立つ武功だ。
その後
魔族側はまた攻めて来た。しかし、まともな攻めもせずに撤退、そして、そのまま、戦線を捨て、魔王国に逃げていった。同盟はある程度の追撃をして、深追いはせずに終わらせて、勝鬨をあげた。
そして要塞に有角族を中心に留まらせ、一時的にレオサード領の要塞まで戻った。それから元有角族領の要塞を改築して、その周りにも防衛の設備を作りるのに1ヶ月をかけ、それが作り終わったところで一度、軍が解散を検討しだした。
その折に一報が来た。




