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人魔戦争①魔族の仕掛け

3ヶ月後


俺らは要塞にて戦線が開かれる瞬間を待っていた。日々の哨戒任務に励みながら、訓練を行い、いつ戦線が開かれてもいいように準備していた。その間に一つの大きな事件として、聖国が完全に権力を失った。第00小隊が多民族国家に入った時に起きたエルフの誘拐事件が発端となった。


エルフ以外にも少数種族を誘拐したことが聖国の仕業であることがわかり、多民族国家が聖国との通商や国交を断絶したことを発表した。これによりレオナルク王国、レオミラン王国も同様に国交の断絶を発表した。これで完全に聖国は孤立してしまった。


身から出た錆だが、聖国の終焉により、勇者がどうなるかが心配だが、ダークエルフ領にいると噂が流れてきた。だが、ダークエルフ領は今、全くもって状況が窺い知れない。こんな中で勇者がダークエルフ領にいるという噂は怪しいものだと同盟では考えていた。ただ俺はそれもありうるが何故そんな噂が流れてきたかが問題だと思う。


さらに俺は母上からの手紙をもらった。その中にはエルフのことは残念だがしょうがないということ、そしてエネアさんの遺品は嬉しかったこと、そしてレキシナさんのことは調べておくということがあった。


俺はそれに返信するとともに、カインさんとルーナに手紙を書き、レキシナとカンバルという者を調べて欲しいということ、例の研究者がカンバルではということを書いた手紙を送った。母上からはルーナらと協力してみる、そして体調はいいという手紙をもらった。ルーナたちからは手紙の返事はまだない。



そんな中で戦線はついに開かれそうだ。こっちの要塞はかなり緊張感が増している。獣人族国家も緩衝地帯に要塞を築き、戦線はついに開かれると予想ができた。


だが、魔族国家が元有角族国家領から攻めて来るのかがわからない。また魔獣の森に何かしてくるのではという疑いがあり、全ての戦力をレオサード領に持って来れないのがもどかしい状況だった。



そして、一報が入った。

「魔王国が有角族領より南下し、レオサード領を目指して進軍中」


この一報により要塞は戦線を開く準備を始めた。目指すは元有角族領の要塞だ。そこに進む。ここは王国が作ったが今は使われていない。同時に獣人族国家軍も東に進軍して、元有角族領の要塞を目指す。


そして進軍してきた魔族を迎え撃つ。俺ら王国は数3万人、獣人族国家から1万人、小国家国家群らの兵や傭兵が5千という数で総勢4万5千人、対する魔族3万人だ。魔族にとってはかなり多い。


本気の一戦のようだ。魔族は一人一人の戦力が大きい。そのため、この数で動くことはまずない。これだけの数を動かしてきただけでランブル魔王国がどれほどの国力を有するかは計れる。これは厳しい戦いになる。



将軍である兄上と軍師ハンニバル様は即座に戦線を整えさせた。

魔族対多民族同盟の戦争が始まる。これが世界を変えるだろう。



戦線は横に広がった。俺ら第00小隊は戦端に位置した。俺らの役目は遊撃だ。少数ながら、一人一人の戦力は魔族ですら凌ぐほどだ。俺らは相手の強いところを攻めて、戦力を減らすのが任務の特務部隊だ。



戦線の初日は、まず互いに様子見から始まった。お互いの戦力数には差があるが、魔族には多量なマナという武器がある。回復、継戦の視点から考えるとかなり凄い。


これで天月大戦は戦力が圧倒的な差で王国と帝国の同盟が攻めていたが、倒しても回復したり、中々決まらない中での魔力で戦線を取り戻されたりで、長い戦いで疲れ切った同盟軍と魔族は拮抗していった。これにより王国も、帝国も撤退となった。


それを考えて王国は少しずつ技術によって準備をしてきた。そのきっかけはもちろん俺の魔法理論だが、これを契機に魔道具による戦力アップをしてきた。特に防御という観点と体力と魔力の回復という観点を中心に魔道具よる戦力アップをしてきた。これらの大きな戦力アップにより同盟は強くなった。



また、魔法理論は獣人族国家軍、傭兵たちの戦力も強くした。これにより、魔族の戦力数には驚きだったが、決して負けるものではない。お互いの戦力数を確認するかのような小競り合いが続く。俺たち第00小隊も出番はまだ来ない。


初日は小競り合いで終わった。これからの戦いがどう動くが大きな問題となりそうだ。俺らは休む。特に何もしていない部隊は夜の哨戒任務を持つ。その前に少し休む。



俺らの休憩の準備は義勇軍として従軍した各村の国民たちが食事の準備などをしてくれた。

「マルク様、こちらを」

「ありがとう、あれ?どこかで見た?」


「はい。マルク様のおかげで支援をいただけることになった村の出身です」

「ああ、あの時の」


「ええ、助けていただいた命を魔族に蹂躙されたくないので、村から俺ら若い者が来て、物資などを持ち込み、このような世話をさせてもらっています。戦えないのは申し訳ないですが、せめてもと、助けになればと」

「それは嬉しい。でも危険な時は命を大事にね」


「はい。マルク様に助けていただいた命を簡単に捨てません」

「そうか。ありがとう」


「いいえ、こちらこそありがとうございます。村をお救いいただき、そして国を守っていただけることに感謝します。私の家族も騎士の方のお陰で生きていけるのです。魔族たちを討ち倒しましょう」

「ああ」


俺が助けた村の人々が支援物資を持ってきて、俺らを支援する従軍部隊として色々な支援をしてくれる。これは負けられない。この人たちの命を背負っているんだ。俺らの使命を再度気づかされる。


「そうですね。私たちがしてきたことをまるで肯定してくれているような気がします」

「ミカさん、そうだね」

「はい」


ヤイが戻ってきた。

「隊長。さっき、俺と同じ地区出身のやつにあったよ。あいつらが支援に来てくれていたよ。俺らも負けられないよ」

「ああ、ヤイ、嬉しいよな。彼らの命を背負っているんだ。魔族に自由にはさせないぞ」


「ああ、絶対に活躍してやる」

「気負いすぎるな。それで失敗したんじゃ、同郷の者らに笑われるぞ」

「そうだよな。わかった」


そして俺らは体を休める。この後は哨戒任務がある。今している人らと変わり、俺らも警戒していく。夜の奇襲を受けるのは危険だ。この世界では魔法という危険なものがある。


この世界の戦争は簡単じゃない。戦力数が全てじゃない。戦い方も、個の強さも、数も、全てが必要になる。



俺らは哨戒にはいる。魔族軍は静かにしている。それが不気味だ。何を考えているのか。気になるのは御神体だ。あれは生贄を捧げて神を降臨させるというものだが、それを狙うならば、聖国を攻めると思う。


今の聖国は何も守る者がいない。普通、神の降臨ならばそっちを狙う。ドラゴンは強力な結界で守られている。だからそれはないと思う。ならばなお一層の事、聖国を狙うのが筋だ。



そんな事を考えながら哨戒していくと、湿った風が通り抜ける。なんだか生温い風だ。

「おい、警戒しろ。この風はおかしい」

「な、何が?」

「ああ、風に何かを感じる。魔道具を使うように伝令しろ」



仕掛けて来た。この湿った風はおかしい。何がおかしい?そうか、吹く方向だ。俺の陣の西側の緩衝地帯の草原からではなく、南東の山からということがおかしい。この地域の南と西北に大きな山がある。


この時期は獣人族領の南西から季節風が吹き、魔族国家領の西の山には南西からの湿った風が山に当たるので、山の南側にある獣人族国家の北側に雨が降る。そして、魔族国家にはその西からの風が王国と獣人族国家を隔てる山脈と魔族国家の西にある山の間の王国と獣人族国家との境界を抜け、緩衝地帯となる草原を通り、元有角族領やランブルの領に吹く。


それが魔族国家の南の山にあたり、雨が降る。だから湿った風は南の山に向かって吹くのが普通だ。しかしこの少し湿った風は南の山から吹いて来た。



風が南東から吹くのは自然現象としてありえなくはないが、湿った風が南東からは変だ。しかも、その風が同盟側だけに吹くのはあまりにも不自然だ。これはまずい、しかも少し甘い匂いがする。何か仕掛けて来たのは明らかだ。魔道具が間に合えばいいが。



魔道具の結界は間に合わないか?マナは戦線で使うよう命令されていたが、しょうがない。魔法で防ぐか。こんなタイミングでは使いたくないが、魔法への抵抗力の低い従軍者たちはかなりダメージを食らう可能性がある。何を目的としたものかもわからない。


『ウィンドウォール』


風の壁を軍全体に広げ、風を対消滅させる。風はやんだ。被害が少ないといいが。



「ヤイ」

「ああ、状況を確認してくる。哨戒を頼む」


「ああ、ミカ、ヤイと一緒に行って、アルフ将軍とリット副騎士団長、ハンニバル軍師の様子を確認して、回復等が必要ならしてくれ。そのほか従軍者たちも回復薬で回復していくよう、宮廷回復士たちに連絡してくれ」

「はっ」


こうして初日の夜から仕掛けて来た。しかし、その後に何も続けてこなかった。あれは嫌がらせか。くそ、無駄に体力を失ったな。温存しておきたかった。回復すれば良いが、かなり大技を使ってしまった。風壁を軍全体に広げるのはかなり辛い。こういう戦いをするのか。



ミカさんから兄上らに被害がないこと、その他の被害の大まかな状況を聞いたところで、伝令で呼ばれ、本陣の前に来た。


「アルフ将軍。軍の被害は、従軍者たちがかなり毒にやられて動けません。回復薬での治療をしていますが、薬をかなり使いました。もしマルク隊長の判断が遅ければ、騎士たち、各軍も被害を被っておりました」

「そうか。マルクはよく判断してくれた。ハンニバル殿、これはどう見る」


「はっ、まさかこんなタイミングで仕掛けてくるとは思いませんでした。相手もかなりの戦術家がいると見ていいでしょう。しかし、そうと判れば、対策はできます。すでに対策はしています」


「そうか。頼む。宮廷回復士はしっかりと休ませろ。明日以降、仕事が増えるかもしれん。レオサード子爵」

「はっ」


「回復薬は多めにレオサード領の要塞に用意したがどのくらいこっちに持って来た」

「はっ。半分です」


「そうか、リット副騎士団長、現在持って来たうちどの程度を使用した?」

「はっ、25%程度です」


「あと4分の3か。これ以上の被害は減らしたい」

どうやら本部はもう対策に乗り出す所のようだ。それなりに被害はあったか。


「第00小隊隊長、マルク・フィン・ドンナルナ、入ります」

「ああ、マルク、よくやった。風の壁はいい判断だ。お前の力は取っておきたいが、これ以上被害が出れば明日以降の戦線に影響が出ていた」


「ありがとうございます。で、あの風の成分は?」

「ああ、毒だ。詳しくはハンニバル殿」


「はっ。ラフレソーリという花の成分で魔族領にしかないものです。有角族の部隊から教えてもらいました。その成分の解毒のやり方もです。今、有角族の従者たちに解毒薬を作ってもらっています。今度は対応できるはずですね」

「そうですか。わかりました。ハンニバル様、難しい状況ですが、どうぞお気をつけて。魔族軍の軍師の力はかなりのものかと」


「ええ、だと思いますが、これでも私は先の大戦から軍師をしている者です。場数は負けません。このくらいの策は帝国に何度もされました」

「よかった。ハンニバル様が気を確かならば、どうにでもなりましょう」


「ふふ。喝を入れられましたか。若い者に喝を入れられるなど、私もまだまだです。いいえ、マルク殿なら考えられますかな。ちなみにマルク殿が魔族の軍師なら次は何をしますか?」

「はぁ。まあ、考えられるのはこちらの継戦能力を削ってくることかと。次は食料か回復士を狙ってくるのでは?」


「やはり、マルク様は軍師の才能があります。それはやられたくないですね。私も考えました。もう対策はしております。アルフ将軍」

「そうか、さすがハンニバル殿だ。こっちも仕掛けたいな」


「ええ。第00小隊に活躍してもらいましょう」

「わかりました。では隊の者を休ませます」


「ええ。作戦は後ほど伝令を出します。こっちの用意もありますので」

「はっ。では失礼します」


とりあえずは隊のメンバーを集め、休むように伝えた。そして伝令を待つ。俺は何度も呼吸を吸う。俺特有のマナ回復方法だ。魔族領はマナ独特で他に比べて回復が遅い。いつもなら2、3時間で回復できる量しかマナを使ってなく問題ないが、ここでは少し遅れるため朝までに回復すればいいが。



さらに、夜の奇襲だ。気を張り詰めさせられる嫌な手だ。まさか山側に魔族がいるとは気づかなかった。まぁ、ドラゴンの封印を解こうとするあたりから、戦術、戦略に長けた者がいると頭に入れておけばよかった。



そんなことを考えていると、伝令が来て、ヤイと共に呼ばれて、もう一度本陣に行く。するとガイアスもいた。

「では、明日の作戦だけど、2つあります。1つは兵糧を一部囮にして、今日やってくれた工作部隊をおびき出して、潰す。作戦はここに、兵糧の一部を変えます。相手の読んだだろう場所にあえて置いときます。そこにヤイ君を中心に戦える斥候部隊と第00小隊で監視して、来たら潰す」

「はっ」


「もう一つがガイアス獣人族特務部隊隊長がスピードで撹乱しながら、魔族を挑発、その間にマルク殿とケビン君でここを通って、奴らの裏手側からこれを風魔法で頒布してください。これは魔族がとっても嫌う物だそうです」

「はっ」


「有角族の隊長、バッツ殿、これの説明をお願いします」


「この袋に入っているのは魔族にとって不快な臭いをする花の花粉です。この花粉が魔族の苦手な臭いをさせます。人族や獣人族にはむしろいい臭いに感じられるはずです。これは普段でも付くと風呂に2回くらい入り、よく洗って、やっと取れるという品物です。


それがこんなところで着けば、最悪、1週間は取れない。実害はないですが、戦場では嫌です。魔法を撃つ時、攻撃する時に集中力を奪われるので、戦力が2割くらいは下がります。魔族の民族間争いでよく使われる手ですが、やると卑怯者の誹りを受けるほど嫌われている手です」


「おお、それは嵌ったらいい手ですね」

「ですね。マルク殿、ですからお願いします」

ハンニバル様がニヤリとした。ちょっと恐い。て思っているのは俺だけではなく、ヤイらもそう思ったのか、顔が引きずっている。


「では、みなさん、隊員に説明した上で、今日はよく休憩してください」

「「「はっ」」」

俺は本陣を出ようとした時に有角族の隊長バッソ殿に声をかけられた。


「マルク殿、少しお話をいいでしょうか?」

「ええ、ヤイ、先に戻ってて」

「ああ」


「すみません。お話というのは?」

「はい。私たちのことを認めていただいたとお聞きしました」


「認めた?有角族の方を難民として保護する事を決めたのは陛下と宰相閣下です。私ではありません」

「いえ、その件ではなく、ガリシアン領で有角族の子供を助けましたよね?」

「ああ、あの時の」


「ええ、その子は我が有角族の王家の生き残りの方になります。今は一有角族の難民であり、王国民であります。彼の方は自身が王族でありながら、国の破滅に何もできずにのうのうと生きていることを恥じて、王家としての誇りや有角族という民族の誇りを失っておりました。そして、同族たる魔族のしたことに心を痛め、自分を蔑んでいたのです」


「そうですか」


「はい。そんな折にマルク殿とお会いして、有角族であって魔族ではない。有角族の先祖は素晴らしい方々だと言われたことが嬉しかったと誇らしげに語る姿は有角族全てを喜ばせました。我々も誇りを失いかけていました。ですが、彼の方が言うのです。

我々は有角族であり、王国民だ。それを誇りに魔族と戦う。元同族が卑怯な手で我らの土地を奪った。今度の戦争でもう一度我らはその土地に戻り、王国民として戦うべきだと。その言葉が我々を一つに、そして立ち上がる力をくれたのです。我が有角族のリーダーが新たに生まれたと思っております」


「そうですか」


「ええ。僭越ながら自身の話をさせていただくと、私や今戦場に出ている者は民を逃す為に後方支援を命じられた部隊の者と戦場で敗れ、国を追われた者達です。私は後方支援をしていました。兵で、隊長でありながら何もできず国を失い、亡くなった同僚らに申し訳なさから誇りを失っておりました。

ですが、彼の方の言葉、そして彼の方から聞いたマルク様の言葉を聞き、先祖様方の生きた証を全て捨てることは許されないと思いました。ここにいる有角族の兵は皆、同じ気持ちです。

マルク殿のおかげで誇りを取り戻せました。精一杯に戦います。それをお伝えして、彼の方の代わりに感謝をお伝えしたいと思い、声をかけさせていただきました。ありがとうございます」


「そうですか。私は何もしておりません。有角族の皆さんが自身の足で立ち上がったのです。苦しい状況からもう一度、踏み出すのはきついでしょう。それを為された皆さんを同じ王国民として誇りに思います」

「あ、ありがとうございます」


「では、これで」

「はっ、足を止めてしまい、すみません」

「いえ、力をいただきました」


そして、俺は第00小隊の待機場所に戻り、説明をして、休憩した


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