リオル先輩の変化
1週間後
あの文官らの刑罰は来週に決まるらしい。。俺らは関係ないので、気にしない。それより今日は訓練デーだ。いつも通り午前は各隊が集まり、合同訓練をする。シグルソン顧問が将軍役だ。シグルソン教官はこの春から騎士団顧問になった。
「よし、各隊、準備はいいな?戦争では隊が協力して動く。今日はその訓練だ。隊列を変える、隊列を組み直す、崩れたところから戻す。それを訓練する。行くぞ」
そして隊列を変えたり、隊列を直したり、崩れたところから立て直す訓練などを行なっていく。一つ一つを何度もこなす。戦争は個の力では決まらないから、何度も何度もこういった訓練をしないといけない。集団の力をどれだけ上手く使うかは人族の戦争手段として絶対に必要なことだ。後ろには訓練度合いを見に軍師らも来ている。
そして今度は
「次は各戦術時の隊列をやる。これからやる隊列を頭に入れておけ」
しかし、シグルソン顧問は相変わらずに厳しい。もう休憩を入れずにもう3時間ぶっ通しだが、これくらいは戦場では当たり前だ。だから倒れる者は訓練が足りないと言われる。そんな者を出した隊は怒られる。まあ、俺の隊は訓練時から厳しいし、そもそも能力が高い。
そして、どんどんと隊を変えて行く。少しへばって来た隊が出てきた。
「おい、そこ、どこの隊だ?これくらいへばるなど鍛錬が足りん。隊長はもっと訓練をしろ」
シグルソン顧問の声に他の隊も一瞬ビビる。
そして、4時間ぶっ通しで訓練して、集団戦の訓練は終わった。その後は各隊が食事をとり、午後から個々の隊の訓練に入る。ミカさんはシグルソン顧問に剣の訓練をしてもらう。俺とリオル先輩らはまた模擬戦をして行く、
「ほら、立て。リオル。まだまだ続くぞ」
「はい」
リオル先輩は気を失い、かなりのダメージを負っては気付け薬と回復魔法で回復して、また向かってくる。それを見て、クリス先輩らはリオル先輩の顔つきや気迫の変化に気づく。一度死を覚悟すると、気迫が変わる。死ぬ前に殺すという心構えが出てくる。そうしないと死ぬから。毎日訓練で俺にど突かれて気を失っていれば、否が応でも変わる。
そしてリオル先輩は少しいい攻撃をした。自分から飛び込み、俺の懐で剣を喉に向けて切り上げる。俺は避けて、攻撃する。リオル先輩は吹っ飛び、気を失う。
ヤイがリオル先輩に近づき、着付け薬をかけ、回復魔法で回復させる。
「リオル、それだ。最後の攻撃はいい。決まらなかったが、その気迫だ。自分から攻撃して殺す気で相手をねじ伏せる。死を覚悟している者の攻撃だ。それでいい。前とは攻撃の鋭さ、剣筋、間合い、何より気迫が違う。それを忘れるな。訓練だと思って訓練している奴は強くならない。命をいつでもかけろ」
「はい」
「少し、休みながら、さっきの思い出せ。そしてそれをいつでもできるようにしろ」
「はい」
俺はケビンの方を見る。
「次はケビン」
「はい」
そしてケビンも追い込む。ケビンと同じ技で、ケビンより巧く、速く動く。ここで差を見せつける。そして目標をはっきりさせる。こうして、自分の理想を目指させると同時にそれくらいしないと死ぬということを再度体に叩き込む。何度も、何度も叩き込む。数回叩き込み終わる。
今度はヤイだ。
「ヤイ、生き残る気で来い。死ぬぞ」
「わかってる。俺は死ねねえ。だからマルクを殺す」
「ああ、いい。それだ。その気迫だ。リオル、ヤイを見ておけ。これがお前の目指す姿だ」
それから、俺は一気に殺す気で何度も攻撃する。ヤイはそれを紙一重で避けて行く。だが反撃はさせない。そんな余裕など与えない。
「おら、どうした?さっきのは口だけか?」
「違う。くそ。死ね」
そこからやっとヤイは反撃をしてくる。しかし、俺はまた避けて連撃を入れ、攻め立てる。ヤイはそれをなんとか耐える。だが、防ぎきれず吹っ飛び気を失った。
「ヤイはいいだろう。今日はここまでにするか?まだやりたいならやってやるぞ。リオル、ケビンどうだ?」
「やります。隊長、お願いします」
「来い、リオル」
「俺も」
「ああ、何度でも叩きのめしてやる。ケビン、来い」
そして2人相手に叩き込んでいく。2人ともなんども気を失い、それでも起きてきたヤイが回復薬などをかけ、そして2人は突っ込んでくる。
そして数度でおわった。そこにシグルソン顧問とミカさんが来る。
「ふむ。凄い訓練だな。ここまでやる隊など、ここ以外はないだろうな」
「顧問、お疲れ様です」
「ああ、マルク、ミカはまぁまぁというところだ。勇者としての基礎能力がこいつらの基礎能力より上ということ以外はまだダメだな。普通の隊の訓練ならいいが、この訓練はできないな」
「はい。まだこれは参加できそうにありません」
「ミカさん、いいんだ。これは彼らが望んでやっていることだから、いつかはここに来れば良い」
「はい」
「顧問、他の隊はどうですか?」
「昔に比べれば、だいぶマシだが、課題も多いな。お前らに刺激され、若い連中が必死になっている。そのうち強くなるだろうな」
「そうですか。ミカさん、みんなに魔法を」
こうして、訓練を終え、俺らはいつも通り、シューガルトに向かう。シグルソン顧問も行く。
「では、今日もお疲れ様でした。隊長の扱きで死にそうになりましたが、今日も生き残れた。それを祝って、乾杯」
「「「「「「乾杯」」」」」
「ヤイ、今の挨拶はどうなの?ヤイだけはもっと訓練を厳しくすることにしたよ」
「そんな〜」
「ぷっ」
「「「「「はははは」」」」」
全員が笑う。
「まあ、前回から思うが、お前らは仲がいいな」
「皆、年が近いですからね」
「それだけではないと思いますが。まあ、隊長の作り出す空気によると思います」
「空気?」
「ああ、これは私の国で言う、雰囲気のことです」
「そういう事か、まあ、そうだろう。マルクは固苦しい事は出来んだろう。どうせ気恥ずかしいとか思いそうだ」
「顧問、その通りです。最初の挨拶や乾杯の音頭は俺がしますから」
「うむ。ヤイが向いているのもあるな。まぁヤイでは誰もついてこんがな」
「そんな〜」
「ぷっ」
「おい、ケビン、さっきからお前が最初に笑うな。後輩だろう」
「やめてください。耳の後ろはやめて〜」
自分も同じところが苦手だから、ヤイはいつもケビンの耳の後ろをこちょこちょする。ヤイはケビンと特段に仲がいい。獣人族とのクォーターという少し珍しい出自がそうさせるのだろうと思う。
こうして楽しみ、俺らは宴会を続けた。明日は休みのため、皆、楽しそうだ。




