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新入隊員 4月

4ヶ月後


俺は訓練後に新隊員を迎えるため、新人騎士の入団式に参加している。第00小隊の今の隊員は俺とヤイだけだが、今日から3人増える。


「では、新人隊員は各隊に行き、今日より新たに騎士団として活動することになる。では各自解散」

「「「「「「「はっ」」」」」」

俺とヤイは所定の場所で新人騎士を迎い入れる。今回は新人だけでなく、配置替えが1人いる。


「新たに、本日より第00小隊に入隊します。リオル・リニエです。よろしくお願いします」

「うむ。よろしく」

「はっ」

この返事は気恥ずかしい。正直したくないが、規定というか慣例のため、やっている。リオル先輩が俺の隊へ入隊した。元の隊の隊長がトーラス先生だったため、認めてくれたようだ。


「本年より騎士団に入団し、本日より第00小隊に入隊します。ケビン・レベンスです。よろしくお願いします」

「うむ。よろしく」

「はっ」

ケビンが入った。ケビンは師匠の鍛錬を終え、あとは戦場で学べとこっちに送られて来た。マリアは一度国に帰り、その後にケビンと結婚するために王国に戻る予定らしい。来年に結婚するようだ。


「本年より騎士団に入団し、本日より第00小隊に入隊します。ミカ・イトウです。よろしくお願いします」

「うむ。よろしく」

「はっ」

そしてミカさん。ミカさんは監視が終了したのと同時に学院での授業を合格して、今後を考えた時に騎士団に入団することを決めたらしい。戦争が嫌なはずだった。


しかし、王国に来て、この世界で生きて行く決意と王国で出会った親しい人たちを守る決意を決め、勇者の力を使うことを決めたらしい。まだ、スキルがどんなものかを全ては解明できていない。だが、徐々に色々と試して、少しは理解できて来たらしい。


「まぁ、面倒なしきたりはここまで、公では敬語と命令系統の遵守を頼みます」

「「「はい」」」

「じゃあ、副長、今日の予定を」

「はっ。では、今日は他の隊と同様に訓練をする。よろしくね」

「「「はっ」」」


そして、俺らは訓練場に行く。まずは各隊員同士が戦っていく。リオル先輩とケビン、ヤイとミカさんと続いて、各隊員がそれぞれの力を確認していく。驚いたのがケビンの成長だ。ケビンがリオル先輩に勝ったのは正直驚いた。


「う、ケビンにまで負けるか」

「リオル先輩、今はということです。ケビンは俺の師匠でもあるガイスさんに学んで来ました。師匠の鍛錬は常に死を覚悟させられます。その差が今の差になっています。技量ではケビンとリオル先輩に差はない。いや、まだリオル先輩の方が上かな。

それが生きた技量か、そうでないかの差だけが結果として出ているということです。剣術の技量は教えられませんが、生きた技術には私もできます。そして、ケビンはまだ伸びる。これを踏まえると先輩にとって、最高の環境がここにあると言える。成長すれば良い」


「はっ。隊長、先輩は要りません。どうぞ、リオルとお呼びください」

「わかった。リオル」

「はっ」

この辺がリオル先輩のすごいところだ。年下の俺からすら学ぼうとする。


「じゃあ、みんなが模擬戦をしたから、今度は俺とやろう。死を見たい人は言って、ヤイ以外は希望者のみにするよ」

「え?俺も」

「ヤイはダメ。訓練量が足りない。教える側になるのはまだ数年早い」

「えー。マルクは?」


「俺も教える側はまだ早いけど、そこは自身の訓練をしっかりやることでどうにかする。ヤイは自分じゃ数をしないから死を見てもらう」

「そんな〜」


「はい、始める。まずはリオル」

「死を見せてくれ」

「わかった」

そしてリオル先輩への扱きが始まる。何度も気を失っても俺やミカさんが回復して起き上がらせて、模擬戦をやる。先輩も気を失っては、考えて向かって来る。同じことを繰り返すことはない。


この辺が先輩の強さだ。一戦一戦を常にどこが悪いかを考える。たまに考えすぎなところはあるけど。


「リオル、一戦ごとに自分の弱さを考えるのは良いことだ。だが、今は死を、負けをとにかく感じろ。考える暇があったら、向かってこい」

「おう」

そして1時間ほどで数十回気を失い、そして回復された。


「よし、ここまで。リオル、お前の剣筋が緩いというのは理解できたか?」

「はい。感じました。殺さないようにしていた。訓練と割り切って戦ってました。どうすれば?」

「うむ。一回、今までの経験を捨てろ。そして死なないために戦え。屈辱に塗れ、死の恐怖を感じ、そこからは這い上がる。それをくり返せば、いつか剣筋は変わる。できるようになるまで何度も気を失わせる」

「ありがとうございます」

この返事に他の隊の隊員が顔を青くしていた。まあ、本人がしたいということをしているんだよ。俺は恐くないよ。


「よし、次はケビンだ。ケビン、師匠のところでいい鍛錬をして来たようだな。でもまだ足りない。何が足りないかを教えてやる」

「はい」

そして、ケビンと戦う。すでに、ケビンは騎士団各隊の隊長クラスを倒せるぐらいの強さは持っている。よほど師匠に扱かれて来たのだろう。


でも、火竜や地竜キングを倒せるほどでも、火竜や地竜キングの攻撃を防げるほどではない。一発の重さが足りないし、防御や自身のスピードの制御が甘い。これを磨くことだな。まあ、それは相当に高い要求だとは思う。


そして何度も気を失わせる。そして起き上がらせ、戦う。

「ケビン、自身のスピード制御が甘いのはわかっているか?」


「はい。魔獣相手に勝てるようになり、そこを怠っていました。師匠に先輩のところで磨いてこいと言われた意味が実にわかりました。先輩と比べて、スピードの制御、槍の扱いの差が大きいと」

「そうだ。お前は強い力を得た。そしてそれを使う心は持っている。しかし、ある程度使える技術はあるが、まだ力を使いこなせるほどではない。それを磨け」

「はい」

そして、俺との差をわからせるかのように、俺は魔闘を使ってケビンと同じスピード域で戦い、気を失わせていく。1時間で十数回、気を失わせて終わらせた。他のの隊が訓練をやめ、こっちを見ている。視線が痛い。


そしてミカさん

「ミカさんはどうします?気を失います?」

「いいえ、皆さんと違って私はまだそこに至ってません。とにかく一戦でも戦います」

「わかりました。スキルを使って戦ってください」

「はい」

そして、何度も戦う。スキル『奇跡』はかなり面倒な力だ。時折、奇跡のような出来事が起きる。一瞬だがミカさんの力が俺を上回ることがある。


そして『祈願』は奇跡の楽々発射ボタンみたいなスキルのようだ。思うだけで奇跡を使える。確かに使いこなせば、かなり厄介なスキルだが、得た力を使きれるほどには技量が追いついてないので、俺には効かないけど。


そして1時間ずっと戦い、終了する。

「ミカさん、奇跡と祈願の使い方はよくなりました。あとはそれを使いこなす技量です。それを磨けば、一気に強くなります。シグルソン顧問が訓練してくれますし、俺もいつでも模擬戦をします。頑張りましょう」

「はい。よろしくお願いします。あと、隊長、ミカと呼んでください」

「わかりました」


そしてヤイ

「ヤイは特に言うことはないよ。とにかく訓練を積んでいく。それ以外ない。死ぬことはないけど、死ぬくらい辛いことは起きるよ。生きたいなら防げ」

「ああ」

そしてヤイは1時間で数回は気を失った。死にかけた。


「隊長、死ぬ」

「大丈夫、体は強くなっている。ヤイはあれくらいなら死なない。まだ強くしていくよ」

「あ、え?あれがマックスではない?」


「え?あれが最高だと思ってる?そのうち、もう少し強度を上げようと思ってるけど」

「・・・・鬼」


「ははは。そう言われるとやる気が出てくる」

「俺もリオルみたいに隊を変わる志願をしてみようかな?」


「ああ、そう。じゃあ、シューガルトでの打ち上げはヤイなしか。リルちゃんは呼ぶけど」

「ま、待った。います。ここにいます」


「そう?」

「はっはは。本当に副長と隊長のこれは名物ですね。この半年で何回も見ました」

「これが名物なのですか?」


「そうだな。ケビン、ここは隊としては緩いから、他もこうだと思うな」

「リオル、酷いな」


「ええ。ヤイさんがゆるくしちゃいますから」

「ミカ、それは言っちゃダメなやつ」

「そうだよ。ヤイが怒られる奴だ」


「そうなんだよ。リットさんに見られたら」

ゆっくりとリットさんが近づいてくる。ヤイの後ろに来た。


リットさんは元々は斥候として優秀な騎士で、ヤイに特別に目をかけている。最近隊長を息子であるリック先輩に譲り、父上の腹心として働いている。リック先輩の隊は元々、リットさんの家臣団が多い隊のため、大きな問題にならずに世代交代ができた。


「ヤイ、私が何ですか?」

「ひえ?」


「また、ヤイが隊の雰囲気を緩くしていますかね?」

「いいやあ、リット副団長」


「で、どうなのです?」

「あ、あ、それはねえ。隊長」


「リット騎士団副団長、小隊長たる私の責任です。やる時はやりますので、許してください」

「しょうがないですね。マルク隊長に免じて許しましょう。ヤイ、目に余るようなら、個別訓練です」

「はっ」


リットさんは騎士団の副団長に就任した。ベテラン勢が問題を起こし続けた騎士団では長らく騎士団副団長は空席だったが、父上の願いに応じてリット副団長がなった。同時にヤイにとっての斥候の師匠であるため、こうして、第00小隊の様子をよく見に来る。


そして、訓練を終え、宿舎に戻り、汗を流したら、シューガルトに行く。隊の新人歓迎会だ。他の隊もそれぞれの馴染みの店に行く。今日はどこも騎士団で人が溢れる。


「みんな、集まったね。では行こうか?」

「「「「はい」」」」

そしてお店に着いた。


「おかみさん、いつもお世話になります。今日もよろしくお願いします」

「マルク様、お待ちしておりました。孫が来ているので、挨拶させてもいいでしょうか?」

「はい」

その後、お孫さんが挨拶してくれた。魔法をそこそこ使えるようだ。


そして、俺らは乾杯をする。

「入隊おめでとう。乾杯の挨拶は副長のヤイがさせていただきます。じゃあ、新人隊員の皆さん、今日はお疲れ様でした。乾杯」

「「「「かんぱい」」」」

みんな、楽しそうにしている。うちの隊が密かに女性隊員に人気なのはここの打ち上げをしているからだとミカさんに教えてもらったことがある。


「マルク様、今日もお呼びいただいてありがとうございます」

「リルちゃん、いいよ。数ヶ月後にはケビンの奥さんのマリアもここに加わるようになるしね」

「な、隊長、結婚はまだ先です」


「おい、ケビン、副長より結婚が先とは生意気だ。この野郎」

ヤイがケビンの耳をこちょこちょする。ケビンの耳は獣人族の特徴的な耳ではない。だが、ウィークポイントではあるようだ。

「副長〜やめてください〜。耳は〜」

「「「ははは」」」


「ヤイ、いい相手がいたら、結婚したらいいのに」

「出会いがない。全てマルクにもってかれる」

「何言っているの?俺は誰とも付き合ってないよ」


「「「「え?」」」」

「うん?」


「いや、隊長はもう誰かとそういう仲かと」

「ああ、俺もそう思っていた」

「私もです」


「お兄ちゃんはわかりますが、マルク様は」

「リル、兄貴の俺はわかるって」

「ほら、ヤイ、いい人がいないか探そう」

「ああ」


そしてそんな話で盛り上がり、その後に俺らは訓練後の打ち上げを終らせた。俺らは宿舎に戻るが、男たちは宿舎で飲み直す。かなり夜遅くまで、強くなるにはという論議をしていた。


こういう時に加わらなそうなヤイだが、いつもこういう話で盛り上がる。普段は飄々としていて、強さなどに興味なさそうだが、リルちゃんのために、死ぬ事だけは絶対に嫌なのだろう。だから強くなりたいという気持ちは誰より強い。そして、それがヤイの強さだ。


綺麗な騎士らしい戦いではないが、生きることを誰よりも願う戦い方は実にしぶとく、多くの騎士がヤイを認めている。とにかく倒せないと。それがヤイの良さだ。斥候でとにかく死なないという強さは隊にとって重要で、だからこそ副隊長なのだ。


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