辺境伯領の異変
そして、セレステに行く。
途中の街に止まらずに行ったため、着いたのは2日後だった。俺らはセレステに着くと宿に宿泊の手続きをした。そして、俺は冒険者協会に行くが、その前に皆に指示を出す。
「ヤイは街の人々に色々と聞いてまわって。リオル先輩とミカさんは商人の人に噂を聞いてきて。俺とケビンは二人で冒険者協会に行ってくる。それぞれ情報を集めよう」
「「「「わかった」」」」
そして俺とケビンは冒険者協会へ行く。師匠らがいた。
「師匠、お久しぶりです」
「うん?マルクとケビンか?どうした?騎士をクビになったか?」
「いえ、それはないですよ。この前の魔獣の氾濫の調査です」
「ああ、あれか」
「少し被害が出たようで」
「大した事はねえけどな。出た先が要塞側だったのと、期間が近すぎて、他の連中の準備ができてなかっただけだ。それにガッソのアホ達がたまたま出ていたのもあってな」
「ああ、それで少なからず被害が」
「ああ、俺がたどり着いた時にはアカードが怪我しててな。そこから俺がほとんど倒した」
「そうですか。師匠は何匹くらい?」
「ああ、2、3千じゃねえか?細かいの知らなねえが」
「そうですか。何が出たのです?」
「大したのはいなかったな。まあ虎が数匹いてな。それがアカードを怪我させた」
「数匹を相手にしたのではキツイですね」
「アカードだけならいけただろうけどよ。たまたま虎の魔獣が出た先が新人のところだったみてえだ。それでそいつらを助けるために怪我したみてえだな。そこに俺が来たんだで、死なねえで済んだってところだ」
「そうですか。それは良かった」
「ああ、あのガキも成長して、今や、辺境伯領の押しも押されもせぬ将軍様だからな。あいつがいねえと結構やべえな。ルイン様の子供のルドルフ様は悪くはねえが、足りねえ。そのうち、アカードのアホが戻ってきたら、俺がルドルフ様を鍛えてやる」
「そうですか。お手柔らかに頼みます」
「ああ」
「サンゼル達はいないのですか?」
「ああ、もうすぐ戻ってくるだろう。魔獣の森で少しでも強力な魔獣を減らすように頑張っているぜ」
「そうですか」
「奴らが戻ってきたら、宴会すっか?」
「師匠が飲みたいだけでしょう」
「うるせえな。飲めるようになったんだろ?」
「ええ」
「じゃあ、良いじゃなねえか?」
「わかりました。仕事が終わりましたら、後ほど」
「おう」
そして次は支部長と会う。ケビンは師匠ともう少し話しながら色々と聞いてもらう。同時に他の冒険者からも。
「失礼します」
「どうぞ、マルク様、ルイン様より話は聞いております。今回は魔獣の森を調査されるという事、よろしくお願い申し上げます」
「ありがとうございます。では少し話を聞いても?」
「ええ、何なりと」
「では、確認ですが、冒険者で怪我した者はどれくらいですか?」
「ええと、ああ15人です。セレステ側ではなく要塞側なので、冒険者の怪我人は少ないですね」
「そうですか。氾濫前はどんな感じでしたか?」
「はい。特には変なところもなく、依頼も普通の状況でした」
「そうですか。では当日は?」
「当日になり、森が騒がしくなったので、異変が起きていると冒険者に警告して、何が起こってもいいように準備してもらいました。すると、要塞側から氾濫が起きたので、いち早くガイスさんに行ってもらいました」
「そうですか。騒がしいとは?」
「いつもの氾濫と異なり、いきなり魔獣の声が聞こえました。鳥の魔獣です。そして虎でした。何か魔獣同士で争っているような」
「!?」
「どうしました?」
「すみません、魔獣同士で争っている?」
「はい、そう思いました」
魔獣が争う。それは変だ。魔獣はテリトリーがあるからそれほど争わない。もしかして、争うように仕向けられている?魔獣で何か?
「わかりました。ありがとうございます」
「ええ、大丈夫なら良いですが」
「はい。他にはないですか?」
「ああ、そういえば2、3人ですが、冒険者が直前に無茶して死にました。いつものことですが、普段からそういうのはしない冒険者なので少し調査しておりましたが、今回のことで途中でやめましたね」
「!?死体は?」
「はい。死体はほとんど見つからなかったのですが、体の一部が魔獣の腹からと、遺品を見つけました」
「!?わかりました」
もしや、魔獣の森で蠱毒か?しかも魔獣同士で?それはやばいぞ。
俺は支部長室を出て、師匠と話す。
「師匠、少しヤバイ状況かもしれません。後ほどの飲み会ですが、飲む前に少し大事な話をします」
「何だ?」
「ここでは話せないかと、まだ確定できてない話です。ここで話せば混乱が起きます」
「そんなにか?」
「もしかしたら。悪い予想が当たらなければいいですが」
「そうか」
そして、ケビンと合流して、宿に戻る。宿に戻りみんなが戻ってくるのを待つ。
「隊長、戻りました」
「ああ」
全員が戻ってきた。
「調査はどうだった?こっちはかなりヤバイかもしれない情報があった」
「え?そうなのか。こっちはそれほどなかった。変わった事と言えば、氾濫前に魔獣が鳴いていたと」
「それはこっちも聞いたよ」
「冒険者も言ってました」
「そうか、それはヤバイな、実は前に王都で冒険者が消えた事件があったんだが」
「ああ、カットの事件だね?確かあれは、陛下の暗殺未遂と幽閉された元王子の奪還があったね」
「そう、それだよ。ヤイ。その事件の裏にダークエルフがいたんだ。カットといたエルゼという女がそうなんだけど、その時の状況に似ている」
「え?」
「みんなには知らされていないけど、ダークエルフがあの事件の裏にあった。その時はダークエルフが蠱毒という物を使って、魔獣の強化と人の凶暴化をしたんだ」
「そうか」
「その時に使われた蠱毒というのが、人間の臓物と虫を入れて、虫達を育てて、その上で共喰いをさせる。そうすると呪いが起きて、それによって魔獣が育つんだ」
「え?」
「もし、魔獣の鳴き声が共喰いの現象だとすると、魔獣で共喰いをさせたのかもしれない。もしそうなら、かなりヤバイ」
「それって、どういう事?」
「ああ、つまりものすごい蠱毒で強い魔獣を作っているのか、魔獣で蠱毒を作って何かしているかも。もしくは、もっと違う狙いがあるかもしれないけど、どっちにしてもやばい」
「そうか。もし、隊長の言う通りなら、これは辺境伯領が消えるかもしれない」
「ああ、そうだ。隊長、これは少し急ぐ必要があるかもしれない」
「そうだね。だからこれから俺の師匠のガイスさんと、その友人のガッソさんとサンゼルという俺の冒険者時代の友人と話し合うよ。もし予想通りなら、師匠らの協力が必要だ」
「わかった」
そして、俺らは飲み会に行く。師匠とガッソさんとサンゼルと落ち合い、俺らは話し合う。
「師匠、今回のは結構ヤバイかもしれません」
「そんなにかぁ?」
「蠱毒は知っていますか?」
「あ?蠱毒だ?」
「何?蠱毒だと」
「ええ、知っているのですね。王都近くの森で蠱毒を使われました。その時はマナを虫に食べさせた蠱毒ですが、今回は魔獣では?と考えています」
「なんだ、それは?そんな蠱毒は聞いたことねえぞ」
「ああ、聞いたことない。そんな話は」
「だと思います。母上すら知らないでしょう。調べてみないとわかりませんが、氾濫前に魔獣の鳴き声が聞こえたと多くのところで聞きました。それに2、3人の冒険者が直前に死んでいたと」
「ああ、それは聞いたな。それがどうしたら蠱毒につながるって言うんだ?」
「ええ、蠱毒は人の臓物を使って、虫を育てた後で共喰いさせる物ですよね?」
「ああ、リネアからそう聞いた」
「ああ、そうだ」
「もし、魔獣の森にある乱れたマナを使って育て、しかも、死んだ冒険者の臓物を利用して、魔獣を成長させてたら?そして魔獣を共食いさせたら?」
「「!?」」
「お気づきですね。そう蠱毒の作り方に今回のことが似ています」
「おい、それはヤベエなんてものじゃねえぞ。それじゃあ、すげえ強え魔獣が出来上がるかもしんねえぞ」
「ああ、それは危険どころか、辺境伯領が消える可能性がある」
「そう、話がでけえな。ルイン様にも伝えねえと」
「はい。明日には伝えにいこうと思います」
「待て、俺が行く。俺なら1日で行ける。ガッソ、お前は森の調査を手伝え。サンゼル、お前もだ」
「ああ、そうだな。お前に命令されるのは癪だが、それしかない」
「わかった」
「師匠、頼みます。これは急を要する案件かもしれません。こっちも王都に伝えます」
「ああ、くそ、王都まで遠いぞ」
「はい。間に合えばいいですが」
「ああ、どのくらいかが読めねえ」
「原因となる物を排除できるといいですが」
「魔族の仕業ならかなりヤベエな。見つけるのも苦労するぞ」
「聖国でも面倒だ。これはかなり本気の王国潰しにきたことになる」
「かぁ、酒飲む気も起きねえ。くそ、馬鹿どもがあああ」
「ふん、たまにはシラフでいろ。カズキにもいつも言われていただろう」
「ああ?気が立ってんだ。くだらねえ事は言うな」
「ああ?」
「まぁまぁ、揉めてる場合ではないですよ」
「そうだな」
「はい」
そして話し合いは終わった。俺らは解散して、俺とヤイはサンゼルと話し合った。
「久しぶり、サンゼル」
「ああ、久しぶりだな。マルク、ヤイ」
「どう、訓練は?」
「ああ、変わらず、ガッソ師匠に殺されそうになっている」
「同じだね、俺もマルクに殺されそうになっているよ」
「ヤイにはちょうどいいだろう」
「ほら、ヤイ、サンゼルもそう言ってるよ」
「あれはそんなものじゃない。笑えないやつだから」
「俺も同じだ。ガッソ師匠のは笑えん」
「仲間がいるよ。ヤイ」
「鬼畜な師匠は辛いな、サンゼル」
「ああ、でも俺は有難い。たまにだが耐え切れるようになったし、いい攻撃もいれれるようになった。マルクともいい勝負ができる筈だ」
「ああ、サンゼル。今はいい勝負ができると思う。それよりサンゼルの方が伸びがいいかも」
「訓練不足か?」
「ああ、やっぱりセレステにいた時よりはね」
「まあ、ここは強烈な環境だからな。ガイス師匠に、ガッソ師匠、そして強い魔獣がいる。ここで生き延びるだけで強くなる」
「ああ、ここで必死になれば、相当だよ」
「ああ」
「かなり、訓練しているんだね」
「ああ、死ぬほどだ」
「なんか、目に浮かぶよ。ガッソさんの無茶苦茶な訓練が」
「だろ?何度、死んだと覚悟したか?」
「そんなになの?」
「ヤイ、死ぬ直前には景色がゆっくりになる。俺は何度か経験した。あれはガッソ師匠の奥さんの回復魔法が少しでも遅れれば、死んでた」
「さすがに、マルクでもしないよ」
「そりゃ、ガッソさんと一緒にしないでよ。あの人はおかしいもん」
「ああ、師匠は完全に狂人直前だ。ガイス師匠なんて目じゃないくらいに戦闘狂だ」
「よかった。俺は騎士団に入って。間違ってこっちに来てたら死んでたね」
「多分ね」
そんな話をして、今日は終わった。




