復帰間近
3ヶ月後
年もあけ、俺の症状はかなり回復した。八割くらいか。マナ線の裂け目は塞がったが、それが裂けないように今はまだ力を使えない。しかも、この間に寝込んでいたので筋力が落ちた。今は力を使わずに、体を鍛えている状況だ。
母上の病もかなり回復した。だいたい全盛期の五割超えたくらいまで来た。ミカさんが週二回、母上の病気を治しに来てくれている。同時に俺の治療もミカさんが手伝ってくれた。
国の状況は魔族とは完全に睨み合いが続いている。兄上は出征し、今はレオサード領の砦に行っているため、アランとユリア義姉上が家にいる。そろそろ、俺も家を完全に出て、兄上らがここに住んだ方がいいと思う。でもねえ、結婚なんてな、考えられん。俺はまだまだ未熟者だ。それに18だしね。
兄上の補助にリット副騎士団長、軍師ハンニバル様が行っており、クリス先輩らや、ヨークス、ルーイも行っている。同時にシグルソン教官と父上の腹心のレイル様が辺境伯に行った。(レイル様はもともと、近衛時代に父上と共に陛下付きとなり、その後は有角族領にも行き、父上が騎士団長就任後は騎士団長補佐をしていた)
そしてうちの隊の方は戦場に行かず、王都の警備をしている。隊長の俺が動けないためだ。ヤイもリオル先輩も、ケビンも既に騎士団最強と呼ばれる一角にいるので、兄上には申し訳ない。でもさすがに隊長の俺がこの状況では隊員も力を出せないだろうと、父上の配慮だった。
ゼルは俺やアランたちの警備のためにここにいる。本当に申し訳ないと常々思っている。
しかし、陛下やガルド様らには、帰って来てから、家にまでお越しいただき、感謝された。勲章をまたもらい、俺は男爵位をもらった。今までは貴族と同等の権利者で、準貴族より上で、貴族の最下位である男爵と同等に近い扱いという微妙な貴族だったが、今度は完全な貴族になった。
いつも通り、俺は今日も訓練をする。その後は、ヤイらと会い、状況を確認して、それから父上らと復帰のタイミングを決める。まだ本調子には遠いが、それでも職務復帰ぐらいはできる。
俺は申し訳ないので、早く復帰したいが、周りが許してくれない。しかも、暇だからと街を歩こうものなら王都民から握手攻めにあう。なんせ、国家滅亡の危機だったと後から知らされたが、それを俺と母上、メル姉、ミカさんで救ったのだ。しかも、多くの功績は俺にある。自分で書いていて恥ずかしいが、実際にそうなんだ。しょうがない。
だから、俺の人気はものすごい事になっている。ただでさえ、無能と呼ばれたところから、魔法理論の発見や冒険者時代の活躍、学院武闘会などと話題を欠かさない俺がついに国を救ったという事で、国中はフィーバー状態で、そこに獣人族国家も陛下を救った事を発表して、勲章をくれたもんだから、大英雄とかした。
最近は勇者の凋落が凄まじく、聖国の民を見殺しにしたり、戦場で怖気付いたり、人のせいにする発言をしたりと酷いので、世界ぐるみで英雄を誕生させようとしている。それに俺が選ばれたという事だ。そもそも、新英雄と王国内や獣人族国家で言われていた俺なので、民はすぐに受け入れた。その結果が王都を歩けないという状況だ。困ったもんだ。
なお、ミカさんも活躍が評価され、聖国の言っている事は間違っているという発表もされた。これで聖国は完全に支持を失い、帝国も民離れが始まって、南のレオミラン王国(帝国皇帝の弟が作った国)に吸収されそうだ。
こんな状況で王宮に行く。騎士団の棟に来ると、ヤイらがいた。
「ヤイ、リオル先輩、ミカ、ケビン、お疲れ」
「「「「隊長」」」」
「今は休職中の騎士だよ」
「いえ、隊長は隊長です。ねえ、隊長?だからシューガルトに」
「ヤイは変わんないな。もうすぐ復帰するから、そしたらね」
「よっしゃー」
「隊長代理は本当に」
「リオル先輩、迷惑をかけます」
「隊長、リオルでいいです。休み中でも隊長は隊長ですから」
「そうか。すまない」
「ヤイ、浮かれるのはいいけど、状況を説明して」
「ああ、俺らは隊員を増やさず、このままの隊員で行くことが決まった。ただ、いずれはリオルは他の隊を持つことになる」
「そうか」
「で、任務は隊長が戻って来るまでは、王都の警備を続ける。隊長復帰後に様子を見て、出征となる」
「そうか、みんなはどう?」
「ああ、ケビン、ミカ、リオルもすべからず、力をつけ、今や騎士団中のトップ10に入る状況だ。誰が隊長になっても不思議ではない」
「そうか、任務状況は?」
「誠実にこなしている。ちゃんと王都の治安は保っている。数少ない騎士団が王都の警備にあたっているが、問題は今の所ない。騎士団の出征した先もレオサード領は今の所、睨み合いが続き、戦況は動かないようだ。辺境伯領も昨年の氾濫以来は大きな問題はない。だが、2領とも決して気は抜けない」
「そうか。わかった。ちゃんと隊長やっているじゃないか」
「俺は隊長という柄じゃないから、早く戻ってきてくれ」
「わかった。上の許可が降りたら戻るから」
ヤイらがホッとしたような、嬉しそうな顔をする。俺は良い隊にいるなと心の中がふわっと暖かくなる。
「もういいのか?」
「ああ、リオル。俺は大丈夫だと思う」
「隊長、ちゃんと力を戻してください。隊長が強いと安心するんです」
「わかった。ケビン」
俺とケビンとリオル先輩で話し合っている。
「ミカはいいの?」
「はぁ、わかります?まぁ週に2日はあってますから大丈夫です。ただ、まだ釣り合わないです」
「そんなの気にしてたら、取られるよ」
「そうですかね」
「ああ、婚約したヤイ様の助言だ。正しい」
「ふふ。そうですね」
こうして、俺は隊の状況を聞いたあとに、騎士団長室に行く。
「失礼します。騎士、マルク・フォン・ドンナルナ、ただ今到着しました。入ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、入れ」
「はっ」
俺が父上の執務室に入ると
「うむ。で、調子はどうだ?」
最近、父上は少ない騎士でやりくりするため、王宮に働き詰だ。
「はい。大分良くなりました。もう少しすれば筋力も戻ります」
「そうか、ではそろそろか?ミカに聞いて状況が問題ないというなら戻すことにしよう」
「はっ」
と、騎士団長室に来ていたガルド様も声をかけていただいた。
「いいか、ラルク」
「ああ」
「で、マルクよ、本当に大丈夫か?」
「宰相閣下に申し上げます。大丈夫です」
「お前に何かあれば、王国も獣人族国家も、同盟も壊れる。それほど、お前は多くの国から信頼と尊敬を集めている。お前の存在が同盟の要となりうる。だから聞く、大丈夫か?」
「はっ。体は動くようになっています。あとは完全にマナ線が閉じるまで1、2週間かと。そうすれば、むしろ体が鈍っていくだけなので、隊に復帰させていただきたいです」
「そうか。わかった。ミカにも確認する。いいか?」
「はっ」
こうして復帰はミカさんの許可次第で、再来週くらいとなりそうだ。
「マルク、お前の強さはこれから大事な戦力となる。弱くなっていないか?」
「はっ。騎士団長に申し上げます。マナはマナ線の治療をする中で増えています。ただ、武術はかなり鈍っているので、訓練量を増やしたいところです。師匠に会い、扱いてほしいくらいです」
「そうか、体が鈍っているのか。磨き直せるか?」
「はっ、できるかではなく、やります。問題ありません」
「そうか。わかった。ミカと話し合ったあとで、復帰時期を知らせる令を出す。それまでは待機せよ」
「はっ」
俺は出て行った。
マルクが出て行ったあと、騎士団長室では
「かなり強がっておるな」
「ああ、マナが増えているのは本当みたいだがな」
「本当か?あいつは目を離すと、すぐに強くなるな」
「ああ、元の力に戻れれば、俺は完全に超えただろう。もう、王国内で勝てるのはいない。まあ、世界レベルでも、ガイスさんかガッソさんがいい勝負をするくらいだろう。あとは世界でも勝てるのはいないだろうな」
「そうか、元の力に戻ればいいが」
「ああ」
と、大人たちは心配していた。
俺は王宮を出て、家に帰った。それから自身で体を確認していく。まあ、問題はない。そして再度マナ線を治療して、訓練をした。そのあとは風呂に入り、夕食を食べて、アランと遊んでから寝た。




