2日目 奇襲返し
翌日
俺とケビンは朝早くから準備して、措定された道を通る。明らかに誰かが使っただろう道がある。よくここを通って来たとわかるなと、ハンニバル様の凄さを感じながら進む。
指定の位置に近づくとガイアスら獣人族特務部隊という名の速さを重視した数名が動き出した。戦場は小康状態の中、ガイアスらが動き、そして泊まっては挑発をする。古典的な手だが、いやらしい手だ。
俺らは所定の位置についた。魔族の集中はガイアス達にある。やろう。
「ケビン、行くよ」
「はい」
ケビンが袋を投げて槍で突く。俺は袋から出た粉が広がるように風魔法を放ち、そしてその後突風を一気に魔族軍に向け、一気に風魔法で撃つ。すると粉は目に見えないくらいに広がり、そして魔族軍に向け、風に乗って広がっていく。それを見て、俺とケビンはそこから一気に自軍に戻る。少し行ったところで魔族軍の方向から、嗚咽と咽せた咳が聞こえる。
俺らはトップスピードで自軍に戻っていく。半分行ったくらいで魔族の一部がこっちを追って来たが、もう追いつける距離じゃない。追いかけてくるならよし、俺の前方にいる同盟軍が殺すだけだ。
さすがに魔族軍も途中で諦めたようだ。俺らのスピードに追いつけるはずもなく、そして前方には同盟軍がいる。
俺とケビンは数分もしないうちに同盟軍の前に戻って来た。隊の待機場所に戻るとヤイらも戻っていた。予想通りに魔族軍の工作部隊が動いたらしい。それを捕まえて戻って来たところということだった。
「ヤイ、うまく行ったみたいだね」
「ああ、あいつら予想通り、来たよ」
「そうか。さすがハンニバル様だ」
「ああ、さすがすぎて、俺は一瞬だけど恐怖を感じたよ。隊長は凄い方とよく普通に笑えるね」
「うーん?ヤイはガイス師匠と話せない?」
「いや。普通に話すね。ガイスさんがそれを望むから」
「だろ。師匠だって、人としてすごい領域にいるよ。でも恐くないのと同じで、ハンニバル様も軍師としてすごい領域にいるけど、恐いとは思わないな。すごい事をするからって恐がってもしょうがないんじゃない。尊敬するぐらいは当たり前だけど」
「そうか、そうだな」
「ふふ、そう言っていただけると助かります」
「あ」
「ハンニバル様、こんなところにいらっしゃると危険です。本陣に」
「大丈夫です。マルク殿。それにヤイ君も気にしなくていいです。軍師をしていると仲間にも恐がられる事はよくあります。軍師の力は見えにくい分、急に発揮されますからね。それ故に、尊敬や恐怖を生むというところです。だからこそ、マルク殿の言葉は凄く嬉しいです。英雄というのはいつも人を熱くするものですね」
「また、ご冗談を」
「はっはは。本気ですがね。マルク殿、報告をお願いしたいのと状況説明しますので、本陣にお願いします」
「はっ」
そして、俺はハンニバル様と本陣に来て、報告をした。
「マルク、よくやった。魔族の動きが緩慢になった。これでかなり優位に進められる」
「ありがとうございます。将軍」
「ああ、ハンニバル殿、状況は?」
「ええ、まずは戦場はマルク殿がうまく作戦を実行してくれたおかげで小康状態と入りました。まだ睨み合いが続くかと。そして魔族の特務工作部隊は捕まえて尋問しようとしましたが、自殺されました。相手の軍師は徹底しておりますね」
「そうか。それは残念だな。相手の軍師は捕まった時の事を想定していたか」
「ええ、相手の軍師はかなりのやり手です。しかも容赦ないタイプかと」
「そうか、この後も引き締めておこう」
「ええ」
「マルク、何か意見はあるか?」
「特にはありません。ただ、話を聞いて思ったことがあります。相手の軍師は人族ではないでしょうか?」
「な、何を言っている?」
「ふふ。私も一瞬そう思いました」
「ハンニバル殿まで」
「将軍、落ち着いてください」
「ああ、リット殿」
「将軍、もう一度相手の軍師がしたことを考えてください。昨日の手は魔族の者らがしないような手の込んだ策でした。そして今日の工作部隊の自殺も魔族を何とも思わない軍師ならば考える手かと。バッソさん、魔族の者はこういった捕虜になったら自殺する手を使いますか?」
「いえ、しません。人族に捕まればむしろ罵り、逃がせと騒ぐでしょう。それを何も言わずに自殺というのは考えにくい」
「ということです。洗脳をしていた可能性が高いですね。それはさておき、魔族を仲間と思っていない軍師でしょう。そう考えると相手の軍師は魔族でない可能性があります」
「そうですね。私もマルク殿はおっしゃった事を思いました。ただ、思いつく人物がいないのです」
「そうか。わかった。念頭に置いておこう。人族の軍師相手となると我々の戦いをしないとまずいかもな」
「ええ、魔族と戦っているという感覚だけで戦えば、痛い目に会うかもしれません」
そして、本日の戦いは終わった。魔族側の状況悪化に伴い、小康状態となった。同盟側も昨日の被害から回復士たちを休ませたいという思いもあり、無理には攻めなかった。戦線は数日のうちに動く。そこまでに回復して、マナを温存しておきたい。




